リバース・イノベーション2.0 世界を牽引する中国企業の「創造力」

リバース・イノベーション2.0
徐 航明 著
  • 書籍:定価1980円(本体1,800円)
  • 電子書籍:定価1584円(本体1,440円)
  • 四六判・並製/256ページ
  • ISBN978-4-484-14233-3 C0034
  • 2014.11発行

小米、BYD、テンセント、ファーウェイ、アリババ……。「世界の工場」から「世界のR&D拠点」へ変わる中国。躍進企業の「イノベーション力」から日本は何を学べるか。一橋大学・米倉誠一郎教授 推薦「背筋が凍りつく衝撃…日本の経営者必読の書」

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内容

「世界の工場」から「世界のR&D拠点」へ

グローバル企業が新興国で起こして先進国に還元する「リバース・イノベーション」とは違って、新興国の企業が主導するイノベーションが、日米欧を脅かすレベルにまで発展している。「リバース・イノベーション」は、新たな段階に入り、中国など新興国の企業が担い手となる「リバース・イノベーション2.0」へと発展してきたといえるだろう。
――「序 イノベーション中国発?!」より

一橋大学イノベーション研究センター
米倉誠一郎教授 推薦――
背筋が凍りつく衝撃。なぜMITが選んだ「世界で最も革新的な50社」に中国メーカーが3社も入り、日本企業は1社も入らないのか。日本の経営者必読の書が中国の友人から届いた。

小米(スマートフォン)/BYD(電気自動車)/テンセント(メッセージアプリ)/ファーウェイ(通信機器)/アリババ(ECサイト)……

リバース・イノベーション2.0の特徴とは?

・最先端ではなく“最適な”技術
・社会ネットワークによる大衆のイノベーション
・独自ではなく、グローバルリソースからの価値創造
・技術と社会の両輪のイノベーション

◆構成
第1章 リーバイス・イノベーションと中国発のイノベーション
第2章 世界を変えた中国発のイノベーション
第3章 なぜ中国か――天の時、地の利、人の和
第4章 新興国で考えるイノベーションの本質
第5章 これからのイノベーションを創る主役は誰か

序 イノベーション中国発?!

この10数年、中国崩壊論が日本のメディアに頻繁に取り上げられてきた。しかし、本当に崩壊するのだろうか。現実はいうまでもない。崩壊論がありながらも、中国はさまざまな社会問題とリスクを抱えながら着実に成長しているのが現実である。

中国など新興国にとって、発展の道は決して平坦ではない。しかし先進国は、意識的にかそれとも無意識的にか、成長しつつある新興国の本質を見落としていないだろうか。中国をより客観的に分析し、「他山の石以て玉を攻むべし」といった心持ちで、その成長からヒントを得ることが先進国にとっても有用ではないか。つくづくそう感じている。

日本に留学し、卒業後は日本で働いてきた中国人の筆者は、この数年間、仕事やプライベートで毎月のように日本と中国を行き来している。中国の著しい変化を肌で感じ取ってきた。中国をより客観的に分析する中で、中国発のイノベーションから、日本も参考にできるところが少なくないと考えている。

ネガティブな報道に左右されず、日中双方がお互いに学ぶようになれば―。その思いで2011年5月から、日経BP社のテクノロジーオンラインでコラム「イノベーション中国発?!」を連載し始めた。出張で移動中の飛行機、駅やホテル、週末の近所のカフェで、2年半の間、「イノベーション」を切り口に、自らの考察と見聞、経営者や学者、コンサルタントなどとの交流で得た知見を綴り、日本の読者にお届けした。技術的な視点に限らず、社会、経済、文化なども踏まえた複数の視点から探った。

振り返ってみると、このコラムを書き続けたことによって、中国では今どんなイノベーションが起きているのか、イノベーションの本質とは何か、中国ならではのイノベーションにはどんな特徴があるのか、これからのイノベーションはどうなるかなど、いろいろと考えさせられてきたといえる。

