感染症 日本上陸 新型インフルエンザだけじゃない! 今、感染症のグローバル化が始まった
デング熱、マラリア、コレラ、狂犬病…… わたしたちの身近には実に多くの感染症が忍び込んでいる。 世界中からやってくる様々な病原体の恐怖と、その対処法を徹底解説。 新たな脅威、多剤耐性菌についても詳説!
- 書籍:定価1760円(本体1,600円)
- 電子書籍:定価1408円(本体1,280円)
- 2010.10発行
内容
世界中を震撼させた新型インフルエンザ09のパンデミックは、
「感染症に国境はない」ということを強く知らしめた。
しかし、注意しなければいけない感染症はまだまだたくさんある。
実に多くの病原体が、すでにわたしたちの身近に忍び込んでいるのだ。
毎年100万人の命を奪う熱病――マラリア
全世界で流行し、発病すれば致死率100%――狂犬病
大流行の後に忽然と消えた猛毒ウイルス――SARS
いまだ感染の危険は去っていない――鳥インフルエンザ
さらに、日本も集中流行へ向かうエイズ、4人に1人が感染している結核、
近年猛威をふるっているノロウイルス……
「海外には行かないから大丈夫」という認識では、もはや自分の身は守れない。
世界中からやってくる様々な病原体の恐怖と、その対処法を徹底解説。
新たな脅威、アシネトバクターやNDM-1など多剤耐性菌についても詳説!
はじめに
記憶に新しいところでは、2010年9月、東京の帝京大学医学部附属病院でアシネトバクター菌による院内感染が発覚(46人感染、9人死亡/8月末日現在)、さら全国92病院でも感染が確認されました。加えて、栃木県の獨協医科大学病院では、NDM-1(ニューデリーメタロβ-ラクタマーゼ)産生菌による感染例が見つかりました。どちらも世界各地で拡大しつつある、複数の薬が効かない菌=多剤耐性菌です。
アシネトバクター菌に感染した患者が日本で初めて見つかったのは2008年10月、福岡大学病院でした。海外病院でケガの治療中に感染し、同病院に転院していた1人の患者から二次感染がおこり、23人が感染しています。この菌は健康な人には感染せず、病気やケガで重症の人だけが感染するので、院内感染として広がっています。今回の帝京大学医学部附属病院では海外で感染してきた人ではなく、ずっと国内にいた人が感染源のようです。日本の病院でもひそかに広がっているかもしれません。
NDM-1産生菌は、その名のとおりインドで感染例が確認され、イギリス、アメリカなど世界各地に拡大している感染症です。これは健康人にも感染するので一般社会に拡大する可能性があります。獨協医科大学病院での感染者は、インドから帰国した男性であったと報告されています。
実は、このように“海外で感染、国内で発病”というケースが今、増えているのです。
バリ島でデング熱に感染してくる日本人の増加もその一つです。2010年1月から8月までに確認された国内のデング熱患者54人のうち、バリ島からの帰国者がほぼ半数の26人、インドネシア全体からの帰国者が7割の37人を占めました。デング熱は、日本には存在しないので、あまり知られていませんが、最近、タイ、フィリピン、ブラジルなど熱帯・亜熱帯地域でたいへん流行しています。デングウイルスを保有する蚊に刺されることによって感染し、発熱と頭痛、全身の痛みで発症し、まれに大出血やショックをおこして死亡するという怖い病気です。
2009年にはバリ島から帰国した人のうち、34人が下痢をおこし、うち6人から赤痢菌が検出されています。赤痢は、日本では激減した病気の一つで、今ではほとんどが海外での感染か、その二次感染です。激しい下痢をおこし、重症化しやすい危険な病気です。赤痢は患者の糞便で汚染された水・食物などを介して感染するので、二次感染が広がり、流行に発展するおそれがあります。
他にも、結核、コレラ、病原性大腸菌感染症、アメーバ赤痢、ジアルジア症、さらにマラリア、チクングニヤ熱などの感染症が日本に上陸しています。
