CCC MEDIA HOUSE
なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか
ネット書店で購入
電子書籍を購入

なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか

なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか

長年さまざまな活性化事業が行われてきたにもかかわらず、繁栄している商店街が全国の1%しかないのはなぜか。“元コンサルタント”が本音で語る、現在の活性化施策の限界と新たな提言。あなたの街の商店街を再生させる“本当の方法”、お教えします。

  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 2013.11発行
ネット書店で購入
電子書籍を購入

内容

「まちづくり」を目指しているかぎり、商店街の再生はない!

全国で商店街の活気が失われ、「シャッター街」は今や珍しくはない。
だが長年、さまざまな活性化事業が行われてきたにもかかわらず、
繁栄している商店街がいまだに全国の1%しかないのはなぜか。
商店街が活性化しない最大の原因は、
郊外に大型ショッピングセンターができたことではなく、
商店街の「組合」というシステム、それに
売上に背を向け「まちづくり」を目指したことにある――。

あなたの街の商店街を再生させる“本当の方法”、お教えします。

中目黒、大久保、中野、南堀江、三条通、
玉宮通り、上乃裏通り……元気のある街の共通点とは?

<これが実態>
◎活性化事例のほとんどがウソか誇張
◎仮に商店街が活性化しても商店は儲からない
◎「まちづくり」では商店街は再生できない

“元コンサルタント”が本音で語る
現在の商店街活性化施策の限界と新たな提言

 

序章(抜粋)

「われわれの商店街は活動が盛んなことで知られていますが、自分にとってはあまり良いことではないのです」東京都内の商店街にある商店の跡取り息子さんの言葉だ。

「ウチのおやじは、商店街のイベントになると張り切って、事前の相談や準備、当日の運営に出かけていくのですが、その間、店に人が居なくなってしまい、イベントに合わせて売り出しをすることも、当日にお客さんを店に呼び込むこともできない状況です。自分の代になったら、商店街のイベントはできる限りやめたいと考えています」

また、九州にある商店街の若手の商店経営者からは、疑問をぶつけられた。

「ウチの商店街はイベントが盛んで、お客さんがたくさん来ますが、それがほとんど売上につながりません。イベントの当日でも少し売上が伸びる程度で、次の日からは元に戻ってしまいます。理事長は、それでも商店街が維持できているのはイベントのおかげで、それがないと普段からもっと人が来ないダメな場所になってしまう、と言うのですが、本当にそうなのでしょうか」

全国で商店街の活気が損なわれ、廃業した店が目立つ「シャッター街」になるのも今日では珍しいことではない。しかし、これらはシャッター街での話ではない。前者は東京都内で、それなりに活気があり活動に熱心だとして知られ、後者はイベントの開催では全国的に商店街活性化の先進事例として知られる商店街だ。

先進的な商店街でも、その活動は若手の後継者や経営者に支持されていない。これは特殊な例ではなく、全国の商店街で普通に見られる現実なのだ。

私は1997年に独立し、縁あって商店街活性化の仕事に携わるようになった。

幸いだったのは、商店街活性化のコンサルティングと並行して、行政の行う調査の仕事をしていたことだ。課題の多い商店街の現場に直面して事業の支援を行いつつ、調査業務では、先進事例とされる商店街活性化の現場を訪問し、視察やインタビューをすることができた。これにより、状態の悪い商店街と先進事例を見比べることができ、良い商店街と悪い商店街の違いだけでなく、商店街そのものの課題も見ることができた。

また、もうひとつ幸いだったのが、自身が若くして独立開業したことから、友人に20代、30代の若手の経営者や創業希望者がたくさんいたことだ。インタビュー調査よりもっと深い本音を聞ける立場で、若い経営者や経営者予備軍の考えを知ることができたことで、経営者の側から商店街を見る視点を得られたことは、商店街を考える上で大きな武器となった。

そんな私が商店街に対して感じた疑問は、冒頭に挙げたようなものだけではなかった。

コンサルタントとして最初に持った違和感

最初に持った違和感は、商店街の組合の雰囲気だった。証券会社で働いた経験を持つ私にとっては、自己資金、自己責任がビジネスの原則だったので、補助金ありき、行政頼みの事業の企画をすることに戸惑いを禁じ得なかったのだ。

商店街活性化事業で出会う商店街組合の役員の中には、自らの商売に成功した立派な人もいないではなかったが、それはごく一部。大半は商売で生活していない、年金や不動産賃貸など、商店の売上以外から収入を得ている人だ。つまりもはや〝商人〟ではない人が組合の役員として、加盟する商人を代表して事業を行っているという構図である。活性化したいという想いに嘘がある訳ではないだろうが、集客や売上を大きく伸ばすために積極的にリスクをとることはせず、もっぱら補助金のメニューに従って活性化事業をするのが商店街だと言わんばかりの運営がなされていた。

また、スピード感も違っていた。自らの事業として行うのであれば1カ月で実現できることを、半年から1年もかけて何度も会議を持って、行政の予算確保や補助金のスキームに合わせた〝計画〟を策定する。小さなイベントをするだけのことなのに、「この時期には市の予算が決まっているので、来年に予算要望して再来年の事業としてやろう」といった具合である。

当時はわからなかったが、あと10年時代が早ければ、様子は違ったのかもしれない。1990年代の半ばは、大型店の出店を規制する大規模小売店舗法の基準が緩和され、大型店の出店が増える一方で、商店街が目に見えて凋落している時期だったからだ。大きな環境変化の中で、方向が見えなくなり、とりあえずリスクはとらないという姿勢になった心情は理解できなくはない。しかし、それは若造であった当時の私から見ても、明らかに間違いであった。

