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加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル
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加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル

加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル

目は確実に老化します。目には寿命があるのです。
人生100年時代、一生見える目であり続けるために、いま知っておくべきこと&やるべきこと。

加齢黄斑変性は、文字どおり加齢などによって黄斑部(網膜の中心部分)に異常が生じる病気です。30年前は日本ではほとんど認識されていませんでしたが、欧米では失明の主要原因になっており、早くからその治療が重要視されてきました。
現在は日本でも加齢黄斑変性が視覚障害の原因の第4位を占め、60歳以上の高齢者の失明原因では第1位となっています。発症要因は加齢のほか、食生活の欧米化や喫煙、太陽やパソコンの光線に目がさらされる機会の増加など(酸化ストレス)。高齢化に伴い、今後患者数が激増することが懸念されている病気です。

本書は、加齢黄斑変性症の診断・治療・予防の日本における第一人者がその実態を伝え、警鐘を鳴らすとともに予防を促すものです。目の健康を守る切り札「カロテノイド(天然色素)」の利用法から、視力を改善させる最新の治療法までを解説します。

  • 書籍:定価1540円(本体1400円)
  • 電子書籍:定価1232円(本体1120円)
  • 2021.11.30発行
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はじめに

 人はみな「歳はとりたくない」と願うものです。しかし、時間は平等に過ぎて、「老化」は確実にやってきます。「老化」はカラダの機能を徐々に奪い、ついこの前までできていたことがだんだんできなくなります。また、五感が鈍り、好奇心を失うことで旅先の絶景を見ても感動が薄れてしまったり、新しい情報も処理できなくなって、最近耳にしたことはすぐに忘れてしまったりします。
「人生百年時代」と言われる昨今、この「老化」と上手に向き合うことは、現代人にとって必要不可欠な心構えと言えるでしょう。いままさにその時を迎えようとしている人はもちろん、「まだ自分には関係ない」と考えている中年真っ盛りの人にとっても、「長い老後」を楽しく過ごすために正しい知識を身につけ、「老い」に向けて準備しておくことが大切です。
 昭和三十三年生まれ、齢六十三を迎えた筆者も「老化」を実感する場面が増えてきました。眼科医として見え方のトラブルを抱えた患者を何万人も診てきましたが、自分自身、遠近両用メガネがないと魚の小骨が見えず、プラスチックフィルムの継ぎ目がわからずイライラし、会議の配布資料を読むのもうんざりするようになり、患者さんがよく口にされる愚痴どおり、目から老化を実感するようになりました。
 これらは水晶体の硬化と着色がもたらす調節力ならびにコントラスト感度の低下によるもので、いま見えている世界は、二十歳の頃に見えていた世界とは違います。変化は徐々に起こるため気づいていないだけで、見え方は確実に「老化」しています。桜のピンクも、菜の花の黄色も、新緑の緑も、みんな昔見えていた色とは違うのです。
 ただし、水晶体の硬化と着色によるこのような現象は、すべて「生理的老化」であり、生物として当然の変化です。五感が鈍れば世間の嫌なことに感じるストレスも減るし、死に対する恐怖さえも和らぎ、よい面もあります。ところが、ここに「病的老化」が加わると厄介です。人生に苦難がわき起こります。周りに迷惑をかけます。
 眼の「病的老化」としては白内障緑内障がよく知られていますが、もうひと
つ、最近注目されているのが「加齢黄斑変性Age-related Macular Degeneration=AMD)」です。AMDは欧米人の失明原因のなかでもっとも多く、古くから恐れられてきました。わが国でも近年増加していて、テレビ番組や新聞・雑誌で紹介される機会が増えました。「加齢」と名がつくように、その原因の根底には「老化」があり、誰もが発症する可能性のある病気です。実際に目にどのような異常が起こるのかはおいおい詳しくお話ししますが、眼球の底(眼底)にある網膜の、特に中心部分が壊れる病気で、まず、見たいところ(視野の真ん中)が見えなくなり、見えない範囲がだんだん広がっていく病気です。厄介なことにひとたび発症したら根治はできず、生涯、失明の恐怖と戦うことになります。
 現在の患者数は世界中で約2億人、わが国では約90万人と推定されます。50歳以上の日本人の63人にひとり程度がAMDに苦しんでいることになります。

