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ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ

ホワイトスペース戦略
マーク・ジョンソン 著
池村千秋 訳
  • 書籍:¥1,900(税別)
  • 電子書籍:¥1,520(税別)
  • 四六判・上製/296ページ
  • ISBN978-4-484-11104-9
  • 2011.03発行

アップル、IKEA、アマゾン、ZARA、タタ・モーターズ……勝者に共通する「ホワイトスペース戦略」とは何か? ハーバード・ビジネス・レビュー誌のマッキンゼー賞を受賞した注目の論文が書籍化!

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内容

アップルが成功しているのは、
iPodやiPhoneが革新的だからではない。
ビジネスモデルそのもののイノベーションを
成し遂げたことこそが、アップルが勝者たる所以なのだ。

『イノベーションのジレンマ』著者
クレイトン・クリステンセンの盟友が示す
イノベーションの新基準!
未知の事業領域「ホワイトスペース<空白>」に進出して
成功を収めるために必要な戦略とは?

「多くの経営者は、新しいテクノロジーや製品を生み出すことが
成長のカギになると考えているが、それは違う。次の成長をもたらすためには、
破壊的な新しいビジネスモデルにイノベーションを組み込まなければ
ならないことが多いのだ。それこそ本書が説得力をもって示していることである」
――クレイトン・クリステンセン(ハーバード・ビジネススクール教授)

序文

By A・G・ラフリー〔P&G前会長兼CEO〕

 1837年にロウソク業者と石鹸業者の共同出資により会社が設立されて以来、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は商品のイノベーションを重ねてきた。1879年に石鹸のアイボリーを発売したのを皮切りに、大恐慌のさなかの1933年に史上初の家庭用合成洗剤のドレフト、1946年に史上初の強力洗剤のタイド、1955年に史上はじめて米国歯科医師会の承認を得たフッ素入り歯磨きのクレストを売り出した。その後も、1961年には史上初の紙おむつのパンパース、1986年には史上初のリンス・イン・シャンプーのパートプラス(リジョイ)、1988年には消臭剤のファブリーズと使い捨て掃除用モップのスウィッファー・ダスター、2001年には史上初の家庭用の歯ホワイトニング剤であるクレスト・ホワイトストリップスを市場に送り出した。

 このような歴史を考えれば、商品のイノベーションを着実に継続してきたことがP&Gに成功をもたらしたと思われがちなのも無理はない。しかし、P&Gのように長期間にわたり会社を大きく成長させ続けるためには、既存の中核的な市場で安定的に事業を拡大するだけでは十分でない。本書でマーク・ジョンソンが言う「自社のビジネスの最も中核をなす部分」を変えることが避けて通れない。会社の土台をなすビジネスモデルにイノベーションを起こす必要があるのだ。利益を得る方法を変更し、顧客に提供する価値を変更し、商品を市場に送り出すまでの社内外のプロセスの組み合わせを変更しなくてはならない。

 P&Gはそれを繰り返しおこなってきた。1919年には、450人の営業部員を雇い、卸売業者を介さずに小売業者に商品を直接卸しはじめた。1924年には、消費者ニーズの変化を把握するために市場調査部門をはじめて設けた。1931年には、同じ商品ジャンル内に競合する複数のブランドを投入した。そして現在は、途上国の小規模な売店や雑貨店での販売拡大に乗り出そうとしている。

 P&Gはおよそ10年に1度のペースで大きな変革をおこない、消費者ニーズと市場環境の変化に対応し、障害を乗り越えて飛躍的な成長を遂げてきた。P&GのCEOを務めた9年間、私はイノベーションをことのほか重んじてきたし、後任のボブ・マクドナルドもイノベーションに高い優先順位をおいている。私はこれまでの職業人生を通じて、ビジネスモデル・イノベーションを静的なプロセスではなく、明確な方法論に支えられた総合的な能力と考えるようになった。企業のリーダーは、そういう能力を構築し、強化し、最終的にはそれを継続性のある競争力に変えなくてはならない。

 どうすれば、そうすることが可能なのか。「ビジネスモデル・イノベーション」という言葉は近年、ビジネスジャーナリズムと経営学界の流行語になった観がある。しかし私が思うに、ほとんどの場合、それがなにを意味するかが理解されておらず、戦略立案の過程で十分に重んじられていない。

 だからこそ、この本に価値がある。本書『ホワイトスペース戦略』でジョンソンは、ビジネスモデル・イノベーションが力強い成長の起爆剤になりうることを説得力豊かに論じている。ビジネスモデルにイノベーションを起こせば、既存の市場を変革し、あるいは新しい市場をつくり出すことを通じて、ホワイトスペース──既存のビジネスモデルの対象外の領域──に進出し、成長の扉を開ける場合があるのだ。

