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それは誰にも教えたくないほどあなたの仕事に役立つ63のエピソード。「ゲームを変える思考」篇

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100年近く前、ヘルマン・ヘッセは『荒野の狼』を書いた。
小説の終盤で、主人公は人生をやり直すチャンスを手にする。
やればよかったと後悔していることをするために。
逃したチャンスを今度こそつかむために。
過去へ戻って正しくやり直せたらと、誰もが願う。
ほんの少しでも違うことをしていたら、人生はどうなったか。
あのきれいな女の子のそばを、ただ通り過ぎていなかったら?
立ち止まって、声をかけていたら?
あの電話をかけていたら、あのオファーを受けていたら、あのときに会議で発言していたら?
人生はどうなっただろう?
私たちを魅了する疑問。
そんな感情を広告にうまく利用できたら、どうなるだろう?
「ブラック・ペンシル」の審査委員を務めていたとき、かつて見たこともないものを目にした。
(これは、デザイン・アンド・アート・ディレクションが贈るD&AD賞の最高賞だ)
スポーツドリンク「ゲータレード」のキャンペーンであるその作品は、まさにそれだった。
私たちの心をつかんで離さない問いに答えるものだった。
「もしあのとき」に。
奇妙なことに、私が見たものは広告ですらなかった。
ひとつのアイデア、より大きなアイデアを喚起するアイデアだった。
だからこそ、私は気に入った。
それは広告を超えたものだった。
私が見たビデオによれば、9
0年代後半に2つの高校の間でアイスホッケーの試合が行われた。
因縁のライバルが対決する大試合だった。
伯仲したゲームだった。
ある選手がタックルを受けた。
倒れた彼の首にスケート靴の刃が当たった。
頸静脈が切れた。
彼のユニフォームも、ほかの選手も、リンクも血まみれになった。
彼は死んだと誰もが思った。
それでも病院へ運び、彼は命を取り留め、やがて完全に回復した。
当然ながら、試合は中止になった。
それから15年たっても、「試合が続いていたら、どちらが勝ったか」と論争が続いていた。
そこでゲータレードがスポンサーになり、当時の選手を集めて再試合を行うことになった。
集まったのは今や30代半ばの男たち。
コンディションは最悪、座ってばかりの生活で体重が増えすぎていた。
とはいえ、それは相手チームの選手も同じだ。
ゲータレードは彼らのために、3カ月のトレーニング期間を設けた。
プロのトレーナーをつけ、医学的指導も行った。
元選手たちは、どれほど体がなまったかを思い知らされた。
トレーニング中にめまいがし、筋肉が痙攣し、嘔吐した。
それでも、彼らの体は次第にかつての状態を取り戻した。
体重を56ポンド落とした者もいた。
この再試合はアメリカのスポーツファンの琴線に触れた。
あのバスケの試合を、野球の試合を、アメフトの試合をやり直せたらと願う人々。
元高校生たちの再試合は、誰もがその一部になりたいと望む何かになった。
テレビのリアリティ番組にも。
番組では毎週、トレーニングに励む両チームの選手の姿を追った。
だが何よりすごいのは、一連のキャンペーンがゲータレードにもたらしたものだ。
失ったエネルギーを取り戻す手助けをするスポーツドリンク。
ぴったりの組み合わせではないか。
あなたは今や30代半ば。
18歳のころのエネルギーを失った。
大丈夫、ゲータレードがエネルギー回復の力になりますー。
このキャンペーンには、宣伝CMも存在しなかった。
その点こそ、私が大いに気に入った理由だ。
単なる広告を超えたアイデア。
人の心の奥底の真実に触れる何か。
もっとエネルギーがあったらと願わない者がいるだろうか。
ゲータレードにしかできないやり方で、それを表現するにはどうしたらいいか。
そこにあったのは、並みの広告的思考ではなかった。
優れた広告的思考でもなかった。
ゲータレードは、いつものゲームをよりよくプレーしたのではない。
ゲームそのものを変えた。