傷つけ合う子どもたち
「よりによって、どうして、うちの子が——」
それは、いまや誰にでも起こり得る現実です。
- 書籍:定価1760円(本体1600円)
- 2025年11月13日発行
内容
いじめ、性の問題行動、SNSでの誹謗中傷、暴力、自傷。今や子どもは、加害者にも被害者にもなり得る時代。
しかも、その「きっかけ」や「背景」は、大人が思う以上に複雑かつ見えにくくなっています。
本書は、『誰が国語力を殺すのか』『教育虐待』などで知られるノンフィクション作家・石井光太が、現代の学校・家庭に潜む“見えない地雷”を多角的に描いた渾身の書き下ろし。
子どもを取り巻くトラブルのメカニズムを、いじめ・性・暴力・自傷・スマホ・家庭環境といった切り口から徹底解説し、「なぜ加害が起きるのか」「どう被害が拡大するのか」を親目線で丁寧に紐解きます。
我が子がトラブルに巻き込まれた時、そして我が子がトラブルの発端となってしまった時、親や周りの大人はどうするべきなのか。
そうしたトラブルに無縁の子どもをいかにして育てるのか、といった実践的な問いにも答え、子どもに関わるすべての大人に必要な心構えを探ります。
目次
はじめに
第一章 大人が知らない現代のいじめ
第二章 教室内の荒ぶる小学生
第三章 低年齢化する児童ポルノ
第四章 正しい恋愛ができない
第五章 自分を傷つける子どもたち
第六章 思いやりのある子どもの育て方
おわりに
はじめに
気のいい昼下がり、あなたは会社での業務を片付け、ほっと一息つこうと休憩室に入った。スマートフォンに目を落としたところ、複数の着信履歴が表示されていた。発信元は、子どもが通っている小学校だ。
脳裏にはいくつかの不安がよぎる。子どもが熱を出したのだろうか、それとも体育の授業で怪我でもしたのだろうか……。あなたは少し不安になりながら、電話をかけ直してみる。
しばらくして出てきた担任の先生は、次のように言った。
「おたくのお子さんが、クラスメイトに手を上げて怪我をさせてしまいました。今、クラスメイトは養護の先生に連れられて病院へ行っていて、お子さんは校長室にいます。お忙しいところ恐れ入りますが、お話ししたいことがありますので、今から小学校へお越しいただけないでしょうか」
なぜうちの子はクラスメイトを傷つけたのか。相手の子は無事なのだろうか。様々な疑問が渦巻くが、先生は学校で直接説明するとの一点張りだ。
あなたは仕方なく電話を切り、上司に事情を説明し、荷物をまとめる。背中に同僚たちの冷たい視線を感じるが、気づかないふりをして小走りに去る。
会社を出ると、凍てつく風が吹きつけてくる。駅へ向かって歩いていくうちに、あなたはどんどん憂鬱になってくる。思い出されるのは、保育園の頃から子どもがたびたび似たようなトラブルを起こし、呼び出されたことだ。
ある時は同級生を突き飛ばし、ある時は友達が大切にしているゲーム機を壁に投げつけ、ある時は給食をひっくり返した。
そのつど、先生から呼び出されて懇々と注意を受け、被害に遭った同級生や保護者に平謝りした。あなたの頭には、これまで他の親から投げかけられた刺々しい言葉が浮かぶ。
―あの子は生まれつき乱暴な性格らしい。
―ちょっとした障害があるんじゃないかな。
―親の真似して暴力を振るっているんじゃない?
自分なりに子どもとはきちんと向き合ってきたつもりだし、ことあるごとに人と仲良くすることの大切さを言い聞かせてきたつもりだ。それでもこうしたことがつづくなら、これ以上親として何をすればいいのだろうか。
そうしたことを自問自答しているうちに、いつしかあなたは自分が「ダメ親」のレッテルを貼られたような惨めな気持ちになり、目から大粒の涙があふれてくる―。
プロフィール
ブックデザイン:アルビレオ
イラスト:朝野ペコ
DTP:有限会社マーリンクレイン
校正:株式会社文字工房燦光







