トップ > 新刊書籍 > 「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年

「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年

「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年
根津孝子 著
  • 書籍:¥1600(税別)
  • 電子書籍:¥1280(税別)
  • 四六判・並製/324ページ
  • ISBN978-4-484-19230-7 C0095
  • 2019.9発行



書籍

Amazon 7net 楽天BOOKS TSUTAYAonline

電子書籍

Amazon kindle 楽天kobo honto Reader Store 紀伊國屋書店 BookLive

内容

座右の銘を聞かれたら、迷わず「継続は力なり」と答えます。
なぜならば、私は小野二郎という人を一番近くでみてきましたから。

                       ――小野禎一

鮨の名店・銀座「すきやばし次郎」で、現在93歳、世界最高齢の三ツ星料理人・小野二郎とともにつけ場に立つ長男・禎一(よしかず)のロングインタビュー。
幼少時代の思い出から、人生の岐路と選択、鮨職人という仕事、天才といわれる父・二郎との関係をありのままに語った半生記は、期せずして出色の職人論・仕事論ともなっている。



はじめに

 東京、銀座にある鮨屋の名店「すきやばし次郎」。
 今や日本人の多くがその名を知っているだろう。2007年、日本で初めて出版された『ミシュランガイド東京2008』で三ツ星の評価を獲得、その名は日本だけでなく海外にまで轟くことになった。
 店主の名は小野二郎さん。二郎さんは大正14年(1925年)生まれ。93歳の今も現役、世界最高齢の三ツ星料理人だ。そして、その2008年版以来、「すきやばし次郎」は12年連続でミシュランの三ツ星を取り続けている。
 ちなみに、小野二郎さんの「二郎」という漢字は誤植ではない。名前は「二郎」、店名は「次郎」なのだ。私は以前、二郎さんに「なぜ名前とお店の漢字が違うのか」と尋ねたことがある。その時、二郎さんは、「次郎の方が店の看板なんかに書いたとき、格好がいいでしょ」と茶目っ気のある表情で答えてくれた。どうやら本当にそういう理由らしかった。
 昭和40年(1965年)、二郎さんは40歳の時に独立し、銀座・数寄屋橋交差点の傍にある塚本素山ビルの地下1階に自分の店を持った。そして、それから54年が経った今も、同じ場所で、同じ気持ちで、鮨を握り続けている。二郎さんが食の世界へ足を踏み入れた時から変わらずに持ち続けている「同じ気持ち」。それは、ただひたすらに、「もっと美味しくなるはずだ、もっと美味しくしてやろう!」という気持ちだ。
 7歳で親元を離れ、割烹料理屋に奉公に出た二郎さん。86年もの間、二郎さんは同じ気持ちで仕事をしていることになる。
 
 私は15年ほど前からお店へ伺う機会に恵まれ、月に一、二度、二郎さんの握るお鮨をいただく。私は料理評論家ではないので、「すきやばし次郎」のお鮨がどう美味しいのかをうまく表現することができない。でも、「すきやばし次郎」でいただくお鮨は、ただただ美味しい、最初から最後まで、ただひたすらに美味しいのだ。二郎さんの積み重ねてきた「気持ち」が今、一貫一貫のお鮨となって私の目の前にある、理屈じゃない美味しさがそこにある、と私はいつも思う。
 そして、店内に流れているとても清々しい、何か特別な空気……。それは多分、二郎さんと長男の禎一(よしかず)さんが軸となり、そこで働く皆さんが一緒になって初めて生まれる空気だ。私は二郎さんの手元を凝視したり、二郎さんと禎一さんの仕事のリズムを感じたりしながらつい、その清々しく凛とした空気の出どころを探してしまう。
 そして、いつも必ずひとつの結論に至るのだ。二郎さんにとって長男の禎一さんは、息子である前に、生涯で一番信頼できる弟子なのだろうと。それが当たっているのかどうかは二郎さんに聞いたことがないのでわからない。でも、この本ができあがった時、ぜひ二郎さんに尋ねてみたいと思っている。
 
 禎一さんは昭和34年(1959年)生まれ。2019年、還暦を迎えた。23歳の時に「すきやばし次郎」に入ってから37年。二郎さんと一番長い時間をともに過ごしているはずだ。
 禎一さんにとって、小野二郎とはどういう存在なのだろうか?
 偉大な父を持った苦労はないのだろうか?
 聞きたいことがたくさんありすぎるほど、私は以前から興味を抱いていた。
 
 私はしがないライターだ。でもどうしても禎一さんと二郎さんのことを書きたくて、あるとき無理を承知で取材をさせて欲しいとお願いをした。多分、とても強引に。
 禎一さんは、いつもの冗談っぽい表情で、「俺のことを書いた本なんて売れねぇよ」と言った。「売れるとか売れないとか考えなくていいんです。私が書きたいから書かせて欲しい。お願いします」
 傍にいた二郎さんが、きょとんとした表情で私と禎一さんのやりとりを眺めていた。二郎さんは少し耳が遠いので、禎一さんが「孝ちゃんが、私のことを取材して、本にしたいそうです」と説明した。私は傍でドキドキしていた。
「私は、いいと思いますよ」
 様々な気持ちが入り乱れ、私はその時、「頑張ります!」としか言えなかった。


 

