顧客満足度No.1のチームマネジメント 回転寿司スシロー 7つの秘訣
スシローはなぜ、29業種291社中「飲食1位・総合3位の顧客満足度」を獲得できたのか? 「日本でいちばん支持されている飲食企業」の経営術・ビジネスモデルを解明し、不況を打開する新たな経営スタイルを提示する一冊。
内容
2010年3月、初めて発表されたJCSI(日本版顧客満足度指数)ランキングで、29業種291社中、飲食1位・総合3位に選ばれた、回転寿司スシロー。餃子の王将でもマクドナルドでもサイゼリヤでもなく、なぜ回転寿司業界2位のスシローが「顧客満足度No.1」になったのか?
スシローは現在、テレビや雑誌など多方面で取り上げられ、話題沸騰中の「勝ち組企業」。本書は、この「日本でいちばん支持されている飲食企業」の経営術・ビジネスモデルを明らかにするべく、外食産業専門のコンサルタントである永田雅乙が著したビジネス書である。
「安くておいしい」だけでは、これほど高い評価は得られない。実はスシローは、前年から経営改革に取り組んでおり、その成果が早くも現れ出しているのだ。改革のカギは、従来の日本企業では見られなかった、社外の力をも積極的に活用する「チームマネジメント」である。
はじめに
「1週間に70皿」
いったい、何の数字だと思いますか?
これは、何かの目標数値でも、予測の数値でもありません。現在、私自身が回転寿司「吟味スシロー」で毎週食べている分量なのです。
外食産業専門コンサルタントとして、私は今、スシローから接客・サービス向上などさまざまなプロジェクトを請け負っている立場にあります。毎日のようにスシローの店舗に立っていますから、こう思う人もいるでしょう。
「現場でコンサルティングをしているから、賄い(従業員の食事)として食べているのではないですか?」
ところが、スシローは衛生管理・コスト管理、そして何よりお客様により良い商品をという考えから、商品を賄い料理にはしていません。つまり、すべて自腹で食べているのです。
「味のチェックも、コンサルタントの仕事のひとつだからでは?」
それも確かに必要かもしれません。しかし、考えてみてください。それならば、1日平均10皿も食べなくても事足ります。では、なぜこんなに食べるのでしょうか。
答えは簡単です。「毎日食べたいほどおいしいから」。このひと言に尽きます。毎日食べていても、お腹が空くと「今日はどのネタを食べようか」「あのネタは絶対外せないな」と自然に考えている自分がいるのです。
驚くのは、こうした状態に陥っているのが私ひとりではないということです。スシローには、私のほかにも、多くのコンサルティング会社や協力会社など数々の専門家が携わっていますが、彼らと顔を合わせると「今日はどんなネタを食べた」「今月はもうこのくらい食べている」といった話をすることが珍しくありません。そこには、まるで男子高校生が食べた分量を自慢するような純粋さがあふれています。
そうさせる要因は「寿司がおいしい」だけではありません。私が感じたのは、提案に対する取り組み姿勢の「本気度」の高さです。まず、こちらの意見を本当に真剣に聞いてくれます。そして、納得すると、すぐに本気で実行に移す。スシローの場合、そのスピードが桁違いに速く、すぐに全国に通達されます。
小規模な会社ならば、これは当たり前のことかもしれません。しかし、株式会社あきんどスシローは全国に274店舗(2010年6月現在)を展開する回転寿司業界第2位の大企業です。社員数だけで900名以上、パートとアルバイトは2万5000人を超える組織にもかかわらず、外部の意見を即断即決で取り入れ、実行してくれる。これほどやりがいのあるクライアントはそうそういるものではありません。
これも、私ひとりだけが感じていることではないのです。象徴的なエピソードを紹介しましょう。
普通ならばあり得ないことですが、スシロー本社、つまりクライアントのオフィスで、外部コンサルタント同士がミーティングを行うことがあります。もちろん、そこにスシロー社員はいません。にもかかわらず、
「こういうことをスシローで導入して、やっていくべきじゃないか」
「いや、そこにはこういうデメリットが生じるのでは」
「でも、こういうメリットがあるから、それを優先するべきだ」
など、ときには深夜に至るまで、熱い議論を交わすのです。
私は今まで、日本を中心にさまざまな国で多くの企業や店舗のプロデュース・コンサルティングを行ってきましたが、クライアントの社内ならばともかく、外部スタッフがここまで夢中になっている現場に携わったことはありません。
「この会社は、とんでもない存在になる可能性を秘めている」
コンサルタントとしてそう直感すると同時に、この経営スタイルをスシローだけのものにしておいてはいけないと強く感じました。その姿を明らかにすることで、不況にあえぎ続け、活力を失っている現在の日本社会を打開する大きなヒントが提示できるのではないか。それが、本書を著そうと考えた理由です。
読者のみなさまが読み終えたあとに、何かを感じていただければ、そして、何らかの行動を起こしていただければ、著者としてそれ以上の幸せはありません。
株式会社ブグラーマネージメント
代表取締役社長兼CEO 永田雅乙
目次
はじめに
序章 顧客満足度No.1をなぜ獲得できたのか
誰もが驚いた「顧客満足度ランキング」
飲食1位、サービス業全体でも3位を獲得
デフレ不況を追い風にした回転寿司業界
現在は4200億円市場にまで成長
「安いのにうまい」を可能にした
人件費と家賃の大幅カット
エンターテインメント性を追求する「かっぱ」「くら」
スシローは驚異の原価率(=ネタの良さ)で勝負
