プラクティカル・ドラッカー 英知を行動にかえる40項

プラクティカル・ドラッカー
ウィリアム・A・コーエン 著

池村千秋 著

  • 書籍:定価2530円(本体2,300円)
  • 電子書籍:定価2024円(本体1,840円)
  • 四六判・上製/352ページ
  • ISBN978-4-484-15116-8 C0034
  • 2015.05.28発行

ドラッカーはつねに「何をすべきか」と問いかけ、「どのようにすべきか」という具体策は提示しなかった。ドラッカー理論を受け継ぐ著者が、問題解決のカギ、リーダーシップ、マーケティングなど最も重要な40のテーマについて、実践的な解釈を提示する。その問題、ドラッカーならどうするか?

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内容

「素晴らしい話を聞かせてくれてありがとうと言ってもらっても、
うれしくありません」と、ドラッカーはよく言った。
「次の月曜に、どういうふうに行動を変えるつもりかを聞かせてください」

最初の教え子であり、ドラッカー理論の伝承者ともいえる著者が、
遺された膨大な著作から、最も重要な40のテーマを抽出・整理し、
師の教えを現実のビジネスに適用するための具体的な方策を示す。

 ➢ リーダーが避けて通れない最も重要な決断
 ➢「みんなが知っていること」はたいてい間違っている
 ➢ 職を失うことを恐れていては、いい仕事はできない
 ➢ 社内政治にどう対処すべきか?
 ➢ 過去の成功にしがみつくと失敗する
 ➢ 真の意味での「品質」とはなにか?
 ➢ 正しい戦略は、方程式からは生まれない
 ➢ 顧客への「賄賂」は慎重に
 ➢ 捨てることが成功への道
 ➢ 企業の目的は利益ではない
 ➢ 企業のたった二つの機能とはなにか
 ➢ ドラッカーが遺した最も価値ある教え……
 
――その問題、ドラッカーならどうするか?

はじめに

六年ほど前のこと。中米コロンビアの首都ボゴタにあるロサリオ大学を訪れた。大学当局と教授会の招きを受けて、ピーター・ドラッカーについて話をすることになったのだ。
 
この大学は、一六五三年、当時のスペイン王フェリペ四世のお墨つきを得て、カトリック教会の聖職者と学者たちが設立した由緒正しい教育機関だ。アメリカ最古のハーバード大学(一六三六年設立)よりは新しいが、それにほぼ匹敵する歴史をもっている。それに、ハーバードよりはるかに実世界と深く結びついていて、コロンビアの歴史で非常に大きな役割を担ってきた。「共和国の揺籃」と呼ばれてもいる。
 
なにしろ、コロンビアの歴代大統領の二八人がこの大学の出身だ。正式な記録がまだなかった時代も含めれば、さらに数人の大統領を送り出していたのではないかという人たちもいる。そのような輝かしい歴史をもつ大学で講演をする機会を与えられて、私は光栄だった。
 
私の以前の著書『ドラッカー先生の授業』(邦訳・武田ランダムハウスジャパン)のスペイン語版がコロンビアでも発売されて、ちょっとした話題を呼んでいた。ほかの多くの国と同じく、コロンビアでもビジネスに関するドラッカーの英知が脚光を浴びていたからだ。
 
その日は、私の講演に続き、カリフォルニアのクレアモント大学院大学のピーター・F・ドラッカー&伊藤雅俊スクールのジョセフ・マチャレロ教授も加わって、ドラッカーの教えについてパネルディスカッションをおこなった。パネルディスカッションに参加していた企業幹部のひとりが、私の本を読んでくれていた。
 
その人物いわく、ドラッカーの本はたくさん読んできたが、私の本の素晴らしいところは、ドラッカーの考えを実地に活用しやすいように書かれていることだ、とのことだった。私は謝意を表し、スペイン語への翻訳の関係でそういう印象を与えるのかもしれないが、賛辞はありがたく頂戴し、家に帰ったらさっそく妻に報告したいと言った。
 
あとになって考えてみて、その人物の言わんとすることがわかってきた。別に、ドラッカーの文章が下手というわけではない。正反対だ。なにしろドラッカーは、コンサルタントの仕事を始める前、一般向けの雑誌に記事を書いていたのだ。内容が具体性を欠いていたわけでもない。むしろ、講演も著作も非常に具体的だった。
 
しかし、ドラッカーは理論志向というより実践志向ではあったが、「なにを」すべきかを論じることが多く、「どのように」すべきかはあまり論じていない。
 
コンサルティングの顧客に対してはことのほか、詳しい説明をしようとしなかったらしい。ある顧客は、ドラッカーの言葉を理解することの難しさを私に語ったことがある。「ほかのコンサルタントと違って、どうしなさいとか、どのようにしなさいとは言いませんでした。私たちに質問を投げかけ、答えさせたのです」。この人物はこう続けた。
 
「そのうちに、この方法論がいかに有効で賢明なものかがわかってきました。このようなプロセスを通じて、私たちは自力で、彼の伝えたいことに気づけるのです。学んだことを実践するときのことを考えれば、非常に有効な方法です。ただ、最初のうちは、メッセージを理解するまでに時間がかかります。とくに、書かれたものから学ぼうとすると、とりわけ困難を感じる場合があるのです」
 
