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ローマ皇帝のメンタルトレーニング

ローマ皇帝のメンタルトレーニング
ドナルド・ロバートソン 著
山田雅久 訳
  • 書籍:定価1870円(本体1700円)
  • 四六判・並製/312ページ
  • ISBN978-4-484-21111-4
  • 9.30発売予定
ヤマザキマリ氏 推薦!
「いまを生きる私たちに必要な思索と言葉が、時空を超えてここに届けられた」


人生で避けられない苦難をどう乗り越えるか?
その答えは2000年前にローマ皇帝によって書かれた個人的なノートの中にあった!

ペスト禍、相次ぐ戦争、弟の乱痴気騒ぎ、部下の将軍の反乱……
哲人皇帝マルクス・アウレリウスは、幾多の困難とどう向き合い、心の平安を保ったのか。
シリコンバレーの起業家たちも注目する「メンタルレジリエンスの技術」。



書籍

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「プロローグ」より

 この本は、マルクスが歩いた道を巡りながら、読者のみなさんがストア哲学がもたらす精神的な強さを身につけ、より深い充実感とともに生きていけるようにデザインされています。本の中で紹介した技術のいくつかは、ストイシズムと認知行動療法(CBT)を組み合わせたものになっています。CBTはストア哲学に触発されて生まれた療法であり、両者には基本的な共通点がいくつかあります。CBTは不安や抑うつなどのメンタルヘルスにかかわる問題を改善するためのアプローチ法であり、将来、感情的な問題を起こすリスクを減らすためのレジリエンスの構築にも用いられています。しかし、短期的な療法なので、人生そのものを対象にするストア哲学と組み合わせることで、より多くの人に役立つ長期的なアプローチ法になったと思います。ストア哲学を人生の哲学として採用し、日々実践すると、レジリエンス、人格の強さ、自分の価値観に沿った生き方を学ぶことができます︒それがこの本の真の目的になっています。
 ストア哲学は、人生の目的をどう見つけるか、逆境にどう立ち向かうか、怒りをどう克服するか、欲望をどう和らげるか、苦痛や病気にどう耐えるか、不安に直面したときにどう勇気を示すか、喪失にどう向き合うか、そして、ソクラテスのように平静を保ちながら死を迎えるにはどうすればいいかを教えてくれます。
 マルクス・アウレリウスは、ローマ帝国の皇帝として、たくさんの困難に立ち向かいました。『自省録』は彼の魂へと入っていく窓であり、彼が自分を導いていった方法を知ることができるものです。『自省録』の考え方に基づいた本書は、ちょっと変わった方法で読んでもらえたらと思います。マルクスその人になって、彼の目や彼の哲学のレンズを通して、あなたの人生を見てもらいたいのです。日々、ストア哲学者へと変貌を遂げていった彼の旅に同行してもらいたいのです。運命が許してくれるなら、あなたが、今、抱えている挑戦的な課題や普段の生活の中にある問題に、ストア派の知恵を適用できるようになるかもしれません。しかし、その変化はページから飛び出すものではなく、実践することによってのみもたらされるものです。マルクスが自分に向かってこう言い聞かせていたように。

 善き人がどうあるべきか論ずるのは止めて、ただ善き人であれ。[『自省録』10‐16]


