ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉

ワーク・デザイン
長沼博之 著
  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 四六判・並製/240ページ
  • ISBN978-4-484-13232-7 C0030
  • 2013.09発行

テクノロジーの進化と価値観の変化によって「働き方」が大きく変わりつつある。メイカーズ、クラウドソーシング、クラウドファンディング、ソーシャルスタートアップ……「仕事の未来」には、無限の可能性が広がっている。あなたは、どの働き方を選びますか?

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内容

組織や事業の寿命よりも、人が働く時間のほうがはるかに長くなった現代。
テクノロジーの進化と人々の価値観の変化によって、「働き方」が大きく変わりつつある。
メイカーズ、クラウドソーシング、クラウドファンディング、ソーシャルスタートアップ……
「仕事の未来」には、無限の可能性が広がっている。
あなたは、どの働き方を選びますか?

さらなる進化を遂げるテクノロジーと新たな時代の価値観が出会ったことで、
これまで考えられなかった(あり得なかった)ような働き方が可能となった。
今、私たちの目の前には、数限りない働き方が存在する。
私たちは、自らの働き方を自分で選び、実行していかなければならない。
それが、本書の言う「ワーク・デザイン」である。          ――「はじめに」より
『ワーク・シフト』では自分の仕事の未来を思い描けなかった95%の人へ
 
Chapter 1 >> 社会が抱える「働く」の問題点
Chapter 2 >> 21世紀の「価値観」のトレンドとは
Chapter 3 >> 「働く」の構造はこう変わる――これからの起業と事業のコンセプト
Chapter 4 >> 「パラレルキャリア」という働き方・生き方
Chapter 5 >> 人類と社会の近未来を考える

はじめに

 私は経営コンサルタントという仕事柄、大企業や中小企業、NPO、個人を含め、業界問わず様々な人の話を聞く。それをもとに、業績アップや事業モデルの構築、起業などをサポートするのが仕事である。

 しかしここ最近、「いくら最新のテクニックやビジネスモデルの話をしても、結局のところ、問題の本質には向き合えていない」ということに頭を悩ませてきた。「企業 vs 個人」「経営者 vs 従業員」「企業 vs 国家」といった対立軸はますます強まり、あっちを立てればこっちが立たずという状況が、かなり厳しいところまで到達してしまっている。

 具体的に言えば、「生産性という側面から企業のために行う施策が、その会社の従業員のためにはならない」という大いなる矛盾である。当然そのような事態は昔からあったのだが、それが、もはや目も当てられないところまで極まっているのが現代なのである。

 そうして私は、「自分は一体、誰のため、何のために支援しているのか?」という思いに陥った。コンサルタントとしてクライアントである企業の要望に沿った提案をすべきなのだが、はたして、同じ働く者として、従業員たちの不都合となるような施策を提案することが正しい行為なのだろうか……。
 
 私は、できる限り冷静に現状を見つめることに徹した。そして、現代の雇用・労働をはじめとする様々なシステムや、その根底にあった価値観の賞味期限が切れつつあり、これまで賞賛されてきた「成功事例」「理想の人生」は、もはや過去の遺物になったと確信するに至った。
 
 この事実を受け入れた結果、気付いたことがある。それは、今必要なのは、新しくぽつりぽつりと生まれているコンセプトやシステムを、次の時代の視点で見つめ、社会のビジョンを描きながら、具体的な「これからの働き方」へと落とし込む作業だということである。それをしなければ、本当の意味での全体的な解決策は何も見えなかった。
 
 こうしてたどり着いた答えが、本書である。

 「働く希望を再配分する」――これが、本書のテーマである。具体的に言えば、変化の激しいこの時代に、「多くの人にとって実現可能な、より良い働き方」について書いた本だ。
 
 今、私たちは新しい時代の入り口にいる。ふと書店に立ち寄ってみれば、「こうすれば稼げる!」「会社で評価されるには?」といった本が平積みになっている。そうかと思えば、「人類の広大な歴史」について書かれた書籍も目につくところに置かれている。「目先のことをないがしろにすることはできないが、今の状況がずっと続くとは考えられない。だから、過去の歴史に学んで新しい時代への一手を打ちたい」。人々のそんな心の叫びが聞こえてくるようだ。

 こうした流れの中でひとつのブームになっているのが、「働き方」に関する本である。しかし、すでに刊行されている本の多くは、一部のエリート層、いわゆる「上位5パーセントの人」に向けたものが多い。「どんな仕事、会社、スキル、職能なら、今後も『ビジネスエリート』として稼いでいけるのか?」といったものである。


 今、本当に大事なのは、一部のエリート層になるための方法論などではなく、普通に働く人々にとって実現可能なより良い働き方と、それを支える社会的ビジョンだと私は思っている。
 