No.1獲得の最大の理由は「質の高い商品と価格」だが
昨年から取り組んできた経営改革の成果でもある
秘訣1 品質へのこだわり
―― 創業時のDNAを持ち続ける職人経営者
立ち寿司が回転寿司の店舗をオープン
猛スピードで寿司職人のスキルを磨いた
創業の志を忘れない“スシローイズム”
「原価率約50%」と「全皿105円均一」
セントラルキッチンを構えず店内調理
効率を重視せず、手作りにこだわる
画期的なレーンの管理システムを開発し
食材のロスを最小限に抑える
社長みずから仕入れと商品開発を担当
寿司職人として最前線に立つ
成長の鈍化に直面した試練の時を
各自の強みを生かす企業哲学で乗り越える
組織をいかにマネジメントするか
新生スシローの船出が近づく
新しい経営スタイル「チームマネジメント」を武器に
外食No.1をめざし、海外進出も視野に入れる
秘訣2 友好的なサポート役
―― “縁の下の力持ち”となったファンド
企業価値の向上を行う「バイアウト投資」
スシローがパートナーに選んだワケ
スシローのどこに成長の可能性を見たのか
最終的な決め手は「心意気」だった
経営実態を把握して見えた「弱み」
危機感を覚え改善策を次々に提案するが
職人気質はスシローの長所であり短所
逆ピラミッド型経営への転換を提案
スシローの発展をサポートするため
本社のある大阪へも足繁く通う
秘訣3 改革のプロデュース
―― 社内外の力を結集するCTO(変革最高責任者)
子どもの頃の「回転寿司が好き」が原点
ロジックとパワーを併せ持つ人材
噛み合わない議論、1年目の失敗
退路を断った覚悟が経営陣の心を動かす
企業変革のプロデューサーとして意識した
変革プランの構築と、実行する“うねり”作り
経営改革に不可欠な「シナリオ」として
全社一丸となるためのイベントを開催
共通目標、役割分担、貢献心を持つ
「チーム」という概念を導入した
「寿司原理主義」の職人集団から
オープンパートナーシップへ
今後の発展のために変えるべき四つのポイント
チームマネジメントによる改革が始まる
秘訣4 ブランディング戦略
―― 未来と世界を見据えたブランド構築
「日本を代表するブランドになる」
スシローに感じた可能性
スシローの持つポテンシャルの最大化へ
ブランディングの挑戦が始まった
「うまいすしを、腹一杯。」
ひと言にこめるブランドの原点
お客様に「スシローはどんな店か」を伝える
ポスターやテレビCMにこめた狙い
広告×PR×店舗×インナー(従業員)
四つのレイヤーで行う“キモチの掛け算”
秘訣5 戦略PRの開始
―― メディアが興味を持つ“文脈”の開発
無料でメディアに露出できる
「パブリシティ」とは何か
1万円の寿司よりはるかにうまい!
回転寿司嫌いから“スシラー”への転身
「低価格回転寿司戦争」の企画を提案
取材依頼が舞い込み大成功を収める
言いたいことをただ伝えるのではなく
メディアが興味を持つ“文脈”を見つける
広告費換算で約20億円以上の効果
トップのやる気が成功の源泉
秘訣6 改革“最前線”の現場力
―― タブー解禁の「スシロー2.0」を牽引
学生時代にスシローでアルバイト
いったんは別会社に就職した出戻り店長
「スシロー2.0」のトライアル店に抜擢
初めてタッチパネルやフライヤーを導入
トラブルの連絡にすぐ対応
本社が店舗の応援団として機能し始める
手洗いの徹底、15分おきの衛生チェック
驚異の衛生管理システムを確立
店長は年商3億企業の経営者
ヒト・モノ・カネを現場で管理する
秘訣7 経営企画のシステム化
―― 「見せる化」を駆使したマネジメント
大胆な経営企画のアウトソーシング
問題の「可視化」とは何か
「可視化」=「見える化」ではない
変革にはむしろ「見せる化」が重要
データを“色分け”したシステムを開発
人材評価には多面的な視点を導入
テイクアウトの売り上げを増やした
事業戦略のプロジェクト推進
社外のパートナーだからこその役割
本社内で“駆け込み寺”として機能する
終章 No.1の称号に恥じない最高のサービスへ
今後ますます重要になる接客・サービス
回転寿司におけるサービスとは何か
外食産業で成功するための四つの要素
サービスを磨けない構造的な弱点
寿司は今や「安くておいしい」がスタンダード
スシローはサービスに取り組み始めた
サービスはすぐには結果が出ない
回転寿司業界ならではの難しさもあった
「笑顔」を徹底させるための三つの習慣
「本質」を認識させるための質問
最高のサービスを生み出すための条件は
現場を大切にする逆ピラミッド型経営
コストカットやリストラに未来はあるか
チームマネジメントこそが成長への道
おわりに
著者
永田雅乙(ながた・まさお)
外食産業専門コンサルティング会社「ブグラーマネージメント」代表取締役社長兼CEO
1976年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。「永田ラッパ」の異名を取った映画会社「大映」社長、永田雅一の本家最後の男児曾孫として幼い頃より帝王学を叩き込まれる。14歳のとき老舗イタリアンレストランの厨房で皿洗いを経験し、以後、さまざまな店で経験を積む。10代で「創作イタリアン」の店をプロデュースし、大学卒業後はフードビジネスコンサルタントとして活躍。海外にも事業を広げ、19カ国で累計5500店を手がけている。著書に『あたりまえだけどなかなかできない サービスのルール』(明日香出版社)、『旨い仕事論』(ゴマブックス)など。
永田雅乙公式ブログ:http://ameblo.jp/bugler/
株式会社ブグラーマネージメント:http://www.bugler-m.co.jp