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ユングのタイプ論に基づく 世界諸国の国民性 そして内向型国民の優れた特性
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山口 實
著
- 書籍:¥3,200(税別)
- 電子書籍:¥2,560(税別)
- A5判・並製/584ページ
- ISBN978-4-484-17224-8 C0011
- 2017.8発行
ユングの有名なTypologie(タイプ論)を、個人ではなく世界各国の「国民性」に適用したユニークな論考。とくに今後は日本をはじめとする「内向型」国民(「外向型」国民の10分の1しかいない)の役割が重要になってくると説く。
ユング研究所(チューリヒ)推薦!
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緒言
はじめに上機嫌になった呑み助が老神父に「天国とはどんなところかね」と尋ねた。「そうじゃな、まあ言ってみれば、フランス人が料理人、イギリス人がお巡り、ドイツ人が技術者、スイス人が役人で、イタリア人が愛人というようなところじゃ」
「では、地獄は?」
「うん、料理人がイギリス人、お巡りはドイツ人、役人はフランス人、愛人はスイス人、技術者はイタリア人というところじゃ」
〔注:『不思議の国イタリア』元駐イタリア大使・堀新助著、サイマル出版会、p.133〕
日本に来ていたベルギー人が言っていた。
「面白い話が出たら、話が始まるや否や笑うのがスペイン人、話が終わる前に笑うのがフランス人、話が終わると話した人に対して儀礼的に笑うのがイギリス人、翌朝になって笑い出すのがドイツ人と日本人」
スペインの友人が言っていた。
「道路に通行止めの柵があったとする。そこにドイツ人や日本人がやってくると、それに敬意を払ってクルリと回って戻っていくだろう。フランス人はヒョイと飛び越えて先に行く。イタリア人やスペイン人はどうするかわかるかい? それはもう楽しそうにボカーツとぶっ壊して進んでいくさあ!」
■それにしても個人の気質がみな違うのに、民族・国民気質が本当にあるのだろうか
あるのである。人数的にも文化的にも多数派majorityとなっている人々の気質が、その国民の集団気質となる傾向が強いからだ。そのなかに生きる〈他の気質の人〉たちは、多数派に自分を合わせ(適応)なければそのなかには溶け込めないばかりか、不利になるからである。集団主義的な日本人は、個人主義的なアメリカ社会では、自己主張をしなければ対等に生きることはできない。その結果、アメリカの国民気質は、ますます色濃くなっていくのである。
ただし、この場合、その日本人は「適応行動」を表面的にとっているだけであって、アメリカ人の個人主義的な気質に変わったわけではない。ユングが言うように、個人の気質は一生変わらないからである。カメレオン現象と呼べるかもしれない。
そして実際、国民気質について書かれた本はたくさんある。有名なものとしては、例えば、アメリカ人については、Margaret MeadのAnd Keep Your Powder Dry( 1 9 4 2 )。日本人については、Ruth BenedictのThe Chrysanthemum and the Sword 『菊と刀』(1946)。 ドイツ人については、Theodor Adorno et aliaのThe Authoritarian Personality 。イギリス人については、Geoffrey GorerのExploring English Character (1955)。イタリア人については、Luigi BarziniのThe Italians (1964)など、いろいろある。
一方、個人の気質については、昔から大きな関心が寄せられ、気質の様々な分類が試みられてきた。なかでも、2世紀のギリシアの医師ガレノスは、多血質、粘液質、胆汁質、憂鬱質に分けて説明を試みた。ドイツの精神医学者クレッチマーは、瘦せ型と肥満型に分けて説明した。日本では古川竹二の考案した血液型による説明がはやっている。
