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災害で傷ついたあなたへ
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災害で傷ついたあなたへ 自分のこころをケアする方法

イレーナ・シンガー 著

栗原 泉 著

災害で傷ついたあなたへ

自分を責める、心のバランスを失う、災難を他人のせいにする……大規模災害で負ったトラウマを癒すには、「自分で自分をケアする」のがいちばん。「すべきこと」「すべきでないこと」など具体的にアドバイス。

  • 書籍:定価1980円(本体1,800円)
  • 2012.01発行
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内容

自分を責める、心のバランスを失う、災難を他人のせいにする、新しいことに取り組めない……大規模な自然災害に見舞われた人たちがこうした反応をするのはごく自然なこと。たとえ被災地に新しい建物が建ち、インフラが回復しても、災害で負ったトラウマが癒されることはありません。

トラウマに対処し、それを乗り越えるには、自分の心の仕組みを知り、「自分で自分のケアする」ことが大切です。人の反応はそれぞれ異なり、1人として同じではありません。まず自分には何が必要か、自分にとっての解決策とは何かを知ることです。

心理療法の専門家で、災害から生き残った多くの人たちのこころのケアに携わってきた著者が、「すべきこと」「すべきでないこと」を具体的にアドバイスします。子ども、ティーンエージャー、高齢者など年齢別の対処法も詳しく解説。

はじめに

どんな災害でも発生から二~四週の間には復旧工事が行われる。作業員やエンジニアが駆けつけて壊れた橋や高速道路を直し、破損した電信柱やガス管や送電線を取り換え、上下水道を修理する。赤十字や連邦緊急事態管理庁(FEMA)や救世軍が、あちこちに避難所や食料配給所を建てる。これらはすべて、インフラを元どおりにして混乱のなかに秩序を築こうとする取り組みだ。だが、エンジニアに人は治せない。改修してきれいになった建物も、自然災害を生き延びた人たちのトラウマを癒すことはできない。 被災者たちは、悲嘆カウンセリング専門家の単純な助言を超える何かを必要としている。心に負ったトラウマに対処するには、一つの心の仕組みが必要なのだ。もしあなたが被災者なら、本書を読めばこの心の仕組みを身につけることができるだろう。もしあなたの周りの誰かが災したなら、本書を手掛かりにして、その人がどんなにつらい経験をしているかを理解し、癒しの過程でどんな手助けができるかを考えてほしい。

心に負ったトラウマに対処し、それを乗り越えるにあたって、もっとも効果的なのは、本書が紹介する正しい「方策」を用いることだ。六カ条のこの方策は必要な心の仕組みを築くには何をしたらよいかを示している。つまり、ただ診断を下すのではなく、解決方法を教えてくれるのだ。この方策は体系的な心理療法の一環であり、単に考え方の視座を変えよと促すだけの寄せ集めのメンタルヘルス対策ではない。

本書が紹介する「方策」は、三つの根本的な点で従来のカウンセリングと異なっている。まず、この方策を使えば、あなたは「自分で自分の」ケアをすることになる。自分には何が必要か、自分にとっての解決策とは何かが、よくわかるようになる。第二に、従来のカウンセリング理論と違って、この方策は「対話療法」に頼らない。つまり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥らずに回復するには、経験した災害のことを繰り返し語り、恐怖を再体験しなければならないという考え方を、この方策は否定する(実際のところ、それは最悪のやり方だ)。

第三に、悲嘆からの立ち直りにはいくつかの予測可能な段階があり、人は段階を経て苦難を乗り越えるものだとするカウンセリングや医療分野の考え方も、この方策は否定する。

六カ条の方策の根拠となっているのは人間の行動モデルであって、医学的疾患モデルではない。人間の行動モデルが主張するのは、情動反応とは人がごく当たり前にもつ特質から生じるもので、病原体から生じるわけではないこと、また人の情動反応システムはそれぞれユニークであり、一人として同じではないことだ。従うべき方式などは存在しない。むしろ、人は最悪の状況下にあっても、心の動揺を自分で和らげることができる。「反対条件づけ療法センター」の三〇年間におよぶ実地研究がこの主張を裏づけている。

目次

はじめに

第一章 茫然自失
■ 精神的ショックを受けた人のための六カ条の方策

第二章 どうしてちっともよくならないのか?
■ 被災後に避けなければならないこと

第三章 どうしてこんなに忘れっぽいんだ?
■ チェックリスト

第四章 被災疲れ
■ トラウマによるエネルギー低下の特徴
■ 被災直後の疲労と向き合う方法

第五章 うつ──トラウマへの反応
■ いつも聞こえてくる頭のなかの声を弱める

第六章 不安の波──トラウマの波紋
■ 周囲の不安への対処

第七章 子供たち
■ 子供についてのQ&A

第八章 ティーンエージャー
■ ティーンエージャーや親からのQ&A

第九章 高齢者

第一〇章 Q&A

訳者あとがき

略歴

[著者]
イレーナ・シンガー Ilana Singer
心理療法士。反対条件づけ療法センター(米ワシントン州)の共同運営者。人間行動学の研究をもとに、自然災害などでトラウマを負った人たちのメンタルヘルス治療に従事。

[訳者]
栗原 泉(くりはら・いずみ)
翻訳者。主な訳書にジョゼフ・ギース他『中世ヨーロッパの城の生活』(講談社学術文庫)、ナイジェル・ウォーバートン『哲学の基礎』(講談社)、レスリー・T・チャン『現代中国女工哀史』、ピーター・ヘスラー『疾走中国』(ともに白水社)などがある。

●装丁・本文デザイン/轡田昭彦+坪井明子
●カバーイラスト/井上まさこ
●編集協力/企画JIN(清水栄一)
●校閲/熊澤華栄