バフェットの株式ポートフォリオを読み解く
ウォーレン・バフェットは「いつ」「どこに」「どうして」投資するのか。本書は従来の「バフェット流投資術」解説本を超えた、いわば実践編。実際の保有株の分析とそのレポートから、世界一の投資家の手の内を学ぶ。
- 書籍:定価2090円(本体1,900円)
- 電子書籍:定価1672円(本体1,520円)
- 2012.08発行
内容
本書は従来の「バフェット流投資術」解説本を
超えた、いわば実践編。
実際の保有株の分析とそのレポートから、
世界一の投資家の手の内を学ぶ。
世界的ベストセラー・コンビが、
投資の達人が保有する
「永続的な競争優位性」をもつ17銘柄を徹底分析!
アメリカン・エキスプレス
BNYメロン
コカ・コーラ
コノコフィリップス
コストコ
グラクソ・スミスクライン
ジョンソン・エンド・ジョンソン
クラフトフーズ
ムーディーズ
P&G
サノフィ
トーチマーク
ユニオン・パシフィック
USバンコープ
ウォルマート
ワシントン・ポスト
ウェルズ・ファーゴ
はじめに
このきわめて多難な時代に本書を執筆するにあたり、まずはウォーレン・バフェットの次の言葉を紹介することにしよう。一九九〇~九一年の景気後退局面における言葉である。
それにもかかわらず、ニューイングランドで経験した不動産不況と同じような現象がカリフォルニアでも起こるのではないかという懸念から、ウェルズ・ファーゴの株価は、一九九〇年の数カ月の間に五〇パーセント近く下落しました。確かに私たちは、これまで下落前の市価で株式を購入していましたが、それでも下落は大歓迎でした。さらに多くの株式を恐慌価格で購入できるからです。
生涯にわたり投資を続けていきたいという投資家であれば、市場の変動に対し、同様の考え方をすべきです。それなのに、愚かにも株価が上がれば有頂天になり、株価が下がればふさぎ込む、そんな投資家がたくさんいます。
バフェットは常に、誰も見向きもしない時が株の買い時だと主張してきた。二〇〇八~〇九年の景気後退局面でも、その機会は訪れた。そしてこの深淵に思い切って足を踏み入れた者は、その多大な恩恵を受けることができた。実際、二〇一一年末から二〇一二年初頭の株式市場に目を向けてみれば、一九八〇年代以前のような株価収益率(PER)で株式が取引されていることがわかるだろう。コカ・コーラの場合、一九九九年のPERは四七倍だったが、現在は一六倍である。スーパーマーケットチェーン大手のウォルマートも、二〇〇一年のPERは三八倍だったが、現在は一二倍で取引されている。プロクター&ギャンブルも例外ではない。二〇〇〇年のPERは二九倍だったが、現在は一六倍に下がっている。これは何を意味するのだろうか?
それはつまり、数多くの経済学者が「未曾有の大恐慌」と呼ぶこの不況が五年目に差しかかっている今、一部の優良企業の株式が割安な価格で取引されているということだ。長期にわたり優れた経済力を保持している企業の株式が、低いPERで取引されており、投資家に富を増やすまたとない機会を提供しているのである。とはいえ、手っ取り早く利益を手に入れる機会があるわけではない。複利ベースの投資収益率が年平均八~一二パーセント程度あれば、それが一〇年続くと、かなりの利益を生み出すことができる。市場は今、そんな収益の機会を提供してくれているのだ。ヨーロッパの銀行の経営悪化やアメリカの失業率などの悪材料が重なり、株価が下落している現在、バリュー志向の投資家に絶好のチャンスが訪れている。
前著『史上最強の投資家バフェットの財務諸表を読む力──大不況でも投資で勝ち抜く58のルール』(邦訳・徳間書店、二〇〇九年)では、企業がバフェットの言う「永続的な競争優位性」を持っているかどうかを確認する手段として、企業の財務諸表を分析する方法を紹介した。この「永続的な競争優位性」こそが、企業が長期にわたり優れた経済力を保持していけるかどうかを示す指標なのである。そこで本書では、バフェットがすでに永続的な競争優位性を持っていると判断した企業のみを取り上げることにした。いずれも、バフェットが自身のため、あるいは自身の持株会社バークシャー・ハサウェイのために、長期投資の対象として選んだ企業である。これらの企業の株式は、現下の不況のために割安な価格で売られており、これから長期にわたりかなりの成長を見込むことができる。
本書のねらいは、投資価値を算出する方法を教え、現行市場価格で投資を行った場合の将来の収益などについて、読者が妥当な予想を立てられるようにすることにある。バフェット流の考え方によれば、株価が下がるにつれて、投資が成功する見込みは高まる。この見込みを数値に換算できれば、その株価が割安で魅力的かどうかを判断することが可能になる。
本書ではまず、バフェットのこれまでの投資戦略を概観し、それから、企業の一株あたり利益(EPS)や一株あたり純資産(BPS)の実績を分析する方法を説明する。これにより、永続的な競争優位性を持つ企業を素早く特定し、今後その企業に投資した場合の期待収益率を算定できるようになるはずだ。その後、バフェットの現在の株式ポートフォリオを構成する一七の企業についてケーススタディを行い、それぞれの企業について投資価値の評価を行う。最後に、バークシャー・ハサウェイのその他三名の投資マネージャーが行う投資についても簡単に触れておきたい。
