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不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100

スチュアート・サザーランド 著

伊藤和子/杉浦茂樹 著

不合理

軍事戦略や政策決定の誤り、原発や航空機の事故を招く重大な過失、私たちが日常的におかす判断ミス――人はほぼ常に間違った判断を下し、愚かな行動をしている。大事なところで失敗しないために、「思考の癖」と「その回避策」を知ろう!

  • 書籍:定価2200円(本体2,000円)
  • 電子書籍:定価1760円(本体1,600円)
  • 2013.11発行
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内容紹介

膨大な心理学実験による知見を集大成。
人間が陥りやすい誤認と錯誤を網羅した「認知バイアス」についての古典的名著、待望の邦訳。

軍事戦略や政策決定の誤り、原発や航空機の事故を招く重大な過失から、私たちが日常的におかす判断ミスまで、愚かな誤りは人間につきもの。ヒトは理性的な動物どころか、ほぼ常に間違った判断を下し、愚かな行動を繰り返す動物であるらしい。
なぜ人はかくも多くの誤りをおかすのか。著者は膨大な実例や心理実験を挙げて、私たちが陥りがちな事実誤認や判断ミスを分析し、その要因とリスク回避のためのアドバイスも散りばめる。

【人の不合理な行動の例】
他人に得をさせまいとしてあえて自分が損するような道を選ぶ
人は報酬を与えられると「自分は嫌なことを頑張ってやったのだ」と考える
美人をみると性格も知性もすばらしい人と勝手に想像してしまう
くだらない映画だと思っても最後まで見続ける
「大勢に従う」投資アドバイザー
企業の採用選考。面接はまったく意味をなさない
自己正当化の欲望は損得勘定をも超える
業績が悪化しているのに高給をとっている経営者
財布を失くしたとき、同じ場所ばかり探してしまう
テレパシーや念力、占いを信じる人たち……

1992年の初版刊行以来、欧米でロングセラーとなっている名著の待望の邦訳版です。

目次

序文
 
01 はじめに
人間は理性的な動物か
目的が合理的なら判断ミスも減る?
不合理な思考プロセスとは
本書で扱う「不合理性」
本書の構成

02 誤った印象
手近な情報による誤謬
情報を「手近」にするもの
専門家もこの罠からは逃れられない
「第一印象」と「手近な情報による誤謬」
ハロー効果とデビル効果

03 服従
衝撃的な実験結果
そのとき、思考は停止する
権威に従わない場合
虐殺事件がやまない七つの理由

04 同調
人は習慣によって付和雷同する
ブーメラン効果
慣行やトレンドへの同調
群集心理のメカニズム
傍観者効果

05 内集団と外集団
集団思考
集団は個人より賢明か
制服で人は変わる?
外集団への敵意と内集団の結束
偏見が生まれる九つの理由

06 組織の不合理性
公的機関の恐るべき不合理
民間企業の不合理な慣行
投資アドバイザーを頼るのは金をどぶに捨てるようなもの

07 間違った首尾一貫性
自分の選択を正当化する心理
サンクコストの誤謬
自己正当化は損得勘定をも超える

08 効果のない「アメとムチ」
報酬に効果はないのか
報酬とモチベーションの複雑な関係
罰の効用
「自主」と「強制」

09 衝動と情動
思考の柔軟性を失わせるもの
恐怖と欲求
願望や退屈が引き起こす不合理な行動

10 証拠の無視
思い込みに固執したツケ
仮説を検証するには
人は常に自分の考えが正しいことを確認したがる

11 証拠の歪曲
思い込みは思考そのものの癖
「理由づけ」がさらに思い込みを強くする

12 相関関係の誤り
錯誤相関
誰も先入観から逃れられない
データは記録すべし
異色なものは誇張される

13 医療における錯誤相関
混同される二つの確率
「正確な診断」はどこまで可能か

14 因果関係の誤り
一筋縄ではいかない因果関係の証明
原因と結果
人を動かすのは性格か、状況か
私たちの気分や感情の原因は?

