スピーチの天才100人 達人に学ぶ人を動かす話し方
ジャック・ウェルチ、スティーブ・ジョブズ、アドルフ・ヒトラー、ソクラテス、ラニア王妃、小泉純一郎…… 彼らの演説はなぜ人々の心を動かし、社会を変えたのか。リーダーたちの“伝える技術”を解き明かす。
- 書籍:定価1980円(本体1,800円)
- 電子書籍:定価1584円(本体1,440円)
- 2010.10発行
内容
スティーブ・ジョブズ、ジャック・ウェルチ、ジョージ・クルーニー、アウン・サン・スー・チー、ラニア王妃、小泉純一郎……力強い言葉と巧みなコミュニケーション力で、人々の心を鼓舞し、社会に大きな影響を与えた名演説家たち。スピーチの組み立て方から言葉の選び方、表現の仕方まで、達人たちの“人を動かす”話し方のテクニックを徹底解説。
「はじめに」より
世界の歴史を振り返れば、スピーチが国民を慰め、あるいは対立の背中を押した例は数知れない。スピーチは、人々を勇気づけ、闘いに立ち上がらせる。人々に大きな犠牲を払わせ、偏見や貧困を克服させる。抑圧や人種差別、偏見と闘う人々を助ける。その半面で、スピーチが虐待、拷問、憎悪、偏見、暴力などのおぞましい結果を生み出す場合もある。
きわめて優れたスピーチは、聞き手に強い影響を及ぼし、一人ひとりの記憶と社会全体の記憶に永遠に刻み込まれる。聞く人の感情に働きかけ、涙を流させたり、謙虚な気持ちにさせたり、怒りを湧き上がらせたり、胸がすく思いをさせたりする。そうしたスピーチは、永遠に忘れられない。もちろん、聞き手を泣かせたり、闘いに奮い立たせたりするスピーチだけが素晴らしいスピーチではない。それでも優れたスピーチは例外なく、聞き手にメッセージを受け入れさせ、話し手に対して好印象をいだかせる。
優れた話し手なくして、優れたスピーチはありえない。別に、息をのむような美男美女である必要はない。偉大な演説家の中には、ルックスが特段にいいわけではなかった人も少なくない。お世辞にも容姿端麗とは言えない人も多い。演壇を降りると話し上手とすら言えない人も中にはいる。それでも、演壇に上がると聴衆を魅了し、その心を鼓舞するのだ。
この本で取り上げた100人に共通するのは、スピーチを通じて社会に大きな影響を及ぼした人物であることだ。歴史の大きな転換点でスピーチを行った人物も多い。聴衆はそのスピーチを聴いて、常識を揺さぶられたり、進むべき道筋を見いだしたりした。なんらかの行動に駆り立てられたり、疑念を捨てさせられたり、認識を改めさせられたりした。収録したスピーチでしばしば語られているテーマの一つは、奴隷制と人間の抑圧だ。奴隷制をめぐる社会の危機をテーマにしたスピーチもあるし、公民権運動をめぐる論争の中で行われたスピーチもある。ここに、素晴らしいスピーチがしばしばもっている一つの重要な要素を見て取れる。それは、道徳を追求しようという勇気と大胆な変革を起こそうという意志である。
ただし、私たちが選んだのは「善良」な人物ばかりではない。力のあるスピーチは、必ずしも正義のために行われるとは限らないからだ。アドルフ・ヒトラーを100人の中に選んだのは、そのためだ。高度な演説能力があったからこそ、ヒトラーはドイツを戦争に駆り立てることができた。独裁者の単純で力強い言葉と巧みなコミュニケーション技術について理解を深められれば、独裁者の危険性を早期に察知しやすくなると、私たちは考えた。
素晴らしいスピーチを行える人は、世界のいたるところにいる。国政や国際関係の檜舞台で活躍する人ばかりでなく、教育界や地方政府、ビジネス界で活動している人たちもいる。そういう人材はもっと大勢いてもいい。
1896年、1900年、1908年の3度にわたりアメリカ大統領選臨んだウィリアム・ジェニングズ・ブライアンはこう述べている。「話す内容を理解し、自分が本当に信じていることを語る演説は、聞き手の思考に火をつける」。あなたもスピーチを通して、聞き手の思考に火をつけよう!
