内向型人間のための伝える技術
内気で心配性、精神的に疲れやすい反面、情報感度が高く、誠実で正確な仕事ぶりの「内向型人間」。その長所を最大限生かしながら、「何を」「どうすれば」コミュニケーション面でブレークスルーできるのか、具体的な方法を紹介します。もう社交的なふりをする必要はありません。
- 書籍:定価1650円(本体1,500円)
- 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
- 2014.01発行
内容
まえがき
内向型に悩むアメリカ人
アメリカにはプレゼンやスピーチが上手で、週末にはパーティを楽しむ外向型人間が多いというイメージがあります。そんなアメリカでは現在、“Quiet”(邦訳『内向型人間の時代──社会を変える静かな人の力』スーザン・ケイン著、古草秀子訳、講談社)という本がミリオンセラーになっています。この本がミリオンセラーになるということは、アメリカでは内向型に悩んでいる人が多いということでしょう。
『内向型人間の時代』の中では、アメリカ人の3分の1から2分の1は内向型であるという研究結果が報告されています。アメリカにはもっと外向的人間が多いというイメージがありますが、アメリカでは外向型でなければ成功できないという強いプレッシャーがあるため、たくさんの人が「外向型のふり」をしているそうです。外向型人間でなければ成功できないと考えられているアメリカですが、外向型がもてはやされるようになったのは、ほんの100年ほど前のことでした。
19世紀頃までのアメリカは農業社会であり、大部分の人は農場の近くの小さな町で暮らしていたため、この時代には外向型であるということよりも、身近な人とうまくやっていく性格の良さが重視されました。ところが、20世紀になり工業化社会が始まると、多くの人々が都市に集まり仕事をするようになったため、初対面の人とも物怖じせずに仕事ができる外向型人間がもてはやされるようになってきました。
工業化社会が発展すると資本の蓄積が進み、資本主義の様相が強くなってきます。資本主義の世の中で勝ち抜くためには、多くの商品を販売することができるセールスマンが必要です。セールスマンにふさわしいのは外見的にも魅力的で、物怖じしない外向型人間です。このような流れの中で、アメリカでは外向型人間が理想的な性格としてもてはやされるようになりました。
最近は日本でも、話し方やコミュニケーションをテーマにした本が売れています。このような本が売れるようになったのは、アメリカ主導型のグローバル資本主義が日本に大きな影響を与えるようになったことも大きいでしょう。
内向型と外向型を分けるもの
なぜ、人の性格は内向型と外向型に分かれるのでしょうか? 幼少期にどのような環境で育ったかということも大きいと思いますが、『内向型人間の時代』によれば、一番関連性が高いのは刺激に対する反応の違いだと考えられています。光や音などの刺激に対して敏感に反応する人のことをHSP(Highly Sensitive Person)と言いますが、HSPの人ほど内向型人間になる傾向があるようです。
(中略)
外部からの刺激に対する敏感さが内向型人間の強みでもあり、弱みでもあります。内向型人間は外部から多くの情報を受け取ることができるため、細やかに世の中を観察することができ、多くの人が見落としてしまう重要なことに気づくことができます。また、問題が起こった時には二度と失敗しないように内省する傾向が強いため、同じような失敗を繰り返しにくくなります。
その反面、外向型人間よりも多くのことが気になってしまうため、心配性で精神的に疲れてしまいます。私自身、心配性の部分は自分の弱みだと思っていましたが、この性格によって仕事でチャンスをつかんだり、事前にしっかりと準備ができるようになったため、いまでは自分の中の重要な個性だと思えるようになりました。
(中略)
本書で学べる内容
私は会計士という仕事をしていますが、会計士に求められるのは「話がうまい」「話が面白い」というエンターテイメント的な要素ではなく、「自分が考えていることを短い時間で正確に伝える能力」です。もちろん、話がうまいにこしたことはありませんが、ビジネスパーソンが最初に身につけなければならないコミュニケーション能力は、自分の考えを短い時間で正確に伝える能力だと思います。
自分の考えを分かりやすく伝えるためには、話をする前に情報を整理し、伝わりやすい表現を準備しておく必要があります。逆に言えば、この準備の方法さえ分かれば、たとえ話すことが苦手であったとしても、まわりから「仕事のできるやつ」と評価されるようになるのです。そこで、本書では私が15年間の社会人生活の中で編み出した、情報を整理して伝える技術や上司から評価されるコツ、自分の能力を引き出すためのアドバイスの受け取り方などを紹介していきます。