15 証拠の誤った解釈
代表性の誤謬
統計学と基準率
「大数の法則」とサンプルの質と量

16 一貫性のない決断、勝ち目のない賭け
「期待値」は役に立つか
提示のされ方で判断は変わる
誘導尋問の効果
アンカリング効果

17 過信
「後知恵」の恐るべき影響力
根拠のない自信あれこれ
コントロールの錯誤

18 リスク
リスクが発生するさまざまな要因
予測不能な「連鎖的要因」
原子力エネルギーと化石燃料のリスク評価

19 誤った推理
満足化
「平均回帰」の原理
予測因子の相関関係をどう考えるか
「ギャンブラーの錯誤」ほか

20 直感の誤り
直感的予測法と数理的予測法
数理的予測法の注意点
予測因子の「重み」
数理的予測法はなぜ現実には採用されないのか
予測の精度を上げるために

21 効用
限界効用
効用理論の活用法
効用理論の限界と可能性
効用理論はいつでも最良の方法か
費用便益分析
医療分野における「費用便益分析」

22 超常現象
なぜ人は超常現象を信じるのか
「化学的証拠」のウソ

23 合理的な思考は必要か
人間の不合理性、五つの理由
合理的に考えるために
合理的であることは本当に望ましいことか
 
参考文献
 
訳者あとがき

序 文

 大胆にもアリストテレスに異議申し立てするなら、人間は「理性的な動物」などではない。たまさか常軌を逸して不合理な行動に走るのではなく、ほぼ常に愚かしい判断をし、愚かしい行動をとる。このことを示すために、本書では多くの驚くべき事例を通じて、人々が日常的な場面でおかす誤りや、専門職が仕事で下す愚かな判断を紹介している。医師や軍人、技術者や裁判官、実業家といった人々が下す決断も、あなたや私が日常的に行う決断とその愚かさにおいては大差ない。違いと言えば、専門職がおかす誤りのほうが往々にして深刻な被害をもたらすということだけだ。
 ここ数十年、心理学の分野ではこの問題を扱った研究が盛んになされ、人間の不合理性を示す膨大な実験結果が得られている。そうした発見は一般の人々にはまだ十分に知られていない。私は直接的にこのテーマを研究してきたわけではないが、心理学者たちが行った実験の独創性と、それによって浮かび上がった人間の思考の特徴に大いに興味をもった。この本では、これまでの研究で明らかになった不合理な行動をもたらす要因をまとめて紹介している。社会的、感情的バイアスや、二つの事象を安易に関連づけたり、最初に入ってきた情報にとらわれるといった思考のバイアスなどである。本書でとりあげる実験結果の多くはあまりにも衝撃的で、にわかには信じ難いかもしれないが、ほぼすべて厳密な追試で確認されたものである。
 学術誌で発表される論文は門外漢には非常に読みづらいものだ。この本では、そうした研究結果をできるだけわかりやすく説明しようと努めた。数学と統計学の概念は原則的に持ち込まないようにしたが、いくつかの基本的な概念には触れざるを得なかった。それらは、この本の最後のほうで説明してある。
 この本は思考のハウツー本ではないが、各章の末尾にはちょっとしたヒントを挙げた。それらを参考にすれば、思考のプロセスに潜むいくつもの罠を避けることも可能だろう。言うまでもなく、そのためにはあらかじめある程度の理性が─「愚かな過ちを避けたい」と望む程度の理性が備わっていなければならない。「罪などというものはない。ただ愚かさがあるだけだ」というオスカー・ワイルドの言葉に一片の真理があるとすれば、そうした理性は望ましいものである。ワイルドの言葉が正しいのなら、不合理性というテーマは十分に検討するに値するだろう。私は本書の執筆中、折りに触れて自分にそう言い聞かせてきた。
 私自身も愚かな誤りをしがちな人間である。それを重々承知の上で、読者に一つだけお願いがある。この本を読んで何かミスに気づかれたとしても、黙って見過ごしていただけないだろうか。人間の不合理性についての膨大な文献を渉猟してまとめる作業だけでも大変な労苦を要した。その労苦の結実が不合理なものであると言われたら……あとは言わずもがなだろう。

スチュアート・サザーランド 
サセックス大学 
一九九二年八月

略歴

[著者]
スチュアート・サザーランド Stuart Sutherland
1927年生まれ。オックスフォード大学マグダレン・カレッジで心理学、哲学、生理学を専攻し、動物学で博士号を取得、同大学で講師の地位に。1964年、設立まもないサセックス大学で実験心理学研究所所長に就任。またたくまに実験心理学の分野における同校の名声を高める。自身は比較心理学、とりわけ視覚パターン認識と弁別学習(discrimination learning)における業績がつとに有名。躁鬱病に苦しみ、闘病の日々を綴った自伝Breakdown も好評を博した。1998年、心臓病で他界。享年71歳。

[訳者]
伊藤和子(いとう・かずこ)
翻訳者。早稲田大学第一文学部卒業。創刊時よりニューズウィーク日本版の翻訳、編集、ナショナルジオグラフィック日本版の翻訳に携わる。訳書に『脳は眠らない』『翳りゆく楽園』(武田ランダムハウスジャパン)、『それは「うつ」ではない どんな悲しみも「うつ」にされてしまう理由』(阪急コミュニケーションズ)など多数。

杉浦茂樹(すぎうら・しげき)
翻訳者。訳書に『エクセレントな仕事人になれ!』『ハッカーを撃て!』(阪急コミュニケーションズ)、『「オバマ」のつくり方』(共訳、阪急コミュニケーションズ)、『ユダの福音書を追え』(共訳、日経ナショナルジオグラフィック社)、『銀むつクライシス』(早川書房)、『ヨーロッパに架ける橋』(みすず書房)など。

●翻訳協力/森美歩、舩山睦美
●編集協力/企画JIN(清水栄一)
●本文組版/朝日メディアインターナショナル株式会社
●装丁/轡田昭彦、坪井智子