アイデアがあふれ出す不思議な12の対話
真夜中のバーで繰り広げられる12杯の酒と対話が
凝り固まった頭をほぐし、ものの見方を変える!
舞台は、街はずれにあるバーカウンター。
「アイデア」について絶えず考え続けている酒の強い女と、ちょっと保守的でおやじっぽい趣向の男。ふたりは酒を酌み交わしながら、「アイデア」はどうやって生まれるのか、対話形式でその本質を明らかにしていく。
- 書籍:定価1650円(本体1500円)
- 電子書籍:定価1320円(本体1200円)
- 2022.09.02発行
はじめに
人間なんかが作り出した最高傑作、
自転車に乗れますか?
私たちが初めて自転車に乗った時のことを思い出してみましょう。
創造性も同じです。
もう一度自転車にたとえるなら、天才たちの話は、人間の限界を超えて信じられない記録を打ち立てる世界的な自転車選手たちの話とも似ています。「私も自転車に乗れるだろうか」と思う人にとって、そんな話はあまりにも遠すぎるのではないでしょうか。天才ではない私たちに必要なのは、自転車に乗りはじめた幼い子どもたちや田舎の道を自転車で通り過ぎるおじいさんの姿、あるいは、マンションの自転車置き場に並ぶ自転車を眺めることなのかもしれません。日常において誰もが自転車に乗っているのを見れば自然と、「私も自転車に乗れる」と考えるようになるでしょうから。
人の能力というのは面白いところがあって、認識が制限されると実際に発揮される能力も制限されることがあります。私が小学校に通っていた頃、母が運転免許を取りました。父よりもずっと早くにです。あの頃はまだ女性が運転することは珍しかったので、友だちに「うちのお母さんは車の運転ができるんだ」と言うと不思議がられたものです。ですが、最近は子どもでもそんなことは思いません。女性の運転者は男性の運転者と同じぐらいたくさんいて、母親が運転するというのは当然のことだからです。もし今、誰かが「私は女だから運転できません」と言おうものなら、人はかえって変だと思うでしょう。このように、周りでよく見かけるということは、思った以上に重要なポイントです。認識が能力を引き出すからです。創造性とアイデアは自分とはまったくかけ離れた問題ではないということを認識することが重要なのです。
そこで、この本では、すでに私たちの周りにあふれている自転車、すなわち、数多くの創造性の果実を発見する方法をお話しします。そして、「人間なんか」が作り出した自転車が、実はどれだけ偉大なものであるかをお伝えしたいと思います。立派な自転車選手、つまり、本当に独創的だった天才たちについての話もしますが、彼らの生まれ持った筋力と人並み外れた持久力についてではなく、彼らが乗っていたのも自転車であり、彼らも私たちと同じようにペダルをこいで前進しているのだという事実をお話しします。そして、最後には、この本を読んでいるあなたも直接ハンドルを握り、両足を地面から離してペダルをこいでみようと呼びかけます。自転車に乗るのと同じく、それぞれの場所で創造性とアイデアを発揮するのはとても楽しいことであり、あなたの人生にとっても有益です。とは言え、結局は、「倒れかけている方向にハンドルを切れ!」という忠告程度にしかならないかもしれません。あとはあなた次第ですから。
いつだったか、友人Dが自転車についてこんなことを言いました。
「いやいや、人間なんかがこんなすごいものを発明したなんて!?」
私が知っている最も強烈な「自転車礼賛」です。
この本は創造性とアイデアに関するものです。
私は、創造性にはどこか、自転車に乗るのと似ているところがあると思います。
創造性も自転車の乗り方も、決して言葉や文章では学ぶことはできません。「倒れそうになっている方向にハンドルを切れ!」みたいな言葉は、自転車に乗れる人が自分の経験を振り返りながら、「こんな感じだったかな」ぐらいの気持ちで言っているのであって、その法則を知ったからといってすぐに自転車に乗れるものではありません。
私たちが初めて自転車に乗った時のことを思い出してみましょう。
思ったようにうまくいかないと感じただろうし、何度か転んだりもしたでしょう。でも、両足でペダルを踏んでついに二、三十センチ進んだ瞬間、自分の力で前に進み、自分の足で操りながらいくらでも走ることができるんだということに気づいたはずです。その魔法みたいな瞬間を経て、あなたは一生「自転車に乗れる人」として生きていくわけですが、その悟りは、実際に自転車に乗ってみなければ得られません。私たちは皆、自分だけのやり方で自転車に乗っていると言えます。そして、特別な理由がない限り、誰でも自転車に乗ることができるのです。
創造性も同じです。
私たちは皆、創造性を発揮し、啓発することができます。しかし、それは単に「逆から考えよ」、「すべてのことに好奇心を持て」みたいな法則に従ったからといって決して学べるものではありません。自分の力で前に出て、自分の考えで操作しながら進んでいかなければならないのです。ふらつくことも転ぶこともあるでしょうが、私たちは皆、自分だけのやり方でアイデアの自転車に乗って創造性の世界へと進んでいけると信じています。私が実際に経験した、あの魔法みたいな悟りの瞬間をこの本を通じてみなさんと分かち合えることを願います。
