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MICHAEL JACKSON, INC. マイケル・ジャクソン帝国の栄光と転落、そして復活へ

高崎拓哉/堂田和美/富原まさ江 著

MICHAEL JACKSON, INC.

突然の死から5年。今なお富を生み続ける“King of Pop”は、数十億ドル規模の巨大ビジネスそのものだった。音楽ビジネスに精通した創業者にして、あらゆる決断と創造性の源だったのは、「最も重要な商品」である彼自身。多くの証言から、実業家マイケル・ジャクソンに迫る。

  • 書籍:定価2090円(本体1,900円)
  • 電子書籍:定価1672円(本体1,520円)
  • 2014.06発行
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内容

突然の死から5年――今なお富を生み続ける巨大ビジネスとしてのキング・オブ・ポップに迫る。

ミュージックビデオ、映画、CM、ゲーム、服飾ブランド、スニーカー、そして音楽版権ビジネス……数十億ドル規模の巨大複合企業の創業者にして、あらゆる決断と創造性の源だったのは、「最も重要な商品」である彼自身だった。

ソロとしての経歴を本格的にスタートさせた1979年から、この世を去る2009年までに、マイケル・ジャクソンは11億ドルもの金を稼ぎ出した。そのうえ死後5年で、彼の財団はさらに7億ドルを生み出している。インフレを踏まえて現在の価値に換算すると、マイケルの生涯収入は合計で19億ドルになり、死後の収入も合わせると、彼がこれまでに稼いだ金額は26億ドルに上る。

キング・オブ・ポップの実業家としての才覚と成功の舞台裏を、それを目の当たりにした家族・友人・関係者[※]など数多くの証言をもとに、フォーブス誌のシニアエディターが丹念に解き明かす。伝説のミュージシャンとしてだけでない、ひとりの偉人としてマイケル・ジャクソンを再評価する。

どんなプロジェクトであれ、その分野において最も優れた人間、世界でも有数の人間──専門知識を持ち、良好な関係を築き、完璧な一体感を得られる相手──と組み、秘密裡に仕事をすること。そして周囲が予想もしないタイミングで、意表をつく最も強力で驚異的なプロジェクトを発表し、世間をあっと言わせる。そうすれば、そのプロジェクトは非の打ちどころのない宝となり、歴史に刻まれることになるだろう。すべてにおいて質の高さと完璧さを追い求めなければならない。偉人に学んで、さらに成長するのだ──誰にも知られずに。

――マイケル・ジャクソンの未公開のメモ
 

マイケル・ジャクソンはいかにしてエンターテインメント業界におけるアーティストのあり方を変えたのか、これまでにない視点から迫った新鮮かつ詳細なレポート。安っぽい煽情主義を避け、実際の取材に基づいて書かれた本書は、結果としてマイケル・ジャクソンの驚くべきビジネスセンスを伝える物語となっている。本書を読めば、次世代のアーティストのために彼が切り拓いた道が明らかになるだろう。
――ジョセフ・ヴォーゲル(『マイケル・ジャクソン コンプリート・ワークス』著者)

我々はメディアを賑わせたマイケル・ジャクソンの私生活を知っているが、本書は、それとはまったく異なるビジネスという世界に生きた人物の物語である。彼はスタジオでも厳しかったが、会議室ではもっと厳しかった。ジェイ・Zやレディー・ガガといったアーティスト兼実業家たちは、彼の存在があったからこそ誕生した。マイケル・ジャクソンの実業家としての側面に光を当てた著者に感謝したい。
――ダトウォン・トーマス(雑誌ヴァイブ元編集主幹)

※本書で著者がインタビューした人々(一部)
ベリー・ゴーディ(元モータウンレコード社長)、ウォルター・イェトニコフ(元CBSレコード社長)、マーティ・バンディア(ソニー/ATV会長)、トミー・モットーラ(元ソニーミュージックCEO)、ケヴィン・ライルズ(元デフジャムレコード社長)……
ジョエル・シュマッカー(脚本家)、ラスティ・レモランデ(映画監督)、ブルース・スウェディーン(レコーディングエンジニア)、マイケル・ブッシュ(衣装デザイナー)……
Ne-Yo、50セント、リュダクリス、ファブ・5・フレディ、ファレル・ウィリアムス、シェリル・クロウ、ジャスティン・ビーバー、ジョン・ボン・ジョヴィ……
ジョン・ブランカ(弁護士・共同遺産管理人)、サンディ・ガリン(元マネージャー)、ジョー・ジャクソン(父)、ジャーメイン・ジャクソン(兄)……

