300人の達人研究からわかった 上達の原則
- 書籍:定価1540円(本体1,400円)
- 電子書籍:定価1232円(本体1,120円)
- 2015.04.09発行
内容
英語・エクセル・営業・ピアノ・ゴルフ……
あなたは絶対うまくなる!
「才能」を研究する東北大学教授が
15年かけて見出した
質の高い練習とやる気を
無理なく持続させる“コツ”
・大事なのは、才能やセンスではなく、上達のコツ
・5つの「才能の迷信」を知り、マイナス思考を捨てよ
・50歳や60歳から始めても、上達は可能
・練習は3段階でやり方を変えるべし
・上達を促すコーチングには7つのポイントがある
勉強もスポーツも
音楽もビジネスも、
上達に必要なのは、
才能やセンスではなく、
“コツ”です。
第1章 上達を邪魔するマイナス思考
第2章 上達のメカニズムを知る
第3章 達人たちに学ぶ上達のヒント
第4章 すぐに使える上達のコツ
第5章 部下の上達を手引きする
特別編 上達Q&A あなたの疑問にズバリ回答!
はじめに
新しい理論、新しい技術、新しいシステム……こうしたものが次々と生まれる現代社会。「スキルアップ」といった言葉に、日々追い立てられている人も少なくないはずだ。この本を開いている皆さんも、きっと生活や仕事のさまざまなシーンで新しい技術や知識を習得し、上達することを迫られているように思う。
上達のポイントは「発想、仕掛け、やり方」にある。これが本書のメッセージだ。
反対に、上達を妨げているもの、それは「素質やセンスがないから」という理由で努力をやめてしまう誤った考え方と行動だ。
ビジネス、音楽、スポーツなど、私たちは日々、さまざまな領域で、何かを学び少しずつ上手になっていく。それがすごく早く上達する人もいれば、なかなか上達しない人もいる。上達して並外れた力を発揮している人たちとそうでない人たちとの違いは、実は、それぞれの人の中にある潜在的な可能性を生かしきれているかどうかの違いにすぎないのだ。
では、どのようにすればその可能性を顕在化し、日々の生活や仕事の中で発揮できるのか。本書はまさにそのコツについて、紹介することを目指している。
スポーツにしろ、音楽にしろ、語学にしろ、上達している人はどこが違うのだろう。才能か、努力か、指導者か、あるいは、そのすべてだろうか。
私はこれまで、こうした疑問をもって、国内外で高い評価を得ている300人以上のスポーツ選手や指導者、音楽家、研究者、実業家らにインタビューを重ねながら、「才能」や「上達」について研究してきた。15 年以上にわたるその研究から、どのような結論が導かれたのか。それは、次のようなものである。
1 上達を目指すうえで、素質やセンス以上に重要な要素がある。
2 それは上達のコツを知って、それを身につけることである。
3 指導者や親、上司など周囲を巻き込むことが上達の早道である。
4 上達の方法は一つではない。多様な状況に対応して柔軟に考える。
私は昭和36(1961)年、長野県の高遠町(現・伊那市)に生まれた。中学の時に、ようやく上水道が整った、山間の小さな町である。それまでは山の清水を引いて飲んでいたほどの田舎町であった。そのような小さな町だから学習塾はなかったが、隣の町には音楽教室があったので、そこに通ってエレクトーンを習っていた。自分では熱心な生徒だったと思っている。
高校を卒業したら音楽学校に行くのが夢だったが、「やっぱり才能がないからやめたほうがいいかな」と思う自分がどこかにいた。長野県だからスキーも盛んだったのに、これも上達しない。思い返せばその頃は、何をやっても中途半端で、「何かを究めた!」という経験はなかった。
結局、音楽関係の大学進学には失敗したため、音楽への道は断念した。その時ばかりは、やはり素質は必要なのかと嘆いたものだ。それでも、やはりどこかで納得できない自分がいた。東北大学教育学部に入学した後は、努力すれば絶対に結果は出ると思いたかったし、いつかきちんと証明したいと思っていた。それが、「才能」に関する研究のきっかけだったかもしれない。
「才能」の研究をしていながら、「才能」は必要ないと言うのも変な話だが、各分野で、それぞれ実績を残している人々の体験を聞けば聞くほど、その思いは確固たるものになった。
東北大学の講義で、何かを学ぶ(上達する)際に、「才能やセンスは関係ない」と言っても、多くの学生は半信半疑である。しかし、授業が進むにつれ、多くの学生が納得してくれるようになる。この本では、その講義を基本に、上達のメカニズムと、指導する側に必要なノウハウとをまとめている。
