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人間開発報告書2015
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人間開発報告書2015 人間開発のための仕事

人間開発報告書2015

 人間開発とは、単なる経済的な豊かさだけでなく、人々の生活の豊かさに焦点をあて、人々の選択肢を広げることに他ならない。この過程にきわめて重要な意味をもつのが仕事である。仕事はさまざまな形で世界中の人々に関係し、人々の生活の大きな部分を占めている。世界73億人のうち32億人が仕事に就き、その他に家事労働や創造的活動、ボランティア活動、あるいは将来の労働に向けて準備している人々がいる。
 人間開発の観点から捉える仕事の概念は、職業あるいは雇用という概念よりも広く深い。というのは、職業という枠組みでは、人間開発に重要な意味をもつ家事労働やボランティア活動、執筆や絵画などの創造的活動といった仕事を捉えられない。
 仕事と人間開発には相乗効果の関係があり、仕事は所得や家計をもたらし、貧困を減らし、公平な成長を確保することで人間開発を高める。また、人々に尊厳と価値の意識をもたらし、完全な社会参加を可能にする。そして、他者の世話に関わる仕事は社会的結束を高め、家族やコミュニティの絆を強める。
 また人々の協働は物質的な福祉を高めるばかりか、文化と文明の土台である広範な知識の蓄積にもつながる。そして、すべての仕事が環境にやさしいものであるなら、その恩恵は世代を超える。究極的に仕事は、人間の可能性、人間の創造性、人間の精神を解き放つ。
 しかし、仕事と人間開発のつながりは自然に生まれるものではなく、人権を侵害し、人間の尊厳を踏みにじり、自由と自立を犠牲にする強制労働などのような人間開発を阻害する仕事もある。また、危険を伴う業種での仕事のように、労働者をリスクにさらす仕事もある。したがって、適切な政策を講じないと、仕事の平等な機会と報酬が損なわれ、社会における不平等が永続化するおそれがある。
 さらに仕事のグローバル化とデジタル革命により急激に変化する仕事環境は、新しい機会をもたらすが、同時にリスクも突きつける。また、この変化する仕事環境がもたらす恩恵は平等に分配されず、勝者と敗者が生まれる。有償労働と無償労働における不均衡の是正が、どちらでも不利な立場に置かれている女性のための大きな課題となる。
 仕事が人間開発を高めるためには、各国の政策によって生産的で十分な報酬と満足感を伴う労働機会が拡大され、労働者の技能と可能性が高められ、労働者の権利と安全と保護が確保されることに加え、個々の課題や特定の集団に的を絞った戦略の策定が求められる。 また、新しい社会契約、世界的な取り決め、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)のための行動のアジェンダも必要とする。

  • 書籍:定価5280円(本体4,800円)
  • 2016.09.01発行
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監修者

横田洋三
国際基督教大学教授、東京大学教授、中央大学教授を歴任。法務省特別顧問、国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門委員会委員長、日本国際連合学会理事長、財団法人人権教育啓発推進センター理事長。

秋月弘子
国連開発計画(UNDP)インドネシア駐在代表事務所、国際基督教大学助手を経て、亜細亜大学教授。

二宮正人
北九州市立大学教授。