目次
はじめに
1 サルバドル・アジェンデ (チリ大統領)
2 スーザン・B・アンソニー (アメリカの女性参政権運動指導者)
3 コラソン・アキノ (元フィリピン大統領)
4 ムスタファ・ケマル・アタチュルク (トルコ共和国初代大統領)
5 アウン・サン・スー・チー (ビルマ〔ミャンマー〕の民主化運動指導者)
6 ヘンリー・ウォード・ビーチャー (アメリカの牧師・反奴隷制活動家)
7 アノイリン・ベバン (イギリスの下院議員)
8 ベナジル・ブット (元パキスタン首相)
9 リー・ボリンジャー (コロンビア大学学長・法学者)
10 ナポレオン・ボナパルト (フランス皇帝)
11 ネビル・ボナー (オーストラリアの先住民初の連邦議員)
12 エイドリアン・ブロディ (アメリカの俳優)
13 ウィリアム・ジェニングズ・ブライアン (アメリカの政治家)
14 ジョージ・H・W・ブッシュ (第41代アメリカ大統領)
15 ジョン・チェンバーズ (シスコシステムズ会長兼CEO)
16 セサール・チャベス (メキシコ系アメリカ人の労働運動指導者)
17 ウィンストン・チャーチル (イギリス首相)
18 マルクス・トゥリウス・キケロ (古代ローマの政治家・哲学者)
19 ビル・クリントン (第42代アメリカ大統領)
20 ジョージ・クルーニー (アメリカの俳優)
21 セバスチャン・コー (イギリスの元陸上選手)
22 ティム・コリンズ (イギリス陸軍大佐)
23 コンスタンティヌス一世 (古代ローマ帝国皇帝)
24 ビル・コスビー (アメリカのコメディアン)
25 ウォルター・クロンカイト (アメリカのテレビジャーナリスト)
26 セヴァン・カリス=スズキ (カナダの環境保護活動家)
27 クラレンス・ダロー (アメリカの弁護士)
28 デモステネス (古代ギリシャの政治家・雄弁家)
29 鄧小平 (中国の最高指導者)
30 チャールズ・ディケンズ (イギリスの作家)
31 ベンジャミン・ディズレーリ (イギリス首相)
32 フレデリック・ダグラス (アメリカの反奴隷制活動家)
33 エリザベス1世 (イングランド女王)
34 ラルフ・ウォルドー・エマソン (アメリカの思想家・詩人)
35 ベンジャミン・フランクリン (アメリカ建国期の政治家)
36 ガリレオ・ガリレイ (中世イタリアの物理学者・天文学者)
37 インディラ・ガンジー (インド首相)
38 マハトマ・ガンジー (インド独立運動の指導者)
39 ビル・ゲイツ (マイクロソフト共同創業者)
40 シャルル・ドゴール (フランスの軍人・政治指導者)
41 ルドルフ・ジュリアーニ (ニューヨーク市長)
42 パトリック・ヘンリー (アメリカ建国期の政治家)
43 アドルフ・ヒトラー (ドイツ・ナチス党首)
44 ホー・チ・ミン (ベトナムの革命家)
45 マイク・ジャクソン (イギリスの元陸軍参謀長)
46 トーマス・ジェファーソン (第3代アメリカ大統領)
47 ムハンマド・アリ・ジンナー (パキスタン独立の父)
48 スティーブ・ジョブズ (アップル共同創業者)
49 バーバラ・ジョーダン (アメリカの下院議員)
50 ジョン・F・ケネディ (第35代アメリカ大統領)
51 ロバート・ケネディ (アメリカの元司法長官・上院議員)
52 ムーター・ケント (コカ・コーラ会長兼CEO)
53 ニキータ・フルシチョフ (ソ連の最高指導者)
54 マーチン・ルーサー・キング (アメリカの公民権運動指導者)
55 小泉純一郎 (日本の首相)
56 ジェームズ・ラベンソン (プラザホテル社長兼CEO)
57 リー・クアンユー (シンガポール初代首相)
58 エイブラハム・リンカーン (第16代アメリカ大統領)
59 デービッド・ロイド・ジョージ (イギリスの政治家)
60 ヒューイ・ロング (アメリカの上院議員)