 日本人の平均寿命(2020年)は女性が87・74歳、男性は81・64歳。女性は8年、男性は9年連続で過去最高を更新中であり、それぞれ世界1位と2位(1位はスイス)。「人生百年時代」というフレーズが囁かれるのもうなずけます。それは、戦後の苦境から努力して這い上がった日本の輝かしい成果と言えるでしょう。
 しかし、そう喜んでばかりもいられません。実際には、何不自由なく元気に百歳を迎えられる人は稀で、ピンピンコロリという理想を全うできる高齢者はほんのひと握りです。現実はそんなに甘くありません。
 日本は健康寿命(平均寿命から寝たきりや認知症などの状態を除いた、自立した生活ができる期間)においても男女平均で74・1歳と世界第1位(2019年)を誇っていますが、この「寿命差」からもわかるように、大勢の人が晩年の10年前後をさまざまな病気や不調を抱えて生きていることがわかります。
 カラダの不調は、どこに生じても不便なものですが、とりわけ視覚を失うことは日常生活に甚大な支障をもたらすとともに、生きる楽しみさえ奪います――と言うと語弊があるのでお断りしておきますが、たとえば生まれつき視覚障害のある方は、成長の過程で視覚に代わる他の知覚が発達し、豊かな人生を歩むことができますし、眼病を患ったのが比較的若い時期だった場合も、努力と適応力で豊
かな人生を送っている方々がたくさんいらっしゃいます。
 しかし、高齢になってからの視覚喪失は「非常に厳しい」と言わざるを得ません。もともとカラダの適応力が低下しているうえ、努力する気力もわかず、結局、家の中に閉じこもってしまいがちです。そうやって、社会から遠ざかっていくことで認知機能が低下し、さらに閉じこもるという悪循環に陥ります。私は、日々の臨床でそんな高齢者によく出会います。というより、眼科医はほとんど、そのような高齢者とのかかわりのなかで日常的に仕事をしているのです。

 お年寄りの患者さんたちと話していて筆者が強く感じるのは、「目には寿命がある」ということを考えずに過ごしてきた方が多いということです。心臓や腎臓と同じように、目も老化によって機能が低下し、やがて寿命が尽きます。もし、人生を終える前に目が寿命を迎えるとしたら、それはとても悲しく、残念なことではありませんか。だからこそ、人生の晩節でもしっかりと見える目を保つため
に、「カラダの寿命」と「目の寿命」を合わせる必要があります。目が見えなくなってしまっては、もう遅いのです。そうなる前に「眼の病的老化に対する知識を持って備えましょう!」というのが、本書の主旨です。災害に備えるのと同様に、目の寿命が来る前に対策を施して、ぜひみなさん、目の寿命を延ばしてください。
 テレビでは保険のCMがよく流れていますね。もちろん、老後を迎えるにあたってお金はとても大切なテーマです。でも、目の健康を維持することもそれと同じくらい重要なことだと思います。日々診療を続けていて私が感じるのは、不調を訴えて眼科を受診する高齢の患者さんには、その備えをしてこなかった方々がとても多いということです。特に健康自慢の高齢者ほど、自分が「老化」するという事実を受け入れたくないものです。そのために、かなり病気が進んでも放置している場合があります。
 なかでも気をつけていただきたいのが、最近その患者数が増加していて、これからもっと増え続けることが予想されるAMDです。白内障や緑内障と比べてその認知度が低いこともあって、それがいかに怖い病気であるか、身近に罹患した方でもいないかぎり、ご存じの方は少ないと思います。
 本書では、AMDで困らないための「備えと対処法」について解説していきます。当然ながら科学的根拠に基づく内容を心掛けましたが、あえて筆者自身の考えも記載しました。最近はEBM(Evidence-Based Medicine/科学的根拠に基づいた医療)の重要性が盛んに指摘されていますが、医学にはまだまだ不明なことが多く、科学的根拠が揃うのを待っていると自分の命が尽きてしまいます。
「いま生きている人は、いまわかっている科学的根拠に多少の類推を加えて最良と思えることを行うしかない」――それが、筆者の考えです。
 人生百年時代に向けて、「一生見えていたい」とお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。そして、生涯を通して「見える目」を保ち続けていただければ幸甚です。

目次

はじめに

第1章 カラダより先に「目の寿命」がやってくる

加齢黄斑変性症(AMD)は増加の一途
発症を加速させる生活環境の変化
現代人は「発病」を試されている?
ケーススタディ/老化への準備がいかに大切か
●90歳男性Nさん 放置したために、あわや失明の危機
●75歳男性Sさん 早めの予防と白内障手術の成果

