漱石からの手紙 人生に折り合いをつけるには

漱石からの手紙
中川越 著
  • 書籍:定価1540円(本体1,400円)
  • 電子書籍:定価1232円(本体1,120円)
  • 四六判・並製/240ページ
  • 978-4-484-16215-7 C0095
  • 2016.05.19発行
2016年、夏目漱石没後100年。漱石の書簡から人生の「壁」を乗り越えるヒントをもらう
明治の文豪漱石が「壁」にぶち当たり、それを超えたい、突き破りたい、突き抜けたい…ともがいていたその煩悶の中から醸成された言葉の数々。悩み多き現代の私たちにも、さまざまな示唆を与えてくれる。

書籍

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電子書籍

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内容

夏目漱石は2500余通という膨大な手紙を残した。そこには文豪の生きていく上での智恵や思想が凝縮されている。現代に生きる私たちにとっても人生の指針になるばかりか、心を静穏にしてくれるものば
かり。あなたも漱石からの手紙を受け取りませんか。

はじめに

夏目漱石から手紙が届いた。

もちろんそんなはずはないのだけれど、残された二千五百余通の漱石の手紙を読むと、自分に宛てられたように思える部分が数多ある。
卑怯で不誠実で怠け者で臆病で嫉妬深く頭の悪い、こんな人間に生まれついた、つき合いきれない自分とどうつき合っていけばよいのか、その答えがあった。
未だに社会と和せず、窮屈な思いをして暮らす自分を、どう叱り励ませばよいかも教えてくれた。
そして、人が社会の中で成長し、暮らしを持ち働いていくときに、どうしてもぶつかる様々な壁を、どのように乗り越えていったらいいか、あるいはその壁とどのように折り合いをつければいいか、そうした事々についての明確な答え、もしくは重要なヒントを、手紙の中からたくさん見つけ出すことができた。
もし私が若いときに漱石の手紙に出あっていたら、もう少しマシな違った生き方を選べたのにと思え、大変惜しい気がした。
そこで、多くの読者の方々に向けて、漱石の手紙を紹介したい衝動が芽生えた。
漱石が亡くなって今年の十二月九日で百年になる。まさか漱石は、百年後に自分の手紙の宛先が、私と読者の方々になるとは夢にも思っていなかっただろうと想うとしたら、漱石という人を知らないからだ。
漱石は知己を後世に待った人だ。親友を自分が生を終えた後の世に求めて止まなかった。漱石の手紙には、「百年」という単位がしばしば現れる。
「百年後に第二の漱石が出て第一の漱石を評してくれればよい」
「君の生涯はこれからである。功業は百歳の後に価値が定まる」
「私は自分の文章を百代の後に伝えたいと思う野心家である」
漱石はいつも百年先を見据えていた。だから特定の知人、親友に対するその日付の手紙もまた、百年後の知己の心にまで届く言葉を意識しただろうことは想像に難くない。
漱石の命は百年前に途絶えても、魂は手紙に乗り込み、今も私たちを励まし続けているのである。
ネットの書き込みで不愉快になったとき、
世の中が汚く見えたとき、
仕事へのモチベーションが上がらないとき、
勉強に身が入らないとき、
恋人ができないとき、
苦しいとき、
ゆううつなとき、
幸せってなんだっけとわからなくなったとき、
漱石はあなたと一緒にその解決の手立てを、きっと探してくれるに違いない。

もくじ

Ⅰ挑戦

• コンナ人間で生きておれ
• 不愉快なものでも、イヤなものでも、一切避けず
• 百円より一厘も負けられない
• 世の中は根気の前に頭を下げる
• この馬鹿野郎と心のうちで軽蔑し
• 心が気高く上品で趣があると
• 自分の文章を百代の後に伝えたい
• 不平などいうより二十世紀を呪うほうがよい
• もっと人間に余裕を作るのです
• 人から突つかれて出て行くのは、一生の恥辱だ
• 維新の志士のごとき激しい精神で
• 知己を後世に待つ
• 贅沢をしてみたり名文を書いてみたり
• 世の中を恐れるな
• 天下にあてになるものは金だけ
• 世の中は呑気だなあ
•文学者として食っていくことはほとんどの人には困難
• 名前を後世にお残しなさい

Ⅱ幸福

• 美人のお酌でビールが飲みたい
• よくこんなに時間をつぶしてくれた
• 日のあたる縁側に寝ころんで庭でも見る
• 借金を百円ばかりして放蕩をやればゆううつは治る
• ご馳走ができそこなってご病気は風流です
• こんな長い手紙をただ書くのです

• 謎は謎として解かないほうが面白い
• 持って生まれた弱点を発揮するだろう
• あなたの呑気そうな心持ちに対して敬意を払う
• 文章も職業になるとあまり楽しくない
• すべての快楽は最後に
• ひっそりと静まり返る部屋で好みの本を読んで
• あなたぐらいな境遇にある者がいく人いるかわからない
• 時間さえあれば僕も世に稀な大文豪になるのだが
• ご馳走を食べて白雲を見て本を読んでいたい