目次

はじめに
【小野禎一関連略年譜】
 
第1回 取材記録(2018年7月14日・土曜日)
 2008年版『ミシュランガイド東京』で日本初の三ツ星を獲得した時のおはなし。
 禎一さんが生まれた年の大きな出来事。
 禎一さんが長男っぽくない理由。幼少期、バラバラになった家族のこと。
 決して豊かとは言えない少年時代。禎一さんと弟。母の教育方針。
 父親の握る鮨。食べたことのある弟と、食べたことのない兄。
◎第1回取材のこぼれ話 この日の二郎さん
 
第2回 取材記録(2018年8月4日・土曜日)
 やんちゃだった中学時代。つまりそれは、不良少年?
 「くそババア」と母に言った弟と、言えなかった兄。警察官より怖い父。
 意外にも硬派な高校時代。
 古武道「荒木流拳法」との出会い。
 夢と現実とのはざまで。就職について考えていたこと。
 困難だった就職先探しと、今でも脳裏に焼きつくあの時の父の姿。
◎第2回取材のこぼれ話 「すきやばし次郎」でのお鮨の食べ方
 
第3回 取材記録(2018年9月1日・土曜日)
 料理人の道へ、長い旅のはじまり、はじまり。
 腕を上げるチャンスが詰まったまかない作り。料理の復習は帰宅後の深夜に。
 意外に早く訪れたひとつの転機と、二郎さんの教え。
 忘れない、忘れられない親方の言葉。
 それでも実際には決まっていなかった覚悟。本当に覚悟が決まった〝あの日?のこと。
◎第3回取材のこぼれ話① 二郎さんの子育て、職人育て
◎第3回取材のこぼれ話② ジョエル・ロブション氏と二郎さん
 
第4回 取材記録(2018年9月22 日・土曜日)
 「すきやばし次郎」での新しいスタート。他者を認める心が自分を成長させる。
 共に働く弟について、父について、当時感じていたこと。
 市場に行く習慣から学ぶ、たくさんのこと。鮨職人の修業10年説について。
 バブルがはじけた頃から大きく変わった「すきやばし次郎」の客層。
 つけ場とお勝手の境目に立つという大切なポジション。
 水谷八郎さんの独立と禎一さんの転機。任せてもらえない常連さんへの握り。
◎第4回取材のこぼれ話 二郎さんの小話とギネス認定
 
第5回 取材記録(2018年10月13 日・土曜日)
 二郎さんが築地市場に行かなくなったきっかけと、禎一さんの変化。
 「次郎スタイル」の誕生。懐石料理やフランス料理のコースのように。
 六本木ヒルズ店のオープン。忘れられないあの日のこと。
 日々の繰り返しの中で自然にわかる父の教え。継承される二郎さんの教え。
◎第5回取材のこぼれ話 想像以上に忙しい禎一さん。二郎さんの誕生日
 
第6回 取材記録(2018年11月17 日・土曜日)
 経営者としての禎一さんの誕生と、二郎さんの変化。
 嬉しかったあの言葉と日々の反省。
 心して始めた2つの新しい挑戦。
 映画「二郎は鮨の夢を見る」撮影秘話。
 禎一さんが語った「鮨屋」と「ディズニーランド」の共通点。
◎第6回取材のこぼれ話①  二郎さんが語る、隆士さんが二郎さんの握るお鮨を食べたあの日のこと
◎第6回取材のこぼれ話②  銀座で一番きれいな「塚本総業ビル」のおはなし
 
第7回 取材記録(2018年12月8日・土曜日)
 オバマ大統領が来店した時のおはなし。
 食いしん坊のお友達――禎一さん流友達のつくり方。
◎第7回取材のこぼれ話 二郎さん秘伝のレシピ、イカ漬け
 
第8回 取材記録(2019年1月19 日・土曜日)
 二郎さんの好きな御雑煮と、弟子の亮さんが語った禎一さんの職人技。
 いつしか生まれた警戒心。二郎さんとの共通点。
 二人の甥へきつく言ったこと。
◎第8回取材のこぼれ話 二郎さんのギネス申請
 
第9回 取材記録(2019年2月23 日・土曜日)
 黒子に徹する禎一さん。愛、尊敬、そして自信。
 弟子を育てるということ。急がば回れ。
 交差する思いやり。
 これから先の30年をこう読む。先を読む力。
◎第9回取材のこぼれ話 歴史的な一日の立役者になれた日
 
第10回 取材記録(2019年4月8日・月曜日)
 上田さんの生い立ち。二人に共通する生き抜く力。小野家のしつけ。
 大人になって信頼できる友人をつくるということ。
 
第11回 取材記録(2019年4月9日・火曜日)
 同志として生きる、2つ違いの兄と弟の共通点。
 再び小野家のしつけ。
 言葉はいらない。
 二郎さんの握ったお鮨を、真正面に座って食べた時のこと。
 
第12回 取材記録(2019年5月11日・土曜日)
 もしもこの先……
 そこにあるのは至ってシンプルな思い。
 
おわりに
 
この本の読者のみなさまへ 小野禎一



 

略歴

根津 孝子(ねづ・たかこ)
1970年、熊本県生まれ。フリーライター。
実践女子短期大学を卒業後、新日本製鐵、パソナグループを経て2006年フリーに。2004 年、養父母とともに初めて「すきやばし次郎」を訪れて以来、現在では月に一、二度通うほどに。毎年、二郎さんの誕生日に長い手紙を送るのがいつしか習いとなった。
現在はBEAUTY MUSEUM というサイト(https://beautymuseum.net/)を運営しており、ライフスタイルを中心に様々なジャンルの記事を手掛ける。
https://www.facebook.com/takako.nezu







●装訂/三村 淳
●装画/金子 良
●写真/戸澤裕司
●校閲/円水社