第1章と第2章では、コミュニケーションの基本を説明します。第1章では、内向型人間の特徴や自分の強みを理解する方法、ポジショニング戦略などを通じて、内向型人間にふさわしいコミュニケーション戦略をお伝えします。第2章では、仕事が早いと思わせるデッドライン・マネジメント、会う前に内容を伝えておくなどのノウハウを通じて、周囲に評価されながら仕事を円滑に進める方法を紹介します。
第3章から第5章までは、分かりやすく伝えるための具体的なノウハウを紹介しています。第3章では、論理的に考える技術であるロジカルシンキングの注意点やトレーニング方法、第4章では、論理的に分かりやすく伝える技術であるパラグラフ・ライティングやメッセージの説得力を高める方法を説明します。そして第5章では、話の苦手な私が生み出した、人前で話すための実践的なトレーニング方法を紹介しています。
第6章はマーケティングがテーマです。第1章から第5章までは目の前の相手との直接的なコミュニケーションをテーマとしていますが、第6章ではもう少し視野を広げて、企画や執筆のような間接的なコミュニケーションについてのポイントを説明します。そして第7章では、他人を受け入れるマインドをテーマにしています。私の経験を交えながら、アドバイスの上手な受け取り方、外向型人間とのつきあい方、聞き役というポジションのメリットなどをお伝えしていきます。
また、本書はコミュニケーションの全体像を伝えることを目的にしていますので、ロジカルシンキングやプレゼンテーションなどの個別の項目はあまり詳しく説明していません。そこで、最後に「コミュニケーションに役立つ10冊のお勧め本」として、私が読んだ本の中から本当に役に立ったものを10冊紹介しています。良質な本ばかりですので、気になる本がありましたらぜひお読みいただければと思います。
内向型人間は、外部環境から多くの刺激(情報)を受け取るため、初対面の人が多いパーティや人前で話をすることが苦手です。また、仕事をするときにも細かいことが気になってしまうため、不安を感じて必要以上にエネルギーを消費してしまいます。つまり、内向型人間は外向型人間よりも多くの情報を受け取ってしまうため、情報過多となり頭の中が混乱し、不安を感じやすいのです。
その一方で、外部からの情報を受け取る能力の高い内向型人間は、情報を整理する技術を身につければ高いパフォーマンスを発揮することができます。外向型人間よりも多くの情報を受け取れるということは、外向型人間よりも深く考える材料を手に入れることができるということです。その材料をうまく整理して自分の考えを的確に言語化する能力を身につければ、外向型人間に負けないパフォーマンスを発揮することができるのです。
私自身、人よりもたくさんのことを考えると同時に、たくさんの不安を抱えてきました。その不安を解消するために、試行錯誤を繰り返しながら必死に情報を整理して自分の考えを言語化する技術を磨いてきました。内向型人間は、優しさ、謙虚さ、冷静な判断力というすばらしい財産を持っています。本書がみなさま一人ひとりに合ったコミュニケーションスタイルを作りあげるきっかけとなれば、著者としてこの上ない喜びを感じます。
2014年1月 望月 実
目次
まえがき
内向型に悩むアメリカ人
内向型と外向型を分けるもの
心配性の私が抜擢された理由
本書で学べる内容
第1章 内向型人間のコミュニケーション戦略
内向型人間の時代
社会人になってコミュニケーションの難しさを痛感した
コミュニケーションを2つの要素に分解する
相手目線で考える──ある就活生へのアドバイス
自分の強みを理解する
ポジショニング戦戦略
外向型人間と内向型人間のモチベーションの違い
第2章 仕事を効率よく進めるコミュニケーション術
プロジェクトで働くということ
上司のタイプを分析する
仕事が早いと思わせるデッドライン・マネジメント
仕事の早い人をベンチマーク
話す前にメモを作る
ほめる場所を探してから会いに行く
会う前に内容を伝える
第3章 ロジカルシンキング
ロジカルシンキングの注意点1 ロジックは諸刃の剣となる
ロジカルシンキングの注意点2 思い込みの壁は越えられない
ロジカルシンキングの本質
PWCで学んだロジカルシンキング
1 内部資料の作成
2 外部報告資料の作成
3 プレゼン及びミーティング
第4章 情報を整理して伝達力を高める
パラグラフ・ライティング
1 パラグラフ・ライティングとは
