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南小国町の奇跡
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南小国町の奇跡 稼げる町になるために大切なこと

南小国町の奇跡

わずか人口4000人の町が「稼げる町」に生まれ変わった!

地域が「変わりたい」と思えば奇跡は起きる!
万年赤字の物産館が1年で黒字転換、ふるさと納税寄付額は2年で750%増……。
DMO設立準備期から3年間、熊本県阿蘇郡南小国町に伴走してきた著者が語る、観光を軸としたヒトづくり、モノづくり、地域づくり。

町の魅力を「みつける」「みがく」「つなぐ」
「南小国モデル」が今、明かされる。

  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 2021.03.31発行
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はじめに

わずか人口4000人の町が「稼げる町」に生まれ変わった

 人口4000人の小さな町で、〝すごいこと〟が起こっています。

 28年赤字続きだった町の物産館が、1年も経たないうちに黒字化。債務超過寸前の累積赤字7000万円超は、この数年のうちに解消する見込みとなりました。
 2017年度に1億円だったふるさと納税寄付額は、2年で750%増に。コロナ禍に見舞われた2020年度も、前年度を上回ることが確定しています。
 町の中心部にはおしゃれなコワーキングスペースが完成し、町内外の若者が訪れています。町中でも若い人の姿が目立つようになったと、口々に住民が言っています。
 この劇的な変化の秘密を知りたいと、町外からの視察依頼が後を絶ちません。

 熊本県の東北部に位置する、阿蘇郡の南小国町(みなみおぐにまち)。
 それがこの本の主役であり、舞台です。
 本書で紹介するのは、日本全国どこにでもあるような小さな町が、「稼げる町」に生まれ変わるまでのストーリーです。

人気温泉地「黒川温泉」の町が抱えていた悩み

 南小国町をご存じでない方でも、「黒川温泉」の名前は聞いたことがあるのではないかと思います。
 南小国町は、黒川温泉のある町です。黒川温泉には約30の温泉宿が点在し、年間100万人以上の観光客が訪れます。毎年のように人気温泉ランキングのトップ10 に入る人気温泉です。
 これほどの「キラーコンテンツ」がある町です。大きな広告宣伝費をかけずとも観光客がやってくるし、それほど町は困っていないのではないか。そう思われるかもしれません。

 しかし、南小国町には悩みがありました。
 黒川温泉に泊まる宿泊客の満足度は高く、リピーターも多い。一方で、滞在時間が短く、温泉以外の体験での消費額が非常に少ない。つまり、経済的に潤うのは黒川温泉周辺だけという状況だったのです。
 南小国町の主要産業は農業や林業で、いずれの産業も担い手不足が深刻な問題となっています。魅力的な農林産品があるにもかかわらず、ブランド化や高付加価値化もまだ十分ではありません。
 南小国町は里山の風景が美しい町としても有名で、NPO法人「『日本で最も美しい村』連合」に加盟しています。この美しい景観は、人が定期的に手入れをしなければ保てないのですが、ここにも担い手不足の問題が立ちはだかります。手入れができないと里山の景観を維持できず、順調な観光業にまで悪影響をあたえてしまう可能性があります。
 ただ、黒川温泉をはじめとする観光業も悩みがないわけではありません。天候や災害、景気の影響をまともに受けてしまうからです。
 2016年の熊本地震では、黒川温泉も観光客の減少に悩まされました。そして、2020年に世界を襲ったコロナ禍。全国屈指の人気温泉地も、少なからず影響を受けています。

コロナ禍でも物産館の売上とふるさと納税は対前年比プラス

 ところが今、南小国町そのものは絶好調です。コロナ禍でも、その勢いは衰えていません。緊急事態宣言や休業要請の影響は多少あったものの、物産館の売上とふるさと納税寄付額はいずれも対前年比プラスの結果を出しています。

 コロナ禍にあっても、南小国町がこれだけ稼げているのには理由があります。
「観光で稼ぐ町」から「町全体で稼ぐ町」に生まれ変わったからです。
 そして、その立役者となったのが、2018年7月に設立された日本版DMO「株式会社SMO南小国」なのです。

 DMOとは、観光地域づくり法人(Destination Management/Marketing Organization)の略称です。
 南小国版DMOである「SMO南小国」は、「南小国町総合物産館きよらカァサ」と「南小国町観光協会」の機能を融合してつくられた中間支援組織です。「地域商社」「観光振興」「情報発信」「未来づくり」という4つの事業のもと、町の各産業が観光を軸に連携して、町全体で稼いでいくための事業を回しています。先に紹介した物産館もふるさと納税も、SMO南小国の事業です。
 社員数は42人。そのうち14人は県外出身者です。SMO南小国のまちづくりに魅力を感じて、ここで働くために移住してきた若者もいます。SMO南小国は仕事と雇用の創出にも一役買っているのです。

