ジェネレーションフリーの社会 日本人は何歳まで働くべきか
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北岡孝義 著
- 書籍:定価1760円(本体1,600円)
- 電子書籍:定価1408円(本体1,280円)
- 四六判・並製/256ページ
- ISBN978-4-484-15217-2 C0030
- 2015.07.16発行
社会 /
もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか――。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革が求められる。“生涯現役”は日本を救うかもしれない。
内容
もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか――。
現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、
定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。
さらには、個々人の働くことへの意識改革が求められる。
“生涯現役”は、日本を救うかもしれない。
老いも若きも国民全員が働く社会、
つまり「ジェネレーションフリー」の社会は、
現役世代が高齢の退職世代を支える世代間扶養の社会ではない。
国民全員が全員を支える、相互扶養の共生社会のことである。
ジェネレーションフリーの新しい日本型雇用慣行・雇用制度を
構築することこそ、グローバル化への真の対応なのである。
第1章 公的年金は大丈夫なのか
第2章 年金支給年齢75歳
~スウェーデン首相の衝撃の発言と今日のスウェーデンの苦悩
第3章 「働くこと」はつらいことなのか
~「働くこと」の意義を考える
第4章 「人生二毛作」を支えるインフラ創り
第5章 高齢者も国の成長を支える社会へ
第6章 年金のいらない社会の構築
まえがき
少子高齢化が進む中、日本の公的年金制度は危機に瀕している。
大方の国民にとって、もはや年金だけで老後の生活の安定をはかることは難しく、事実、近年では65歳以上の高齢者の就業者数が増えている。この背景には、年金だけでは暮らしていけず、生活のために働かざるをえない現状がある。
一方、少子高齢化のもと、国や地方の財政も悪化している。
公的年金給付や高齢者の医療・介護費が増大し、社会保障給付費が国や地方の財政を圧迫している。政府は、2020年までに国と地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化すると宣言しているが、果たして実現できるかどうか。はなはだ疑問だ。
安倍政権は成長戦略の中で、様々な少子化対策、高齢化社会対策を打ち出しているが、それらは総花的でビジョンがなく、国民の安心に結びつかない。
少子高齢化に加え、日本社会は経済のグローバル化という荒波にもさらされている。
日本経済のグローバルな競争力の向上を目指して、企業組織、労働・雇用、教育等の分野での規制緩和が進行している。とくに労働・雇用の分野において、非正規雇用や成果主義、裁量労働制等が導入され、高度成長期の終身雇用・年功賃金の雇用制度・慣行が崩れつつある。
こうした少子高齢化とグローバル化の荒波の中で、21世紀の日本社会はどこに行こうとしているのか。政府のグランドビジョンは見えず、国民の不安はいや増すばかりである。
戦後間もない頃、日本人の平均寿命は50歳から60歳だった。この時期の公的年金受給開始年齢は55歳。平均寿命までの年金給付期間はたかだか5年である。
高度成長期の頃の平均寿命は60歳から70歳で、公的年金受給開始年齢は60歳。平均寿命までの年金給付期間は、せいぜい10年である。
ところが現在の平均寿命は、男性80・21歳、女性86・61歳(2013年、厚生労働省)。
公的年金受給開始年齢は原則65歳に引き上げられたが、平均寿命までの公的年金給付期間は、実に15年から20年だ。財政破綻の危機にある現在の日本には、とても15年から20年も年金を給付し続ける余裕はない。
平均寿命が大幅に上昇したことに加え、少子化である。「世代間扶養」に立脚する現行の公的年金制度は、どだい持続不可能なのだ。