欧米諸国でも同様です。その主な要因は(1)外国旅行者の増加(2)訪問国での感染症の流行(3)旅行者の感染予防の不備の3つです。(1)はあらゆる分野でグローバル化が進み、ビジネス、観光、ボランティア、文化・スポーツ交流などで渡航する人たちが増えているということです。(2)は多くの国・地域で、古くからある病気から新しく出現した病気まで、多くの感染症が蔓延、流行しているという事実です。(3)は(2)の地で十分な感染予防策を実施せず、感染してしまう人たちが多いということです。
この3つの要因が重なって、感染症のグローバル化が一段と進行しています。多くの人々が地球上を駆けめぐり、さまざまな病原体を運び、感染症を広げているのです。その一例が新型インフルエンザ09のパンデミック(世界的大流行)であり、SARS(サーズ)の爆発的流行であり、エイズの世界的蔓延です。
さらに動物の輸出入や物流も、感染症のグローバル化に拍車をかけています。日本でも、輸入されたペットのカメからサルモネラ菌をうつされた、輸入冷凍イカを食べて赤痢の集団発生がおこった……などの例が発生しています。
感染症は、感染者や患者の多い国(地域)から少ない国(地域)へ広がるのが普通ですが、グローバル化した今では、全方向に拡大していきます。したがって、どこにいても、どのような感染症が存在し、どのような予防策が必要か、つねに意識して対応することが重要になってきました。
感染症の多い国(地域)では水・食物、虫、動物などが感染源となります。水道水をそのまま飲み、生野菜や刺身を好んで食べ、蚊を手で追い払い、イヌやネコを見たらなでてやる……といった日本の常識は、感染症の多い国(地域)の非常識です。その地域で流行している感染症に応じて、水・食物の安全が確認できないときは生水、生ものを避け、十分に加熱したものを飲食する、蚊、ダニなどに刺されない服装をし、防虫スプレーを使用する、イヌやネコ、野生動物に手を出さない、不特定多数との性行為をしない……といった予防策が必要になります。より確実に予防するため、ワクチン接種が必要な場合もあります。
今や、海外に出かける人はもちろん、国内で過ごす人も、海外で流行する感染症と無関係ではいられません。本書が感染症対策の一助になれば幸いです。
目次
はじめに
第1章
感染症に国境はない! 拡散する病原体、運び役はあなたかも
どの国も安全ではない! 人類は感染症に包囲されている
・感染症もグローバル化
・新型インフルエンザはいつ、どのように日本上陸したのか
・交通の発達で、病原体が拡散しやすくなった
人、動物が運ぶ 病原体の輸出入ルート
・途上国から持ち込む
・さまざまな旅行者下痢症
・先進国も輸出する
・動物とともに上陸する
・日本は麻疹を輸出していた
日本発のアウトブレイクも! この国に定着してしまった感染症
・O-157、大阪でアウトブレイク! 一度に7900人感染
・わずか100個の菌でも感染
・水蒸気に混じって飛散するレジオネラ菌
・水道水に混じって広がるクリプトスポリジウム
第2章
見えないけれどそこにいる 病原体の正体を知る
人の隙をねらって侵入してくる病原体
・病原体の特徴
・病原体はどこにいるのか
・体と病原体の攻防
覚えきれないくらい多いから感染症を“特徴分け”してみる
・危険度で分ける
・感染の仕方で分ける
・病原性と感染力
人社会の変化が未知の病原体を招き寄せた
・新たな恐怖の出現
・新興感染症はなぜ出てきたのか
次々出現してくる薬が効かない細菌やウイルス
・院内感染で広がる強力な致死性細菌
・なぜ薬が効かないのか
・長く続いたMRSAの院内感染
・結核、インフルエンザ、マラリアでも薬剤耐性が……
第3章
新型インフルエンザだけじゃない! こんな病気が国境を越えてくる
日本で4人に1人が感染! 結核こそ最大のグローバル感染症
・結核ってなに?
・結核は予防できるの?
・結核は治せるの?