コラムが始まったころは、まさにアップルのiPhoneが絶好調のときだった。それから3年以上が経ち、iPhoneは既に頂点から降りつつある。今では、中国で「小米(シャオミ)」に代表される多種多様なスマートフォンが誕生している。中国ブランドのスマホは、ついに日本勢の牙城を崩して日本にも上陸してきた。2011年には、こんなことはまったく想像もつかなかった。

また、コラムが始まったころ、中国ではまだソーシャルメディアはそれほど流行っていなかったが、今では「中国版ツイッター」といわれる「微博(ウェイボー)」、そして日本のLINEの最強のライバルである「微信(WeChat)」が世界中で展開されている。さらには、近年の日本電機業界で行われた大規模なリストラの受け皿が、なんと日本に進出したファーウェイ(華為技術)、ZTE、ハイアールといった中国企業だったことも驚きだ。

正直なところ、私自身、連載中の前半は「イノベーション中国発?」との認識を持っていたが、連載の後半になると「イノベーション中国発!」という見方が強まっていった。本当に変化のスピードが速く、連載終了の2013年11月まで、再認識の必要があると何度も感じさせられた2年半だった。

「中国製造」でGDP世界2位へと躍進した中国。持続的に成長するために「中国創造」に変身しようとしている。中国にはコア技術がない、コピー天国だなどともいわれてきたが、近年は中国企業が規制のかかるグレーゾーンにも大胆に挑戦する意欲をみせている。先進国と先進企業の強みをいち早く吸収する巧妙な学習力と、世界最大の産業集積地としての地の利、人材の豊富さを加えれば、中国発のイノベーション、中国ならではのイノベーションは既に始まっているのだと、私は確信している。

ただ、それは単に「中国発のイノベーションは可能だ」という結論だけでよいのだろうか。何かが足りないのではないかという気がしている。

2014年2月、MIT(マサチューセッツ工科大学)が「世界で最も革新的な50社」を発表した。毎年、世界のさまざまな機関からイノベーション・ランキングが発表されているが、MITは他のランキングとは一線を引き、過去の実績や評判は考慮せず、現在どこで重要なイノベーションが起きているかという独自の視点で世界の企業のイノベーション力を評価した。

それをみると、やはりアメリカ企業が大半を占めているが、中国系の企業もランキングに入ってきている。「WeChat」を提供するテンセントが11位、「小米」スマホを生み出した小米科技が30位、中国の検索大手、百度(バイドゥ)が28位だ。逆に、何回も探したが、日本企業の名前は見当たらない。

この3社がランキングされていることは、一体何を意味しているのか。ソーシャルメディアと統合プラットフォーム、スマートフォン、そして検索エンジンという三つの重要な領域において、中国は既に世界の最先端に入っているのだと分かった。

つまり、中国発のイノベーションは、技術の範疇を超えて、サービス、ビジネスモデル、経営管理、社会改革などへと深く広く進行している。グローバル企業が新興国で起こして先進国に還元する「リバース・イノベーション」とは違って、新興国の企業が主導するイノベーションが、日米欧を脅かすレベルにまで発展している。「リバース・イノベーション」は、新たな段階に入り、中国など新興国の企業が担い手となる「リバース・イノベーション2・0」へと発展してきたといえるだろう。

このようなイノベーションが、なぜ今、中国で起きているのか。そして、これら「中国発のイノベーション」を通じてみえる、イノベーションの本質とは何か。本書では、それらを分析するとともに、先進国、特に日本が今後いかにイノベーションを創出し、経済を浮上させられるかといったことについても探った。

本書は全5章から成っている。

第1章では、中国で起きているイノベーションにどんな特徴があるか、「リバース・イノベーション」と「リバース・イノベーション2・0」の比較を交えながら説明する。

第2章では、スマートフォンから通信インフラ、電気自動車、それから特区や産業集積地などの政策領域まで、中国発のイノベーションのさまざまな事例を紹介する。

第3章では、なぜ「リバース・イノベーション2・0」が中国で起きているのか、その原因を探る。技術の移転(天の時)、モノ、カネ、ヒトの集積地(地の利)、イノベーションマインド(人の和)という三つの視点から分析してゆく。