現代社会は変化のスピードが速く、せっかく身につけた知識や技術も、すぐに古くなってしまう。科学技術の進歩はすさまじく、せっかく覚えても次から次へと新しい技術が生まれてきて、以前の技術は陳腐化してしまう。勉強を重ねてようやく会社に入ったとしても、数年後に入社してきた新入社員のほうが、新しい技術に詳しいことを知って愕然としたりすることもあるだろう。
こういう変化の激しい社会であるだけに、私たちは今まで以上に常に学び続けなければならなくなった。一定の専門性を身につければよかった時代と現代とでは、そこが大きく異なる。技術もノウハウも、次々と刷新されていくから、学び続けなければならず、限られた時間の中で技術や技能を習得しなければならない。だからこそ、効率的で効果的な上達の方法を習得する必要がある。
例えば、英会話を考えてみよう。上達するには、どうすればいいのか。英会話学校に通ったり、通信教育を受けたりする方法が一般的である。しかし、好きな映画を見て学んだり、ネットで海外の人とコミュニケーションを図って学ぶ方法もある。あるいは本で文法から学び始めてもいいだろう。学ぶ方法は、それぞれである。
大切なのは、自分に合った方法を選ぶこと。そして、学ぶ目的と熱意をもち、努力を続けること。的確にアドバイスしてくれる指導者や共に学ぶ仲間がいれば、上達はさらに進むだろう。勉強もスポーツも音楽もビジネスも、才能やセンスを云々するのではなく、上達のコツを身につけることが重要だ。
上達の発展段階や学習のコツ、指導の方法などについては、次章以降に詳述するが、本書で私が最も伝えたいことは、「自分には才能がないなどとあきらめずに、自分の可能性を信じ、やりたいことに挑戦してほしい」ということである。
ともすれば人は、「自分にはセンスがないから」とか、「もともと上手じゃなかったから」とか、できない理由を見つけて自分を納得させがちだ。心理学ではそれを「心の合理化」などと言う。それで自分の心が落ち着くなら、必ずしも悪いことではないが、少しでもやってみたいことや、上達してみたいことがあるのなら、才能やセンスなどを考えずに挑戦してほしい。自分の体験からも、そう強く願うのだ。
英語力を伸ばしたい、ゴルフがうまくなりたい、数学が得意になりたい……。何でもいい。そうしたことのほとんどは、学ぶコツさえわかれば上達が可能なのだから。
さらにもう一つ、重要なことがある。それは、一人で取り組むのではなく、周囲を巻き込んでいくことである。例えば、寸暇を惜しんで練習し、努力を重ねていれば、親や教師や上司などが、がんばっているあなたの姿を見て、何らかの形で手助けしてくれるようになるだろう。熱意が周囲を動かすのである。そうなれば上達のレベルは、さらに進む。
学ぶコツさえわかれば、向き不向きはあったとしても、おおよそのことはマスターできる。50歳から始めても60歳から始めても、あなたが本気になって取り組めば、上達は可能だ。
そう考えれば、定年間近になってから職務が変わったり、配置転換になったりしても、自信をもって対応できるようになるだろう。また、指導者の立場にあるコーチや先生方も、より的確な指導ができるようになるはずである。
本書は、上達を妨げる思考の解説に始まり、上達の仕組み、上達の方法の紹介という具合に、順序立てて話を進めている。
ただし、上達のための具体的なポイントやコツをすぐに知りたいという人は、最初に第4章を読んでいただいてもよい。部下や後輩を上達させるノウハウを知りたいという人は、第5章から読み始める手もあるだろう。
また、すべての章で私が研究過程の中で聞いた話が出てくるが、特に第3章では、これまで重ねてきたインタビューの中で、印象的だった人たちの話をまとめた。論より証拠である。大きな成果をあげた先達の体験談は、きっと皆さんに、自信を与えてくれるに違いない。
いずれにしても、この本が皆さんのお役に立てば、筆者の望外の喜びである。これからは、どんなことにも臆せず挑戦し、豊かな人生を実現していただきたいと願っている。
目次
はじめに
第1章 上達を邪魔するマイナス思考
偉大な成果は継続した努力の結果
上達を妨げる「才能の迷信」
「素質がある人にはかなわない」を検証する
同じ遺伝子をもつ双子でも違う
黒人が遺伝的に長距離走に強いわけではない
「今からやっても手遅れだ」を検証する
「感受性期」はまだよくわかっていない
「いま成果が出ないなら、この先も同じだ」を検証する
スポーツでも大器晩成型は珍しくない
「いい環境でないと上達できない」を検証する
重要なのは今ある環境を最大限活用すること
「教えてくれる人がいなければ上達は無理」を検証する
専属コーチがいなくても世界的な選手に
取り組む姿勢を評価することが大切
第2章 上達のメカニズムを知る
熟達者がもつ「気づき」の目
熟達者には「職人」と「名人」の2種類がいる
長期間の継続した練習が違いを生む
必要な時間は「10年間・1万時間」!?