これまでの経験から判断するかぎり、通常の景況であれば、本書で行った一〇年先の予想に間違いはないと思われる。なお、本書の予想はいずれも控えめに見積もったものであることを付記しておく。
本書を読み終えたあかつきには、永続的な競争優位性を持つ企業かどうか、企業の株式が割安な価格で売られているかどうかを、即座に判断できるようになるに違いない。
現在バークシャー・ハサウェイには、ポートフォリオの銘柄を選択する人物が四人いる。そのトップに立つのがウォーレン・バフェットだ。バークシャーの投資判断の九九パーセントは、バフェットによるものである。そしてチャーリー・マンガーがいる。マンガーはしばしばバフェットの相談相手になるとともに、わずかながら、持ち前の熱意で独創的な投資を行っている。残りの二人はどちらも新人である。一人は、二〇一〇年にバフェットがバークシャーの銘柄選びを手伝わせるために雇ったトッド・コームズ、もう一人は、ポートフォリオ・マネージャーとして二〇一二年初めにバークシャーに入社したテッド・ウェシュラーだ。本書の大部分は、バフェットが個人的に投資している企業、あるいはバークシャーが投資決断をした企業のみを扱っている。しかし、チャーリー・マンガー、トッド・コームズ、テッド・ウェシュラーの投資に興味のある方もいるだろう。そんな読者のために、この三人がそれぞれどのような投資スタイルを持っているのか、バークシャーのポートフォリオにどれほどの貢献をしているのかといったことも、本書の末尾で概観している。
それでは早速、バフェットの株式ポートフォリオの探索に出かけることにしよう。
目次
はじめに
I バフェットの投資戦略
第1章 バフェットの投資戦略の歴史と進化
第2章 バフェットのお気に入りは老舗企業
第3章 安定した収益
第4章 バフェットの疑似債券
第5章 将来の収益率を予想する
第6章 一株あたり純資産の実績を参考に消費者独占型企業を見つける
II ケーススタディおよび投資価値の評価
第7章 アメリカン・エキスプレス・カンパニー
第8章 バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)
第9章 コカ・コーラ・カンパニー
第10章 コノコフィリップス
第11章 コストコ・ホールセール・コーポレーション
第12章 グラクソ・スミスクライン
第13章 ジョンソン・エンド・ジョンソン
第14章 クラフトフーズ
第15章 ムーディーズ・コーポレーション
第16章 プロクター&ギャンブル・カンパニー
第17章 サノフィ
第18章 トーチマーク・コーポレーション
第19章 ユニオン・パシフィック・コーポレーション
第20章 USバンコープ
第21章 ウォルマート・ストアーズ
第22章 ワシントン・ポスト・カンパニー
第23章 ウェルズ・ファーゴ&カンパニー
第24章 マンガー、コームズ、ウェシュラーの投資戦略
おわりに
略歴
[著者]
メアリー・バフェット Mary Buffett
ウォーレン・バフェットの投資法(バフェットロジー)についてのベストセラー作家。企業コンサルタント、大学講師、世界各国で講演者としても活躍。バフェットの息子ピーターの元夫人。
デビッド・クラーク David Clark
バフェットロジーの研究家にして、投資法についての権威者。バフェットの故郷ネブラスカ州オマハで、弁護士、ポートフォリオ・マネージャーとしても活躍。
共著の邦訳本として、『億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術』(日本経済新聞出版社、2002、“The Buffettology Workbook”)、『麗しのバフェット銘柄』(パンローリング、2007、“The New Buffettology”)、『史上最強の投資家バフェットの教訓』(2008、“The Tao of Warren Buffett”)、『史上最強の投資家バフェットの財務諸表を読む力』(2009、“Warren Buffett and the Interpretation of Financial Statements”)、『史上最強の投資家バフェットの大不況を乗り越える知恵』(2010、“Warren Buffett’s Management Secrets”、いずれも徳間書店)。
[訳者]
山田美明(やまだ・よしあき)
英語・フランス語翻訳家。訳書に『ルワンダ大虐殺』(晋遊舎)、『史上最大のボロ儲け』、『急騰株はコンビニで探せ』(共に阪急コミュニケーションズ)、『毒のある美しい植物』、『太陽、月、そして地球』(共に創元社アルケミスト双書)などがある。
●装丁・本文デザイン/轡田昭彦、坪井朋子
●翻訳協力/リベル
●校正/円水社