そして第4章では、中国発のイノベーションの特徴から、イノベーションの本質まで、さまざまな事例をもとにイノベーションに対する認識を再考したい。

最後の第5章においては、中国のイノベーションを阻害する要因を分析するとともに、先進国、特に日本のイノベーション創出に関する提言を記す。さらに、イノベーションは今後どのように発展してゆくのか、グローバル連携によるイノベーションの創出が最強のパターンであるというのが筆者の主張だ。

日経BPテクノロジーオンラインの連載を大幅に加筆修正し、新しい情報も盛り込んで再構成した本書は、学術的に分析するものではなく、できるだけ事例や事実の解説に集中し、よりリアルな中国の現実を紹介するものである。日本や欧米との比較も交え、中国がさまざまな課題を抱えながらも着実に進化している事実を読者の皆様に知っていただき、日中両国のウィン・ウィンな関係の再構築に少しでも役立てれば何よりである。

そして何より、「中国発のイノベーション」の分析を通じて、日本のイノベーションの〝復活〟へのヒントを得ていただければ幸いである。

目次

序 イノベーション中国発?!

【第1章】
リバース・イノベーションと中国発のイノベーション

グローバル企業のリバース・イノベーション

「世界の工場」から「世界のR&D拠点」へ/半額以下の医療機器を開発したGE上海/マイクロソフト「キネクト」の陰に中国技術者の知恵/リバース・イノベーションは容易ではない

中国が仕掛けたイノベーション

リバース・イノベーション2・0とは何か

最先端ではなく〝最適な〟技術/社会ネットワークによる大衆のイノベーション/独自ではなく、グローバルリソースからの価値創造/技術と社会の両輪のイノベーション

【第2章】
世界を変えた中国発のイノベーション

すべては「特区」から始まった

深圳特区からの「一点突破」が躍進企業を生んだ/上海市・海南省など全国に広がる特区政策/「特区」は中国から日本へ

政府型イノベーションのTD‐SCDMA

TD‐SCDMAの誕生/TD–LTEへと進化し、4G国際規格へ/政府主導型イノベーションの是非

スマホ・タブレットの次を作る挑戦

「ホライゾン」の〝家族団欒〟コンセプト/なぜレノボは新カテゴリのPCを開発できたか

「山寨革命」の製造者メディアテック

躍進の原動力となったターンキー・ソリューション/市場参入タイミングの見極め/先進国の企業も同じ手法で反撃すればいい

電気自動車革命の尖兵BYD

チャイニーズ・ドリームから始まった快進撃/「中国製造」から「中国創造」へ/グローバル企業になるための布石

小米によるスマートフォンの再定義

「小米」という名称の由来/ユーザー参加型の開発/販売も販促もインターネットで/小米から教わること――クラウドソーシングの導入/競争環境の変化と小米のこれから

LINEと覇を競う「WeChat」

ゼロからのスタートではなく「QQ」が発展したもの/WeChatの優れた特徴/カワイイ文化vs.ソーシャル機能/二つの方向性で発展してゆく

中国の「双雄」ファーウェイとZTEの軌跡

80年代の深圳で誕生した2社/避けられない競争関係が生んだ技術力/国内でも国外でもグローバル競争にさらされる/新次元への競争

大衆による電動バイクのイノベーション

中国とは正反対の日本の電動バイク

スーパーテレビは〝スーパー〟か

ネット動画サイト「楽視網」が開発/テレビ界の小米となるか/スーパーテレビ開発が示すもの

【第3章】
なぜ中国か――天の時、地の利、人の和

技術移転という「天の時」

VCDの誕生と爆発的普及/スマートシティの世界的な試験場に/電気自動車メーカーも中国を目指す

モノ、カネ、ヒトの集積地という「地の利」

家電量販店は世界の新製品ショールーム/数十社以上がしのぎを削る中国携帯電話市場/3Dテレビの主戦場はアメリカでも日本でもなかった/白物家電も自動車も同じ/中国に遍在する産業集積地