・外国人の結核患者が増えている
・薬の効かない結核が広がる
・結核とAIDS“呪いのデュエット”
新型インフルエンザの陰で猛威をふるったノロウイルス
・豪華客船でも発生するノロウイルス感染症
・ひどいときは1日10回以上も嘔吐、下痢
・ノロウイルス感染症の予防
感染源はイヌだけじゃない! 発病すれば100%死ぬ狂犬病
・日本は根絶、でも全世界で流行
・発病すると水や風を恐がる
・咬まれた後すぐにワクチン注射で発病を予防
蚊が媒介する熱病・マラリアは毎年100万の生命を奪う
・蚊の唾液に混じって人の体内に侵入
・マラリアの予防と治療
デング熱とチクングニヤ熱
危機意識が低下する中、日本のエイズも集中流行に向かう
・日本のHIV/AIDSの現状
・世界のHIV/AIDSの現状
・HIVの流行を阻止するには
・HIVはここから感染してくる
・HIVの感染を予防する
・感染に早く気づき、発病を予防する
性器クラミジアと淋病
第4章
世界は危険がいっぱい! 各地で恐い感染症が続発している
続々出現する恐怖の死病!
・悪魔が復活する――ペスト
・現実は映画より悲惨――エボラ出血熱
・野ネズミからうつり、7~8割が死ぬ――ラッサ熱
・サルを用いた研究が生命を奪う――マールブルグ病
・ダニに咬まれて死ぬ――クリミア・コンゴ出血熱
・肺が水浸しになって半数が死ぬ――ハンタウイルス肺症候群
・黒い血を吐いて死ぬ――黄熱
人社会への警告? ナゾ多き危険な感染症
・ブタも人も脳を侵される――ニパウイルス感染症
・海を渡った鳥とウイルス――ウエストナイル熱(脳炎)
・忽然と消えた猛毒ウイルス――SARS
・感染の危機は去っていない!─H5N1型鳥インフルエンザ
先進国も油断できない! 国/地域別・感染症情報
第5章
うつらない、うつさない! 感染予防の知恵とワクチンを知る
感染予防の原則 病原体と接触しないよう努める
・感染の仕方・経路別の予防策
・感染予防のTPOす
早く気づきたい! 感染を疑う4つの兆候
麻疹も減少 手洗いのすごい効果
・手洗いの基本
・手指衛生が不十分になりやすい部位
・正しい手洗いの手順と方法
みんなの社会常識 飛沫感染を防ぐ咳エチケット
・咳エチケットの手順
・過信は禁物! マスクの感染予防効果
・マスクの正しい着け方、外し方
食中毒をおこさない! 水、食物を安全にする知恵と工夫
・国内での食中毒予防のポイント
・海外での水・食物への対策
蚊、ダニ、イヌ……危険な虫と動物を避ける
・蚊に刺されない工夫
・ダニに咬まれない工夫
・イヌに手を出さない
感染予防の切り札! ワクチンの効果と活用
・ワクチンってなに?
・ワクチンの種類
・定期接種と任意接種
・トラベラーズワクチン
・マラリア予防内服
おわりに
付録資料データ
監修者
濱田篤郎(はまだ・あつお)
医学博士。東京医科大学病院・渡航医療センター教授。
1981年に東京慈恵会医科大学卒。米国Case Western Reserve大学に留学、感染症、渡航医学を修得。2004年、海外勤務健康管理センター所長代理、外務省新型インフルエンザ対策・医療専門委員を経て、2010年7月より現職。
著書に『旅と病の三千年史』(文春新書)、『疫病は警告する』(洋泉社新書)、『伝説の海外旅行』(田畑書店)、『世界一「病気に狙われている」日本人』(講談社+α新書)、『新疫病流行記』(バジリコ)など多数。
著者
渡邊靖彦(わたなべ・やすひこ)
医学ライター。福島県生まれ。
国学院大学文学部中退。地方紙記者を経て1973年よりフリーランスとなり、新聞、雑誌などで医学・医療記事を中心に執筆。 主な記事に「生命倫理」「不妊治療」「看護事故」(いずれも『ナース専科』文化放送ブレーン)、主な著書に『病気にならない料理レシピ100』(宝島社)、『読むとわかる脳ドック』(同文書院)、『最新 褥瘡ケア・マニュアル』(医学芸術社)、『微生物学』(医学芸術社)などがある。
●企画・編集/宮下徳延(アディック)
●カバーデザイン/勝原康介
●本文デザイン・DTP/マッドハウス
●校正/麦秋アートセンター