目次

序章 Introduction
 
Chapter 1  鉄鋼の町の夢 Steeltown Dreaming
Chapter 2 モータウン大学 Motown University
Chapter 3 大きな飛躍 Epic Changes
Chapter 4 帝国の誕生 Empire Building
Chapter 5 モンスターにキス Kissing the Monster
Chapter 6 勝利のビジネス The Business of Victory
Chapter 7 ビートルズを買う Buying the Beatles
Chapter 8 星々とのダンス Dancing with the Stars
Chapter 9 成功の光と影 Good and Bad
Chapter 10 ネバーランドへ Off to Neverland
Chapter 11 新しい靴、新しいビジネス New Shoes
Chapter 12 危険な冒険 Dangerous Ventures
Chapter 13 歴史の教訓 History Lesson
Chapter 14 無敵? Invincible?
Chapter 15 浪費の王 The Prodigal King

Chapter 16 ディス・イズ・イット This Is It
Chapter 17 死後の成功 Postmortem Payday
Chapter 18 不滅 Immortal
 
Appendix 付録──ATVに関するマイケル・ジャクソンの自筆メモ
Appendix 付録──マイケル・ジャクソンの生涯年収
Acknowledgments 謝辞
Books for Food 本で食べ物を
Notes 注

序章(抜粋)

1980年代中頃、アメリカきっての敏腕ビジネスマンたちが定期的に会合を開き、10億ドル規模のとあるエンターテインメント複合企業の経営戦略を練っていたことがあった。
 
非公式の重役会の中心メンバーは、以下のような面々だった。複数のレーベルを立ち上げ、のちにドリームワークススタジオを設立してハリウッド一裕福な男となるデイヴィッド・ゲフィン。雑誌エボニーを創刊し、黒人として初めてアメリカの長者番付「フォーブス400」に名を連ねたジョン・ジョンソン。ザ・ビーチボーイズやザ・ローリングストーンズなど、現在に至るまでロックの殿堂入りを果たした多数のミュージシャンの財務をあずかってきた弁護士のジョン・ブランカ。そして、お馴染みのサングラスで表情を隠したこの会の長、キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソン。
 
この巨大エンターテインメント企業の株式が、ニューヨーク証券取引所やナスダックで取引されたことは一度もない。それどころか、そんな企業が実在すると考える人さえほとんどいないだろう。それでも、この多国籍企業が生み出す製品は、過去数十年にわたって数十億の人々に消費され続けている。この組織がもし正式に法人化していたなら、それはこう呼ばれただろう―マイケル・ジャクソンINC(株式会社)。
 
85年、マイケル・ジャクソンINCは最も重要な買収を行った。ザ・ビートルズの版権を保有するATVを獲得したのだ。版権には〈Yesterday〉や〈Come Together〉〈Hey Jude〉をはじめとするビートルズ指折りのヒット曲が含まれていて、マイケルがそれに目をつけた。
 
取引が成立する数か月前のミーティングでは、買収成功の見込みは低いという意見が優勢だった。彼らはオーストラリアの大富豪ロバート・ホームズ・ア・コートと泥沼の交渉を重ねていて、コートはATVの値段を4000万ドル以上にまでつり上げていた。そのため会合でも、今後どう動くかについては意見が割れていた。
 
CBSレコードの社長で、重役会の顧問のような存在だったウォルター・イェトニコフは、提示額はあまりに法外だし、自分の手元にはすでに無数の会社がある以上、買収は不要と考えた。ゲフィンでさえ、入札額が上がりすぎだと考えているようだった。しかしジョンソンの考えは違った。だからマイケルに「どうしてもほしいんだろう? だったら金額を気にしてちゃいかんよ」と進言した。
 
言い争いが好きではないマイケルは、いつものミーティングと同じようにじっと黙っていたが、すでに心は決めていた。だから書類の裏に走り書きのメモをし、机の下からブランカに渡した。
 
「ジョン、頼むから買い叩こうとしないでくれ。この取引は逃したくない。あれは僕のものだ」
 
数か月後、マイケルはATVを4750万ドルで買い取った。ATVは今日、それ単体で約10億ドルの価値を有している。
 
────────
 
2009年に突如としてこの世を去ったマイケル・ジャクソンだが、残していった帝国の巨大さが示すとおり、彼のなかには企業があり、また彼自身が企業そのものだった。マイケルは帝国の創設者であり、クリエイティブな戦力であると同時に、最も重要な商品でもあった。帝国の体制は80年代半ばに確立された。マイケルはブランカ(言ってみれば最高経営責任者)、マネージャーのフランク・ディレオ(こちらはマーケティング部門統括本部長)らを重要ポストに据え、自身は会長の座に就いた。
 