それだけではない。医療費の自己負担増や消費税増税の問題もある。2014年から、70歳以上74歳以下の高齢者の医療費の自己負担が、1割から2割に増えた。政府は高齢者の医療費の自己負担増に及び腰だが、しかし、そのツケは確実に将来に回されている。
消費税増税も同様である。本来なら、10 %の増税だけでは済まないはずだが、それが将来に先延ばしされている。
こうした政府の問題先送りの対応では、大方の高齢者は将来の不安が増すばかりだ。
もはや年金だけではやっていけない。国民の多くは、生活の安定のために老後も働かざるをえないのである。
否応なしに、老いも若きも国民全員が働かざるをえない社会。これが日本の将来の姿なのだ。
老後も働かざるをえないということが、動かしがたい日本の現実ならば、いっそのことこれをチャンスと捉え、現在の日本の労働環境を考え直してはどうか。
今のままの労働環境では、とても国民全員が生涯働き続けることはできない。
現在の日本は、働くことがますます苦痛になってきている。
職場での人間関係はギスギスし、働くことの連帯感も希薄で、時として精神的孤立に追い込まれる。労働者の自殺率は高水準にあり、労働者の精神的ストレスは高まるばかりだ。
グローバル化への対応を大義名分とし、政府や企業が推し進めている労働市場の規制緩和や職場改革は、本当に日本経済の競争力を高める方策なのだろうか。
働く者の環境はますます厳しくなり、労働者たちは精神的に追い詰められている。
そんな環境のもとで、労働者の生産性を上げることができるのか。
高齢者は安心して働き続けることができるのか。
グローバル化とは、世界標準の雇用制度を構築しようとする動きを指すのではない。
財・サービスとは異なり、労働は人が直接関わっている。「働く環境を、働く者にとって最善のものにする」ことこそが、グローバル化への対応ではないのか。
国民全員が働く社会とは、つまり「ジェネレーション・フリー」の社会である。
老いも若きも国民全員が働くため、世代(ジェネレーション)構成の変化による大きな影響を受けない(フリー)社会のことである。
ジェネレーション・フリーの社会は、現役世代が高齢の退職世代を支える世代間扶養の社会ではない。国民全員が全員を支える、相互扶養の共生社会だ。
ジェネレーション・フリーの社会の構築を目指し、政府、企業、そして労働者各々が、「働く」とはどういうことなのか、働く者の視点にたって考え直し、現状の労働環境を変革していく必要がある。ジェネレーション・フリーの社会の新しい日本型雇用慣行・雇用制度を構築することこそ、グローバル化への真の対応なのである。
現在の労働市場は、働く者をどう扱っているのか。
果たして、現在の政府が推し進めようとしている労働市場の制度改革でしか、グローバル化への対応はできないのか。
これらについてもう一度、真剣に考えてみる必要があるだろう。
本書が、年金に頼れないこれからの若い人たちにとって、働くことはどういうことなのかを問い直す契機になることを願っている。
もくじ
第1章 公的年金は大丈夫なのか
1・1 公的年金制度が行き詰まるのは目に見えている
少子高齢化のもとでは不可能な「世代間扶養」/ 年金原資をリスク資産へ投資して大丈夫なのか/ GPIFとは何か
1・2 小手先の制度改革ではどうにもできない年金制度の「歪み」
2004年の年金改革のあらまし/ 不足分の捻出はどこから?/ 「マクロ経済スライド」とは何か/ 年金給付の伸びは物価あるいは賃金の上昇率のどちらにスライドするのか/ 2015年度の年金改訂/ 年金制度の「歪み」/ 年金財政の立て直しのための付け焼刃的な施策
1・3 公的年金制度の役割①――いつ、どういう理由で始まったのか
年金事業発足の経緯とその影響/ 先進国で国民皆年金なのは日本だけ/ 膨大な手間をかけてまで維持される「社会保険料方式」/ 年金積立金は国会のチェックが入りにくい「第2の国家予算」
1・4 公的年金制度の役割②――「強制貯蓄」と「産業資金」
戦後の公的年金制度は国家による「強制貯蓄」/ 産業資金としての役割を担った郵便貯金と年金積立金
1・5 公的年金制度の経済学――財政と年金の関係
年金財政とは何か/ 将来へつけ回されるおぞましい額の年金債務/ 年金資金に頼るアベノミクス
1・6 公的年金の世界的潮流、賦課方式から積立方式へ
少子高齢化の時代の年金制度「積立方式」/ インフレリスクは現役世代が負担?
