ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。
ファイナンスは、ビジネスの世界において非常によく切れる「刀」のようなものです。ビジネスの世界に入ってきたばかりの足軽のような存在でも、ファイナンスという刀をうまく使いこなせるようになれば、立派な侍になることだってできるのです。
――M&Aの最前線で活躍する実務家が語る、「ビジネスで実際に使える」ファイナンスとは。
- 書籍:定価1760円(本体1,600円)
- 電子書籍:定価1408円(本体1,280円)
- 2016.12.15発行
内容
ファイナンスという“考え方”を身につけると何ができるのか?
ファイナンスがしっかりビジネスに活用できる法体制や環境が整ってきたのは、実はここ20年のこと。
しかし、ビジネスで実際に使えるファイナンスの技術をもっているのはごく一部の人だけです。急速に発達したファイナンスに、今はビジネスパーソンが追い付いていない。
そのため、企業では「ファイナンス人材」(=事業家)が決定的に不足しています。あなたが今、ファイナンスから始めるべき理由もここにあるのです。
本書では、「ファイナンスってどこからどう勉強すればいいの?」「ファイナンスを勉強したら、どうお金が稼げるの(会社に貢献できるの)?」というビジネスパーソンのために、M&Aの最前線で活躍する著者が、数式を使わず、「実務に直結する」ファイナンスの本質について語ります。
まずは本書から、ファイナンスを始めてみてください。
山田真哉さん推薦!「未来を知りたいなら、ファイナンスでしょ」
(165万部ベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れるのか?』著者)
はじめに
はじめに 武器としてのファイナンス
「ファイナンスは武器になる」
12年ほど前、自分の立ち上げた会社を売却したことをきっかけに、M&Aの世界に足を踏み入れて、私が一番初めに思ったことです。百戦錬磨のビジネスマンを相手にM&Aのストラクチャーについて議論したり、交渉を重ねたりする際の不安を払しょくするため、何も知らなかった私は、がむしゃらにファイナンスの勉強をしました。
M&Aの仕事とは、企業の財務に関して助言をすることです。失敗は許されません。一度の取引で何十億、何百億円というお金が動くからです。大げさな話ではなく、私は毎回毎回のディールに、自分のビジネスマン生命を懸けて取り組んでいます。
クライアント企業の命運を背負い、相手企業のトップや弁護士、会計士、投資銀行のプレイヤーたちを前に、取引の枠組みを決め、企業の価値を認めさせ、話をまとめ切る緊張や重圧は、毎回計り知れないものがあります。
そんなビジネスの猛者たちに、こちらの意見を伝え、説得し、動かす力が「ファイナンス」なのです。私にとってビジネスとは「戦い」であり、ファイナンスは「武器」なのです。
しかも、その応用範囲は、なにもM&Aだけにはとどまりません。新規事業を立ち上げるときや、業務提携を行うときなど、企業の大きな意思決定にはすべてファイナンスが使えるのです。
ファイナンスが力を発揮するのは、まだまだこれだけではありません。
例えば、バックオフィス業務なら、グループ全体を俯瞰的に見て、自分の行うべき業務を理解できるので、効率的な仕事が可能になります。何か問題が起こったときの発見もスムーズになり、再発防止のための改善点についても効果的なアイデアが出せるようになるでしょう。
営業職についている人なら、顧客企業のビジネスに対する理解度が深まり、顧客企業が今抱えている経営課題を瞬時に言い当てることができるようになります。その課題の解決策を自社製品の販売につなげることで、より高い付加価値を顧客に与えたり、結果としてより高いマージンを得たりすることができるようになるでしょう。
製品の開発部門にいる人なら投資の意思決定に役立つでしょうし、システム部門なら企業分析などでファイナンスを活用する場面は多々出てくるはずです。
ファイナンスは、ビジネスの世界において非常に良く切れる「刀」のようなものです。ビジネスの世界に入ってきたばかりの足軽のような存在でも、ファイナンスという刀をうまく使いこなせるようになれば、立派な侍になることだってできるのです。
この20年で、1年間に世界中で行われるM&Aのボリュームは約10倍にもなっています。もちろん、これは一時的な流行ではありません。グローバルな社会・経済の大きな変化を表しているのだ、と私には感じられます。
M&Aの増加の背景には、IT技術の発達でベンチャー企業の成長スピードが加速していることや、国内の市場が成熟してきたために既存の事業計画では過当競争に負けてしまう、ということもあるでしょう。
ただ、ファイナンス技術がこの20年間で急速に進化してきたことも大いに影響がある、と私は考えています。
ファイナンスという概念は昔からあるもののように思われがちですが、それがしっかりと活用できるような法体制や環境が整ってきたのは割と最近です。
その証拠に、ファイナンスという言葉の意味さえ、現時点ではまだ明確に定義づけられていません。ファイナンスとは、おそらく一般の方々からすると「財務」のようなイメージでしょうし、「ファイナンスする」という言葉は、資金を調達するという意味で使われています。ファイナンスの認識は非常に曖昧なものに感じられます。