2 設計図を作って書きやすい部分から書く
3 パラグラフのブラッシュアップ
伝わる表現を探す
分かりやすい対比を作る
メッセージの説得力を高める3つの方法
第5章 話が苦手な人のための話し方トレーニング
話し上手な人の意外な悩み
カウンセリングを受けてみた
話し方教室で学んだ2つの大切なこと
2週間で話をうまくみせるトレーニング
緊張した状態でも話す方法
テレビを見ながら早口の人を探す
ひな壇芸人から学んだ満足度を上げる方法
社長のプレゼンを見てみよう
第6章 相手目線で企画力を鍛える
クリエイティブな内容を伝える難しさ
数字を使ったテストマーケティング
フィードバックを取り入れながら本を作る
外れないタイトルの見つけ方
売れる文章を書くためのトレーニング
失敗した企画から学ぶ
第7章 自分に合ったコミュニティを作りあげる
不安な私を救った友人のアドバイス
アドバイスの上手な受け取り方
コミュニティの探し方
聞き役というポジション
外向型人間とのつきあい方
価値観のルーツを探る
ゆとり世代と外国人の共通点
コミュニティのみんなに感謝する
付録 コミュニケーションに役立つ10冊のお勧め本
1 ロジカルシンキングに役立つ本
2 プレゼンに役立つ本
3 人前で話をするときに役立つ本
あとがき
ゆっくり進むことの大切さ
著者略歴
望月 実 (もちづき みのる)
1972年愛知県名古屋市生まれ。立教大学卒業後、大手監査法人に入社。監査、株式公開業務、会計コンサルティング等を担当。2002年独立、望月公認会計士事務所を設立。「他者との比較・競争にとらわれず、自身の分析・革新から強みやアイデアを引き出す生き方、働き方」を標榜。誠実さと効率が同時に求められる時代を分析し、「数字センス」と「伝える技術」を融合したビジネスコミュニケーションスキルをライフワークとして教えている。ビジネスパーソンや就活生が現場ですぐに応用できる内容とわかりやすい解説には定評があり、バランスの取れたプロフェッショナルの育成に貢献。
著書に『数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略 ビジネスモデル分析術』『最小の努力で概略をつかむ! IFRS決算書読解術』『最小限の数字でビジネスを見抜く 決算書分析術』『有価証券報告書を使った 決算書速読術』『内定をもらえる人の会社研究術』『就活の新常識! 学生のうちに知っておきたい会計』(以上共著、阪急コミュニケーションズ)、『いいことが起こり続ける数字の習慣』(総合法令出版)、『「数字」は語る』(日本経済新聞出版社)、『問題は「数字センス」で8割解決する』(技術評論社)、『部下には数字で指示を出せ』『課長の会計力』『数字がダメな人用 会計のトリセツ』『会計を使って経済ニュースの謎を解く』(以上日本実業出版社)がある。
Webサイト「アカウンティング・インテリジェンス」 http://ac-intelligence.jp/
●装丁・本文デザイン/轡田昭彦、坪井朋子
●カバー写真/ ©artlist/amanaimages
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ビジネスパーソンに必要なのは、話し上手ではなく伝え上手。
もう社交的なふりをする必要はありません。
内気で心配性、精神的に疲れやすい「内向型人間」。ですがその反面、「内向型」には情報に敏感で、誠実で正確な仕事ぶりという長所もあります。その長所を生かしながら、「外向型」に負けないコミュニケーション力を身につけるにはどうすればいいのか。
仕事で求められるのは、「話がうまい」「話が面白い」というエンターテイメント的な要素ではありません。「自分が考えていることを短い時間で正確に伝える能力」です。そのためには、情報を整理し、伝わりやすい表現を準備する必要があります。が、逆に言えば、この準備の方法さえわかれば、たとえ話すことが苦手であったとしても、周囲から「仕事のできるやつ」と評価されるようになります。
本書では、長年コミュニケーション面で多くの不安を抱えてきた著者が、外資系監査会社のメンバーファームで学んだロジカルシンキングやパラグラフ・ライティングの手法をはじめ、相手目線に立つ方法、話し方のトレーニング法、自分をとりまくコミュニティの作り方まで、「内向型」がぜひとも知っておきたいコミュニケーション・テクニックをまとめました。
本書を読んで、①相手のニーズを知り、②情報を整理し、③わかりやすく言語化する技術を身につければ、「内向型」はコミュニケーションにおいても高度なパフォーマンスを発揮できるのです。