イノベーションマインドという「人の和」

リンゴの皮――草の根の創造力/「イノベーション工場」――イノベーションを作ろう/官民挙げてのインキュベーション/人材流動の新たなトレンド――先進国グローバル企業人材の出口/人材が中国企業へ流れてゆく/年齢からみたイノベーションの優位性
イノベーションのために年齢とどう向き合うか

【第4章】
新興国で考えるイノベーションの本質

イノベーションは情熱から生まれる

日本の電池産業を崩した王伝福/「中国のジョブズ」も夢を持つ情熱家だった

イノベーションは模倣から始まる

いつの時代でもコピーは当たり前だった/コピーで中国は得をしたか損をした/コピーは競争戦略の一つである/コピーの活用も一種の〝イノベーション〟である/コピーとの向き合い方

「微創新」でイノベーション力を磨く

「微創新」議論の始まり/「微創新」肯定論への反論/イノベーションと中国の競争環境/微創新と改善

「近道」で道を開く

中星微電子とメディアテック/ニッチ市場ではなく、見逃されたマス市場を狙う/技術軽視でも技術偏重でもない、ほどよい技術重視/経営思考回路の違い/結局、イノベーションにはさまざまな形がある

組織の活力でイノベーションを継続する

徹底した危機意識/組織を活性化する劇薬/「大企業病」にかかったファーウェイの課題

【第5章】
これからのイノベーションを創る主役は誰か

中国発のイノベーション創出は続くか

フォーチュン・グローバル500のランキングが示すもの/民営企業とイノベーション/「国進民退」とは?/権力社会、コネ社会、実用主義という中国文化

数学オリンピックと創造性

創造性は促進されたか、阻害されたか/「詰め込み」か「ゆとり」か

日本をイノベーションで再び輝かせるには

ラーメン・イノベーションから得られるヒント/「融合」によるイノベーション/今でも炊飯器だけは「日本」が熱烈に支持されている/日本製炊飯器の高い技術力/「おいしいご飯」以上の「味」を生むもの/炊飯器にも押し寄せる海外勢との競争

中国、日本、米国の思考回路の違い

まったく異なる3カ国の弁当/弁当と似ているプレゼン資料/ケータイ、パソコンの延長、コピー携帯/日米中の商品開発志向の違い

「中国+日本+米国」が新たな革新を生む

職人気質、商人気質、異人(イノベーター)気質/究極を追求する日本の職人/商魂たくましい中国の商人/「Think Different」というアメリカの異人/「職人」+「商人」+「異人」

未来のイノベーションに向けて

後書き 北国の春
主要参考文献

略歴

徐 航明 (じょ・こうめい)

中国西安市出身。90年代後半に来日し、東京工業大学大学院総合理工学研究科(知能システム科学専攻)を修了。工学博士。外資系通信メーカーを経て、現在、日系大手電機メーカーに勤務。技術標準化とアライアンス活動に携わっている。イノベーション、技術経営、比較文化の研究に関心があり、日本と中国で執筆、翻訳活動を行っている。

著書に、2012 年に中国、2013 年に台湾で刊行された『ブランドスローガンのストーリー(這些Logo原來是這樣來的:世界最著名的60 個品牌文化與創立故事)』がある。翻訳書は、阿甘著『中国モノマネ工場─世界ブランドを揺さぶる「山寨革命」の衝撃』(共訳、日経BP 社、2011 年)。また、本田雅一著『3D世界規格を作れ!─ブルーレイ統一から3Dテレビへ。日本メーカーの誇りをかけた戦い。』(小学館、2010 年)を中国語に翻訳している。

● 日経BP 社テクノロジーOnline 連載
イノベーション中国発?!(2011年5月~ 2013 年11 月)
● 日経BP 社テクノロジーOnline 連載
技術者のカフェタイム 食文化とハイテク(2014年2月~)
● Food Watch Japan 連載
「中華料理」と「中国料理」は同じですか?(2012年9月~)

●編集協力/田中奈美
●校閲/竹内輝夫
●図版制作/朝日メディアインターナショナル
●装丁/熊澤正人+尾形 忍(POWERHOUSE)

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