Ⅲ品性

• 泥棒と三日居れば必ず泥棒になります
• 敬慕親愛にそうだけの資格
• ゆううつも快活も、まったく本人の気の持ちようです
• 女に惚れられたりして大学者になったものはない
• 天然が彼を療治する

• 人間は生きて苦しむための動物
• 人間を見るのは逆境においてするに限る
• 理性と感情の戦争
• 人間は衣食のためには狂気じみたことも真面目にやる
• いま一息というところで止まっています
• 女の脳髄は事理がわからない
• 人間は欲のテンションで生きている
• ただ筆が持ちたくなったから
•不平をいうと人間は際限がない
• 人の作に悪口をいったり、自分の作をほめたりする
• 死に来た世の惜まるゝ

Ⅳ批評

• 馬鹿と馬鹿なら喧嘩だよ
• ありがたいようないやなような
• 浅薄な人間でも人から大いにもてはやされる

• 世の中は泣くにはあまりに滑稽である
• 小便壺の中に浮いているような気がする
• 世の中が曲がっている
• 世の中は種類の差でなくて、単に程度の差
• 一文の価値もないグータラです
• どこを見ても真面目なものが一つもない
• どんなものでもほめられもするし、くさされもする
• お互いに譲り合わなくてはいけない
• 世の中を一大修羅場と心得ている

Ⅴ処世

• 嬉しいから二遍繰り返して読みました
• 周密には、上等と下等あり
• 人を閉口させるには十年かかる
• もっと無遠慮になったらもっとお互いが楽になる
• あなたは常識で変だといい、私も常識で変でないという

• 夫婦は親しきを以て原則とし親しからざるを以て常態とす
• 用心は大概人格を下落させる
• 無暗に人をしのいだり出過ぎたりしてはいけない
• 炒豆を喫して古人を罵るは天下の快事なり
• 人の攻撃を攻撃し返すときは面白半分に
• ご馳走になった翌日は名刺を持って門口までお礼に行く
• 嬉しい顔を見せてはいけない
• 芸術上の立場からいうと至極もっともです
• 自分ほど頼みにならぬものはない

Ⅵ矜持

• 貧乏も心の持ちようでははるかに金持ちより高尚
• 学問は知識を増すだけの道具ではない
• 地球の表面から消滅してしまう
• 女の霊感を信じると大変なことになる
• 金さえ見れば何でもするようになります

• 障子一枚をあけ放ってみよ
• どうかしてイワンのような大馬鹿に逢ってみたい
• 神経衰弱で死んだら名誉だろう
• 勝者は必ず敗者に終わる
• 酒を飲むならいくら飲んでも平生の心を失わぬように
• 下品を顧みず金のことをうかがいます
• シェークスピアを読んで人のように面白いとは思わない
• 戦うよりもそれを許すことが人間として立派なものなら

Ⅶ表現

• 詩の神が承知しませんから
• 「アテコスリ」をちょっと残して逃げていくようなのが多い
• ほめないのはあなたを尊敬するから
• 侮りにくい思いを起こさせる
• 人生に触れた心持ちがしない
• 孤独の中で安らかでいたい

• 書きつつも熟しつつも進んでいく
• 解らないから難しいと思ってはいけません
• かきなれると玄人臭くなっていやなものです
• 二三行でも読んでくれる人があればありがたく思います
• 文は人間である 222
• 自分のことは棚へ上げて君の未来のために一言する
• さあ泣け、さあ笑えというのはうまくない
• 故意に己れを広告しているのはキザではありませんか
• 穏やかに人を降参させる
• 白玉の微瑕
• 愚痴に拘泥していない

おわりに
参考資料

略歴

中川越(なかがわ・えつ)

1954(昭和29)年東京都生まれ。雑誌・書籍編集者を経て、執筆活動に入る。古今東西・有名無名を問わず、さまざまな手紙を手がかりに「手紙のあり方」を考える。また、近代文学の文豪たちの書簡のエッセンスを解説するなど、多様な切り口から手紙に関する書籍を執筆し、手紙の価値や楽しさを紹介している。著書に『文豪たちの手紙の奥義』(新潮文庫)、『夏目漱石の手紙に学ぶ伝える工夫』(マガジンハウス)、『名文に学ぶこころに響く手紙の書き方』(講談社+α文庫)、『結果を出す人のメールの書き方』(河出書房新社)など。その他、高等学校国語教科書『高等学校 国語表現Ⅱ』(第一学習社・平成15年)に、「心に響く手紙」が収載される。東京新聞にて「手紙 書き方味わい方」を連載中。NHKテレビ「知恵泉」「視点・論点」「あさイチ」出演など、手紙にまつわる活動は多岐にわたる。

編集協力/渡辺のぞみ
校正/桜井健司
 
装丁/坂川栄治+鳴田小夜子(坂川事務所)
装画/藤原なおこ

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