だから、ぼくは農家をスターにする。 「食べる通信」の挑戦

だから、ぼくは農家をスターにする。
高橋博之 著
  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 四六判・並製/232ページ
  • ISBN978-4-484-15212-7 C0030
  • 2015.06.18発行

全国に広がる”食べもの付き情報誌”が「つくる人」と「食べる人」の新しい関係を生みだす
地域の優れた生産者と都市の消費者をつなぐ、史上初の食べもの付き月刊情報誌「食べる通信」は、いまや東北にとどまらず、全国11もの団体が刊行している。その基盤をつくった高橋博之は何を目指し、どんな思いで全国を駆け回っているのか。東北から日本の一次産業を変える取り組みとともに、熱いこころざしを語りつくす。

書籍

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電子書籍

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内容

『食べる通信』とは、食べもの付き情報誌です。

編集長である私(高橋博之)が、農家や漁師を徹底取材。

彼らを特集する雑誌が、収穫された食べものとセットで読者に届けられます。

2013年7月。月刊『東北食べる通信』創刊。

海に山に里に東北各地の生産者を訪ね歩き、その生き様を誌面で伝えてきました。

紙面を通じて生産者の思いを知り、その食べものをおいしくいただく。

『食べる通信』を通じてつながった”つくる人”と”食べる人”は、さまざまな化学変化を起こしていきました。

東北から生まれた小さなメディアは、全国の大手メディアから注目を集めています。

現場ではいったい何が起きているのか。

本書は、食を通じた”世直し”をうたう、私たちの挑戦の記録です。

はじめに

 同じ牡蠣でも、都内のレストランで食べるより、生産現場で水揚げしたばかりのものを食べるほうがおいしいと感じるのはなぜだろうか。新鮮だから、ということもある。しかし、それ以上に、その牡蠣を育てた漁師から生産現場の苦労や感動の話を聞き、実際に海に出て、そこにある自然を感じながら食べるということが大きいのだと思う。牡蠣が生まれ育った物語を知ることで、食べるという行為に「理解」と「感謝」が生まれ、その分おいしく感じるのだ。それは、どんな一流のシェフでも味付けできない調味料となる。食べものの裏側を知るということは、そういうことなんだと思う。舌だけではなく、頭も使って食べる。
 
 東日本大震災の後、被災地を訪れた都市住民の多くは、このことを体感した。海のない内陸で生まれ育った私もそのひとりだった。
 
 1次産業では食べていけないと言って、若い農家や漁師がどんどん減っていく日本。私はこの問題をなんとかしたいとずっと考え続けてきた。そして、この被災地の海辺で繰り広げられた光景に、ヒントを得たのだった。多くの消費者が都市にいながらにして、日常時でもこれを体験できれば、食べものの価値、そしてその食べものを育てる生産者の価値はもっと上がるのではないかと。そう考えてつくったのが、史上初の食べる情報誌『東北食べる通信』だ。2013年7月に創刊し、毎月、東北のこだわりの農家・漁師を特集した情報誌と彼らが育てた食べものをセットで都会の食卓に届けている。
 
 スーパーに並んでいる食べものの背景にある物語。その食べものを育てた人は一体どんな人で、どんな人生を歩んできたのか。どんな哲学をもって食べものを育てているのか。そして、その食べものを育む自然とはいかなるものか。そうした情報を知ったうえで、自分で調理し、大切な人と食卓を囲んで食べる。さらに、SNSで実際に生産者に「ごちそうさま」を伝え、質問し、交流してみる。読者同士でレシピの交換をしてみる。「食べる」という行為の醍醐味をもう一度丁寧に体験し、その喜びを暮らしの中に取り戻すことで、食卓が豊かで楽しくなっていく。自分の口に入れる食べものに関心を持つことは、自分や家族の命や健康に向き合うことにもつながっていく。
 
 創刊から1年後、私たちの取り組みは2014年度グッドデザイン大賞候補にノミネートされることになった。応募総数約3500点の中の最後の大賞候補9点に選ばれたのだ。他の8チームは、ソニーやヤマハ、無印良品など、知名度、組織力、歴史、共に横綱級の大企業だった。それに比べ、私たちはたった1年前に創業したばかりのベンチャーNPOで、社員は私を含めて3人しかいない。もし大賞になれば、グットデザイン賞約60年の歴史の中で、雑誌初、NPO初、もちろんこれだけ小さな団体としても初の 快挙になるということだった。
 
 大賞を決める最終プレゼンテーションの結果、『東北食べる通信』は2位となり、1位のデンソー「医療用アームロボット」との決選投票になった。87票差の僅差で大賞こそ逃したものの、私たちの快進撃は大きな話題となった。
 
 私たちが『東北食べる通信』でやっていることは、たったひとつ。食べものの裏側に隠れて見えなくなっていた生産者と消費者をつなぐことである。そこには私たちの想像をはるかに超える豊かな世界が広がっていた。私たちが目撃したのは、今の消費社会が失ってしまった「生きる実感」や「つながり」を、誰にとっても身近な〝食〞を通じて取り戻す人々の姿だった。私はこの人々が眼差しを向ける先に、新しい社会への「胎動」を感じている。

