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新装版 きもの歳時記
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新装版 きもの歳時記

新装版 きもの歳時記

正しい知識を教えられる人が少なくなりつつある日本の伝統美、きもの。研究家として伝え残したい四季折々のきものの味わいや、伝統の意匠、そこに込められた意味。きものへの愛情とその魅力。日本の四季や文化を再発見する、TBSブリタニカの「歳時記シリーズ」 復刊第二弾!

  • 書籍:定価1760円(本体1,600円)
  • 電子書籍:定価1408円(本体1,280円)
  • 2017.03.24発行
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目次

三月
袴 はきもの考 付け下げ 絵絣
四月
繭の話 色無地のきもの サリーときもの

五月
襷 結城に支えられて 紅花―植物染料のこと

六月
衣替 天然繊維と化学繊維 阿波しじら 半衿
七月
露草の花 祭りとゆかた 女と夏もの
八月
上布―夏の涼しさ 絽縮緬の長襦袢 流行とおしゃれ

九月
秋袷 足袋 黄八丈
十月
男のきもの 紋のはなし 嫁入り支度
十一月
紐と紐結び 留袖と花嫁衣装 帯―女の執念 産着

十二月
羽織礼讃 喪服―慶事と弔事の黒と白 綿入れ
一月
晴着―若い振袖 白生地と女の一生 ある友禅師の話
二月
江戸小紋―武士のこころ 布の味 銘仙 ポンチョと貫頭衣
あとがき

春 三月

袴 はかま

いきいきと三月生る雲の奥  龍太

 歳時記は、春からはじまる。
 新年は年の初めで〝新春〟〝初春〟の季語はあるが、全身に春の感じられるのは三月。立春前後は光だけが明るく春で、如月―着更着ときものを更に重ねる二月は、まだ冬のさなかである。
 ゆきつ戻りつした春の気配が色濃くなるのは、草木が彌いよ々いよ生い出る彌 生で、この月は若人の月ともいえるだろう。
 ことに、三月も半ばをすぎると、街角に袴姿の学生が見うけられる。卒業式に向かう女子大生である。たいていは色無地紋付に紺の袴で、やや高めに袴紐を結びたれ、きりっと後ろあがりに着付けた姿は凜り々りしく、こういう恰好をしそこなった私は足を止めて見とれるほどだ。
 袴は男性でも女性でも、裾すそ短に着たい。ぴちっと足にあった白足袋の、皺のない踝くるぶしのあたりが見えるほどの短さである。きものも羽織も後ろ下りに着付ける和装のなかで、袴と帯だけは前よりも後ろが上る。前は足の甲にかからぬのがよく、ぞろりと長いのはみっともない。
 したがって袴の丈が重要なのだが、後ろ下りになる原因は、帯や帯結びにもよる。

 袴下の帯は細帯か、博多の半幅を一文字結びにし、その上に後ろ紐の腰板をしっかりのせると安定する。
 どうせ袴をはくからと伊達締めだけでは止るところがないから、後ろが下るばかりでなく、脇の笹ひだの間からまる見えでみっともない。
<以下略>

あとがき、付記

あとがき
 時と所を得て、長年あたためていた随想が一気にまとまった。
 本腰をいれて、きものの仕事をするようになって、十五年経つ。
 原稿を書くにつれ、(実にいい人たちにめぐりあった)という感懐が湧きおこってきた。
 大塚末子先生の秘書としての就職のきっかけを作ってくれた武田百合子さん、きものへの目を開かせてくださった大塚末子先生、同じきものの道の大先輩で温かい励ましをくださった木
村孝先生と河上徹太郎夫人。そのほか、一人ひとり挙げることはできないが、たくさんの方がたに支えられて、ここまで来たという思いが深い。
 過去を振り返ることのできる人生の折り返し地点に立ついま、この本が出版されるにあたって、喜びと懼おそれに溢れている。
一九七九年暮

付記

 四十年あまり前、どん底にあった私はある日、偶然にもTBSブリタニカ(CCCメディアハウスの前身)の〝歳時記シリーズ〟の広告を見た。
 一流の著者の名も見られるのにおそれげもなく、それなら〝きもの歳時記〟も必要と思いついて、やみくもに書いた原稿を送りつけた。
 意外にも無名な私の原稿は採用され、立派な本となった。
 そればかりか、毎年増刷され、知らない読者から多くの感想文をいただき、心も懐も潤ったうえ、この本がきっかけで仕事の範囲も広がった。
 しかし五十年にわたって収集した資料(きもの・書籍)を抱え、どうしたものかと思案する一方、(まだまだ書きたいことが山ほどある)と現在、乏しくなった原稿用紙を抱えて心穏やかではいられない。
  二〇一七年春
                                                           山下悦子

装丁/名久井直子
装画/福田利之
校閲/円水社