新装版 味の歳時記
うまいものを食べるコツは、まず旬を知ること。ラジオ番組で軽妙に日本の味を語り続けた(オリジナル版刊行当時)著者が現代人の食卓に四季をよみがえらせる。食卓の話題を豊かにする思いがけない食べものの話が随所に。
- 書籍:定価1650円(本体1,500円)
- 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
- 2017.06.20発行
内容
日本の四季や文化を再発見する、TBSブリタニカの「歳時記シリーズ」 復刊第三弾!
第一弾 『花と草木の歳時記』、第二弾『きもの歳時記』 に続き、次なるテーマは…日本の食・味について。
食卓に現れる食べものを見て、季節の変化を感じ取ることができた時代を、もう一度思い起こしてほしい――。
まえがき
おいしいものが食べたいという願いは、誰もがもっている。「うまいものないかね」と人にたずねるのも、「うまいものがあるよ」と人に言われて食べてみたくなるのも、人情である。
雑誌にはよく、「うまいもの・うまい店」といった欄があって、常に読者の興味をひいている。みんな、うまいものが好きなのである。
西洋料理のおいしいものの書としては、フランスのブリヤ=サヴァランの『美味礼讃』が最も有名である。中国料理のおいしいものの理論的研究書としては、袁随園の『随園食単』をあげねばなるまい。どちらも、著者が晩年にまとめたものだが、うまいものを追い求める楽しみは、年とともに増してくるものかもしれない。私も、うまいものとは、と語ってもいい年に近付いたようである。うまいものを探し求めている人たちに、うまいものを食べるためのコツといったものをお教えしたいと思うようになった。
命を保つためには、とにかく、毎日なにかを食べなくてはならない。食いだめは不可能である。どうせ食べなくてはならないのなら、うまいものを食べるほうがいい、決まりきったことである。
うまいものの条件とは、第一に、新鮮なことである。その点からいえば、近ごろは流通機構や冷凍技術が発達したために、昔とくらべると、新しいものがずっと手に入りやすくなっている。この点は、ありがたい。
ところがこの便利さが、うまいものを食べようとするときにかえって災いとなっている場合がある。夏のさんま、冬のトマトといった具合に、食べものに関して季節が見失われてしまったことがそれである。
食べものには、食べるのに最も適した時期、すなわち、いちばんおいしい時というものがある。これが旬しゅんである。うまいものを食べるもうひとつの大切なポイント、それが、このしゅんを心得ることなのである。
さらにつけ加えるならば、産地を選ぶことも大事である。同じ魚のしゅんが、とれる場所によって、春になったり秋になったりすることがあるからである。だから私はこの本で、いつ、どこの鯛たいがいいか? これを書いてみた。野菜は、今月なにがうまいか? これを書くことにした。
食卓に現れる食べものを見て季節の変化を感じとることができた時代、またそれが楽しみでもあった時代を、もう一度思い起こしてほしいものである。
もうひとつ、この本でねらいとしたことは、月々の食べもので是非知っていてほしいこと、知っていたらおもしろかろうという話題、その食べもののもつ意外な側面といったことを盛ったことである。
食べ上手は社交上手といわれる。話題の豊富な人との食事は楽しいものである。この本によって、食卓の会話を一層豊かにしていただけたら幸いである。
なお、巻末に掲げた「旬しゅんのカレンダー」は、月々の野菜や魚のしゅんをまとめたものである。特に魚のしゅんについては、これをわかりやすく書いた本が見当らないから、一般の人、釣り人に参考にしていただけるかと思う。ご利用いただきたい。一九七六年秋
もくじ
春
三月
旬
摘草(つみくさ)
四月
旬
赤魚 (あこう)
栄螺(さざえ)
五月
旬
柏餅(かしわもち)
鰊(にしん)
夏
六月
旬
木耳(きくらげ)
紫蘇(しそ)
七月
旬
山椒(さんしょう)
牛蒡(ごぼう)
八月
旬
鮑(あわび)
南瓜(カボチャ)
衣被(きぬかつぎ)
蛸(たこ)
秋
九月
旬
胡麻(ごま)
鳩麦(はとむぎ)
生姜(しょうが)
十月
旬
椎茸(しいたけ)
胡桃(くるみ)
蓮根(れんこん)
蓮根(れんこん)
十一月
旬
牡蠣(かき)
葱(ねぎ)
大根(だいこん)
冬
十二月
旬
鮟鱇(あんこう)
海鼠(なまこ)
柚子(ゆず)
一月
旬
屠蘇(とそ)
雑煮(ぞうに)
酒(さけ)
二月
旬
河豚 (ふぐ)
旬のカレンダー
略歴
清水桂一
(しみず けいいち)
(しみず けいいち)
1907年、横浜生まれ。四条流家元石井泰次郎の料理故実を伝承し、銀座クッキングスクールはじめ各所で家庭料理指導にあたるかたわら、神奈川県立栄養短期大学講師等をつとめた。1980年没。
主な著書『日本料理法大全』『現代日本料理法総覧』『四季の料理』
装丁/名久井直子
装画/福田利之
校閲/円水社