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アステイオン84
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特集  「帝国の崩壊と呪縛」池内 恵/池田明史/小泉悠/廣瀬陽子/岡本隆司/齊藤茂雄/森井裕一[論考]五百旗頭薫/マリー・ラル/宮武実知子/砂原庸介[アステイオン30周年インタビュー山崎正和+ 苅部 直[アステイオン30周年特別企画田所昌幸/苅部 直/張 競/細谷雄一/待鳥聡史写真で読む研究レポート通崎睦美連載]「リズムの哲学ノート」山崎正和

  • 書籍:定価1100円(本体1,000円)
  • 電子書籍:定価1100円(本体1,000円)
  • 2016.05.19発行
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内容

特集 帝国の崩壊と呪縛
 
 二〇一六年は、一九一六年に合意されたサイクス=ピコ協定から一〇〇年の節目にあたる。おりしもサイクス=ピコ協定を基礎にして引かれた中東の国境線と国家の溶解が進み、中東の地域秩序が揺らいでいる。
 揺らぎは一時的・過渡期的なものなのだろうか。あるいはあってはならない異常事態なのだろうか。
 むしろ、われわれは近代の歴史を帝国の崩壊、それも繰り返し起こる崩壊として見てみることで、視界が開けるのではないか。

 われわれは近代の歴史を、なんらかの「発展」として捉えがちだ。主権国家や国民や、自由や民主主義や人権といった、近代の発展の目的に向かって、個人が、人間集団が、社会が、国家が、国際社会が、それぞれに発展していくものとして歴史を見出していく。そこに障害がある問題が現れれば、取り除き、先に進めばいい。そのように考えてきた。
 しかしここに考え直してみる余地がある。近代史はむしろ、前近代から引き継いできたものの絶えざる崩壊と見る方がいいのではないか。崩壊の後に打ち立てたと思った何ものかも、さほど時を置かずしてまた崩壊する。そして崩壊のたびに、近代国家ではなく、その前の帝国の残骸が現れる。帝国は繰り返し崩壊することで近代にその残影を晒し続ける。帝国の呪縛にわれわれは今も囚われている。

 われわれが直面し、乗り越えようとしている様々な問題は、領土問題であったり、国境問題であったり、あるいは民族問題であったり、宗派問題であったりする。それらを、帝国の崩壊という共通の文脈の上に置き直してみることで、それぞれの異なる問題の背後に隠れていた、なんらかの共通の構図が浮き彫りになるかもしれない。そして、解決のためにあまりに多くの障害があると思われている問題にも、共通の理解が不可能であるかのように見えている問題にも、様々な帝国の崩壊と、それぞれの崩壊のさせ方から発生した問題としてとらえ直すことで、議論の共通の土台や、突破口が、見いだせるかもしれない。
 

目次

特集   帝国の崩壊と呪縛

巻頭言

・・・・・池内 恵   

現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く――欧州ホームグロウンテロの背景
・・・・・国末憲人 
 
溶解する中東の国家、拡散する脅威
・・・・・池田明史  
 
ロシアにとっての中東──新たなパワーゲームへの関与
・・・・・小泉悠
 
帝国の落とし子、未承認国家
・・・・・廣瀬陽子    
 
清朝の崩潰と中国の近代化
・・・・・岡本隆司 
 
古代トルコ系遊牧民の広域秩序
・・・・・齊藤茂雄 
                 
国民国家(ネイションステイト)の試練──難民問題に苦悩するドイツ
・・・・・森井裕一

 
<論考>
噓の明治史――福地櫻痴の挑戦
・・・・・五百旗頭薫
                                        
民主化後のミャンマー――期待と現実
・・・・・マリー・ラル
 
沖縄の護国神社
・・・・・宮武実知子

領域を超えない民主主義――広域連携の困難と大阪都構想

・・・・・砂原庸介  
                             
<連載>
 「リズムの哲学ノート」 第七章 リズムと「私」
・・・・・山崎正和 
 
<特別企画インタビュー>
鋭く感じ、柔らかく考えてきた三十年
・・・・・山崎正和+ 苅部 直
 
<特別企画「アステイオン三十年を振り返る」>
世界の思潮の把握と日本からの知的発信の試み
・・・・・田所昌幸  
 
根源的な思考と時代の省察
・・・・・苅部 直
  
技術至上の現代になぜ文学芸術が大切か
・・・・・張 競  
 
歴史の教養と外交の叡智、冷戦後世界を見通す三人の歴史家
・・・・・細谷雄一  
 
日本政治論の不在から、自律した政治学に基づく発信へ
・・・・・待鳥聡史 
 
<グラビア地域は舞台 あいの会「松坂」(三重県松阪市)> 
歴史を今に 弾けよ! ロマンとソロバンの街・松阪 
・・・・・御厨 貴
 
<世界の思潮>
日本はどこまでアジアか――東アジア「近世化」論争
・・・・・小川和也 
 
ゲーム研究の現在――「没入」をめぐる動向
・・・・・吉田 寛 
 
第一次世界大戦と日本
・・・・・奈良岡聰智
 
<写真で読む研究レポート>
愛しの木琴デイズ
・・・・・通崎睦美
 
<時評>
渡辺崋山と「徳川の平和」
・・・・・芳賀 徹

経済発展は文化の母か
・・・・・高階秀爾 

 
 「グローバル化以前」の国際化――一九六四年東京オリンピック・再論
・・・・・渡辺 裕

草取りと日本人
・・・・・藤森照信
 
コレクターと眼の老化

・・・・・奥本大三郎
 
Table of Contents 
バックナンバーのご案内
 

●アステイオン編集委員会委員
 
委員長 田所昌幸 
    池内 恵
    苅部 直
    張  競
    細谷雄一
    待鳥聡史
顧 問 山崎正和
 
●ブックデザイン/熊澤正人+村奈諒佳(POWERHOUSE)
●翻訳協力/ジャネット・アシュビー、斉藤裕一
●校閲/竹内輝夫
●編集協力/CCCメディアハウス書籍編集部