なぜ「つい」やってしまうのか 衝動と自制の科学
なぜ本当は必要のないものを買ってしまうのか。なぜ若い頃は無謀な行動をしがちなのか。なぜダイエット中なのに大食いしてしまうのか。最新の心理学と神経科学から「衝動=突発的行動」の謎を解き明かす。衝動にあらがう「自制心」の鍛え方も収録。
- 書籍:定価2200円(本体2,000円)
- 電子書籍:定価1760円(本体1,600円)
- 2015.02発行
内容
食べ過ぎ、衝動買い、恋愛、そして暴力……
あなたの行動は「衝動」に支配されている!
「ニューロマーケティングの父」とも呼ばれる著者が、
最新の心理学と神経科学から「衝動=突発的行動」の謎を解き明かす。
衝動にあらがう「自制心」の鍛え方も収録。
われわれはみな、自らを理性的な人間だと捉えがちだ……しかし、実際のところ、われわれの行動は「思慮深い」ものなどではなく、「思慮をともなわない」ものであるケースの方がずっと多い……肥満、アルコール依存症および薬物中毒、浪費、望まぬ妊娠、喫煙、心の問題、ぎくしゃくした人間関係、学業不振から大切な人生目標の不達成に至るまで、ほとんどの個人的、社会的問題の根底には衝動の存在があるのだ。(「はじめに」より)
なぜ本当は必要のないものを買ってしまうのか。
なぜ若い頃は無謀な行動をしがちなのか。
なぜダイエット中なのに大食いしてしまうのか。
なぜ周りに流されて悪事を働いてしまうのか。
なぜ人によって衝動性に差があるのか。
――あなたはもう、その「衝動」に無知ではいられない。
はじめに(抜粋)
(前略)
多種多様な面をもつわれわれの行動を理解するためには、衝動について理解することが欠かせない。というのも、われわれの行動の大部分は(第2章で説明するように)衝動で成り立っているからである。われわれはみな、自らを理性的な人間だと捉えがちだ。慎重に熟慮し、よくよく考えた上で行動を起こしていると信じてしまう。しかし、実際のところ、われわれの行動は「思慮深い」ものなどではなく、「思慮をともなわない」ものであるケースの方がずっと多い。論理と理性の所産ではなく、感情に駆り立てられた習慣的反応の所産なのだ。
喜びや怒り、嫉妬や羨うらやみ、愛や欲望、同情や強欲、憎しみや復讐心に動機づけられているとき、われわれは常に衝動的に考え、話し、行動してしまう。軽はずみな物言いをし、判断を急ぎ、急な決断を下し、結論に飛びつき、盲信し、理性的な分析よりも直感をずっと重んじる。自分のおろかさに気づいてはいても、どうしようもないのだ! 後で自分の衝動的行動を悔やむことがわかっていようが、どうしようもない。
人にはただただ自制心を失う瞬間があり、結果として合わない相手と恋に落ちたり、本当は必要のないものを衝動的に購入したり、向こう見ずな金銭的リスクを負ったり、おいしいチョコレートケーキをおかわりしてウエストを太らせたり、「2、3杯」のつもりが閉店時間まで絶え間なくアルコールを流しこむことになったり、暴飲暴食で健康を害したり、仲間からの圧力に負けて危険ないたずらに加わったりしてしまう。肥満、アルコール依存症および薬物中毒、浪費、望まぬ妊娠、喫煙、心の問題、ぎくしゃくした人間関係、学業不振から大切な人生目標の不達成に至るまで、ほとんどの個人的、社会的問題の根底には衝動の存在があるのだ。
(中略)
本書の執筆にあたってわたしが目指すのは、われわれがその場の思いつきで(たいていは理由もわからず!)行動してしまう理由について、心理学と神経科学が明らかにしてきた内容を説明することだ。最新の研究結果を紹介し、われわれの卑しい衝動がしばしば商業目的や政治目的で意図的に操作されている様子を示そうと思う。また、脳内で同時並行的に行われている2種類の思考タイプについても考察する。このうち、片方はゆっくりとした思慮深い思考であり、もう片方はスピードはあるものの誤りも多い思考である。
大人と比べ、ティーンエイジャーがより衝動的で向こう見ずな行動をとってしまう理由を理解するため、生まれてから20歳になるまでの脳の発達についても詳しく見ていこう。リスクを背負う際に性格がどのように影響するかを観察するとともに、多くの衝動的な誤判断の原因である「経験則的な」思考戦略(いわゆるヒューリスティクス)が、決断を下す際に果たす重要な役目についても述べる。衝動を引き起こす際に五感が担う役割や、自制心のもつ性質とその限界についても調べていこう。