第2章 加齢黄斑変性はなぜ起きるのか

見たいところが見えなくなる恐ろしい病気
最初は歪んでやがて中心が暗くなる
アムスラーチャートで自己診断
AMDの始まりは老廃物の蓄積
物が見える仕組みと老廃物の関係
兵糧攻めと酸化ストレスに見舞われる
日本人に多いのは液体が滲み出すタイプ
●滲出型AMD ―― 病的な血管ができてしまう
●萎縮型AMD ―― 視細胞が死んでしまう
AMDの原因はひとつではない
●加齢によってカラダが錆びる
●酸化ストレスが視細胞を傷つける
●遺伝は無関係とは言えない
●発症しやすい遺伝子を持つ人とは
●喫煙者は発症率が2倍以上
●動脈硬化なども悪化要因となる
●食生活が大いに関係あり

第3章 もう怖くない! 最新治療法のすべて

治療方法は日々進化し続けている
レーザー光凝固術の誕生と試行錯誤
科学をもって患者の人生に寄り添う
病的組織だけを狙い撃つ光線力学療法
日本人にうってつけのPDT治療
抗VEGF治療で視力が改善する!
3種類の治療薬はそれぞれに個性的
●ルセンティス
●アイリーア
●ベオビュ
眼に注射を打つことを恐れないで
●副作用が疑われる症状 ―― 早急に担当医に知らせる
長期間繰り返し行う抗VEGF治療
計画的か必要時か ―― それが治療の分かれ道
●固定投与
●Treat&Extend治療
●必要時治療
アイリーアTAE治療の実態が見えた
●導入期の治療は効果大
●維持期の治療は最大4カ月間隔
●継続できない患者もたくさんいる
●怖がらずに備えることが大事
副作用には十分に注意して治療する
抗VEGF治療の費用はいくらかかる?

第4章 予防の切り札「カロテノイド」って何だ?

AMDを引き起こす活性酸素の正体
動物はカロテノイドを自力でつくれない
植物からの大切な贈り物
酸化ストレスから目を守る強い武器
はっきり見える人、見えない人
黄斑色素トリオ それぞれの働き方
小腸の壁から入り網膜へと運ばれる
子どもの視覚は母親の食事や母乳からつくられる
目を守るために必要な野菜をしっかり摂る
AMD患者には黄斑色素が少ない
オメガ3系脂肪酸にも予防効果がある
サプリメントを上手に活用してみよう
完全ではないがサプリは重要な予防策

第5章 「一生見える目」をつくる方法

AMDを発症する原因を知っておくこと
まず片目を閉じて見てみよう
スマホやパソコンの明るさを調節しよう
①AMDを発症していない健康な中高年の方へ
②AMDの前段階(前駆病変)の方へ
③滲出型、萎縮型AMD患者で現在治療中の方へ
体内時計の針に合わせて生活しよう
室内照明はTPOで工夫しよう
食べて予防するための最適アドバイス
●見える目をつくるために野菜を摂る
●オメガ3系脂肪酸は魚からの恵み
●適度な脂肪酸がAMDを防ぐ決め手
●ビタミンが活性酸素を撃退する
●亜鉛サプリは国産のものを
サプリメントの表記には要注意
外国製品には手を出さない!
本当によく効くサプリメントとは?
メタボが目に危険をもたらす理由
禁煙はAMD予防のための必須条件
アルコールの摂り過ぎで出血することも
ベジメータで簡単にできる自己チェック

おわりに

アムスラーチャート

著者略歴

尾花 明(おばな あきら)
聖隷浜松病院眼科部長。加齢黄斑変性に代表される「網膜硝子体」の治療と予防のスペシャリスト。
1958年大阪市生まれ。1983年大阪市立大学医学部卒。87年同大学院を修了、同大医学部助手。1990年、独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学留学。帰国後、大阪市大医学部講師、助教授を経て、2003年浜松医科大学客員教授。04年から現職。現在、大阪市立大学客員教授、島根大学臨床教授。日本眼科学会専門医。医学博士。

●編集協力/佐野之彦
●校正/円水社
●装丁/黒岩二三(フォーマルハウト)
●本文デザイン・DTP/秋山京子
●イラスト/植本勇
●プロデュース/中野健彦(ブックリンケージ)
●ディレクション/川嵜洋平(プリ・テック)