1・7 基礎年金と生活保護、老後の最低生活を保障してくれるのはどちらか
基礎年金と生活保護/ 生活保護申請の急増は、困窮する高齢者の急増とイコール/ 公的年金制度は「掛け捨て」の年金制度にするべき/ 重要なのは「生活困窮者への施し」ではないという点
1・8 老後の生活の安定は国の責任か、それとも個人の責任か
高所得の高齢者には基礎年金はいらない/ 政府は高齢者の「働く環境」を整備せよ
第2章 年金支給年齢75歳 ~スウェーデン首相の衝撃の発言と今日のスウェーデンの苦悩
2・1 日本の数歩先を行くスウェーデン――その背中に学ぶべきこと
国民が驚いた前首相ラインフェルトの提案/ 現在の年金政策に見えるラインフェルト前首相の「真意」/ 突然の首相の発言と国
民の猛反発/ ラインフェルト前首相の穏健党は、スウェーデンのアメリカ化を目的としたか
2・2 スウェーデン・モデルを崩壊させる「移民の急増」と「財政赤字」
移民の急増による社会の不安定化/ 「スウェーデン・バリュー」と「移民政策」のジレンマ/ 決して人種差別からではない移民への反発/ 移民政策はお互いのために急いではならない
2・3 教育改革の失敗――財政赤字と教育の分権化
1990年代の急激な財政赤字と教育の分権化/ 財政削減のための教育改革の失敗/ 教育改革に成功したフィンランド
2・4 世界から絶賛されたスウェーデンの年金改革、その後
スウェーデンの「年金改革」/ 力尽きた公的年金制度――スウェーデンの敗北宣言
2・5 スウェーデン首相が進めようとする「働くこと」への意識改革
「競争社会」で働くこと/ ラインフェルトが提案した「人生二毛作」の意義/ 日本にスウェーデン型の共生社会は創れるか
第3章 「働くこと」はつらいことなのか ~「働くこと」の意義を考える
3・1 賃金報酬は苦痛の対価なのか│経済学から見た労働観
「労働=苦痛」「賃金=苦痛の対価」という経済学の労働観 / 労働=苦痛という考え方の根底にあるマルクス経済学/ 成果主義で本当に社員のやる気を引き起こすことができるのか/ 漱石が論じた「職業人」/ 働くことに必要なのは「自由意思」と「誇り」
3・2 「働く」ということの認識を問い直す
高度成長期を押し上げた「終身雇用」と「年功賃金」/ グローバリズムの浸透とともに崩壊する日本型雇用慣行
3・3 使い捨て社員の上に存続するブラック企業
過酷な労働環境、今と昔/ ブラック企業の定義/ 労働力は企業にとっての資産(ストック)
3・4 事実上の終焉を迎える公的年金制度と生活の「これから」
新たな日本型雇用慣行を模索せよ/ 「改正高年齢者雇用安定法」――65歳までの継続雇用/ 定年延長を拒否するフランス、定年延長を求める日本/ 公的年金支給開始年齢の延長により、定年制はいずれ廃止に
3・5 継続的な社会参加で収入維持と生きがいを見出せ
「定年制」は人権問題か/ 退職後に待っているのは「ヒマ、生活不安、社会からの疎外」/ 定年という障壁をなくせ│収入とキャリアの維持を
第4章 「人生二毛作」を支えるインフラ創り
4・1 「人生一毛作」――今の日本で職業選択はワンチャンス
就職しない、就職できない男子学生が増えている/ 会社選びから職業選びの時代になっても、相変わらず就職はワンチャンス/経団連が大学に求める主体性教育――変わらなければならないのは企業
4・2 今こそ「職業学」の研究を
「職業学」とは/ 今の時代にこそ「職業学」が必要だ
4・3 「職業専門教育」の必要性
グローバル化への対応│混迷する大学の現場/ 職業教育の充実こそがグローバル化への対応/ 多くの大学は職業教育の推進を
4・4 熟年が「職業教育を受ける」ということ