書店に行くと、「天才はどう考えたか」といった類いの本がたくさん並んでいます。偉大な芸術家、発明家、科学者、起業家たちの創造性を探る本の数々で、それらは感動を呼び起こすすばらしい読み物です。でも、私たちのほとんどは天才ではありません。平凡な人が創造力を育てて発揮する方法を学ぼうとする時、果たしてそういう類いの本は役に立つでしょうか。
もう一度自転車にたとえるなら、天才たちの話は、人間の限界を超えて信じられない記録を打ち立てる世界的な自転車選手たちの話とも似ています。「私も自転車に乗れるだろうか」と思う人にとって、そんな話はあまりにも遠すぎるのではないでしょうか。天才ではない私たちに必要なのは、自転車に乗りはじめた幼い子どもたちや田舎の道を自転車で通り過ぎるおじいさんの姿、あるいは、マンションの自転車置き場に並ぶ自転車を眺めることなのかもしれません。日常において誰もが自転車に乗っているのを見れば自然と、「私も自転車に乗れる」と考えるようになるでしょうから。
人の能力というのは面白いところがあって、認識が制限されると実際に発揮される能力も制限されることがあります。私が小学校に通っていた頃、母が運転免許を取りました。父よりもずっと早くにです。あの頃はまだ女性が運転することは珍しかったので、友だちに「うちのお母さんは車の運転ができるんだ」と言うと不思議がられたものです。ですが、最近は子どもでもそんなことは思いません。女性の運転者は男性の運転者と同じぐらいたくさんいて、母親が運転するというのは当然のことだからです。もし今、誰かが「私は女だから運転できません」と言おうものなら、人はかえって変だと思うでしょう。このように、周りでよく見かけるということは、思った以上に重要なポイントです。認識が能力を引き出すからです。創造性とアイデアは自分とはまったくかけ離れた問題ではないということを認識することが重要なのです。
そこで、この本では、すでに私たちの周りにあふれている自転車、すなわち、数多くの創造性の果実を発見する方法をお話しします。そして、「人間なんか」が作り出した自転車が、実はどれだけ偉大なものであるかをお伝えしたいと思います。立派な自転車選手、つまり、本当に独創的だった天才たちについての話もしますが、彼らの生まれ持った筋力と人並み外れた持久力についてではなく、彼らが乗っていたのも自転車であり、彼らも私たちと同じようにペダルをこいで前進しているのだという事実をお話しします。そして、最後には、この本を読んでいるあなたも直接ハンドルを握り、両足を地面から離してペダルをこいでみようと呼びかけます。自転車に乗るのと同じく、それぞれの場所で創造性とアイデアを発揮するのはとても楽しいことであり、あなたの人生にとっても有益です。とは言え、結局は、「倒れかけている方向にハンドルを切れ!」という忠告程度にしかならないかもしれません。あとはあなた次第ですから。
キム・ハナ
目次
はじめに
一杯 ミスティ
一杯 ミスティ
二杯 レンガみたいな単語
三杯 小さなひらめき
四杯 味を描写する能力
五杯 縮尺
六杯 また別の大陸
七杯 壁との戦争
八杯 森、そしてもっと大きな森
九杯 関数の箱
十杯 引き算のアイデア
十一杯 森の陰地
十二杯 一歩
改訂版に寄せて
略歴
著 者 キム・ハナ
読んで、書いて、聞いて、話す人。広告代理店(第一企画、TBAコリア)に長年コピーライターとして勤めた後、作家、司会などとして活躍している。『チェキラウト――キム・ハナの側面突破』、『女ふたり、トークしています。』のポッドキャスト進行役としても人気。著書・共著に『女ふたり、暮らしています。』、『話すことを話す』(以上、清水知佐子訳、CCCメディアハウス)、『力を抜く技術』、『わたしが本当に好きな冗談』、『15度』、『クイーンズランド姉妹ロード 女ふたり、旅しています。』、『ビクトリーノート』(以上、未邦訳)がある。
訳 者 清水知佐子
和歌山県生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業。読売新聞記者などを経て翻訳に携わる。訳書に、キム・ハナ/ファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています。』、キム・ハナ『話すことを話す』(いずれもCCCメディアハウス)のほか、朴景利『完全版 土地』、イ・ギホ『原州通信』、絵と文イ・ミギョン『クモンカゲ 韓国の小さなよろず屋』(いずれもクオン)、シン・ソンミ『真夜中のちいさなようせい』(ポプラ社)、タブロ『BLONOTE』(世界文化社)などがある。
イラスト● 朝野ペコ
ブックデザイン● 西垂水 敦・市川さつき( k r r a n )
D T P ● 茂呂田 剛( M & K )
校正● 麦秋アートセンター