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意識をデザインする仕事 「福祉の常識」を覆すピープルデザインが目指すもの

意識をデザインする仕事
須藤シンジ 著
  • 書籍:¥1,600(税別)
  • 電子書籍:¥1,280(税別)
  • 四六判・並製/240ページ
  • ISBN978-4-484-13242-6 C0030
  • 2014.03発行
「息子が履ける、カッコいい靴がない!」を原点にファッションの力で福祉を変えてきた著者が次に目指すのは、マイノリティもマジョリティも、すべての人が混じり合う社会。高齢者も障害者も、みんな、もっと街に出よう!

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内容

高齢者も障害者も、みんな、もっと街に出よう!

「息子が履ける、カッコいい靴がない!」を原点に
ファッションの力で福祉を変えてきた著者が次に目指すのは、      
マイノリティもマジョリティも、すべての人が混じり合う社会。


ピープルデザインが目指す「超福祉」とは?
<モノづくり> 障害者と健常者がともに履ける、カッコいい靴づくり。
<コトづくり> 視覚障害者と一緒に観れる映画づくり。                     
<マチづくり> シブヤを「思いやり」の発信地に。
<シゴトづくり> 「サッカースタジアムで働こう!」障害者の社会参画を目指して。

はじめに

僕はデザイナーではない。
日本に住む、ひとりの父親にすぎない。そして、皆さんと同じように社会で働き、妻と3人の子どもたちと郊外のマンションに住む普通の職業人である。

この本には、「意識をデザインする仕事」というタイトルがついている。
デザイナーではない人間が、なぜデザインの本を書くのか。
それは、デザインとはモノをつくることだけではないからだ。最近、ソーシャルデザイン、コミュニティデザインという言葉をよく耳にするように、デザインの範疇は幅広く、社会やマチをつくっていくことも「デザイン」なのである。
そうした認識からすると、自分がやっていることは、人々の「意識」をデザインすることである。
その自覚を持ったのは、海外での講演やシンポジウムなどに招かれる機会が増えてきた頃のこと。彼らは「コンセプトデザイナー」とか「コンセプトメイカー」と僕のことを紹介してくれる。なるほどなと思った。新しいコンセプトをつくり出す仕事らしい。たしかに、自分がやっていることはそうかもしれない。オシャレな表現をしてくれるね! と正直嬉しくなった。
言語学者には怒られてしまうかもしれないが、カタカナには固定概念を壊し、人をワクワクさせる力があると感じている。
でも、少しだけ違和感があった。
コンセプトをつくることがゴールではない。狙いはその先にある。
だから、コンセプトデザイナーと呼んでくれた諸外国の皆さんに感謝しつつ、「意識をデザインする仕事」と言ったほうが、より的確にいまの僕たちの活動を表すと考えたのである。

では「意識をデザインする仕事」とは、どんな仕事か。
最初に簡単に説明しておきたい。

僕たちが取り組んでいるプロジェクトを端的に言うと、「社会的少数派・マイノリティを区別したりせず、自然に、自由に混ざり合っていることが当たり前の社会づくり」である。いわゆるダイバーシティの実現だ。
たとえば、いま、日本の人口の約6%は何らかの障害を有している。
ハンディがあるために必要以上に福祉の空間に留められ、健常者と分かれて生活せざるを得ない状況が、この国では長く続いてきた。
僕は、この「分かれている」という状態が、障害者と健常者、双方の意識に見えない「バリア」をつくっていると考えている。そして、この「意識のバリア」がある限り、真の意味でのバリアフリー社会は実現できないだろうとも。
くしくも、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、「心のバリアフリー」が社会的なキーワードになりつつある。ハード面のバリアフリー化はもちろん重要だが、障害者を特別扱いせず、困っていたらごく自然に手を差し伸べる文化が広まることが必要だと考え、「心のバリアフリー」を強調しているのだろう。
掲げるスローガンとしてはわかりやすいし、誰もが「そうだよね」と納得する。だが、それだけではダメだ。
問題は、どうやって心のバリアフリーを進めていくかである。
「で、どうするか?」のアクションプランが重要なのだ。

今日まで、僕たちが取り組んできたテーマはまさにそこにある。そのための手法として選んだのは、「ファッション」であり「スポーツ」であり、映画や音楽、各種イベントなどの「エンターテインメント」である。
いずれも、誰もがワクワクする、楽しい気持ちになれるコンテンツだ。
「音楽に国境はない」とよく言われる。同様に、こうしたコンテンツは、ハンディがあるとかないとかの垣根を越えて、みんなが純粋に楽しめるもの。誰もがオシャレに着こなせるファッションがあれば、障害者も積極的にマチに出かけられるだろう。そして映画を観たり、買い物を楽しんだり、音楽を聴いたり……。ワクワクコンテンツを媒介にすれば、ごく「自然に混ざり合っていく行動」が生まれる。マイノリティとの接触頻度が上がり、「無知」が「知」に変わることで、その先に「心のバリアフリー」が実現する。僕はそう信じ、意識のバリアを壊す試みを続けている。
手がける領域は、最初は「モノ(商品)づくり」から始まった。そして、「コト(イベント・エンターテインメント)づくり」、「マチ(都市計画・地域活性)づくり」にまで広がり、最近は障害者の雇用創出と就労促進を目的とした「シゴト(職業体験)づくり」、そして「ヒト(人材育成)づくり」にも力を注いでいる。あれもこれもではないかと言われてしまうと思う。でも、そう。あれもこれもなのだ。