同様に、ビジネスできちんと結果を出すためのファイナンスの技術も、まだ確立されているとは言い難い状態です。MBAをはじめとするビジネススクールなど、ファイナンスを学べそうなところは確かに色々あります。WACC、EPS分析、ブラック・ショールズ、モンテカルロなど、ファイナンスを駆使するテクニックも山ほど存在します。
しかし、このような数式をいくら頭に詰め込んでみたところで、ビジネスには活かせません。ファイナンスとは不思議なもので、ビジネススクールでいくらファイナンスを学んでも、それだけでは役に立たないのです。
「ファイナンスってどこからどう勉強したらいいのかわからない」
「ファイナンスを勉強してみたものの、実務にどう活かせるのかがわからない」
これが今のビジネスパーソンの姿ではないでしょうか。
いま、企業には、ファイナンスをビジネスで使いこなせる人材が圧倒的に不足しています。
それはつまり、この急速に進化してきたファイナンスに、今はビジネスパーソンたちが追い付いていない、という現状があるのです。
実際にビジネスで「使える」ファイナンスの技術を持っているのはごく一部の人だけです。その技術は、ごくごくわずかのハイパービジネスパーソンに独占されていると言っても過言ではありません。
では、もし、みなさんが携わっている仕事の世界に、そのファイナンスの技術が加わったら、どのような相乗効果が生まれるでしょうか。
私は、これらのファイナンスの技術が、もっとビジネスパーソンに知れ渡り、ビジネスの世界で活用されればよいと考えています。そのため、この本には、私が考えるファイナンスの技術をわかりやすく、ふんだんに詰め込んだつもりですし、実際にファイナンスに関する理解度は、この本を読み終えると劇的に上がっていると思います。
もし、みなさんがこれからビジネスの世界で戦っていくのならば、この本を読み、ファイナンスを学ぶことには大きな意義があるはずです。
この本は、将来的には企業の経営幹部や経営企画を目指している人、あるいはトップとして活躍したいと考えているビジネスパーソンに向けて書いたものです。今まで実際に起こったM&Aの有名な事案を紹介しながら、ファイナンスに関する考え方や技術をなるべくわかりやすく解説しました。私が実務を通して学び、理解し、実践して身につけてきた考え方です。いわゆる教科書的な話は一切出てきませんが、ファイナンスをどのようにビジネスで活用していけばいいかというヒントはふんだんに盛り込んだつもりです。
ファイナンスの世界は、実際には複雑な計算式や高度な会計法務の知識を避けては通れませんが、それらの詳細には深入りしていません。そのため、この本でM&Aやファイナンスのことが1から100まですべてわかるというわけではありません。
しかし、これからみなさんがビジネスの世界で戦っていく際に、ファイナンスというトピックに興味を持ち、勉強をするとっかかりになることを心がけました。細かいテクニックよりも、ファイナンスの本質を掴むことの方が重要だと考え、素朴な疑問に答えたり、歴史的背景や文脈を考えたりしながら、「読み物」として通読できるように書いてみたつもりです。
本文は3つのパートで構成されています。
まず、第1のパートでは、ファイナンスとは何かという点に絞って、定義のあいまいなファイナンスというものをしっかり定義づけしています。
次に2つ目のパートですが、最近話題になったM&Aの事例や、投資銀行などが実際に手掛けた案件をクローズアップし、企業やファンドがどのようにファイナンスを活用しているのかを取り上げています。
最後の第3パートでは、経済動向などのマクロの視点に触れつつ、ファイナンスの未来について考えていきます。
ファイナンスやM&Aというと、「お金こそがすべて」といった拝金主義的な思想と勘違いされがちです。今でこそファイナンスやM&Aなどの言葉は普通に使われる日常用語となりましたが、10年ほど前はメディアなどで非常にネガティブな意味で使われていました。リーマン・ショックの引き金にもなった金融業界に対して、より一層「虚業」との印象を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ファイナンスは決して拝金主義的な思想ではありません。それどころか、ファイナンスや金融は個人の人間性をきわめて尊重するもので、世の中に活力をもたらすための大切な仕組みなのです。
みなさんが企業の中でファイナンスをどう活用していくかとともに、ファイナンスこそが世の中を便利で豊かにするための原動力なのだということも、本書の中でご説明できれば何よりです。
目次
はじめに 武器としてのファイナンス
PART1 ファイナンスとは何か
第1章 事業家はなぜ巨額報酬を受け取るのか
いま、「事業家」が決定的に不足している
「165億円」を受け取った孫正義の後継者候補
ジャック・マーとニケシュ・アローラの違い
スティーブ・ジョブズが求める「海賊」とは
第2章 ファイナンスに関するよくある勘違い
ファイナンスの「幻想」
「数式」を覚えるだけのファイナンスは無意味
ファイナンスとは「物の値段」を考えること
地下鉄に乗って出勤する「外資系投資銀行」のエリートたち
ファイナンスは「ぶつかり稽古」でしか身につかない
今から始めるのなら「プログラミング」より「ファイナンス」
第3章 ファイナンスには教科書がない?