本書の後半では、衝動が大きな役割を演じる人生の重大な4つの局面、すなわち「恋愛」「過食」「衝動買い」そして、「衝動が自己や他者の破壊へとつながるケース」について詳しく見ていこう。衝動のもつ長所と短所を理解し、衝動に身を任せた方がよい場合と任せない方がよい場合とを判断できるようになれば、われわれはより豊かで価値ある人生を送れるようになるかもしれない。
目次
はじめに
第1章 命を救ってくれた衝動
マガーク一家との約束
決して遅刻しない男
トンネルの中の少年
電車を乗り換えなかった男
第2章 無意識のゾンビ脳
思考の大部分は舞台裏でなされる
システムI――速く、直感的に
システムR――ゆっくり、整然と
思慮深い思考と衝動的な思考
システムI思考とゾンビ脳
機能的衝動と逆機能的衝動
機能的衝動性――空を飛んだバス
逆機能的衝動性――あるスキーヤーの死
第3章 衝動性と脳科学
新しい脳科学の台頭
現代のフィニアス・ゲージ
衝動性について脳損傷からわかること
人生に変化をもたらす脳の変化
ゾンビ脳と人間の生存
第4章 発達途上の脳
―― ティーンエイジャーはなぜ衝動的に行動しがちなのか
幼少期の衝動
ADHD――衝動に支配されるとき
子どもの脳はどのように発達するのか
精神疾患とティーンエイジャーの脳
子ども時代の衝動性は生物学だけで説明がつくのか
ティーンエイジのリスクと報酬
第5章 様々な感覚と衝動性
世界を理解する21の方法
嗅覚のもつ衝動的な力
第0脳神経と嗅覚
性的衝動についてフッター派が明らかにすること
衝動と閾下のにおい
香水と情熱
香りと衝動買い
衝動を引き起こす音の力
衝動を引き起こす温もりの力
第6章 衝動を招く視覚の力
われわれはいかにして見るのか
見る方法は学ぶ必要がある
閾下プライミングの力
文化の影響
理解は視覚にどう影響するか
第7章 個人差がある理由
―― リスクをとるか否かであなたの衝動性がわかる
あなたのリスク比率を調べてみよう
リスクテーキングのスタイル
スコアの出し方
衝動性を調べるテスト
脳の営みとリスク、信用
第8章 愛の衝動
―― 一目惚れから性衝動まで
即座に湧く欲望、徐々に募る恋心
ダーウィンが考えた恋愛の理由
愛と情熱
互いに惹かれあうことについての2つの理論
美を見る目
美しい顔とは対称的な顔である
肉体美
0・7――多産の比率?
興奮が魅力へとつながる理由
「吊り橋効果」
性格と性衝動
愛情、性欲と進化
希少性は魅力をアップさせる
パートナー選択に関する俗説
第9章 食べ過ぎの衝動
―― なぜダイエットできないか
ジャンクフードとジャングルでの生存競争
食べたいという欲求
衝動的な過食
生活を支えるバクテリア
ダイエットの衝動
過食衝動を人為的に生み出す
過食衝動に打ち勝つ10の方法
第10章 衝動買い
―― 買い物客を誘惑する手法
衝動買いの心理学
衝動買いとスーパーマーケットの台頭
世界一強力な販売マシンの中身
通路の法則
衝動買いと真実の瞬間
触れて、感じて、衝動買いして
ジャンクフードは安物フード
衝動買いの障壁を取り除く
第11章 模倣衝動
―― 突発的な暴動・自殺
暴動の衝動
模倣による自殺
同調圧力と自殺衝動
遅すぎた後悔
猿まね
他者の力
身体的興奮と模倣行動
「リーダーに従え」――模倣学習の力
瀬戸際で踏みとどまる
第12章 自制心を鍛えるには
自制心とは何か
衝動性と自制心
衝動vs.自制心
身体の状態と自制心
消耗から誘惑へ
自制心をもたらす脳の2つのシステム
燃料不足――グルコースと自制心
自制心を鍛えることは可能か
宗教的信仰と自制心の向上
まとめ
おわりに
―― 自由意志は大いなる錯覚である
謝辞
著作物に関する謝辞
注と引用
略歴
[著者]
デイビッド・ルイス
Dr. David Lewis
独立系の研究機関マインドラボ・インターナショナルの創設者であり研究主幹。研究やビジネスに役立てる目的で脳の活動を分析するという先駆的な研究を行い、「ニューロマーケティングの父」と呼ばれる。衝動的行動の心理学、神経学、遺伝学研究を専門に行うインパルス・リサーチ・グループの創設メンバーでもある。本書で明かされているように、若い頃はジャーナリストをしていた時期もあった。著書に『買いたがる脳』(日本実業出版社)など。
[訳者]
得重達朗(とくしげ・たつろう)
1987年、山口県生まれ。小中高時代を兵庫県西宮市で過ごす。上智大学文学部英文学科卒業。千葉県柏市在住。現在は翻訳活動を行うかたわら、学習塾で子どもたちに英語の指導を行っている。
●ブックデザイン/竹内雄二
●翻訳協力/トランネット
●校閲/円水社