 本書の大きな意義は、ビジネスモデルの構成要素を明らかにするという非常に困難な課題を成し遂げたことにある。ジョンソンはさまざまな業界に関する入念な研究を土台に、ビジネスモデルの「4つの箱」と名づけた強力な枠組みを打ち出した。もう1つ注目すべき点は、本書がホワイトスペースを相対的なものと位置づけていることだ。ある企業にとってのホワイトスペースは、別の企業のコアスペース──既存の中核的な事業領域──という場合もある。P&Gはたとえばスウィッファーの商品ラインナップを新しい市場に拡大したとき、この点をよく理解していた。スウィッファーはP&Gにとってコアスペースの商品だったが、ライバル企業の既存のビジネスモデルにはまるで適合しない商品だった。

 本書のモデルを通して考えると、ホワイトスペースへの進出を目指す際に陥りがちな2つの落とし穴が見えてくる。1つは、新しい顧客価値提案を見いだしたはいいが、商品化するのが遅すぎるパターン。もう1つは、せっかく画期的な利益創出のモデルを考案したのに、実際のビジネスとして成り立たせられないパターンである。このような失敗にはまり込む原因は、飛躍的なイノベーションのチャンスを生かすうえで必要とされる経営資源と社外のパートナー、社内の業務プロセスを整備できないことにある。

 変革を成し遂げるためにはまず、自分たちが現在おこなっているビジネスの性格を正しく把握する必要がある。顧客価値提案、利益方程式、主要経営資源、主要業務プロセスの「4つの箱」の枠組みに沿って検討すれば、既存のビジネスを成功させている要素が明確に理解できるはずだ。新しいビジネスチャンスを活用するうえで、既存のビジネスモデルのどの要素を変更すべきかも見えてくるだろう。

 ホワイトスペースをものにするのは簡単でない。市場と顧客を見る目を変えなくてはならないし、試行錯誤と不確実性を受け入れなくてはならない。新しい試みに挑戦し、よく練り上げられた既存のシステムとモデル──つまり、これまで会社に成功をもたらしてきた要素──を変更することをいとわない姿勢も求められる。

 近年、P&Gは3つの成長戦略を意識的に採用している。第一は、大規模な成長市場の有力ブランドを牽引役に、コアスペースのビジネスを引き続き成長させること。第二は、成長力があり、利益率の高いグローバルなビジネスを築くこと。そして第三は、新興国市場で大きな成長を実現すること。一見すると、大手の生活用品メーカーにとって当然の戦略に思えるかもしれない。しかしこれらの戦略を推し進めるためには、何十年も継続してきたビジネスモデルを大幅に変更することが求められた。

 まず、イノベーションのプロセスをオープンなものにする必要があった。P&Gはすべてを社内でおこなうことで有名な企業だったが、最近はオープン・イノベーションを目指す「コネクト・アンド・デベロップ」プログラムもよく知られるようになった。この新しいイノベーション・プロセスを取り入れるために、既存の研究開発体制を大きく変更することになった。

 また、顧客に対する価値提案について考え方を大幅に変える必要があった。1980~90年代、消費者のニーズにこたえるためには、おおむね商品の機能を改善していればよかった。機能性が競争の基準だったのである。ジョンソンが本書で指摘しているように、これは初期段階の市場でよく見られるパターンだ。その後、生活用品の市場は、本書で描かれている典型的なプロセスどおりの変化を遂げた。ライバル社の商品の質が向上し、もっとカスタマイズされた商品をもっと手軽に入手したいと消費者が望むようになり、競争の基準が変わったのだ。P&Gは従来の方針を変更し、消費者が商品と関わるプロセスのすべてに──小売店で商品と出会うところから始まり、それを購入して家に持ち帰って使用し、やがて廃棄するまでの全過程に──イノベーションを起こすことを目指すようになった。そのためには、イノベーションの対象を拡大し、商品のコンセプトと性能だけでなく、消費者とのコミュニケーション、商品のデザイン、パッケージ、価格の面でもイノベーションを起こす必要があった。

 加えて、サービス、サプライチェーン、コストの面でもイノベーションが求められた。たとえば新興国市場の消費者に商品を購入してもらうために、それまでP&Gが君臨してきた高価格帯の市場だけでよしとせず、複数の価格帯の市場で競争力を高めることが不可欠だった。具体的には、サプライチェーンを見直して商品の価格を劇的に引き下げ、もっと多くの人たちに、言い換えれば従来はP&Gの顧客でなかった層にも手が届くようにする必要があった。

 このようなイノベーションは、P&Gの研究所のなかだけで生まれるわけではない。また、会社のあり方を全面的に変更することが常に必要なわけでもない。しかし確実に言えるのは、既存のビジネスモデルを深く理解することがすべての出発点だということだ。既存のビジネスモデルで新しいビジネスチャンスを生かせるのかを明らかにする必要があるのだ。現在もっている能力を把握し、新しいビジネスチャンスで求められるビジネスモデルを体系的に分析できれば(その方法は本書で詳しく説明されている)、ホワイトスペースの地図を描くという難題を合理的・計画的に進められる。ホワイトスペースへの進出を思いつきや偶然に委ねるのではなく、戦略と経営陣のリーダーシップの領域に引き込める。

