アメリカは本当に「貧困大国」なのか?

アメリカは本当に「貧困大国」なのか?
冷泉彰彦 著
  • 書籍:定価1540円(本体1,400円)
  • 電子書籍:定価1232円(本体1,120円)
  • 四六判・並製/232ページ
  • ISBN978-4-484-10214-6
  • 2010.07発行

Newsweek日本版&JMM(村上龍編集長)で活躍するアメリカウォッチャーが、堤 未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』に反論。格差社会アメリカは日本の近未来? オバマの「チェンジ」は虚構ではない――。

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内容

◎なぜ、オバマの「チェンジ(変革)」と「ホープ(希望)」に対して、ブッシュ時代と同じようなネガティブな視線を投げかけているのか?

◎なぜ、「結果の不平等」の悪例探しに熱中する一方で、少なくとも日本よりは実現されている「アメリカの機会均等」制度を紹介しないのか?

――21世紀型の「嫌米感情」とシンクロした『ルポ 貧困大国アメリカ』に対する反証を行い、「オバマのアメリカ」の1年半を検証する。

「序章」より

2008年1月、ブッシュ政権の最終年に刊行された、堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)は多くの読者の関心を集めたようだ。その要因は、この「ブッシュ時代」というアメリカ社会の病理、つまり一国主義の軍事行動や、格差の拡大といった「暗部」を描いたという点が大きいだろう。

例えば、貧困層や移民が募兵制のターゲットにされていたり、民間会社による傭兵ビジネスが横行しているといった点に言及している部分、後にバラク・オバマが政治生命を賭けて改革に成功した医療保険に関する無保険者の実態を描いた部分などは、「ブッシュのアメリカ」、そして「共和党のアメリカ」への批判としては有効であったと思われる。アメリカに住んでいる私にも、十分に納得がいく内容だった。

だが、ジョージ・W・ブッシュはもはやホワイトハウスにはいない。堤氏の批判した「共和党のアメリカ」には、アメリカの有権者自身の手で「ノー」が突きつけられたのだ。2009年1月、オバマ大統領が「チェンジ(変革)」と「ホープ(希望)」をスローガンにして就任し、アメリカは変わった。

それから1年半が経過した。

長引く不況や落ち着かない社会を反映して、アメリカの国民からのオバマ大統領の支持率は50%前後と決して高くはない。だが、「チェンジ」と「ホープ」が裏切られたという思いはアメリカ人の多数派にはない。アメリカ人はオバマが大好きであり、若く行動的な黒人大統領を選んだ自分たちのことを今でも誇っている。金融危機の克服や医療保険改革などの政治的成果を挙げたことについては、世論調査の結果も支持を寄せている。

その一方で、日本人のオバマへの好感度は、これとは全く異なる冷めたものだ。好感度はゼロではないが、その好感というのは「核廃絶」を口にしたというほぼ一点に限定されているように見える。例えば、オバマの語る「希望」という概念は、現在の日本社会の状況からすれば関心を呼んでも良いように思うのだが、特にアメリカの内政においてオバマがどのような姿勢を取っているのか、格差問題を抱えるアメリカ社会で「希望」という言葉がどうして説得力を持つのか、といった点に関しては関心の対象にはなっていないのだ。堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』の続編『ルポ 貧困大国アメリカII』(2010年1月刊行)では、オバマの改革にも同じようなネガティブな視線が投げかけられている。

2010年5月に至る、日本の鳩山政権の普天間飛行場返還における代替施設問題についても、沖縄の反基地感情、それに一定の共感を寄せる本土の嫌米感情に関して言えば「相手が反核のオバマだから誠実に対話を続けてみよう」という「空気」はなかった。ブッシュ時代と同じようなアメリカへの反感がそこには残っていた。

日本にとって、オバマというのは、発音の同じ「小浜市」からのダジャレにも似た親近感や、一部のモノマネ芸人の存在を除けば、「反核」という一点だけしか関心を呼んでいないように見える。ブッシュの残した「嫌米感情」は、オバマ政権になってもそのまま惰性として続いているようだ。