 2021年1月現在、SMO南小国のようなDMOは全国に300近く(登録DMOと候補DMOを合わせた数)あり、地方への誘客や旅行消費拡大をめざして活動をおこなっています。ただ、全国のDMOがその機能を十分に果たしているかと問われると、私は首をかしげざるをえません。
 地域内で合意形成をして商品や仕組みを整え、しっかり稼げていると胸を張れるDMOがどれだけあるでしょうか。DMOとして利益を出し、自力経営できている組織は、全国的に見てもごくわずかです。
 しかし、悲観することはありません。どこかに問題があるのなら、その問題を解決すればいいのです。

観光地域づくりに「事業開発」視点を取り入れる

 その解決のカギとなるのが、「事業開発」の視点です。
 町に事業開発の手法を持ち込み、稼ぐためのエンジン(ビジネスモデル)をつくる。能力はあるけれども埋もれている人に、適材適所で力を発揮してもらう。機能していない組織は機能させる。
 会社を経営するように、町を経営するのです。町として、きちんとお金を稼ぐのです。
 私の知る限り、日本全国どんな地域でも、抱えている課題は驚くほど似通っています。
 人口が減少し続けている。機能していない第三セクターが放置されている。能力はあるのに活躍できていない人がいる──。
 そうした組織や人を見つけて、「機能」するように変えていくのです。今はビッグデータを活用すれば、ずいぶんいろいろなことがわかるようにもなりました。なんとなく感じてはいるけれども根拠のなかったこと、正しいかどうかはっきりしなかったことも「見える化」して、解決策を考えていくことができます。
 南小国町とSMO南小国は3年をかけて、まさにそれを実践してきました。現在の好調ぶりは、その結果なのです。

   * * *

 ごあいさつが遅れました。DHE株式会社の代表をつとめる柳原秀哉と申します。
 私たちは、ITやマーケティング、ブランディングにおける専門知識を生かし、課題解決のための事業開発を通じたソリューション提供をおこなっています。具体的には、データ等の客観情報を活用して現状や課題を「見える化」し、その課題の解決に役立つようなネット配信動画の制作、ウェブサイトの構築、SNSの運用等のデジタルマーケティングを得意とする会社です。

 私自身は学生時代に起業を経験し、大学卒業後は広告代理店に勤務しました。その後、創業まもないデジタルハリウッド株式会社(以下、デジハリ)に入社します。
 デジハリでは、ITやデジタルに強い人材を育成する学校の立ち上げや広報を担当しました。学校を立ち上げる場所を決めたら、その地域に深くコミットして、地域に適したビジネスモデルをつくり上げる。軌道に乗ったら現地スタッフにまかせて、また次の地域へ。こうして八王子、大阪、福岡、ソウルで学校の設立に従事してきました。
 デジハリの子会社、デジタルハリウッド・エンタテインメント株式会社(DHEの前身)の代表となってからは、企業法人の事業開発案件に加えて、ブランディングやマーケティングのお手伝いをする機会が増えています。

 地方でも仕事を始めるようになったのは2015年から。インバウンド需要に対応した滋賀県大津市の観光ホームページ制作を受注したのがきっかけです。
 2015年は日本版DMO登録制度が創設され、流行語大賞に「爆買い」が選ばれた年でもあります。年間の訪日外国人旅行者数は1973万人を突破。この年を境に、地域活性化をテーマに全国各地からご相談をいただくことが増えました。
 南小国町からDMO設立のご相談をいただいたのもこのころです。2017年12月、当社は南小国町から正式にコンサルティングのご依頼をいただき、南小国町の観光地域づくりを3年間、お手伝いすることになりました。

 あれから4年が経ち、南小国町は大きく変わりました。SMO南小国を中心に「町全体で稼ぐ」ことが実現しつつあります。
 コロナ禍の今、黒川温泉をはじめとした町の温泉郷の客足は不安定です。それでも、町全体としては稼げています。その利益を活用して、人口4000人を切る町が独自の補助金を出しているのです。

 本書では、この南小国町の3年にわたる取り組みを紹介します。
 第1章から第4章までは、SMO南小国設立前の南小国町の現状、SMO南小国設立の準備、設立後の成果と順を追ってみていきます。町の人たちがどう考え、どのような行動を起こしたかを具体的に描いていきます。通して読むと、地方が観光を軸に地域全体で稼ぐ方法がおのずと浮かび上がってくるはずです。
 コロナ禍を経験した南小国町が今、なにを考え、どんな取り組みをしているかについても第5章、第6章でふれます。地方がコロナ禍や人口減少をものともせず、生き残っていくためのヒントになれば幸いです。