 P&Gはこの点を念頭に、会社全体とそれぞれの事業部門のなかに新事業創造を担当する部署を設け、コアスペースに隣接する領域と、そのもっと外の領域──すなわち、商品だけでなくビジネスモデルにイノベーションを起こさないと成功できない領域──で新しいビジネスチャンスを探させ、新事業を開発させることにした。ジョンソンも勧めているように、新事業開発プロジェクトには、コアスペースの事業とは別に独自の予算を割り振り、実績のある優秀なスタッフを配した。

 本書でジョンソンが示しているモデルは、P&Gが現実のビジネスの世界で目指してきた戦略そのものと言っていい。P&Gはこれまでの経験を通じて、飛躍的なイノベーションを実現するためになにが必要かを学んできた。本書には、そうした知識が非常に実践的に解説されている。未知の領域に乗り出そうとする企業にとって、『ホワイトスペース戦略』は頼もしい案内図になるだろう。

目次

序文 A・G・ラフリー〔P&G前会長兼CEO〕

第1部 成長と企業変革を実現する新しいモデル

第1章 ホワイトスペースとビジネスモデル・イノベーション

 ホワイトスペースへの進出
 ロッキード・マーチンの「未知の領域」
 「成長ギャップ」を克服する
 iPod成功の理由
 ビジネスモデル・イノベーションを目指す

第2章 ビジネスモデルの「四つの箱」

 ビジネスモデルの四つの基本要素
 顧客価値提案
 利益方程式
  ■収益モデル
  ■コスト構造
  ■一単位あたりの目標利益率
  ■経営資源の回転率
 主要経営資源・業務プロセス
 ビジネスのルール、行動規範、評価基準
 イノベーションの設計図

第2部 新しいビジネスモデルが必要なとき

第3章 内なるホワイトスペース──既存の市場を変革する

 「競争の基準」の変遷
 低価格帯の市場で勝つ──ダウ・コーニング社
 利便性が問われる市場
 コモディティ化をチャンスに──ヒルティ社
 既存市場内の未解決のジョブを解決する

第4章 かなたのホワイトスペース──新しい市場をつくる

 商品とサービスを民主化する
 農村の女性たちに力を──ヒンドゥスタン・ユニリーバ社
 知識と理解を民主化する

第5章 はざまのホワイトスペース──市場の地殻変動に対処する

 市場の変化
 テクノロジーの変化
 政府の政策の変化
 電気自動車のインフラをつくる──ベタープレイス社

第3部 再現性のあるビジネスモデル・イノベーション

第6章 新しいビジネスモデルを設計する

 顧客のジョブを発見する
 情緒的ジョブと社会的ジョブ
 インターネットと顧客中心主義──スレッドレス社
 新しい顧客価値提案をつくる
 利益方程式を設計する
 主要経営資源・業務プロセスを割り出す

第7章 ビジネスモデルを導入する

 育成期
  ■二つの格安航空会社の運命
  ■早期に収益性を実証する
 加速期
 移行期
 新しいビジネスモデルを買う

第8章 既存企業特有の課題

 既存のビジネスモデルの抵抗
 既存のルール、行動規範、評価基準という障害
  ■利益方程式の固定化
  ■既存事業の能力を活用する不合理242
 ビジネスのルールを見直す
 企業の経営陣が抱える問題
 戦略とビジネスモデル

終章
謝辞

索引

著者

マーク・ジョンソン(Mark W. Johnson)
イノベーションを基軸にした戦略コンサルティング会社、イノサイトの会長。世界的なベストセラー『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の著者でハーバード・ビジネススクール教授であるクレイトン・クリステンセンとともに、2000年に同社を共同設立した。米マサチューセッツ州、シンガポール、インドに拠点をおき、幅広い業界に顧客をもつ。近年はとくに、ビジネスモデルのイノベーションを通じて、顧客企業が新しい成長のチャンスを見いだし、企業変革を成し遂げるためのコンサルティングに力を入れている。本書は、ジョンソンが2008年にクレイトン・クリステンセン、ヘニング・カガーマンと共同でハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表した論文“Reinventing Your Business Model”(邦訳「ビジネスモデル・イノベーションの原則」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2009年4月号)を発展させたもの。同論文はその年の優秀な論文に送られるマッキンゼー賞を受賞した。ジョンソンは、アナポリス海軍兵学校で航空宇宙工学を学び、ハーバード・ビジネススクールでMBAを、コロンビア大学では土木工学と工業力学の修士号を取得。アメリカ海軍、ブーズ・アレン・ハミルトンをへて、イノサイトを創業。共著に『イノベーションへの解 実践編』(翔泳社)がある。

訳者

池村千秋(いけむら・ちあき)
翻訳者。主な訳書に『マネジャーの実像』『MBAが会社を滅ぼす』(以上、日経BP社)、『ホワイトハウス・フェロー』『フリーエージェント社会の到来』(以上、ダイヤモンド社)、『戦略的思考をどう実践するか』(共訳、阪急コミュニケーションズ)など。

●装丁・本文デザイン/轡田昭彦+坪井朋子