 「安定した職」「終身雇用」「十分な年金によって支えられた老後」等々、かつて人々が信じたストーリーは、もはやない。今私たちは、信じるに足る「21世紀の物語」を探している。状況は、思った以上に待ったなしだ。働き盛りの世代は仕事に対するやりがいを感じられず、誰もが今のまま5年、10年、15年と同じように仕事を続けていけるかどうかは分からない。
 
 これは、言葉にして口に出すか出さないかは別として、人々の心に静かにくすぶっている火種である。「思ったようには伸びない給与」「世界との激しい競争」「ますます短くなる企業の寿命」……。どれもピンポイントで見つめようとすると、事態の深刻さに絶望するか、感覚を鈍らせて見て見ぬふりをするのが関の山。

 しかし、である。今、徐々にではあるが、21世紀の「働き方の構造」が見え始めている。
 

 リーマンショック、そして東日本大震災によって、私たちはそれまでの価値観に大きな揺さぶりをかけられた。これに覆い被さるようにして、ポスト近代化社会における「21世紀の働くインフラ」が急速に立ち上がりつつあるのだ。ロボットの進歩からメイカーズ革命、クラウドファンディングにクラウドソーシング。何が起こっているのかと言えば、それは、劇的な「ワークプロセスの転換」である。
 
 さらなる進化を遂げるテクノロジーと新たな時代の価値観が出会ったことで、これまで考えられなかった(あり得なかった)ような働き方が可能となった。今、私たちの目の前には、数限りない働き方が存在する。私たちは、自らの働き方を自分で選び、実行していかなければならない。それが、本書の言う「ワーク・デザイン」である。
 
 もうひとつ重要なキーワードとして、新しい時代の働き方には「パラレルキャリア」の考え方が必要になる。これまでのように1つの会社の1つの職を自分のキャリアとするのではなく、複数の仕事・活動をキャリアと認識し、それぞれを同時並行させるのだ。私自身も実践しているし、会社に勤めていても何かしら(会社の仕事以外の)自分の活動を持つ人は増えている。
 
 本書では、このような「新しい働き方の構造」を大きな視点から捉え、様々な実例を交えつつ、読んだ人がより具体性をもって自分の仕事の未来をイメージできるように記したつもりだ。読者の皆さんが自分の働き方を設計する際の参考にしていただければ幸いである。

 「働くこと」は、再び私たちの希望となる。

目次

Chapter 1 社会が抱える「働く」の問題点
 
ロボット革命が仕事を奪う
 ロボットが人間を超える日
 中小企業でも導入できる格安産業用ロボット
 ファストフード業界の仕事革命
 医療分野の仕事もロボットに代替される
 メディア業界は「コンテンツ自動生成時代」へ
 ホスピタリティーの世界にも効率化の波が押し寄せる
 「機械との競争」について考える
 機械ができる仕事を人間が行うという「悲劇」

極限的に進みゆくグローバル化
 崩れる比較優位理論
 クラウドソーシングを使わない企業は存続できない
 「時給100円」の衝撃波
 「ナレッジファンネル」から考える、これからの仕事
 チェス盤の法則でテクノロジーの進化を思う
 
経済拡張という幻影
 そもそも「成長」とは何か
 増え続ける「大企業」の存続コスト
 企業が「副業」を支援する時代
 成長産業はもはや雇用を生まない
 事業の寿命は短くなり、人間の寿命はますます伸びる
 「パラレルキャリア」という生き方の必然
 変化する社会的評価基準

Chapter 2 21世紀の「価値観」のトレンドとは
 
「社会貢献競争」という大潮流
 時代の底流をなす価値観の重要性
 東日本大震災後に定着した「10の意識」
 「働く」の3つの価値観
 社会の中心的価値観の変化
 「経済競争」から「社会貢献競争」へ

「働く」の意味が進化する
 知性は外部化され、倫理は再び内部化される
 地球上の人々の「脳」がつながっていく
 これまでの「豊かさ」とこれからの「豊かさ」
 21世紀の仕事の哲学「大衆と共に」
 社会的成功者が広め続けた「通俗道徳のワナ」
 「管理」の衰退と、これからのリーダーシップ
 社会が評価する5つの価値観基準
 「働く」は一体どこへ向かうのか?
 働くことの根源的エネルギーは、自己実現欲求と貢献欲求へ
 

Chapter 3 「働く」の構造はこう変わる――これからの起業と事業のコンセプト

新しい働き方のインフラ
 20世紀と21世紀の「働く」の全体像
 働き方を変える「21世紀のインフラ」が続々登場
 
メイカーズ革命――誰もが生産者になる
 世界に広がる「メイカーズ・ムーブメント」
 家庭用3Dプリンタで何を作りたい?
 アイデアをカタチにする、モノづくりプラットフォーム