この本は、デザイナーではない人間が書いた本だ。したがって、デザイン論を語ることも、こんなデザインが人々のニーズに応えられるといったことを書くこともできない。
僕がこの本で語りたいこと。それは、マチや社会をデザインするのは、そこに住まう僕たち自身だということだ。そして、一人ひとりが意識をデザインする「当事者」として、また「主体者」として社会と向き合う中で、目の前に現れる社会の課題を解決していくべきだと伝えたい。
「社会のために何かしたい」と思っている人、特に若い人はこの意識が高い。
でも、何をすればいいかわからない。そう立ち止まっている人も多いだろう。
まったく新しいことを始める必要はない。
いま、あなたが手にしているリソースをそのまま使えばいいのだ。
これまでに積んできた経験やスキル、それらの「知識」を、「恵み」に変えることは十分できる。
頭だけでなく、心と体を動かす「行為」「行動」で出力しよう。文字どおり、動くのだ。おそらくあなたの行動が誰かに「恵み」をもたらすはずだ。「知恵」とはそういうことなのではないかと思う。

氷は際から溶けていく。
国でいえば、中央の為政者より、際で生きる市民がマチを、社会を、国をつくるのだ。
社会や会社、誰かや何かに依存することなく、当事者として、主体者として社会にかかわろう。あなたの家族や大切な人たち、あるいはコミュニティとの関係において、あなた自身ができる方法で、気づいた課題を解決していこう。答えはひとつでなくていい。アプローチの仕方や選択肢は多ければ多いほどよい。「いままではこうだった」という「常識」に縛られずに働き、生きるのもよいと思う。本書が「仕事」や「人生」への向き合い方のケーススタディとして参考になれば幸いだ。

いまなお試行錯誤で日々模索している様子をつづった日記のようなこの本が、いま、社会の中でさまざまな悩みを抱えながら生きる人たち、中でも次世代を担う若い人たち、そして社会を変えていきたいと願う感性の持ち主の知恵の発動に役立てばこれほど嬉しいことはない。


 
「障害」の表記について
本書では、「障害」と表記する。「障がい」とひらがなにしたり、「障碍」と表記する場合もある(ちなみに、2008年4月以降、行政文書が「障がい」と表記されている地方自治体もある)。「害」は「公害」「害虫」「害悪」の「害」であり、不適切だという理由からだ。また、「碍」は電源を遮断する「碍子」などで用いられるように、「カベ」という意味を持つ。社会が「カベ」を形成していること、当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点から「碍」を使うべきだとの主張もある。一方で「碍」は常用漢字外であり、使用頻度が低く字義を理解する人は少ないため、使うべきではないという意見もある。さまざまな見解があるが、「がい」を使おうが「碍」を使おうが、根本的な問題の解決にはならない。むしろ、こうした過剰な差別表現規制ともいえる「言い換え」が、我々を問題の本質から遠ざけてきた。ゆえに本書ではあえて、「障害」と表記することとする。

「障害者」の範囲について
本書で表現される「障害者」の障害種別と範囲について。周知の通り、障害の定義は、法に定める身体、知的、精神をはじめ、先天、後天、難病に由来するものなど、外側から見えるもの見えざるものも含め、多種多様である。本書で記述した「障害者」とは、我が子(*)と、彼の誕生をきっかけに始めたさまざまな活動を通して、僕自身が接触した「障害」を持っている、あるいは「障害」を感じて生きていると思われる人々を指している。次男の幼少期は重度の、直近においては軽度の身体障害をもつ。本書はIQ40前後の知的障害者の「父親としての視点」にとどまり、現存する医学的な専門知識を担保するものではない。本書の目的は、その解説以外のところにあるという主旨をご理解いただければ幸いである。

(*)2歳時点において重度脳性まひ/四肢まひ2級から始まり、18年後の現在、第2種身体障害者6級、知的障害B1のステイタスにある次男。

目次

はじめに                       

プロローグ「人生の時間」の発見            

障害を持った子どもの父親として              
次男の誕生が自分を変えた
「きみは歩けるんだよ」次男に言いつづけ...        
人生の主導権を獲得するために       
自分にとって大切なものとは?
自分だけの「オリジナル」「強み」を持つ
 