しかし、それらはいずれも、気質の分類をしているだけであって、原因に基づく学問的裏付けは乏しい。なぜB型はB型のような言動をするのか、血液の何がそのような言動を引き起こすのかについての説明はない。
ところが幸い、学問的裏付けがあり、実際に役に立つ画期的な気質論が現われた。精神分析学者ユングの心理学的タイプ論(Psychologische Typologie)である。
ユングの気質論の概要
彼は2万人もの患者の内面を分析するうちに、気質には三つの要素があることに気がついた。
〈内部の心の世界〉に強い関心があるか、あるいは〈外部の物質の世界〉に強い関心があるかによって、気質の特徴の大枠が決まる。
次に外部の世界であれ、内部の世界であれ、対象を捉える際に、〈対象の表面の特徴〉を捉えるか、あるいは〈対象の奥の本質〉(可能性の土台)を捉えるかによって気質の特徴が限定される。
第三に、さらに捉えた対象を選択する場合、論理的に考えて判断するか、あるいは自分の気持(フィーリング)で判断するかによって、気質の特徴がさらに限定される。
すなわち、意識が内界に向かう傾向の強い人(内向型)が存在する一方、外界に向かう傾向のほうが強い人(外向型)が存在する。そして、内界においても外界においても、ともかく対象を捉える場合、主にその表面的特徴を捉える傾向の強い人(感覚型)と、その奥の本質(可能性の土台)のほうを捉える傾向の強い人(直観型)が存在する。さらに、捉えた対象について判断する場合、論理的に判断する傾向の強い人(思考型)と、気持(feeling)で判断する傾向のほうが強い人(気持型)が存在する。
すなわち、気質の特徴は、意識の方向と、対象の知覚の仕方と、知覚した対象について判断する判断の仕方という三つの要素から成っており、その組み合わせによって気質の特徴が大体決まるとユングは考えた。
■このユングの気質論によって得られる多くのインサイト
まずは、自分自身についての理解が深まる。自分の気質には、どういう傾向があるかが分かれば、どういうことに気をつけ、どのように現実に対処したらよいかが見えてくる。自分と気質の違う人にどう接したらよいかも分かってくる。そして、違った気質の人を受け入れることができるようになる。
また、家庭にあっては、夫婦の相互理解が深まる。子供との接し方も分かるようになる。学校にあっては、生活指導や進学指導が容易になる。組織にあっては気質に合った人事考課(管理職向き、総務向き、商品開発向き、営業向き等々)がある程度可能になる。
芸術作品を鑑賞するためにも作者の気質を知ることは大切である。作者の気質が表われているからである。モーツァルトとベートーベンの音楽には、内向気持型(feeling)と内向思考型(thinking)の違いが根底に感じられる。
歴史の理解も深まるだろう。歴史の立役者たちの気質が分かれば、どうして彼らがあのように行動したかが内側からある程度理解できる。信長については外向直観思考型を、秀吉については外向感覚思考型をお読みいただきたい。
経済の理解にも役立つかもしれない。先進国の内向型諸国がその理想主義と集団性によって、一人当たりのGNPでは、今日、世界をリードしているからである。
国際関係の理解も深まるだろう。例えば、内向型の理想主義と外向型の現実主義が、世界の文化と経済の発展のためには絶対に必要なことが分かるだろう。また、内向型の国と外向型の国の気質の違いが分かると、政治的・経済的国際問題がしばしば気質の違いから発生していることが分かり、適切な対応の仕方が分かるだろう。
そして、特に今日の世界の風潮は、ユングも警告するように、外向型の価値観を優先している。しかし、彼のタイプ論によって内向型の優れた特性が確認されるであろう。
■ユングによれば気質は16のタイプに分けられる
先に述べた気質の諸要素は、互いに次のような関係になっている。
意識の方向+対象の捉え方(知覚機能)+対象に対する対処の仕方(判断機能)
〈内向か、外向か〉+〈感覚的か、直観的か〉+〈思考的か、気持(feeling)的か〉
ここから、まず次の八つのタイプに分けられる。
「内向感覚・思考型」「内向感覚・気持型」
「内向直観・思考型」「内向直観・気持型」
「外向感覚・思考型」「外向感覚・気持型」
「外向直観・思考型」「外向直観・気持型」