61 ダグラス・マッカーサー (元GHQ最高司令官)
62 マルコムX (アメリカの公民権運動指導者)
63 ネルソン・マンデラ (南アフリカの黒人解放運動指導者)
64 ジョージ・マーティン (イギリスの音楽プロデューサー)
65 ジョン・マケイン (アメリカの上院議員)
66 ロバート・メンジズ (元オーストラリア首相)
67 ジャワハルラル・ネルー (インド初代首相)
68 バラク・オバマ (第44代アメリカ大統領)
69 コナン・オブライエン (アメリカのテレビ司会者・コメディアン)
70 ロバート・オッペンハイマー (アメリカの物理学者)
71 エメリン・パンクハースト (イギリスの女性参政権運動指導者)
72 ランディ・パウシュ (アメリカのコンピュータ科学者)
73 レスター・ピアソン (元カナダ首相)
74 ペリクレス (古代ギリシャの軍人・政治家)
75 ウィリアム・リオン・フェルプス (アメリカの作家・批評家)
76 コリン・パウエル (アメリカの元軍人)
77 イツハク・ラビン (イスラエル首相)
78 ラニア王妃 (ヨルダン王妃)
79 ロナルド・レーガン (第40代アメリカ大統領)
80 フランクリン・ルーズベルト (第32代アメリカ大統領)
81 セオドア・ルーズベルト (第26代アメリカ大統領)
82 オスカー・シンドラー (ドイツの実業家)
83 ゲアハルト・シュレーダー (ドイツ首相)
84 リー・スコット (ウォルマートCEO)
85 リカルド・セムラー (セムコCEO)
86 マーガレット・チェース・スミス (アメリカの上院議員)
87 ソクラテス (古代ギリシャの哲学者)
88 セオドア・ソレンセン (ジョン・F・ケネディの元スピーチライター)
89 スペンサー伯爵 (ダイアナ元イギリス皇太子妃の弟)
90 孫文 (中国の革命家)
91 マーガレット・サッチャー (イギリス首相)
92 レオン・トロツキー (ロシアの革命家)
93 ジョージ・ワシントン (アメリカ初代大統領)
94 ダニエル・ウェブスター (アメリカの上院議員)
95 ジャック・ウェルチ (ゼネラル・エレクトリック会長兼CEO)
96 エリ・ウィーゼル (アメリカの作家)
97 ウッドロー・ウィルソン (第28代アメリカ大統領)
98 オプラ・ウィンフリー (アメリカのテレビ司会者)
99 ヴァージニア・ウルフ (イギリスの作家)
100 ムハマド・ユヌス (グラミン銀行総裁)
参考文献・サイト・動画など
*( )内は演説を行った当時の肩書き
著者
サイモン・マイヤー(Simon Maier)
スピーチ・コミュニケーションのエキスパート。イギリスを中心に世界の有力企業でスピーチやプレゼンを指導するほか、スピーチライターとして企業幹部や政治家のスピーチ原稿の執筆を担当している。大手広告代理店サーチ&サーチ・グループ傘下のイベント企画・運営会社ICMの社長など、PR業界で数々の要職を歴任。
ジェレミー・コウルディ(Jeremy Kourdi)
国際的に活躍するエグゼクティブ・コーチ。イギリスを拠点に、IBM、シティグループ、ロンドン・ビジネススクールなどの有力企業・団体の依頼を受けて、幹部の指導を行っている。エコノミスト誌の発行母体であるエコノミスト・グループの元上級副社長。“100Great Business Ideas”“Surviving a Downturn”など、著書は20冊以上。
池村千秋(いけむら・ちあき)
翻訳者。訳書に『責任革命』『46年目の光』(NTT出版)、『ホワイトハウス・フェロー』『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)、『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社)などがある。
●装丁/間村俊一