Chapter01 「ピープルデザイン」が生まれるまで     

「意識のバリア」という社会課題の発見     
ひとつの疑問から始まった
段差をなくせばバリアフリーなのか
心に潜むスティグマ
「社会を変えたい」なら、自分が動く     
どんな未来がほしいのか    
閉ざされた「福祉」という世界    
傍観者ではいたくない
次なる「潮流(Next tide)」をつくるために    
息子が履けるカッコイイ靴がない!   
若い世代から次世代へ
最高にクールなデザインを求めて
福祉の概念を打ち破る新しいビジネス   
「意識をデザインする」ということ   
キーワードは「カッコいい」「ヤバイ」
「この靴を履いてマチに出かけたい」
違いは、個性。ハンディは、可能性。
もっとわかりやすい言葉を求めて
未来を感じる言葉「ピープルデザイン」
「思いやり文化」を再起動せよ     
なぜ、希薄になってしまったのか
世界が教えてくれた日本の魅力
 
Chapter02 ピープルデザインをとおしたモノづくり 

ターゲットは障害者でなくファッションフリーク   
障害者をオフステージに留めないために
マイノリティの負い目を取り払う
グラフィックや機能にメッセージを込める 
有名ブランド、スポーツメーカーとコラボしたシューズ
雨の日の外出を快適にするためのレインアイテム
世界のトップクリエイターによるファッション雑貨
 
Chapter03 ピープルデザインをとおしたコトづくり 

「コトづくり」が始まったきっかけ
子どもたちと視覚以上の感覚を共有するブラインドサッカー   
障害に触れ、コミュニケーションの重要性を学ぶ場として   
障害者と健常者の混ざり合いを演出する映画    
「視覚障害者のために」を超えて
アフターシネマカフェという試み
脚本に取り入れたピープルデザイン
あの人、健常者のこと考えてませんね
 
Chapter04 ピープルデザインでマチづくりを  

シブヤを舞台に「マチづくり」
「マチ」をデザインするということ   
モノ、コト、そして「マチ」
「都市の価値」を上げる試み
縮退する日本の希望として
渋谷発のカルチャーを再構築
NPO法人ピープルデザイン研究所が考えるシブヤの未来   
「思いやり」を渋谷のカルチャーに
マチの〝空気〟をつくることから
渋谷区役所にピープルデザイン研修を導入  
まずは職員の意識改革から
マイノリティ目線で課題を解決せよ
「デザイン思考」を取り入れた公開型研修
渋谷の企業の価値を高める
シブヤの未来を「商店街」つながりで語り合う  
商店街をピープルデザインストリートに
マチの課題を語り合うピープルデザインカフェ
奥原宿ストリートミュージアム
地域との協働で「ピープルデザイン」を広めていく  
富士宮市と協働による認知症フレンドリーなマチづくり
写真をツールに、高齢者と高校生の交流を演出
消費ではなく交換、そして蓄積
 
Chapter05 ピープルデザインでシゴトづくり・ヒトづくり 

次世代のための「シゴトづくり・ヒトづくり」
障害者の就労環境にイノベーションを起こす  
時給100円台の現状をどう考えるか  
ピープルデザインでつながる仲間たち    
心意気の波動は伝播していく
Drive your own way. Be yourself. アルファ ロメオからの支援
MIXTURE! PEOPLE DESIGN FES
公園や動物園で出会う「思いやり」の意思表示
障害者雇用・就労日本一の都市づくりを目指して  
サッカースタジアムで働こう!
みんなの気持ちに スイッチを押す      
市井の人たちが新しい価値観をつくる時代
国内外の大学で次の潮流をつくり出す      
世界の若者にピープルデザインを伝える     
慶應義塾大学で渋谷フィールドワーク型授業
滋賀大学でのピープルデザインプロジェクト
選択肢を増やせ、世界は広い
 
エピローグ  仕事はすべて「未来」のためにある   
利己的な満足から、家族、そして誰かの幸せ
何に「仕える」のか
仕事とは「仕える事」と書く
この国の未来
 
謝辞

略歴

須藤 シンジ(すどう・しんじ)
1963年生まれ。明治学院大学卒業後、大手流通系企業で宣伝、バイヤー、店次長などを経て、現在、有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション代表取締役社長、特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所代表理事。次男が脳性麻痺で出生したことで、人びとが持つ「意識のバリア」や従来の福祉のあり方をファッションとデザインの力で壊す取り組みを行っている。提唱している「ピープルデザイン(PEOPLE DESIGN)」とその活動は近年、諸外国からも注目されている。
 
●ブックデザイン/AD:渡邊民人(タイプフェイス)、D:二ノ宮匡(タイプフェイス)
●構成/山田真由美
●校正/円水社