しかし、ユングによれば、人によっては、知覚機能が判断機能よりも強く気質に影響する人もいれば、逆の人もいる。ユングは、優れたほうの機能をその人の主要機能(優越機能)と呼び、劣ったほうの機能を補助機能(劣等機能)と呼んで区別した。
したがって、同じ気質要素を持っていても、どちらの気質が主要機能になるかによって、気質は異なってくる。例えば「外向感覚・思考型」(例えばイタリア人)は一般に明るいタイプとなり、「外向思考・感覚型」(例えばフランス人)は一般に重厚なタイプとなる。
意識の中には最も発達した機能と並んで、常に未発達の補助機能がもう一つ存在し、ある程度言動に影響を与え、補完的機能を果たしている。この第二の機能は主要機能とは本質的に異なってはいるが、対立することのない機能である。例えば「思考thinking」が主要機能ならば、「直観機能」を補助機能として思索的な知性speculative Intellectの持ち主が生じる。また「感覚機能」を補助機能として実際的な知性の持ち主が生じるというわけである。
したがって、ユングは、実際には次のように16のタイプに分けて考えている。
内向感覚・思考型
内向感覚・気持型
外向感覚・思考型
外向感覚・気持型
内向直観・思考型
内向直観・気持型
外向直観・思考型
外向直観・気持型
内向思考・感覚型
内向思考・直観型
外向思考・感覚型
外向思考・直観型
内向気持・感覚型
内向気持・直観型
外向気持・感覚型
外向気持・直観型
■意識的領域と無意識的領域
さらにユングは、これらの気質のそれぞれに、表の部分と陰の部分があることも発見した。普通、人は意識的に行動するが、それが極端になると、深層意識(無意識)がそれを元に引き戻そうと働きはじめる。すなわち気質とは逆の言動を無意識的にさせるようになる。例えば、事業が面白くて、自分や家族の幸せなどそっちのけで事業に没頭するようになると、軌道修正の動きが無意識に働くようになり、それが極端に過剰になり嵩こうじてくると、最後には精神疾患に陥り、ユング心理学の臨床面での治療を必要とするようになる。
なお、本書では、フロイトやアドラーの心理学ではなく、ユング心理学を重視する。その理由は、ユングが指摘するように、フロイトとアドラーが方法論的に誤りをおかし、患者を危険に曝す可能性が高いからである。彼らは自分の意識に照らして患者を観察しているが、そうすることによって、判断が彼ら観察者にすっかり委ねられ、患者が彼らに心理的に全面的に依存せざるを得なくなるからである。
しかし、ユングが言うように、実際には常に患者本人が自分の無意識的な心の動きではなく意識的な心の動きとして感じているものに基づいて判断がなされなければならない。患者個人の主観的意識の心理を描写することに土台をすえなければならない。詳しくは517ページ〈013・5〉を参照されたい。
目次
緒 言本書におけるプレゼンテーションのポリシー
第Ⅰ部 世界諸国の国民性
第1章 感覚が主機能の場合
第1節 感覚・思考型
内向感覚・思考型 オーストリア人
外向感覚・思考型 イタリア人 ギリシア人
第2節 感覚・気持型
内向感覚・気持型 日本人
外向感覚・気持型 アルゼンチン人 ブラジル人 エジプト人 ハ ンガリー人
第 2章 直観が主機能の場合
第 1節 直観・思考型
内 向直観・思考型 ロ シア人
外 向直観・思考型 中 国人
第 2節 直観・気持型
( 内向直観・気持型)
外 向直観・気持型 ア メリカ人
第 3章 思考が主機能の場合
第 1節 思考・感覚型
内 向思考・感覚型 チ リ人 イ ラン(アーリア)人 イ ンドネシアのジャワ島人
フ ィンランド人 ド イツ人 ス ウェーデン人
外 向思考・感覚型 フ ランス人 韓 国人
第 2節 思考・直観型
内 向思考・直観型 イ ギリス人 イ スラエル人 ス イス人
( 外向思考・直観型)
第 4章 気持が主機能の場合
第 1節 気持・感覚型
( 内向気持・感覚型)
( 外向気持・感覚型)
第 2節 気持・直観型
( 内向気持・直観型)
外 向気持・直観型 ポ ルトガル人
第 Ⅱ部 内向型国民の優れた特性
ユングの心理学的タイプ論の序文より
第 1章 内向型と外向型の特徴の違いが生じる生物学的基盤
第 1節 内向型と外向型の特徴の違いは生命と物質の違いから生じる