私がはじめてお金をもらって書いた文章は、航空機の航法に関するものだった。いろいろな国の読者が理解できる明快な解説を書こうと心がけた。このシンプルな目標は、ビジネスやマネジメント、リーダーシップをテーマに本を書くようになってからも変わっていない。「なにを」すべきかより、「どのように」すべきかを説いた文章のほうが概して理解しやすい。そこでこの本は、よくも悪くもそういう内容になっている。
 
人間と組織に関するドラッカーの洞察は、ときとして、一見するとシンプルな言葉や鋭い予測の形を取った。分権化、アウトソーシング、知識労働者の台頭、それに、従業員を資産と位置づけること、顧客を重視すること、マーケティングを販売と区別して考えること─これらの考え方を最初に唱えたのは、ドラッカーだった。ときには、その考え方が一般に受け入れられる何十年も前に、いち早くそれを主張していたケースもある。また、二〇〇八年に始まった金融危機についても、ずっと前に予見していた。
 
本書『プラクティカル・ドラッカー』では、ドラッカーの膨大な量の著作をさらい、そのなかから最も重要な四〇のテーマを抽出した。現実世界の問題を解決するカギとなる考え方や、有効なマネジメントとリーダーシップの土台をなす考え方を選んだ。その際、ドラッカーの考えを実践に移すためになにをすべきかを記すだけでなく、そのためにどのように行動すべきかにも踏み込んだ。
 
この本の記述に誤りがあれば、それはすべて私の責任だが、もし優れた点があるとすれば、それはひとえにピーター・ドラッカーの功績である。

目次

序文――リック・ワルツマン(クレアモント大学院大学ドラッカー研究所所長)
はじめに

PART 1 PEOPLE 人々

1 ビジネスにおける倫理とは
2 どうやってメンバーの主体性を引き出すか?
3 ドラッカーが最も愛したリーダーシップの教科書
4 リーダーシップをむしばむ七つの大罪
5 自分を成長させるために実践すべき三つの原則
6 メンバーのやる気を高めるためにリーダーができること
7 リーダーが避けて通れない最も重要な決断
8 英雄型リーダーは悪なのか?
9 「 みんなが知っていること」はたいてい間違っている
10 誠実であることは成功の原点
11 人には無限の可能性がある

PART 2 MANAGEMENT マネジメント

12 職を失うことを恐れていては、いい仕事はできない
13 コスト削減と成果を両立させる資源配分の法則
14 社内政治にどう対処すべきか?
15 「なによりもまず、害を及ぼしてはならない」
16 過去の成功にしがみつくと失敗する
17 真の意味での「品質」とはなにか?
18 計画を遂行するためのコントロールの原則
19 正しいことは正しいタイミングで
20 ドラッカー流、未来を予測する方法
21 窮地に立たされたとき、あなたはどう行動するか?

PART 3 MARKETING & INNOVATION マーケティング&イノベーション

22 マーケティングと販売は対立する
23 マーケターが陥りがちな五つの大罪
24 正しい戦略は、方程式からは生まれない
25 成功を引き寄せるための起業家的マーケティングの戦略
26 誤った市場調査と正しい市場調査
27 顧客への「賄賂」は慎重に
28 「非合理な顧客」はいない
29 最良のイノベーションはどこから生まれるのか?
30 捨てることが成功への道――ドラッカーの「廃棄」理論
31 供給サイドのイノベーションのチャンスを逃さない

PART 4 ORGANIZATION 組織
 

32 企業の目的は利益ではない
33 企業が果たすべき本当の社会的責任とは
34 企業のたった二つの機能とはなにか?
35 「知らない」ことを強みに変える方法
36 真のリーダーは危機にどう向き合うか
37 人事はマネジャーにとっていちばん大切な仕事
38 リーダーシップがマーケティングの仕事である理由
39 自分だけの強みを知れ
40 ドラッカーが遺した最も価値ある教え

略歴

[著者]

ウィリアム・A・コーエン William A. Cohen
経営幹部向けビジネススクール、カリフォルニア・インスティテュート・オブ・アドバンスド・マネジメント学長。ピーター・F・ドラッカーがクレアモント大学院(現・クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー&マサトシ・イトウ経営大学院)で教えた経営幹部向け博士課程の最初の卒業生であり、2005 年にドラッカーが他界するまで交流をつづけた。ドラッカーは彼をこう評している―「彼に教えたと同じくらい、私も彼から学んだ」。アメリカ空軍を退役後、複数の企業の幹部職と2つの大学の学長を歴任。『ドラッカー先生の授業』(邦訳・武田ランダムハウスジャパン)、『ピーター・ドラッカー マーケターの罪と罰』(邦訳・日経BP社)などの著書は、これまでに23 の言語に翻訳されている。カリフォルニア州パサデナ在住。

[訳者]

池村千秋 いけむら・ちあき
翻訳者。『マネジャーの実像』(日経BP社)、『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)、『プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える』(海と月社)、『ワーク・シフト』(プレジデント社)、『ホワイトスペース戦略』『本当のブランド理念について語ろう』『スピーチの天才100人』(いずれもCCCメディアハウス)など訳書多数。

●装幀/坂川事務所

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