ファイナンスの極意は「花見」に学べ
そのアドバイスは「ノイズ」か「シグナル」か
「Go」なのか「Not Go」なのか、それが問題だ
自分だけのファイナンス観を作る
PART2 ファイナンスの最前線
第4章 企業は勝ち続けなければならない存在である
加速するM&A
「ポジション」を制する者がビジネスを制する
ポーターの「競争戦略論」の効果が薄れた理由
「ハイパー・コンペティション」
「草野球」から「メジャーリーグ」へ
ファイナンスを極めるとM&Aに行きつく
第5章 M&Aとは何か
ロックフェラーの時代からKKRの時代へ
大塚家具の「お家騒動」は「必然」
「ファイナンスの時代」は始まったばかり
企業のトップはなぜM&Aを行うのか
M&Aは「社会悪」か
M&Aは経営者の能力を競い合う活動である
イーロン・マスクとウォーレン・バフェットの共通点
第6章 M&A、儲けのカラクリ
ソフトバンク&ボーダフォン
「カネ」には2種類の「色」がある
「小が大を飲む」M&Aのやり方
金融機関とのネゴシエーション
M&A「錬金術」の舞台裏
最強のM&Aは「借金王」が成し遂げる?
ソフトバンクの本当の「すごさ」
第7章 企業を再生するファイナンス
会社を立て直す方
買い叩かれる「運命」にあったゴルフ場
「民事再生法」が適用された企業を買収するメリット
産業が「突然死」する時代
日本電産が急成長を遂げた「ロールアップ戦略」
第8章 世界最大の投資銀行ゴールドマン・サックス
「投資銀行」の仕事とは
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)への投資
ゴールドマン・サックスは金の亡者か?
「金融会社」と「事業会社」
「事業家」に必要な「資質」
第9章 得体の知れないファンドの正体
意外と「身近」なファンド
ファンドとは何か
ファンドの仕組み
ファンドの種類
“ハゲタカ・ファンド”の真相
企業活動に貢献するファンドの役割
LBOによるMBO(マネジメント・バイアウト)
「日系金融機関」と「外資系投資銀行」
コメダ珈琲店とファンドの知られざる関係性
ファンドはそもそも儲かるのか
企業がファンドとの「協業」を考える時代
日本に存在する「世界最大」のファンド、GPIFはなぜ叩かれるのか
第10章 成長を飛躍させるベンチャーファイナンス
「言うは易く行うは難し」の「イノベーションのジレンマ」
イノベーションの新しい方法論
ベンチャー企業の「生態系」
史上最悪のIPO「gumiショック」
IPOで儲けるのは悪いこと?
実は「いい加減」なベンチャー企業の価値算定
上場時の株価の決まり方3ステップ
「資金調達コスト」を意識する
「ポケモンGO」で株価が上がった任天堂が、株価をわざと下げた理由
ファイナンスの「情」と「理」
PART3 これからの未来をどう作るか
第11章 不確実性が高いからこそファイナンスの世界にはチャンスがある
金融は「パンドラの箱」ではない
物の値段に「正解」などない
サブプライムローン問題の本質
第二のリーマン・ショックは必ず起きる
不確実性を「味方」につける
第12章 最先端のファイナンス思考法
DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法が役に立たないと言われる理由
「リアルオプション」という「戦略策定」法
「不確実性」に挑め!
DMM.comはなぜ社員をアフリカに送り込むのか?
私が心がけている2つのこと
終わりに ファイナンスは意思決定の技術である
略歴
正田 圭 まさだ・けい
1986年奈良県生まれ。15歳で起業。インターネット事業を売却後、未公開企業同士のM&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や金融機関との交渉、企業価値評価業務に従事。
現在は、自身が代表を務めるティガラグループにて、ストラクチャードファイナンスや企業グループ内の再編サービスを提供。その他、複数の企業の社外取締役やアドバイザリーを務め、出資も行っている。
著書に、自身の15年間のキャリアを振り返った『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス)がある。
●装丁・本文デザイン/轡田昭彦+坪井朋子
●編集協力/野口孝行
●校正/円水社