デジタルファブリケーション――崩れる生産手段の私有化
 49ユーロで靴ブランドを立ち上げる
 3Dプリンタの材料に「木」も登場。林業再生の可能性
 
オープンイノベーション――内外の集合知を結集
 ローカルモーターズと3Dロボティックス

リーンスタートアップ――素早く小さな進化を繰り返す
 ドロップボックスの起業法

O2O――リアルとネットを高度に結び付ける
 ネットからリアルへ。未来型の地産地消モデル
 地元のシェフの料理を1食分から配達
 
クラウドファンディング――21世紀の金融プラットフォーム
 クラウドファンディングの広がりとその可能性
 「資金調達」もO2Oの時代へ
 クラウドファンディングが新たな仕事を生む
 モノづくりに特化したクラウドファンディング
 
クラウドソーシング――あらゆる業務が代替される
 事業の中心的業務も集合知で進める時代へ
 仕事の9割がクラウドソースできる社会――私たちの仕事は何なのか?
 
ソーシャルイノベーション――社会に希望の変革を
 メイカーズ革命×ソーシャルグッドは相性がいい
 マイクロタスクと貧困をなくすためのクラウドソーシング
 
協会モデル――共感のコミュニティーが大企業と組む
 日本唐揚協会に学ぶ、パラレルキャリア時代の協会運営
 
コミュニティー――緩くつながり、滑らかに重なる
 コミュニティーが経済の出発点となる
 セーフティーネットとしての新しいコミュニティー
 
ソーシャルスタートアップ――チームで始めよう
 「コワーキングスペース」で温泉が職場になる
  ソーシャルスタートアップという新しい起業のカタチ
 知識社会において、チームが大きな力をもたらす
 チームにおける合意形成のポイント
 
消費社会から生産社会へ
 4つの個人とパワーシフトの本質
 

Chapter 4 「パラレルキャリア」という働き方・生き方

なぜ、パラレルキャリアなのか?
 約45%の人が、パラレルキャリアを望んでいる
 貨幣から評価へ――評価経済社会への移行点
 「江戸時代の働き方」が高度に復活する

パラレルキャリアのルール
 21世紀型キャリアを考える――パラレルキャリアマトリックス
 パラレルキャリアを始めるための5つのポイント
 パラレルキャリア時代の精神の置き場
 そもそも、なぜ事業は失敗するのか?
 
パラレルキャリアを始めよう
 大人版キッザニアで、ずっと続けたいことを見つける
 今度の週末はボランティアをしよう
 自分の特技をワンコインで提供!
 月3万円ビジネスというパラレルキャリアコンセプト
 

Chapter 5 人類と社会の近未来を考える
 
あらゆるものが民主化される
 常に「個」のために存在する組織
 お金も民主化。企業や個人がお金を発行する時代
 働くモチベーションを変える「伝播投資貨幣」という未来
 
融合するローカルとグローバル
 軍事競争下の「疎開」と社会貢献競争下の「移住」
 田舎と都会、コミュニケーションと決定
 グローバルとローカルが「生産社会」で融合
 タッチスクリーン上でモノに触れられる!?

非貨幣経済圏の拡大
 衣食住が「無料」になる日
 シェアによって広がる「贈与経済圏」

国家の役割と人間の再定義
 テクノロジーがもたらす「不死」と「唯心論」
 新たな社会保障で「貧困」の撲滅を
 「国民所得倍増計画」から「国民生活幸福化計画」へ
 人類はホモ・サピエンスからホモ・パックスへ
 100年前の「100年後の未来予測」
 「問題解決&過去分析」から「機会発見&柔軟適応」へ 

略歴

[著者]
長沼博之(ながぬま・ひろゆき)
一般社団法人ソーシャル・デザイン代表理事。経営コンサルタント。
1982年生まれ。中央大学卒業後、船井幸雄グループに入社。企業及びNPO等を支援し、年間最優秀賞を最年少で受賞。その後、2008年に一般社団法人ソーシャル・デザインを設立。コンサルティング実績も300社を超える。現在も、企業、NPO、団体、個人に向けて近未来型ビジネスモデル構築コンサルティングを行う。また、次世代のビジネスモデル、働き方、社会のあり方を提案する「Social Design News ~社会をより良くする近未来インスピレーション情報~」を運営。メイカーズ革命やクラウドソーシング、ソーシャルデザイン等についてテレビや雑誌からの取材多数。
http://social-design-net.com/

●装幀/北尾 崇(HON DESIGN)
●組版・DTP/森の印刷屋
●企画協力/企画のたまご屋さん

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