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料理のマネジメント キッチンを制する者がビジネスを制す!

料理のマネジメント

著者曰く、経営学とは「誰かのために、何かをして、喜んでもらう」という、人間の幸せについて考える学問である。であるならば、料理に応用できないはずはない!そんな“発見”から生まれた前代未聞のビジネス書。

  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 2011.11発行
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内容

ビジネスの鉄則をキッチンで学ぶ!? ヒントは「経営学」にあり。

著者曰く、経営学とは「誰かのために、何かをして、喜んでもらう」という、
人間の幸せについて考える学問である。
であるならば、料理に応用できないはずはない!
そんな“発見”から生まれた前代未聞のビジネス書。

「美味しい料理」とは「顧客満足」である、
ランチェスターの法則を活用すれば素人でも一流シェフに勝てる
など、
キッチンを舞台に、驚きの論理展開から経営学と戦略論の基礎を体得せよ。

はじめに

 私は、IT系ベンチャー企業の経営者です。人事と経営戦略(人的資源管理論、戦略論)を専門としており、この分野における実務経験をもとにして、本を執筆したり、業界誌に論文を掲載したりもしています。
 そんな私が、どういう正当性をもって、この料理に関する本を世に送り出すことになったのか―話は、ここから始めないとならないでしょう。

食べることについて書かれた書物

 まず、あくまで趣味としての料理を楽しむ私は、当然、料理のプロではありません。正直申し上げて、作ることよりも、食べることのほうが好きなぐらいです。ただ、食べることについては、これまでかなり真剣に調べ、考えてきたつもりです。
 そんな長年の読書を通して気がついたのは、この世界には(1)生物学的な側面から食べることについて書かれた本、(2)文化的な側面から食べることについて書かれた本、(3)技術的な側面から料理について書かれた本の、3種類しか存在しないということです。

 私は、これら3種類の本に対して、さらにひとつ別の視点を加えることができる。そんなことを考えるようになったのは、私がオランダに暮らしていたころのことでした。
 ワークシェアリングの発達したオランダでの暮らしは、実にゆったり、のんびりとしたものです。オランダは、基本的に残業をすることが許されない社会ですので、必然的に、自宅で家族と一緒にいる時間が長くなります。
 なにせウイーク・デイでも、午後5時には仕事を終えて自宅にいるわけです。家族と一緒に、スーパーに夕食の食材を調達しに行く機会が増え、自然と料理もするようになりました。友人の家族を自宅に招いて、自分の料理をふるまうことも多くなりました。
 食材を買いに行って、ワインを飲みながら料理をして、夕食後には家族で映画を観て、その後散歩をしても、まだ時間が余りました。そこで私は、日本にいたころよりも多くの本を読むようになり、いつしか読書だけでは物足りなくなり、仕事をしながら地元の大学に通って経営学修士号(MBA)を取得したのでした。
 大学で経営学を学びながら、私は、ひとつ面白い考えに至りました。

経営学を料理に活かす

 経営学とは、単なるお金儲けの学問ではありません。私の意見では、経営学とは「誰かのために、何かをして、喜んでもらう」という、人間の幸せについて考える学問です。そんな経営学の視点が、料理に応用できないはずはないと、そんなふうに思ったのです。
 具体的には「家族や友人のために、料理をして、喜んでもらう」ために、経営学的なアプローチをとりはじめました。

 例えば「美味しい」とはどういうことでしょうか。
 生物学的には、生存に必要な栄養素が、バランスよく含まれている食物を口にすることです。文化的には、それぞれ歴史や背景によって美味しさの定義が異なります。技術的には、良い食材に、優れた調理をすることから得られる料理の評価でしょう。
 しかし経営学的には、美味しいか、美味しくないかは、顧客が決めることです。顧客の好みを理解し、心地よい食事の環境を準備したうえで、ちょっとしたサプライズなども含めて、トータルでの「食事体験」を顧客に届けたとき、そこに美味しいという幸せな感情が生まれます。
 何万円もする一流のフランス料理よりも、ずっと美味しく「感じられる」ような、290円のノリ弁は実在するのです。

料理に失敗してしまう3つの原因

 週末、家族のために料理をするビジネス・パーソンは多数いるでしょう。ですが「料理の上手な人」という評判を獲得できるビジネス・パーソンは、現実にはほとんどいないのは、どうしてなのでしょう?
 自分自身の失敗体験を振り返りつつ、ビジネス・パーソンが料理に失敗してしまう原因を考えてみると、次の3つにまとめることができます。

 1.いきなりプロ顔負けを目指す(不可能な目標を目指す)
 2.分量をきちんと測らない(それが「プロの料理」だと思っている)
 3.調理に時間をかけすぎる(盛り付けや雰囲気作りには頓着しない)

 要するに、通常のビジネスでは嫌われる、経験・カン・度胸(KKD)に頼ったアプローチになってしまっているということです。さらに、慣れない料理をすることの目的も「料理が上手な人だと思われたい」とか「楽しそうだからやってみたい」とか、とにかく自己中心的であることが多いのではないでしょうか。
 ですがこれは、できる限り科学的に、できるだけ顧客の目線(顧客満足)から逆算してものごとを考える経営学的な視点からすれば、ありえないことです。