マイケルと彼のチームは、ATVの買収以外にも画期的な業績をいくつも成功させた。アルバム《Thriller》では、ミュージックビデオによる宣伝も駆使して史上最高の売上(約1億枚)を記録し、ペプシと前代未聞の大型CM契約を結び(83年に520万ドル、87年に1000万ドル、90年に1500万ドル)、BADツアー(チケットの総売上は1億2500万ドル)などで音楽ツアーの記録を次々に塗り替えた。
 
マイケルの最も大きな功績は、名声を金銭に変換する公式を確立したことだ、とみる向きもあるだろう。マイケルは史上最も成功したミュージックビデオを作り、自ら映画に出演し、ベストセラーとなった自伝を書き、オリジナルの服飾ブランドを立ち上げ、セガとタッグを組んでテレビゲームにまで登場した。LAギアと結んだスニーカーを売り出す契約では、信じられないことに、マイケル・ジョーダンとナイキが結んだ契約を上回る金額を手に入れた。
 
マイケルはまた、エンターテイナーは請負業者だという概念を覆し、オーナーとしてのエンターテイナーという新たな道を示した。ATVの買収に加え、マイケルは自身の楽曲とマスター音源の権利を確保し、ソニー傘下で音楽出版事業を立ち上げた。
 
こうしてマイケルが道筋をつけたことで、その後、音楽ビジネスで財を築き、セレブリティの仲間入りを果たすミュージシャンが続々と現れたのだ。
 
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マイケル・ジャクソンは09年6月25日にこの世を去った。
 
ところが、マイケル死去の報がもたらされた瞬間から、なんとも興味深いことが起こった。ぼろぼろになっていた世間のマイケルに対するイメージはどこかへ消え去ってしまったのか、〈Thriller〉が世界中のラジオ局で再びヘビーローテーションされることとなったのだ。
 
実際、マイケルが革命を起こしたミュージックビデオという媒体が、にわかにマイケルの遺産を守り始めた。マイケルが他界した翌日の朝までには、新しい世代のファンがこぞってユーチューブにアクセスし、若くてハンサムなマイケルがダンスでギャングの抗争を解決する〈Beat It〉を観た。24時間後には、マイケルの楽曲がマイスペースだけで300万回も視聴されていた。マイケルはその年の全米1位となるアルバム売上枚数800万枚を記録し、2位のテイラー・スウィフトに倍近い差をつけた。
 
それからわずか数か月のうちに、ジョン・ブランカと音楽業界のベテラン、ジョン・マクレーンという共同遺言執行人の手で復活したマイケル・ジャクソンINCは、新たな最盛期へと向かっていた。『THIS IS IT』(同名コンサートのためにマイケルが死の直前まで行っていたリハーサル映像などをまとめたドキュメンタリー映画)では6000万ドルの契約金を含む取引がまとまり、ソニーとは2億5000万ドルという史上最大の大型契約が結ばれた。シルク・ドゥ・ソレイユとは、マイケルの音楽をテーマにした演目を作ってワールドツアーを行う計画がまとまり、マイケルを北米一のツアーアーティストへと押し上げた。
 
こうした成功が重なって、個人負債は本人がこの世を去ってからわずか3年で完済され、死後5年で合計7億ドル以上を稼ぎ出した。これは、その間のどのミュージシャン(故人か存命かにかかわらず)よりも多い額だった。
 
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この現在進行形のストーリーについて雑誌フォーブスで記事を書くうち、私はマイケル・ジャクソンの死後の事業の巨大さ、そしてマイケルが生前に集め、育んだ資産の裏にある物語の魅力を実感するようになった。マイケルの偉業の数々は、単に敏腕弁護士たちがいたから達成されたのではなく、多くはマイケル自身の知性と直感があってこそのものだった。
 
これはマイケル・ジャクソンのビジネスと、それにまつわるすべてに関する本だ。マイケルの事業にはいくつもの矛盾があり、おかげで実業家としてのマイケルを言い表す言葉も矛盾に満ちている。この上なく自信にあふれながら、時に不安に足がすくむビジョナリー。寛大で温かく、しかし自分の利益のためなら仲間を蔑ろにできる人間。長期的な視野と計画性を持ちながら、一方で数百万ドル規模の契約を未処理のまま放っておく野心家。ショービズの革命児でありながら、やがては個人財産のコントロールを失う男……。
 