では、オバマの「希望」というのは虚構なのだろうか? アメリカ社会の、例えばオバマの民主党による格差是正の動きは偽善であり、格差にマヒしたアメリカ人はそれに騙されているだけなのだろうか? 核廃絶問題以外の部分における「オバマの希望」は、より成熟した日本社会には無関係なのだろうか? 本書ではこの問題意識に立ち、堤氏の著書への反証という形を取りながら、就任後1年半を経過した現時点で「オバマの希望」がアメリカに残っているのかを検証してみたい。

「あとがき」より

堤未果氏の『ルポ 貧困大国アメリカ』IとIIはどうして、多くの読者の関心を呼んだのだろう。本書は、冒頭でこの堤氏の著作に対する反証を行い、そして日本にはなかなか伝わっていない「機会均等」の思想に関しての、アメリカの現状を報告した。更に軍事外交に関する方針の転換や、医療保険改革の断行など「チェンジ」が具体化する様子をできるだけビビッドにお伝えするようにした。そのように書き進めながら思ったのは、堤氏の描いた「貧困大国」という概念はアメリカ社会を批判するためのものではなく、機会均等の保証されないまま、そしてセーフティーネットが十分に用意されないまま、競争と格差の拡大している日本社会の「自画像」の投影なのではないか、という思いであった。

目次

序章 異議あり「貧困大国アメリカ」
「オバマのアメリカ」への冷めた視線
21世紀型「嫌米感情」のメカニズム
不完全な小泉改革が残したもの
「結果の不平等」の悪例ばかりを紹介

第1章 オバマの「希望」を支える機会均等の思想
格差社会と「小刻みのシステム」
セカンドチャンスの理念とは何か
機会均等を実現するための奨学金制度
「第一志望はゆずる」アメリカの高校生
新卒一括採用の不在とインターン制度
底辺層が切り捨てられているわけではない

第2章 対外イメージは「チェンジ」したか――オバマの軍事外交
拷問評価問題とブッシュ時代からの決別
イスラムとの和解を呼び掛けた「カイロ演説」
ホロコースト追悼の、和解のメッセージ
テキサス陸軍基地乱射事件が浮き彫りにした「闇」
「戦時」とはほど遠いアメリカ(アフガン増派の背景)
オバマの戦争と平和、傷だらけのスピーチ
クリスマス・テロ未遂事件の衝撃
オバマの「新核戦略」が意味するもの
「チェンジ」第一弾は成功だったのか

第3章 政争に粘り勝つ「希望」――オバマの医療保険改革
内政の「チェンジ」はなぜ医療保険なのか
テッド・ケネディの死と迷走する医療保険改革
議会演説で大見得を切ったオバマ
三すくみの補選に見る共和党の「自分探し」
粘るオバマ、医療保険改革は一歩前進の年末
予想外の結果となったマサチューセッツ補選
そして、医療保険改革法案可決のドラマ
「格差是正」のための歴史的勝利

第4章 草の根保守を抜きにアメリカは語れない
「ティーパーティー」の歴史的位置づけ
オバマと「草の根保守」との対比
2009年前半、迷走する共和党
ペイリン人気の背景にあるもの
「ティーパーティー」のシンボルと化したペイリン
医療保険改革に見る「反対派」の情念
環境問題と「アメリカという途上国」
アメリカ政治の四つの勢力
医療保険改革の次は「移民問題」
「ティーパーティー」は全米を席巻するのか

第5章 オバマの経済政策に「希望」はあるか
ビッグスリーの敗因、GM破綻の先にあるもの
アメリカの失業率が好転しない理由
アメリカでデフレを考える
オバマの「グリーンエコノミー」は本物か
迷走するエネルギー戦略
そして「2010年代のグローバリズム」へ

あとがき

著者

冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
米国ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院修了。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米し、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。ニューズウィーク日本版オフィシャルサイトで「プリンストン発 新潮流アメリカ」、メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「from 911/USAレポート」、日経マネーで「冷泉彰彦の米国マネー最前線」を連載。著書に『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)、『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』(日本経済新聞出版社)、『「関係の空気」「場の空気」』(講談社)、『セプテンバー・イレブンス9・11――あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』(小学館)など。

●カバーデザイン/ヤマダマコト(志岐デザイン事務所)
●本文デザイン・DTP/萩原 睦(志岐デザイン事務所)
●校正/麦秋アートセンター

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