練習には「質の高さ」も重要
3段階で練習法を変える
最初の段階では快体験を積み重ねる
第2段階は自己効力感の育成が大切
最終段階では自主性の確立を目指す
強い見通しと信念を育成するのがゴール
第3章 達人たちに学ぶ上達のヒント
ケース1
「大学から」という遅咲きを、自発的な練習姿勢でカバー
(仙台フィルハーモニー管弦楽団チェロ奏者 山本 純さん)
開始年齢の遅さが有利に働く点もある
ケース2
小学生でも練習日誌を毎日書いて、質の高い練習を積み重ねる
(フィギュアスケート選手 小池美沙さん)
自発的な取り組みと高い目標設定が大切
ケース3
客観的な自己分析と工夫で、練習の苦しみは乗り越えられる
(プロゴルファー 高山忠洋さん)
高いモチベーションが続く仕掛けを考える
ケース4
指示ではなく、問いかけることで、
自ら考える姿勢を育てる指導法
(三ツ矢常務取締役・「現代の名工」 小澤茂男さん)
若い部下のために快体験の場を設定
第4章 すぐに使える上達のコツ
上達のキーワードは「わくわくする」
ポイント1 やる気にスイッチを入れよう
ポイント2 「できる」という自信をもとう
ポイント3 質の高い練習ができる状況をつくろう
ポイント4 自分を外から見てみよう
コラム イメージトレーニングをしてみよう
第5章 部下の上達を手引きする
コーチングで才能を開花させる
ポイント1 目標を決めさせる
ポイント2 明確なルールを設定する
ポイント3 背伸びするチャレンジをさせる
ポイント4 命令しない、問いかける
ポイント5 効果的にほめる
ポイント6 効果的に叱る
ポイント7 職場の雰囲気を変える
特別編 Q&A あなたの疑問にズバリ回答!
Q.がんばれることも才能のうちではないですか?
Q.一度競技を離れた後、再開した場合、「1万時間」はどのように計算されるのですか?
Q.スポーツの試合中に失点やミスなどをして、やる気スイッチが切れた場合、どうすれば再びスイッチが入りますか?
Q.どうすればメンタルの強化ができますか?
おわりに
参考文献
略歴
北村勝朗
(きたむら・かつろう)
東北大学大学院教育情報学研究部教授
1961年、長野県生まれ。1985 年に東北大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て現職。博士(教育学)。専門は教育心理学、スポーツ心理学。人の才能はどのように開花するのか、またどうしたら相手の才能を伸ばせるのかを研究テーマに、スポーツ選手から音楽家、研究者、実業家まで300人以上の達人(エキスパート)にインタビューしている。
大学で教鞭をとる一方、自身の体験と研究成果を生かしながらスポーツ、音楽、科学、学校、ビジネスなどの分野において、実際に上達の支援やコーチングの指導にあたっている。著書に『わざ言語――感覚の共有を通しての「学び」へ』(共編著、2011年、慶應義塾大学出版会)などがある。
●アートディレクション/宮崎謙司 (lil.inc/ロータス・イメージ・ラボラトリー)
●デザイン/加納友昭 (lil.inc/ロータス・イメージ・ラボラトリー)
●編集協力/ムーブ
●校正/円水社