目次

プロローグ

第1章 デッド・エンペラー
ストイシズムとは何か

第2章 真実を語る子供
賢く言葉を使う方法

第3章 賢者になって考える
自分の価値観に従う方法

第4章 ヘラクレスの選択
欲望を克服する方法

第5章 イラクサをつかむ
痛みと和解する方法

第6章 心を守る城塞
怖れや不安を手放す方法

第7章 いっときの狂気
怒りを征服する方法

第8章 空からの眺め

謝辞
訳者あとがき
参考文献


訳者あとがき

 本書は、ドナルド・ロバートソン著 How to Think Like a Roman Emperorの全訳です。ローマ帝国第16代皇帝であり、ローマ時代を代表するストア哲学者の一人であるマルクス・アウレリウスをロールモデルに、どうしたら普段の生活の中で出会うネガティブな感情――不安や恐れ、悲しみや怒り、不健全な欲望など――から解放され、自分の価値観に沿った生き方ができるかを学ぶ内容になっています。
 地中海一帯を治める皇帝というと、絶対的な権力を持つ神のような存在を思い浮かべます。しかし、彼の治世には、帝国内の4人に1人を死に至らしめたという疫病、絶えず侵略してくる異民族との度重なる戦争、部下の将軍が仕掛けてきた内戦といった、帝国を崩壊させかねない問題が次々と持ち上がります。個人的にも、弟の乱痴気騒ぎに振り回され、病弱な身体に悩み、子供たちの相次ぐ死と向き合うことになります。彼はそういった逆境を、幼い頃より学んできたストア哲学を用いて乗り越え、人民や兵士たちに慕われる賢帝へと成長していきます。
 現代の哲学には、難解な机上の学問といったイメージがあります。しかし、古代の哲学――ソクラテス以降のヘレニズム哲学――は、主に「どうしたら人は幸福になれるか」というシンプルな問いの答えを求めるものでした。特に、ストア哲学が成立した2300年前の地中海世界は、アレクサンドロス大王の死がもたらした混沌の中にあり、「外の世界」にあまり依存しない幸福を欲する人が増えていました。
 当時の哲学各派は、この「幸福な人生」の定義によって識別されるのですが、ストア哲学は、それを「流れるような生」にたとえました。変化していく世界はコントロールできませんが、その変化をどう受け止めるかは「自分次第」で、コントロールできます。ストア哲学者たちは「心の中の動揺は、出来事そのものではなく、その出来事をどう判断するかによって生じる」という理解の上に立って、心を平静に保つ考え方や技術を究めようとしました。情念に煩わされることのない「流れるような生」の中で、自分らしく生きることが可能になる哲学を模索していったのです。そのため、ネガティブな感情に対処するための心理療法的な技術も開発されていきました。あまり知られていないことですが、今の心理療法の現場で不安や抑うつの治療法として主流になっている認知行動療法は、ストア哲学から強い影響を受けて生まれたものです。現在、この哲学由来の技術の恩恵を受けている人が少なくないということです。
 ストア哲学は、これまでも多くの人たちの心の支えになってきました。例えば、ナチスの強制収容所での壮絶な体験を綴った『夜と霧』の著者で精神科医のヴィクトール・E・フランクル。そして、ベトナム戦争で捕虜になり、7年半の間、拷問を含め過酷な環境の中にいた米軍のジェームズ・ストックデール海軍中将。彼らのように、極端な運命に遭遇した人たちが生き抜いていく上でもこの哲学が役立っています。
 また、ストア哲学はリスクと不確実性の世界に生きる起業家や投資家の間に信奉者が多いことでも知られています。古くはジョン・D・ロックフェラーやトーマス・エジソンら象徴的な起業家がこの哲学から影響を受けたと言われています。現在ではSquareやTwitterのCEOであるジャック・ドーシーがシリコンバレー・ストイックと呼ばれるほどの信奉者で、ストア派の鍛錬を毎日欠かさないそうです。『自省録』を愛読するハフィントン・ポストの社主、アリアナ・ハフィントンも、マルクス・アウレリウスの言葉を財布の中に入れて持ち歩くだけでなく、デスクやナイトスタンドに飾って読み返しています。その他にも、ベンチャーキャピタリストでDiggを設立したケビン・ローズなど、ストア哲学の考え方や戦略をビジネスに用いる人は少なくありません。なぜ起業家や投資家がこの哲学を採用するかは、『TOOLS OF TITANS』などの著者でエンジェル投資家でもあるティム・フェリスによる「ストア哲学は、高ストレス環境下で繁栄するための理想的なオペレーティングシステムになる」という要約がすべてを物語っているでしょう。
 ストア哲学が興味深いのは、すべての人にいつかは訪れる老いや病、そして死をも含めた、人生のどの瞬間であっても幸福でいられる哲学を究めようとしたところにあります。物質的な富を頼りに幸せになろうとする期間限定の〝成功哲学〟ではなく、人として避けることができない〝不幸〟においても幸福でいられる哲学を目指しています。また、自分の幸福を追求することが社会の幸福につながり、宇宙の摂理とも調和していくというダイナミズムをも兼ね備えています。
 2020年に始まった新型コロナウイルスのパンデミックは、政治や経済だけでなく、私たち一人ひとりの生活に大きな変化をもたらしています。ますます予測不能になったこの世界で、ストア哲学を〝再発見〟し、自分の人生に適用し始める人が増え始め、欧米では一種のブームのような状況になっています。ギリシアの混沌とした世界に生まれ、ローマで実践哲学の色合いを濃くしたストア哲学は、まるで今この時代のために用意されたもののようでもあり、この流れは当然のことなのかもしれません。
 アテネの古代アゴラのすぐ近くに、ストア哲学が誕生し、その名の由来となったストア・ポイキレ(彩色柱廊)の基礎部分が今も残っています。居並ぶレストランと喧騒に心を奪われていると見過ごしてしまうその場所で2300年前に始まった哲学は、今も誰かに〝再発見〟され、利用されるのを待っています。マルクス・アウレリウスも、この哲学を最大限に利用した一人と言えます。とはいえ、その生真面目な性格から、学問として究めただけでなく、自分が置かれた特異な立場と運命を〝機会〟にして、まるで実験するかのように自分の人生に適用していった稀有な人物とも言えます。荒れ狂う外の世界と対峙することを運命づけられた皇帝が、心に平静を保ちながら自分らしく生きていくストーリーは、変化する世界に放り込まれた私たちに何らかのインスピレーションを与えてくれるのではないでしょうか。

山田雅久


略歴

[著者]ドナルド・ロバートソン Donald Robertson
作家、認知心理学療法士。古代哲学と現代の心理療法との関係を専門としている。現代ストイシズム協会の創立メンバーの一人であり、20年にわたって研究を続けている。著書に『ストイシズムと幸福の技術』Stoicism and the Art of Happiness 、『レジリエンスを構築する』Build Your Resilienceなど。
スコットランドのエアシャーで生まれ、長年ロンドンで働き、現在はカナダ在住。
本書はアメリカでSt. Martin’s Pressより2019年4月に刊行され、歴史・哲学・心理学が独自に組み合わされた、読者自身が自らの生活で実践できるセルフヘルプ・マニュアルとして好評を博している。

[訳者]山田雅久 Masahisa Yamada
翻訳家。主な著書に『脳を老化させない食べ物』(主婦と生活社)、訳書に『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』、『プリズナートレーニング』シリーズ、『ストリートワークアウト』(以上CCCメディアハウス)、『なぜ人は犬と恋におちるのか』(洋泉社)などがある。






●装画/ヤマザキマリ
●装丁/轡田昭彦+坪井朋子
●校正/株式会社円水社