熟年になっても「学び直し」で社会貢献を/ 高齢者を職業教育大学に受け入れる体制作りを急げ
4・5 高齢者の学び直しにも奨学金を
「再チャレンジ」に対する支援/ 高齢者への奨学金は非効率か
4・6 国による高齢者の起業、NPO支援サービスの展開を
退職後の株式会社やNPOの立ち上げに対する支援/ 高齢者の起業融資は「投機」なのか
4・7 技術と知識を持つ高齢者は若年者の教育と技術伝達に力を貸そう
大学・大学院が実施するシニア入試/ 働いて得た技術や知識は無形の社会資本
4・8 若・壮年期と同様の労働内容である必要はない
高齢者と若・壮年者との違い/ ヴァイタニードル社の試み
4・9 企業にも必要な老・壮・青の人材バランス
それぞれの世代の特徴を生かす経営/ グローバル化の時代にこそ必要な高齢者
第5章 高齢者も国の成長を支える社会へ
5・1 定年退職後の身の振り方
働きたくない、だが、働かなくては生活できない/ 定年後もなりふりかまわず働かなければならない時代
5・2 定年制を考える
定年制は高齢者に対する差別だ/ 定年制支持は正しいか/ 今日の社会には適さなくなった定年制を裏付ける「ラジアーモデル」
5・3 人件費削減を優先する企業に高齢者雇用は期待できない
多様化する人件費削減の手口/ 株主至上主義は本当に企業の成長につながるのか/ 高齢者雇用は企業の長期的な利益に貢献する
5・4 やる気ある高齢者の増加、受け皿となる社会の関係
昔「国の宝」、今「社会のお荷物」│高齢者世代の哀愁/ 高齢者を再び「国の宝」に/ 高齢者の起業への融資はビジネスチャンス/ 高齢者の起業支援は高齢者福祉ではない/ 年収1000万円の高齢者――株式会社「いろどり」の成功例
5・5 高齢者のボランティア活動、NPO設立に期待するもの
ボランティア、NPO――高齢者たちの社会貢献/ 高齢者の活動に期待される「新しい公共」という概念
5・6 誰もが職業選択の自由を保障される社会に
高齢者の労働参加こそが第3の矢・成長戦略の柱/ 職業選択の自由は年齢によって制限されている
5・7 高齢者の就業と健康が日本の財政問題解決に貢献する
高齢者の就業と医療費の削減の関連性/ 予防医学と健康管理の制度化を
第6章 年金のいらない社会の構築
6・1 社会に居場所があるなら、公的年金はいらない
高齢者の働きと健康の好循環/ 精神論で従業員のやる気を起こさせようとする企業/ 年次有給休暇の意義/ 社会に居場所があるなら、公的年金はいらない
6・2 政府や自治体も積極的に高齢者の雇用を
スウェーデンでの政府、自治体の女性雇用/ 政府、地方自治体の高齢者雇用の現状
6・3 基本的な年金は「私的年金」でいい
老後の生活不安は公的年金ではなくセーフティネットで/ 公的年金は本当に必要ないか
6・4 企業の社会的使命を再考する
働くことが苦痛と感じない社会に/ 「非自発的長時間労働」の考察
6・5 働くことが幸せとなる社会こそが福祉国家
共生社会の福祉とは/ 自己責任論ばかりでは世の中は回らない/ 真の福祉国家とは
6・6 「働く」ことが「幸せ」になれば、強い社会を創り出せる
人間は「幸せに働く」ために生まれてきた/ これ以上、グローバル化への誤った対応をしてはならない/ 「働きの場」の改革――これこそが日本の成長戦略
略歴
北岡孝義(きたおか・たかよし)
1977 年、神戸大学大学院博士後期課程中退。経済学博士。広島大学経済学部教授を経て、現在は明治大学商学部、同大学大学院教授。専攻は金融・ファイナンスの実証分析。主な著書に、『証券論』(有斐閣、共著)、『EViewsで学ぶ実証分析の方法』(日本評論社、共著)、『スウェーデンはなぜ強いのか』『アベノミクスの危険な罠』(以上、PHP 研究所)などがある。