もくじ

はじめに
 
第1章地方で旗を立て続ける
こうして『東北食べる通信』は誕生した
 
東北コンプレックス
当事者意識が芽生えた代議士秘書時代
敗北感から始まった、県議への挑戦
〝3ナシ〞の私が毎日続けた街頭演説
利益誘導型から理念共鳴型の政治へ
3000 人と向き合った車座の県政報告会
1次産業の世界にもあった観客民主主義
もはや崖っぷちの、漁業の人手不足
沿岸250 キロを歩いた岩手県知事選
暮らす人の視点に欠ける演説だった
政界を引退し、水産業へ転身
生産者と消費者のつながりが1次産業を救う
 
第2章 史上初、「食べる情報誌」モデルとは
 
食サービスのコペルニクス的転換! ?
生産現場のリアリティが消費社会に投げかけるものとは
創刊スタートダッシュ
食べものを命として、消費者へリレーする
「常勤+プロボノ」体制の精鋭チーム
徹底した「現場主義」で〝代弁者〞を目指す
本州最果ての地で漁師たちにどやされる
『東北食べる通信』発行の裏側
発送現場に見える、生産者の暮らしとリアリティ
高度流通システムの功罪
「次の社会」のヒントは、1次産業現場にある
『東北食べる通信』は1次産業の3次産業化
 
第3章 都市 と地方、生産者と消費者をつなぐコミュニティの力
 
毎月の情報誌は〝入口〞に過ぎない
「どんこ事件」で学んだ、つくり手に寄り添う共感者
「会いに行けるアイドル」ならぬ「会いに行ける生産者」
東京育ちの女性が海で食べものの「命」に出会う
「捨てる」から「返す」へ。小菊南瓜の種物語
行き詰まった都市を、農村が救う
まるで新興宗教! ? コミュニティサービスの難しさ
田んぼへ駆けつけた都会人が収穫したもの
今、消費者に欠けているのは「共感力」
都市と地方がかき混ざった、新しい「ふるさと」の発見へ
一億総百姓社会の実現に向けて
 
第4章 生産者 と消費者が歩み寄り、支え合う「CSA」というしくみ
 
「お見合い」の後、農家と「結婚」してほしい
欧米で広がる「CSA」の4つの特徴
後ろ盾のない農家がつくったネットワーク
欧米型を進化させる、日本型CSA とは
設立早々の〝炎上〞に学んだ運営術
会員の意識を変えた「CSA ミーティング」
「地産地消」ではなく「知産知消」
生産者の夢をコミュニティと共有する
日本のソリューションとしてのCSA
 
第5章 全国へと輪を広げる『食べる通信』モデル
 
限定1500 人のコミュニティサービスへ
地域ごとの独自性を「リーグ制」で活かす
赤字経営から脱皮し、W E Bのプラットフォームをつくる
多くの支援者から5 2 0 万円が集まった奇跡
自由なカスタマイズで『四国食べる通信』創刊
地元感を追求した、小規模な『東松島食べる通信』
『食べる通信』登竜門の「リーグ運営会議」
 会いに行ける編集長。「車座座談会」
都会初の『神奈川食べる通信』で身近な生産者を知る
大手テレビ局『食べる通信』に参画
マーケティング3・0 としての『食べる通信』
全国で100の『食べる通信』を立ち上げる
1次産業を情報産業に変える
気づいたら読者たちがグラウンドへ降りていた
 
おわりに
 
全国に広がる〝ご当地食べる通信〞
まずは足を運んでみよう! 『食べる通信』ワールドの入口
動き始めたCSA

略歴

高橋博之
(たかはし・ひろゆき)
一般社団法人 日本食べる通信リーグ 代表理事
特定非営利活動法人 東北開墾 代表理事
1974年、岩手県花巻市生まれ。2006年、岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補、初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。政党や企業、団体の支援を一切受けず、お金をかけない草の根ボランティア選挙で鉄板組織の壁に風穴を開けた。2011年、岩手県知事選に出馬、次点で落選。沿岸部の被災地270キロを徒歩で遊説する前代未聞の選挙戦を展開した。その後、事業家へ転身。“ 世なおしは、食なおし。” のコンセプトのもと、2013年に特定非営利活動法人「東北開墾」を立ち上げる。史上初の食べ物つき情報誌『東北食べる通信』編集長に就任し、創刊からわずか4ヵ月で購読会員数1000人超のユニークなオピニオン誌に育て上げる。2014年、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」を創設。『四国食べる通信』、『東松島食べる通信』など、すでに11誌が誕生。“ 都市と地方をかき混ぜる” というビジョンを掲げ、3年間で100の「ご当地食べる通信」創刊を目指し、日本各地を飛び回っている。

編集協力/本間勇輝、小久保よしの、木勢翔太
カバーデザイン/渡邊民人(タイプフェイス)
本文デザイン/小林麻実(タイプフェイス)
校正/櫻井健司(コトノハ)

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