それは「うつ」ではない どんな悲しみも「うつ」にされてしまう理由

それは「うつ」ではない

伊藤和子 著

  • 書籍:定価2750円(本体2,500円)
  • 四六判・上製/368ページ
  • ISBN978-4-484-11118-6 C0036
  • 2011.11発行
社会 /

今なぜ「うつ病」が増大しているのか。現代がストレス過多社会になったことだけが原因ではない。悲しみの“理由”を問わない診断方法の問題点を指摘し、世界中で用いられる診断基準「DSM」の功罪を明らかにする。

書籍

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内容

今なぜ「うつ病」が増大しているのか。
現代がストレス過多社会になったことだけが原因ではない。

気持ちがふさぎ込んで、食欲がなく、夜も眠れず、自殺を考える……
だれもが一度は経験するはずだ。
失恋や離婚、愛する人との死別、失業や破産など、理由は無数に考えられる。
しかし、現在、世界中で採用されている基準にしたがえば、
このような「悲しみ」や「落ち込み」も、すべて「うつ病」と診断される。
なぜ、そんなことになってしまったのか?

悲しみの“理由”を問わない診断方法の問題点を指摘し、
世界中で用いられる診断基準「DSM」の功罪を明らかにする。

この本は、精神医学の分野でほぼ三〇年前に始まった診断上の革命に対する、
これまでに提出された最も説得力ある「内部からの」批判だ。
彼らの批判のおかげで、精神医学が依って立つ論理的な基盤が
より強固なものとなることは疑う余地がない。
この本は精神医学の概念的な進展に画期をなした著作として
今後も長く評価され続けるだろう。
――ロバート・L・スピッツァーによる序文より(抜粋)

目次

序文 ロバート・L・スピッツァー(医学博士、ニューヨーク州立精神医学研究所精神医学教授)

第一章 うつの概念
ありふれた病気となったうつ病
正常な悲哀と病的な悲哀
うつ病の誤った定義が「うつの時代」を招いた
DSMの「大うつ病」の定義
正常と疾患の区別
なぜ正常な悲哀とうつ病を区別する必要があるか
区別することの問題点は何か
用語の定義
本書が目指すもの

第二章 正常な悲哀
正常な悲哀の要件
正常な悲哀の例
悲哀が進化の過程で獲得された正常な反応であること示す証拠
文化的なバリエーションと正常な悲哀
正常な喪失反応の適応上の役割
まとめ

第三章 理由の有無という指標――古代から一九世紀までのうつの診断史
検証にあたって
ルネサンスから一九世紀までのうつの診断史
一九世紀の診断史
まとめ

第四章 二〇世紀のうつ
二〇世紀にも受け継がれた「理由の有無」という指標
「理由の有無」を指標とする伝統との決別
うつ病に対するDSM-IIIのアプローチ
まとめ

第五章 DSM-IVの定義するうつ
DSM-IVの感情障害
「大うつ病」の基準
DSMの「大うつ病」の基準は正常な悲哀と疾病をどう区別しているか
「行為障害」の前例
DSM -IVは正常な悲哀にどう対処しようとしているか
DSMのうつに関連したその他のカテゴリー
まとめ

第六章 DSMの基準が社会に及ぼした影響
DSM -III以前のうつ病の地域調査
地域調査に診断が入り込む
地域調査で臨床と同レベルの診断を下せるという神話
一九六〇年代への回帰―DSMの閾値を捨て去る
「軽度うつ病」運動の誤り
まとめ

第七章 悲哀の監視
うつのスクリーニング推進運動
うつ病の予備的スクリーニングと診断スクリーニング
クリニックを訪れた人に対するうつのスクリーニング
思春期のうつのスクリーニング
まとめ

第八章 DSMとうつの生物学的研究
双子と養子の研究
脳内の化学物質のアンバランスによるうつ
うつの遺伝的なベース
解剖学的な脳の異常
まとめ

第九章 抗うつ薬による薬物療法の普及
悲哀とうつの薬物療法の歴史
抗うつ薬と正常な悲哀の治療
まとめ

第一〇章 社会科学の役割
人類学
社会学
まとめ

第一一章 結び
特定の診断基準に利害をもつグループ
私たちの立場に対する批判
改善のための提案
まとめ

本書について


参考文献

略歴

[著者]
アラン・V・ホーウィッツ Allan V. Horwitz
PhD。ラトガーズ大学教授(社会学)。精神疾患の様々な側面に関する論文を精力的に発表し、著書も多い。主な著書は The Social Control of Mental Illness、The Logic of Social Control、Creating Mental Illness、Diagnosis, Therapy, and Evidence: Conundrums in Modern]]>erican Medicine。

ジェローム・C・ウェイクフィールド Jerome C. Wakefield
PhD、DSW(ソーシャルワーク博士)。シカゴ大学、コロンビア大学、ラトガーズ大学で教鞭をとり、現在はニューヨーク大学教授(専門はソーシャルワーク、精神医学の概念的基盤)。哲学と精神医療にまたがる学際的研究の権威で、精神疾患の診断に関する論文を多数発表している。

[訳者]
伊藤和子(いとう・かずこ)
早稲田大学第一文学部卒業。
創刊時より「ニューズウィーク日本版」の翻訳および編集、「ナショナルジオグラフィック日本版」の翻訳に携わる。主な訳書に『心で感じる女 腹で感じる男』『21日間でできる! あなたの自信力を100%引き出す方法』(ともに阪急コミュニケーションズ)、『脳は眠らない』『翳りゆく楽園』(ともに武田ランダムハウスジャパン)など。

●装丁/安彦勝博

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