第 1項 生命の基本的動き:「物質から自由になろうとする動き」と「一つに溶け合おうとする動き」
第 2項 物質の基本的動き:部分に分かれる(fragmentation)
第 2節 なぜある人は内向型となり他の人は外向型となるのか(「生命の樹」からの考察)
第 1項 「生命の樹」の幹の部分において
第 2項 「生命の樹」の先端部分(分裂組織)において
第 3項 「生命の樹」の概念図
第 4項 「生命の樹」に起こりつつある最後の「突然変異」、新しき人「超人類の発生」
第 5項 人類の最終目的:根源的生命との合一
第 6項 古代宗教の問題
第 2章 内向型と外向型の特徴
第 1節 内向型は主観的、外向型は客観的
主 観の世界の基本的構造:豊かな元型の世界(優れた情報源)
第 1項 内向型は意識が深い、外向型は意識が浅い
第 2項 内向型は物証よりも心証を重んじる、外向型は心証よりも物証を重んじる
第 3項 内向型は強い計画志向によって客観を支配しようとする
第 4項 内向型は何事も心を込めて行なう(精神主義、
第 2節 内向型は自衛的、外向型は攻撃的
第 1項 内向型は外に対しては閉鎖的
第 2項 内向型は控え目 Reserved
第 3項 内向型は外界に対しては外向型ほど積極的には関わらない
第 4項 内向型は外向型と違い心配症
第 5項 内向型は安全第一、石橋を叩いて渡る
第 3節 内向型は集団的、外向型は単独的
第 1項 内向型は仲間を真似る(イミテーション)、外向型は真似ない
第 2項 内向型は他の文化を吸収・同化(アシミレー
第 3項 内向型は仲間集団 Our Community(以下Our Com)を形成しようとする、外向型はしない
第 4項 内向型社会における組織の特徴
第 5項 内向型社会と経済
第 6項 内向型社会の課題:外向型社会の個人主義が侵入するとき、問題が発生する
第 3章 気質に関わる問題
第 1節 気質と成熟(美点と欠点)
第 2節 気質と性格の違い
第 3節 気質と気候の関係
第 4章 気質論の基盤に関わる哲学
第 1節 無から有は生じない
第 1項 空間の意識
第 2項 無の意識
第 3項 「実在することが本質となっている存在」とは
第 4項 カントの不可知論の問題
第 2節 生命は物質からは生じない
第 1項 生命は一つに融合しようとする、物質は多に分散する
第 2項 生命は空間に制約されない、生命は「偏在」しようとする
第 3項 生命は時間にも制約されない、生命は「永遠」になろうとする(現在に収斂する)
第 4項 物質には目的性がないが、生命には目的性がある:驚異的な生命体の合目的的構造
第 5項 生命と物質のさらなる相違
第 3節 進化は偶然の突然変異だけでは生じない
第 1項 生物の側からの積極的適応努力が必要
第 2項 偶然の確率から見ると、偶然の突然変異だけでは進化は生じない
第 5章 相互誤解から相互理解へ
第 1節 内向型と外向型の間に生じる誤解
第 1項 内向型の寡黙から生じる誤解:魔女裁判
第 2項 内向型の理想主義と外向型の現実主義に基づく相互誤解
第 3項 全体主義社会と個人主義社会の相互誤解
第 2節 合理的タイプと非合理的タイプの間に生じる相互誤解
第 3節 相互誤解の根深い原因:文化の違いの認識不足
C . G. Jung「心理学的タイプ」の第10章縮訳
Epilogue
略歴
山口 實 やまぐち・みのる1932年東京に生まれる。1959年より67年までスイスのフリブール大学に留学。アリストテレスの形而上学、西洋中世の形而上学を学ぶとともに、近世・現代諸哲学を、特に近世・現代哲学と数理論理学の分野で世界的に著名なJoseph M. Bochensky教授から学ぶ。博士論文では、ローザンヌ大学・東西比較思想のConstantin Regamey教授の指導のもとに、ベルグソンと禅の直観の比較研究を行い、東洋と西洋思考の基本的相違を探る。1967年6月、博士論文審査と博士課程最終総合試験を、Magna cum Laude(with great praise)をもって合格。Docteur ès Lettres(文博)受位。Zen and Bergson、『生命のメタフィジックス』ほか著訳書多数。