アステイオン82
特集「世界言語としての英語」トマーシュ・ユルコヴィッチ/苅谷剛彦/船川淳志/辛酸なめ子/阿部公彦/上村圭介/木部暢子 [論考]三浦伸夫/マーク・リラ/ピエール・グロセール/王 柯 [連載]「リズムの哲学ノート」山崎正和ほか
- 書籍:定価1100円(本体1,000円)
- 電子書籍:定価1100円(本体1,000円)
- 2015.05.16発行
内容
事実上の世界言語としての英語の地位は、アメリカの覇権よりも
ずっと長持ちしそうだ。ちょうどローマ帝国が滅びた後も、
ラテン語が長らくヨーロッパの共通言語であったように。
言語の覇権は、キーボードの配列と同様、一度確立すると簡単には
揺るがない。外交もビジネスも学芸も国際報道も、今や英語を使わ
なければ国際社会では成立しない。母語より英語での発信を重視する
知識人も少なくないほどだ。一つの世界言語があれば多数の言語が
あるよりも確実に「便利」だ。英語は多様な母語を持つ国々を結び
つけるし、インドのような多言語社会では国内統合にすら欠かせない。
英語はもはやアメリカ人やイギリス人の専有物ではない。
だが、その英語で日本人は苦戦の連続だ。国際交渉でも知的
発信でも、いつも悔しい思いをしている。あれほど学校で英語
学習に精を出したあげく、これは一体どうしたわけなのだろう。
教育の英語化を一層推進するのが良いのだろうか。文部科学省は
そう考えているようだし、親たちも子どもに早くから英語を教えて、
自分たちの敗者復活戦に懸命だ。
反面、それは母語の言語空間の貧困化を招き、文化的多様性を
そこないはしないだろうか。明治以来の先人の努力によって築いた
母語で学べる知的環境で、日本人の教師が日本人の学生に
わざわざ下手な英語で教えて二重遭難を起こすのは、賢明では
なかろう。それでも英語化は進むのかもしれない。実際地球上から
多数の言語が消えつつある。日本語も、スマホに駆逐されつつある
「ガラケー」と同じ運命なのだろうか。日本語のガラパゴス空間に
住む日本人は、いったい英語とどうつきあうべきなのか?
アステイオンは問いたい。
目次
特集「世界言語としての英語」
母語は世界言語によって磨かれる――あるチェコ語話者の回想
・・・・・トマーシュ・ユルコヴィッチ
スーパーグローバル大学のゆくえ――外国人教員「等」の功罪
・・・・・苅谷剛彦
グローバルイングリッシュでいこう
・・・・・船川淳志
数十回目の英語学習発作
・・・・・辛酸なめ子
「英語はしゃべれなくていい」は珍説か――英語教育の〝常識〟を考え直す
・・・・・阿部公彦
少数言語は復権するか――ソーシャルメディアへの期待
・・・・・上村圭介
危機方言はおもしろい!
・・・・・木部暢子
●論考
楽しみとしての科学――一八世紀英国の女性と数学
・・・・・三浦伸夫
読み解けない時代――なぜリバタリアニズムに退行したか
・・・・・マーク・リラ
一九八九年に起きたことは何だったのか
・・・・・ピエール・グロセール
東アジアの共同知としての「王道」思想――人類と自然との契約
・・・・・王 柯
●写真で読む研究レポート
イワン・レオニドフと紙上の建築宇宙
・・・・・・本田晃子
●グラヴィア 地域は舞台
咲かせよ舞台芸術の花、地域から開け世界のパノラマを!
――劇団文芸座(富山県富山市)
・・・・・・御厨 貴
●世界の思潮
官僚たたきは正しかったのか―政官関係のもう一つの見方
・・・・・・大西 裕
香港のストリートから考える
・・・・・・福嶋亮大
●時評
「桃源万歳!」展の回想
・・・・・芳賀 徹
「写し」と「本歌取り」
・・・・・高階秀爾
メルケル首相の東京講演
・・・・・細谷雄一
土着の記憶を魂に響くリズムで
・・・・・張 競
名曲喫茶という社会教育施設
・・・・・渡辺 裕
利休と飛び石
・・・・・藤森照信
『それから』とピケティ氏
・・・・・奥本大三郎
●連載
リズムの哲学ノート 第六章(前編)
・・・・・・山崎正和
●フォーラムレポート
グローバルな文脈での日本
●アステイオン編集委員会委員
委員長 田所昌幸
池内 恵
苅部 直
張 競
細谷雄一
鷲田清一
顧 問 山崎正和
●ブックデザイン/熊澤正人+村奈諒佳(POWERHOUSE)
●翻訳協力/斉藤裕一、ジャネット・アシュビー
●校閲/竹内輝夫
●編集協力/林晟一、CCCメディアハウス書籍編集部