移民の詩 大泉ブラジルタウン物語

移民の詩
水野龍哉 著
  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 四六判・並製/216ページ
  • ISBN978-4-484-16205-8 C0036
  • 2016.02.19発行
社会 /

diversity の重要性が叫ばれる今、日本人が知っておくべき“同胞であり外国人”でもある日系移民たちのさまざまな人生。
町民の10人に1人が日系を中心としたブラジル人という群馬邑楽郡大泉町。この町で彼らとじっくり膝を突き合わせ、その人間模様を浮かびあがらせたノンフィクション。

書籍

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電子書籍

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内容

東京都心から電車で約2時間あまりの群馬県邑楽郡大泉町。この町民わずか4万人ほどの小さな町は、住民の10人に1人が日系を中心としたブラジル人という。
一時は、日本全国で30万人を超えた日系ブラジル人も、2008年のリーマンショックの煽りを受け、その半数近くが、失業や帰国の憂き目にあった。それでもなお、大泉町の日系ブラジル人たちと地域住民たちは“多文化共生”への道を模索し歩み続け、四半世紀が過ぎようとしている。

本書は日系ブラジル人の逞しい生きざまと地域住民とのひたむきな交流の実態を、丹念な取材で描ききったノンフィクションである。

本文より

 群馬県邑楽(おうら)郡、大泉町(まち)。県南東部の端っこ、利根川を挟んで埼玉県熊谷市と向き合うこの町は、全国で最も外国人の比率が高い市町村の一つとして知られている。
 町民約四万人のうち、外国人住民の比率は十五パーセント。その約七割、すなわち町民の十人に一人が日系を中心としたブラジル人である。無論、ブラジル人の比率も日本で一番高い。
 この日――平成二十五(二〇一三)年十二月――の朝、町がある東武鉄道の西小泉駅に初めて降り立った時から、その風情は存分に湧き立っていた。
 雑貨屋、洋品店、タトゥースタジオ、旅行代理店……。人気(ひとけ)のほとんどない駅前広場とそれに面した幹線道路には、ポルトガル語で書かれた弾むような色合いとデザインの看板が連なっていた。
 都心から電車を乗り継ぎ、約二時間。郊外の凡庸な景色を眺めながらたどり着いたこの異空間に、パスポートを持たず身を置いていることは若干不思議な感慨だった。

 大泉町の名を初めて知ったのは、一九九〇年代の終わり頃だっただろうか。
 町で行われた日系ブラジル人たちのサンバパレードの模様を、全国紙が社会面の小さな記事で伝えていた。地方にもこんな外国人社会があるのか。日本にも多文化共生の時代がやって来る息吹なのかもしれないと、それを読んだときにはひどく感じ入った。
 以来、この町のことを気にかけてはいたが、ごくごく稀にささやかな報道を目にする程度で、その実像はなかなか浮かんでこなかった。
 いつかこの町の人々とじっくり膝を突き合わせ、その人間模様を描いてみたい。ようやく実現した今回の取材は、私にとって心躍る小旅行であった。

 長年、私は日本の中にある異文化に興味を抱いてきた。
 先進諸国の中でほぼ唯一、圧倒的に同一民族で機能している日本という国で、海外からやって来た人々はどのようなコミュニティーをつくり上げ、どのように日本人と共に暮らしてきたのか。
 日本に住む外国人で最も多いのは、言うまでもなく韓国・朝鮮や中国籍の人々である。彼らが定住した理由には歴史的に長い経緯があり、文化的ルーツを多く共有することもあって、この国の社会にずいぶんと溶け入っている感が強い。
 その次に多いのはフィリピン人で、日系ブラジル人は四番目の地位を占めている。彼らは近年になって急増し、たとえ私たちと同じ血が流れていたとしても、地球の反対側にある対極的な文化をもつ国からやって来た人々である。一時は、日本で最も多い「外国人らしい外国人」であった。
 彼らが集住する「リトル・ブラジル」は、今や全国各地に二十か所余り点在する。その中でもこの大泉町が、人口比からいって最も「ブラジル的濃度が高い町」ということになろう。
 多い時には全国で優に三十万人を数えた日系ブラジル人たち。平成二十(二〇〇八)年のリーマン・ショックの煽りを受け、その半数近くが失業や帰国の憂き目にあったが、今でもその数は十七万人を超える。日本で育った新しい世代も着実に根づき、彼らは日本社会を構成する揺るぎない一員となった。
 だが今でも私たちは、断片的な報道でしか彼らのことを知り得ない。いまだ「遠い隣人」である日系ブラジル人たちの息づかいを、ごく間近で感じとれるのがこの大泉町なのである。

目次

ファビオの歌
「おもてなし」の裏側で
サンバが町にやって来た
なんちゃってサンバ
侍、芸者、金閣寺
演歌を聞いて、ブラジルを想う
日曜の夜、月曜の朝
清しこの夜
遥かなるブラジル
安息の地
祭りの日
「人財」
踊る町長
日系人ギャング
町の看板レストラン
甲子園の星
未知なる母国
素晴らしき哉、人生

略歴

水野龍哉(みずの たつや)
1959年、東京生まれ。フリージャーナリスト、エディター。
駒場東邦高校、上智大学文学部新聞学科卒業。
『WWDジャパン』『Wジャパン』誌の編集者を経て、1985年にフリーランスに。以来、「人」「文化」「旅」をテーマに様々なドキュメンタリーを手掛け、数多くの雑誌で海外特集の企画立案・取材・執筆を担当。世界30数か国で取材活動を行い、特に英国を主題とした作品が多い。また幾つかの雑誌では編集長やシニア・エディターを歴任。
これまで『GQジャパン』『月刊プレイボーイ』『EDGE』『翼の王国(全日空機内誌)』『ウインズ/スカイワード(日本航空機内誌)』『インプレッション(アメリカン・エキスプレス・カード会員誌)』『アルスール(日本信販ニコス・ゴールド会員誌)』等々の雑誌に寄稿。

●イラストレーション/今中信一
●装丁・本文デザイン/轡田昭彦+坪井朋子

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