本書は、筆者が運営するお金持ちに関する情報サイト「お金持ちの教科書」から出来上がったものである。同サイトは読者の皆さんに好評をいただき、開設1年で、キーワード検索のランキングでトップクラスのサイトに成長することができた(キーワード:「お金持ち」)。サイトの記事を書籍用に再構成し、加筆したのが本書だ。
筆者は、十数年にわたって経営コンサルティングを行ってきた経験を持つ。その中で、企業のオーナー経営者を中心に、多くの富裕層に接してきた。また、サラリーマン時代には金融機関に勤務した経験があり、ここでも多くの富裕層を目にしてきた。筆者は、コンサルティングにおいて、いくつもの事例の中から法則性を見出し、モデル化する手法を得意としているのだが、この手法を、お金持ちになるためのノウハウとして応用できないか、と考えたのが本書執筆のそもそものきっかけである。
筆者は独立して会社経営を始めるにあたり、どうせやるなら経済的にも成功したいと考え、これまでに出会ったお金持ちたちのパターン化を試みた。お金持ちになるタイプは千差万別であり、明確に「お金持ちになりやすいタイプ」というものは存在していなかった。また、お金持ちになった方法も様々であり、絶対的な儲けのテクニックが存在しているわけでもなかった。
だが、お金持ちの人たちに特有の思考パターンや行動原理というものが存在することは、ある程度はっきりしてきた。また、資産を形成しやすいキャリアというものがあることも分かってきた。筆者は自分自身にもそれを応用することで、大資産家というわけにはいかなかったが、何とか富裕層の仲間入りを果たすことができた。本書は、こうした法則性を分かりやすく解説したものである。
世の中にはお金持ちになるための情報が溢れているが、お金持ちの実像やお金持ちになるための方法を客観的に記したものは少ない。その理由は、こういった書籍の書き手が偏っていることが大きく影響している。
お金持ち本の代表格といえば、億万長者本人が自分の体験や主義を披露するタイプの書籍である。お金持ちは個性的な人が多く、特に事業で著しい財をなした人は、特異なキャラクターを持っていることが多い。こうした個性的資産家の話は、ストーリーとしては大変面白いのだが、これからお金持ちを目指そうというふつうの人にとっては、ほとんど役に立たない。一種の天才である彼らの行動をそのまま真似しても、うまくいくはずがないからだ。
一方で、億万長者による「オレ流本」と共に、お金に関する書籍で目立っているのが、税理士やFP(ファイナンシャルプランナー)らによる解説本である。彼らはお金の管理の専門家なので、保険や投資信託といった金融商品の基本的な内容を知ったり、お金の管理についてのコツを知ったりする上では、重要な情報を提供してくれる。その範囲にとどまった内容ならよいのだが、なかにはお金持ちになるためのノウハウを披露しているものも見受けられる。ところが、そのほとんどはリアリティがない。
それは当然のことで、彼らはお金を管理する方法を勉強した人たちであって、彼ら自身はお金持ちではないからである。また彼らのほとんどが、自身が富裕層でないのはもちろん、顧客にも富裕層を抱えていない。つまり、富裕層の資産形成の実態を自分の目で見たことがないのである。このため、どうしても内容が無味乾燥なものになってしまう。
本書は、約150人のお金持ちから筆者がヒアリングした内容をもとに執筆している。
お金持ちの人は、コミュニケーション能力が高いことが多く、自分自身をお化粧する方法に長けている。本書の中でも指摘しているが、お金持ちは常に世間からの妬みにさらされており、こうした攻撃から防御する方法を身につけている。彼らは、世の中の人が心地よく感じるような言い回しが本当に上手であり、話の中身には噓も多い。
噓の具体例は、たとえば以下のようなものである。
食品関連ビジネスで成功したある実業家は、筆者との面会にあたって、なぜ自身の事業が大成功したのか、ということに関する完璧な回答例をいくつも用意していた。成功した本当の理由は、その商品分野でたまたま最初に参入したのが自分だったという単純なものなのだが、世の中の人はそれに納得しないのだという。