もちろん、すべての商店街がそのように運営されている訳ではない。調査事業で訪問した有名ないくつかの商店街では、高い会費、駐車場や会館等の施設運営、スタンプやポイントカードといった販売促進事業により、自主財源を持ち、主体的に事業を行っていた。

しかし、これはごく一部の限られた商店街組合のみのことである。そして、そうした「先進商店街」でも、商店街組合の活性化事業と個別商店の業績向上には、ずれが目立っており、冒頭の発言のように組合の活動に不満を持つ商店主や、そもそも組合に参加しない商店主が目立ち始めていた。商店街自体の状態とは別に、商店主にとって、商店街組合は「真剣な商売には関係のない組織」になっていたのだ。

目次

序章

第1章 繁栄している商店街は1%だけ

全国に増殖する「シャッター街」
「衰退」が75%以上/ショッピングセンター犯人説と商店街犯人説/衰退した要因=活性化しない要因ではない

活性化している商店街の共通点

Columnどうして広い売り場の店のほうがモノが売れるのか

第2章 そもそも「商店街」とは何か

新宿・銀座も「商店街」である
商店街は「商店が集まっている場所」/商圏の規模や立地による商店街の分類/組織の違いによる商店街の分類

商店街の活性化事業とは?
国と都道府県の予算、市町村の〝裏負担〟/商店街施策の変遷

「商店街という場所」と「商店街の組合」の混同
組織がなければ施策の対象にならない/場所と組合の混同が生む弊害

商店街組織の課題
低い加入率、商店のニーズと異なる事業/運営力を欠き、流行ったイベントのまねばかりに/根本的には商店街組織そのものが妨げ

Column 商店街の組織はどのようにできたのか
Column 商店街は補助金で潤っているか

第3章 「まちづくり」を目指した過ち

組合に商店街活性化を任せるな
商店街が活性化しても商店は儲からない/活性化で儲かるのは地主と市役所/誰が活性化を担うべきか/「商店街の組合」は本当は何をするべきか

なぜ「まちづくり」なのか
「まちづくり」ブームの違和感/商店街活性化=まちづくりの弊害

Column 100円商店街、まちなかバル、街コンはいかにして始まったか

第4章 それでも商店街の活性化が必要な理由

「商店街=地域コミュニティ」は説得力がない
振興目的ありきの後付けの理由/地域文化の継承? 買い物難民の救済?/コンパクトシティの実現による自治体の支出軽減

新規創業の場としての存在価値
活性化が必要な最大の理由/商店が成長すれば物価の安定につながる

Column たとえ寂れていても、商店街には魅力がある

第5章 商店街の変革
――練馬区江古田、広島県呉市の体験から

練馬区江古田での「勝手に活性化」
学生サークルが行った商店街の活性化/やりたい人と商店街の場をつなげる

商店街活性化につながる発見
「店」の存在が商店街を変えていく/地域の人脈を広げ、人をつなぐ

広島県呉市での活性化の挑戦
「まちおこし特別委員会」の立ち上げ/最初のイベントは電飾のトナカイを並べただけ/防犯カメラの設置がもたらしたもの/専任タウンマネージャー配置による事業の躍進/〝店が店を呼ぶ〟状態を作り出す事業モデル/NPO設立と『がんばる商店街77選』の表彰/その後、活性化事業は衰退してしまった……

第6章 商店街はこうすれば活性化できる

活性化の目標を見直す

商店街活性化のロードマップ
商店街活性化のための組織を設置する/イベントを行い、商店街への注目を集める/環境を整備し、新たな出店を誘導する/イベントと出店誘導のサイクルを繰り返して、規模を大きくしていく

タウンマネージャーの役割
日本におけるタウンマネージャーの実情/どんな人材をどうやって確保するか/地元で後ろ盾となる人物が必要

Column 商工会議所、商工会は商店街エリア活性化機構になれるか

第7章 行政と商店主へのメッセージ
――今こそ活性化にとりくむ時

商店街活性化は市町村の役割
商店街の活性化は“利益”になる/従来型の活性化が限界に達している今こそ/市長の理解と決断が必要/そもそも、行政は不公平であっていい

活性化の制度設計は国にかかっている
国の役割は環境づくり/金儲けは悪いことなのか/バイアスのかかっていない情報を得る

商店主は原点に立ち返れ
商店街活性化に逃げない/土地・店舗を持つ地主には決断が迫られる/商店主は自店の社会的価値を高めること

終章

あとがきに代えて――里山の比喩
参考文献

略歴

[著者]
辻井啓作 (つじい・けいさく)
有限会社ともえ産業情報取締役社長。1969年京都府生まれ。立命館大学法学部卒業後、大和証券、東京都中小企業振興公社を経て、中小企業診断士として活動した後に、社会調査、市場調査事業を行う同社を設立。現場での中小・中堅企業の支援と、国・地方行政の視点からの社会調査を両輪とした事業を行っている。1997年からコンサルタントとして各地の商店街活性化に携わり、中心的に支援を行った広島県呉市の中心商店街活性化は経済産業省中小企業庁より「頑張る商店街77選」に選ばれた。その後、商店街活性化施策のあり方に疑問を感じ、商店街組織を対象としたコンサルタント事業、および中小企業診断士としての活動を停止している。2013年3月、専修大学大学院商学研究科博士課程を単位取得退学。2011年度より千葉商科大学商経学部で非常勤講師として「流通経済論」等を担当。著書に『独立開業マニュアル これだけは知っといてや』(岩波アクティブ新書)がある。

●アートディレクション/宮崎謙司(lil.inc/ロータス・イメージ・ラボラトリー)
●デザイン/加納友昭・清水孝行(lil.inc/ロータス・イメージ・ラボラトリー)
●協力/企画のたまご屋さん
●校閲/鷗来堂