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それは誰にも教えたくないほどあなたの仕事に役立つ63のエピソード。「テレスコープをひっくり返せ」篇

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ロンドン北部モーニントン・クレセントに大きなビルがある。
大手広告代理店ヤング・アンド・ルビカム(Y&R)がオフィスを構えるビルだ。
このビルには、もうひとつ別の広告会社のオフィスもある。
ワンダーマンというアメリカの会社だ。
話によれば、その会社の経営者がある日、はるばる大西洋を越えてやってきた。
経営者は大柄で強気のニューヨーカーだ。
颯爽とビルの地下にある駐車場に車を乗りつけた。
駐車場内に入ろうとする彼を、ぶっきらぼうな態度の係員が制止した。
係員は聞いた。「どこへ行く気ですか?」
アメリカ人は腹を立てた。「駐車場に決まっているだろう」
係員は聞いた。「許可証は?」
アメリカ人は答えた。「持っていない」
係員は言った。「それなら、ここには停めないでください」
アメリカ人は怒り狂った。「私が誰だか、わかっているのか?」
係員は首を横に振り、知らないと答えた。
アメリカ人は車から降りて胸を張り、その胸を叩いて言った。「私がワンダーマンだ」
係員は言った。「あんたがスーパーマンだって関係ない。ここには駐車できないんだよ」
私はこの話が大好きだ。
広告業界の人間を物語っているところが好きだ。
広告業界人にとっては広告が世界のすべて、誰にとってもそうだと思い込む。
だから、まともな広告を作れない人間が多すぎる。
業界人は、業界の外の人々に話しかけることが仕事だとは考えない。
仕事をするのは外の世界の人々、彼らのほうが業界に注目すべきなのだと考える。
言い換えれば、人々に話しかけるのでなく、自分たちに話しかけている。
史上最高のコピーライターのひとりであるボブ・レヴンソンは言った。
「ほとんどの人は広告を無視する。広告がほとんどの人を無視するからだ」
だからこそ、最高の広告にしか広告の役目は果たせない。
そういう広告は、広告業界の外の人々に話しかけるからだ。
だが、クライアントにこの事実を指摘できるのは、勇気ある広告会社だけだ。
何年も前、アレン・ブレイディ・アンド・マーシュ(ABM)という広告代理店があった。
芸能関係に強いABMは、ファッショナブルな代理店とは言えなかった。
当時、国鉄ブリティッシュ・レイルの広告を勝ち取るべく、超優秀な代理店と競合していた。
勝ち目は薄かった。
一発逆転を狙うなら、競合他社が知らないことを知っていると証明しなければならない。
プレゼンテーション当日、ブリティッシュ・レイルの経営陣がABMを訪れた。
受付は閑散としていた。
ブリティッシュ・レイルの会長は腕時計を見たー時間どおりだ。
辺りを見回したが、誰もいない。
受付ロビーはみすぼらしかった。
しわくちゃの新聞やゴミやタバコの吸い殻が床に散らばり、クッションには穴が開いていた。
それまで見たなかで最低の代理店だった。
ようやく受付デスクに、だらしない感じの女性が姿を現した。
女性はロビーで待っている人々に目もくれず、引き出しを開けてごそごそやっている。
会長は咳払いした。
女性は無視した。
会長はまた咳払いした。
何も起こらない。
会長は言った。「すみません、あの……」
女性は言った。「ちょっと待って」
会長は言った。「でも、面会の約束をしているのですが……」
女性は言った。「見ればわかるでしょ、いま忙しいの」
会長は言った。「失礼にもほどがある。もう15分も待っているんです」
女性は言った。「待つしかないわね」
会長は言った。「もう結構。帰ります」
ブリティッシュ・レイルの経営陣は帰りかけた。
そのときドアが開き、ABMのクリエイティブディレクター、ピーター・マーシュが現れた。
彼はドアの向こうで一部始終を見ていた。
彼は会長の手を取り、握手し、こう言った。
「みなさんがたった今ここで体験されたこと、それが世間における国鉄のイメージです。
これから、そのイメージを180度転換する方法を、ご提案いたします」
彼は工夫を凝らしたプレゼンで、ABMを選んでくれれば明るい未来が待っていると訴えた。
もちろん、選ばれたのはABMだった。
すべては望遠鏡を逆さにして、別の側から世界を見たおかげだ。
人々の側から。
広告会社の側からではなく。