マイケルがたどり着いた高みは果てしなく高く、落ち込んだ淵でさえ、残された私たちには貴重な教訓だ。貧しい鉄鋼の町の少年から世界で最も成功したスーパースター、自身の内にビジネスを内包するほどの存在へ、マイケルはいかにして自分を変身させていったのか。そのストーリーは、今後の何世代にもわたるエンターテイナーにとって、音楽とビジネスの両面で貴重なケーススタディーとなるはずだ。
 
「マイケルは少年の心と天才の思考を持っていた」とベリー・ゴーディは言う。「とても情に厚く、口調は穏やかで、そして思慮深かった……マイケルはすべてをやりたがり、そしてそれができた。普通の人には到底できないことが、あの子にはできたんだよ」

マイケル・ジャクソンの生涯年収

1979年:400万ドル(1300万ドル) *8月《OffTheWall》リリース
1980年:900万ドル(2600万ドル)
1981年:500万ドル(1300万ドル)
1982年:600万ドル(1500万ドル) *11月《Thriller》リリース
1983年:4300万ドル(1億100万ドル)
1984年:9100万ドル(2億500万ドル)
1985年:3700万ドル(8000万ドル)
1986年:2000万ドル(4300万ドル)
1987年:6700万ドル(1億3800万ドル) *8月《BAD》リリース
1988年:1億2500万ドル(2億4700万ドル)
1989年:3700万ドル(7000万ドル)
1990年:3400万ドル(6100万ドル)
1991年:3500万ドル(6000万ドル) *11月《Dangerous》リリース
1992年:6400万ドル(1億700万ドル)
1993年:3400万ドル(5500万ドル)
1994年:1900万ドル(3000万ドル)
1995年:1億1800万ドル(1億8100万ドル) *7月《HIStory》リリース
1996年:7100万ドル(1億600万ドル)
1997年:4200万ドル(6100万ドル)
1998年:1800万ドル(2600万ドル)
1999年:1700万ドル(2400万ドル)
2000年:1800万ドル(2400万ドル)
2001年:3400万ドル(4500万ドル) *10月《Invincible》リリース
2002年:1900万ドル(2500万ドル)
2003年:2100万ドル(2700万ドル)
2004年:2000万ドル(2500万ドル)
2005年:2300万ドル(2800万ドル)
2006年:1900万ドル(2200万ドル)
2007年:1800万ドル(2000万ドル)
2008年:1300万ドル(1400万ドル)
2009年:8500万ドル(9300万ドル) *6月25日死去
2010年:2億4500万ドル(2億6200万ドル)
2011年:1億4500万ドル(1億5100万ドル) *11月《Immortal》リリース
2012年:1億1500万ドル(1億1700万ドル)
2013年:1億3000万ドル(1億3000万ドル)

略歴

[著者]
ザック・オマリー・グリーンバーグ Zack O’Malley Greenburg
フォーブス誌シニアエディター、ジャーナリスト。
1985年ニューヨーク生まれ。エール大学卒業後、フォーブスでビジネス、音楽、スポーツなどの分野を担当。年金基金に関するスキャンダルやシエラレオネの観光産業を調査するほか、ジャスティン・ビーバーやトビー・キースのビジネスを追っている。ワシントンポスト、スポーツイラストレイテッド、ヴァイブ、マクスウィーニーなど多くの紙誌に寄稿。著書に、ジェイ・Zを題材とした“Empire State of Mind” がある。また、かつて子役として映画『ロレンツォのオイル/命の詩』に出演(少年ロレンツォ役)した経験をもつ。婚約中の恋人ダニエレとともにニューヨーク在住。Twitter: @zogblog URL: www.zogreenburg.com
 
[訳者]
高崎拓哉 たかさき・たくや
主にスポーツ関連の翻訳に携わる。訳書に『ルーキーダルビッシュ』(イースト・プレス)、『ブルース・リー トレジャーズ』(トレジャーパブリッシング)、『ツール・ド・フランス100 レース』(ソフトバンク クリエイティブ/共訳)がある。
 
堂田和美 どうた・かずみ
書籍翻訳者。大阪大学文学研究科修士課程修了。主な訳書に『レディー・ガガ ルッキング・フォー・フェイム』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『BRITNEY: Inside the Dream 夢の実情』(トランスメディア)、『エリジウム ビジュアルガイド』(小学館集英社プロダクション)など。
 
富原まさ江 とみはら・まさえ
『目覚めの季節 エイミーとイザベル』(DHC)で翻訳家デビュー。主な訳書に、『マドンナ語録 時代を生き抜く女の言葉』(ブルースインターアクションズ)、『マイケル・ジャクソン コンプリート・ワークス』(ティー・オーエンタテインメント/共訳)、『キース・リチャーズ、かく語りき』(音楽専科社/共訳)など。

●装丁/神田昇和
●協力/トランネット