 南小国町はどのようにして「稼げる町」に生まれ変わったのか。それを知っていただくために、まずはみなさんを南小国町にお連れしましょう。

目次

はじめに
 わずか人口4000人の町が「稼げる町」に生まれ変わった
 人気温泉地「黒川温泉」の町が抱えていた悩み
 コロナ禍でも物産館とふるさと納税は対前年比プラス
 観光地域づくりに「事業開発」視点を取り入れる

第1章 黒川温泉のある町、南小国
町ぐるみの観光地域づくりが始まった

 阿蘇エリアにある南小国町
 南小国町の3つの課題
  [課題1]止まらない人口減少
  [課題2]「著名な温泉郷」の町
  [課題3]28年赤字続きの物産館
 町長の発案から南小国の〝奇跡〟が始まった
 観光地域づくりの舵取り役「DMO」
 欠かせないのは「事業開発」視点
 DMOにも「稼ぐエンジン」を入れよう

第2章 「あるべき姿」づくりでゴールを設定する
町の魅力を「みつける」

 DMOを設立するか否かの検討を開始
 「あるべき姿」は、町がめざすゴール
 「あるべき姿」の見つけ方
  1 とにかく町に出て聞き取りをする
  2 情報を編集する・仮説をつくる
  3 仮説を戻す・再度聞き取りをする
  4 議論をして仮説を固める
  5 仮説検証のための調査をする
 南小国町の「あるべき姿」は「町全体で稼ぐ」
 合意形成のコツは「住民の言葉」と「二者択一」
 あいまいな事柄を明らかにする「ビッグデータ」

〈観光地域づくりの3ステップ〉①みつける
 「みつける」でゴールを定め、観光資源の芽を探す

第3章 SMO南小国によって町を機能させる
町の魅力を「みがく」「つなぐ」


 観光協会と物産館を融合してDMOに
 DMOで、組織も人も「機能させる」
 SMO南小国の事業戦略
  【 第1の矢 】 目的は「事業の選択と集中」
  【 第2の矢 】 目的は「事業の安定化」
  【 第3の矢 】 目的は「南小国町キラーコンテンツの売出し」

〈観光地域づくりの3ステップ〉②「みがく」 ③「つなぐ」
 「みがく」と「つなぐ」で、町の魅力を最大化する

第4章 町長も驚いた、南小国町の〝奇跡〟
「3本の矢戦略」を実行する


 町外のマネジメントのプロをCOOに
 【 第1の矢 】の成果
  物産館は初年度から黒字化。V字回復に成功
 【 第2の矢 】の成果
  ふるさと納税寄付額の大幅アップ
  町内外の人をつなぐ未来づくり事業を開始
 【 第3の矢 】の成果
  インバウンド向けガイドツアーの開発
  賄い弁当配食サービスで地産地消を推進
  地場産品「どぶろく」の存続
  「体験型メディア」としてのカフェをオープン
  SMO南小国ができて変わったこと

第5章 南小国町は、これからどこをめざすのか
「おすそわけ」の精神で持続的発展へ


 コロナ禍にあっても南小国町は順調
 好調を後押しする「第4の矢」を追加
 未来づくり事業を近隣地域に拡充
 隣の「小国町」のふるさと納税業務を支援
 近隣地域との連携をめざす地域ブランド化事業

第6章 なぜ、南小国町はうまくいっているのか
観光地域づくり成功のヒント


 DMOに持ち込まれた事業開発視点
 南小国町特有の挑戦をうながす気風
 「種火」をつなぎ、シナジーを生み出したSMO南小国

おわりに

略歴

[著者]柳原秀哉 やなぎはら・ひでや
DHE 株式会社代表取締役社長。
1969年、京都生まれ。創業まもないデジタルハリウッド株式会社(デジハリ)に入社し、2003 年にデジタルハリウッド・エンタテインメント株式会社(2015年よりDHE 株式会社)創業。「日本版DMO」設立・運用コンサルティングをはじめとしたブランディング視点での観光地域づくりや地域活性化支援の他、インバウンド向けソリューション、SNS 運用やYouTube 映像などを活用したデジタルマーケティング施策、ネットメディアの開発・運営など幅広く事業展開している。

●ブックデザイン/轡田昭彦+坪井朋子
●編集協力/横山瑠美
●校正/円水社