 普段は、データ(ファクト)を大切にし、顧客満足を真剣に考えているビジネス・パーソンたちが、こと料理になると、こうした顧客の目線を失ってしまうのは不思議なことです。逆に言えば、ビジネス・パーソンたちは、普段ビジネスで使っているのと同じ発想を料理に持ち込みさえすれば、短期間であっても、料理の腕前を高めることができるはずなのです。

本書の主張

 「美味しい」という感情を決めるのは、料理をする自分ではなくて、自分の料理を食べてくれる家族や友人(=顧客)です。この一点からブレることなく、そこを突破することを、経営学的な視点からまじめに考えるのが本書です。
 このチャレンジから得られる報酬は、家族や友人が「美味しい!」と喜んでくれることです。こうした嬉しい経験を重ねると、普段の仕事でも、より深い視点から顧客に喜んでもらえることを考えるようにもなるでしょう。

 経営の神様とも称された故ピーター・ドラッカーは、かつて「企業の目的は、顧客の創造である」と言いました。プロではない私たちにとって、料理の目的とは、自分のことを気にかけてくれる顧客を作ることです。料理は、誰かに、何かをして、喜んでもらうための手段であって、それ自体が目的ではありません。
 ここを理解すると、普段、ほとんど料理をする機会のない人が、いきなりプロ顔負けを目指すことが、いかに馬鹿げているかがわかると思います。具体的には、先の3つの失敗の原因を取り除くために、本書は次の3つの視点を大切にしています。

 1.プロ顔負けではなく、顧客(家族やお客様)に喜んでもらうことを目指す
 2.測定にこだわり、再現性(何度でも同じ味が出せること)に執着する
 3.調理経験の浅さを、味覚や料理に関する知識と戦略でカバーする

 本書は、ビジネス・パーソンとして限られた機会を活かしながら、家族や友人に喜んでもらえる料理をするための方法論を示すものです。料理というテーマを通して、多くの人に経営学的な考え方を学んでもらいたいという野望も、同時に狙っております。
 また、料理を知らないで、食べてばかりというのは、ある意味、ルールを知らないでスポーツ観戦をすることに似ています。料理をしない人であっても、本書を読むことで、そうしたルールを理解することができるでしょう。
 みなさまの人生が、料理を学ぶことによって、より豊かで楽しいものになることを願っています。

目次

はじめに

第1章 ビジネス・パーソンの料理、その基本戦略を考える
 1 私たちが、一流シェフに負けないという合理的な理由
 2 一流シェフに負けないための、具体的な戦略
    [調理アイテム頂上対決]スキャンパン VS ビタクラフト
 3 戦略論の基礎(ちょっぴり経営学)
    COLUMN 手を洗うことは簡単だろうか?

第2章 美味しいとは、どういうことだろう?
 1 レシピは、料理を教えてくれない
    [調理アイテム頂上対決]ル・クルーゼ VS ストウブ
 2 そもそも「味」とは、なんだろうか?
 3 美味しいとは、どういうことだろう?
    COLUMN ビジネス・パーソンと野菜の関係」

第3章 最低限おさえておくべき料理の基本
 1 最も重要な美味しさの条件、それは塩
 2 切る! 切る! 切る!
    [調理アイテム頂上対決]ミソノ VS タケフナイフビレッジ
 3 火加減を調節する
 4 出汁について知り、3つの旨味調味料をそろえる
 5 水について知り、正しく対処する
    COLUMN 辛味調味料ローカンマ(老干媽)

第4章 ビジネス・パーソンがプロに勝つ料理
 1 顧客調査(食べてくれる人のことを知る)
    [調理アイテム頂上対決]大矢製作所 VS 新光金属
 2 アクティビティー図による行動の設計と把握
 3 プロに勝てるレシピ
 4 レシピ1・カレー
 5 レシピ2・餃子
 6 レシピ3・バーニャカウダ
    COLUMN 魚の選び方

第5章 さらなる顧客満足のために
 1 献立デザインのエッセンス
    [調理アイテム頂上対決]星野さんの卵焼き器 VS 久慈砂鉄鍋
 2 盛りつけのエッセンス
 3 音楽と料理
    COLUMN オリジナルのタレを作ろう!

あとがき
一流レストランのBGMリスト
主な参考文献

略歴

[著者]
酒井 穣(さかい・じょう)
フリービット株式会社取締役(人事担当、長期戦略リサーチ担当)。特定非営利活動法人NPOカタリバ理事。
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学TiasNimbasビジネス・スクール経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社勤務後、オランダの精密機械メーカーにエンジニアとして転職、オランダに移住する。2006年、ベンチャー企業J3 Trust B.V.を創業し、最高財務責任者(CFO)としての活動を開始。2009年、フリービットに参画するため帰国。
現在は東京大学(Learning Bar)や慶應MCC、中央大学MBAなどでゲスト講師も務める。 主な著書は『はじめての課長の教科書』『あたらしい戦略の教科書』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「日本で最も人材育成する会社」のテキスト』(光文社新書)、『これからの思考の教科書』(ビジネス社)など。

●ブログ:NED-WLT http://nedwlt.exblog.jp
●メルマガ:人材育成を考える http://archive.mag2.com/0001127971/
●Twitter:@joesakai

●装丁/萩原弦一郎(デジカル)
●口絵 撮影/南都礼子