と言うよりも、たまたまラッキーで大儲けしたという話は生理的に聞きたくないのだ。なかには、大した努力もしないでお金持ちになったといって、不快な態度を示す人までいたという。そういった雰囲気を察知した実業家氏は、人から尋ねられたり、インタビューを受けたりする際には、「長年、自分の信念に基づいて愚直に製品開発を続けてきた結果」であるという、美しい噓を日常的につくようになってしまったのだ。
話が長くなったが、お金持ちから話を聞くときには、こうした噓が存在することを事前によく理解しておくことが重要となる。筆者はこれまでに多くのお金持ちに接し、彼らの話を聞いてきた。また自分自身にも、お金に関する多少の経験値がある。ある程度はお金持ちの本音を引き出し、その実情やノウハウを客観化することができたのではないかと自負している。
本書は大きく分けて3つのパートで構成されている。
Ⅰ部では、お金持ちは実際にどのような人たちなのかについて主に解説している。ひとくちにお金持ちといっても、年収が多い人や資産が多い人など、その形態は様々だ。「本物のお金持ち」と呼ばれる人は果たして存在しているのか? あるいは、貧乏そうにしているお金持ちがいるのはなぜか? といった話題についても言及した。また、お金持ちを見分ける方法や、年収1000万円ではまったくお金持ちとは言えない実態なども明らかにした。
Ⅱ部では、お金持ちの人たちの思考回路について分析している。お金持ちが「ありがとう」を連発する理由や、お金持ちにケチが多いといわれる理由、さらには、お金持ちに友達が少ない理由などを解説した。お金持ちの人は、一般人と違う行動原理を持っていることが多く、そのことが彼らの資産形成に大きく貢献している。Ⅱ部を読めば、そのあたりの状況が理解できるはずである。そうなってくれば、お金持ちへの道により近づけるようになる。
Ⅲ部は、どうすればお金持ちになれるのか、という具体策を解説している。お金持ちになるためには、やはりどこかで大きなリスクを取らなければならないこと、徹底的に合理主義にならなければいけないことなどがわかるだろう。また、お金が逃げていくNG行動パターンについても触れた。残念ながら、お金持ちになるための絶対的な法則というものは存在していない。だが、お金持ちになりやすい行動パターン、お金が逃げていく行動パターンというものは存在している。これを実生活に応用するだけで、成功する確率はかなり向上するだろう。
最後に、「『小金持ち』でもいいから何とかしたい人へ」と題して、とりあえずまとまったお金を作るためのコツについて解説した。いきなりお金持ちを目指すのはちょっと、という人はこの章を参考に、できることからスタートしてもよいだろう。
Ⅰ部から順に読まれることをある程度想定してはいるが、各項目は独立した話になっているので、目次の中から興味のある項目を選び出して、バラバラに読んでも一向に構わない。
お金とは実に不思議な存在である。経済学的に言えば、お金はモノとモノの交換における媒介物にすぎないのだが、現実のお金は、それを超える存在感を持っている。実は、経済学におけるお金も科学的に証明されたものではない。わかりやすいように、物々交換が先にあって、それを便利にするためにお金ができたという話になっているが、これに対しては否定的な見解もある。人間が社会を形成した当初からお金は存在していた、という考え方である。
本書の中でも指摘したことだが、お金持ちになるためには、お金に対して淡泊になる必要がある。これは非常に矛盾した話だが、事実である。お金に対する執着心が強すぎると、かえってお金持ちになれないことが多いのである。また日本は特にそうなのだが、皆がお金に関心があるにもかかわらず、その話は社会的タブーになっていたりする。お金にまつわる話は多くが矛盾に満ちていることを考えると、お金は媒介物以上の魔物として当初から存在していた、という説には妙な説得力がある。
お金持ちの実態やお金持ちになるコツといった現実的な話に加えて、こうしたお金が持つ本質的な謎についても感じていただければ幸いである。