商機を見いだす「鬼」になれ 中国最強の商人・温州人のビジネス哲学

商機を見いだす「鬼」になれ

原口昭一/永井麻生子/趙 麗娜 著

  • 書籍:定価1870円(本体1,700円)
  • 四六判・並製/312ページ
  • ISBN978-4-484-12215-1
  • 2012.06発行

80年代以降の中国の経済発展の裏には、「東洋のユダヤ人」と呼ばれる温州人の存在があった! 中国でもっともグローバルな視野と卓越したビジネスセンスをもつ温州人の「逆境を勝ち抜く9つの法則」とは?

書籍

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内容

 

●現代中国の発展を牽引する「東洋のユダヤ人」のすごい経営術
ヨーロッパにユダヤ人がいるように、中国にも商売に秀でた一群がいる。
それが、浙江省温州市の出身者たち。
本書はそんな「温州人」の苦闘と成功の物語だ……
今日、中国人の目には、温州人こそが
 もっともグローバルな視野と卓越したビジネスセンスをもち、
それでいてもっとも身近な存在として映っている。――「前言」より
タフな中国人ビジネスマンたちがもっとも畏怖する温州商人の「9つの法則」
1 「小狗経済」の連携
2 脇役企業モデル
3 小よく大を制す
4 商機を見いだす「鬼」
5 最初に蟹を食う勇者
6 めんどりを借りて卵を産ませる
7 水のように姿を変える
8 変ずれば即ち通ず
9 終わりなき富の獲得 

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そろそろ隣国から学ぼう ~訳者あとがきにかえて

巷には欧米のビジネス書があふれている。コトラー、ドラッカーにダニエル・ピンク……。すぐ頭に浮かぶ名のある著者も多い。また欧米のフレームワークやビジネス理論を紹介する本も多くある。
これらの書籍には有益な考えも多く、人気があるのもうなずける。しかし、私自身はこれらのビジネス書が言わんとすることを頭で理解できても、心の底から「そうか!」と納得することは少なかった。
私が初めて温州人の言葉に出会ったのは、まだサラリーマンをやっていたころだ。『可怕的温州人(恐るべき温州人)』という中国の本の中にその一文はあった。
「温州人は何でも大胆に考え、大胆に試す。妄想たくましく何でも試してみる彼らは、その奇抜な発想や着眼点の新鮮さから往々にして勝利をその手中に収める」
欧米のスマートなビジネス理論にはない力強さがそこにあった。自分の中で組み上げてきた枠が小気味よく崩れた瞬間だった。
そうだ、自ら枠にはめず大胆に考え行動してみることで、何か新しい人生を拓くことができるかもしれない。思えばこの言葉が私を起業へと導いてくれたのだ。
私はその後、翻訳デザイン会社を起業することになるのだが、その準備の過程で貪るように温州人の言葉が書かれた書籍を読み込み、商売の楽しさや難しさ、また挑戦することの意義などを学んでいった。
本書の原題は『温州人財富真相』といい、私の読んだ温州関連書籍の中でも、体系的に温州人のことを理解でき、かつ彼らの力強いメッセージにあふれる良書だ。

・1膳の箸で1元稼ぐのか、100本の楊枝で1分稼ぐのか。
・儲けの少なさを恐れるな、稼げないことを恐れろ!
・金儲けには思想と態度が重要だ。
・小銭を稼いだ経験を活かして大金を稼ぐんだ。

これらの言葉はどれも温州人自らが商売の中から紡ぎ出した言葉だ。確かにどの言葉も泥臭い。およそスマートなビジネスとはかけ離れたものだ。しかしそこには久しく省みられることのなかった「商い」の熱さがある。言葉のひとつひとつが熱を帯びているのだ。
本書は欧米のビジネス書と比べて洗練されていない部分はあるだろう。しかし、いまの日本に必要なのはこの野趣あふれる温州理論じゃないだろうか? 戦後の復興から高度成長を経てバブルへ。そこにあったのは洗練されたビジネス理論ではなく、荒削りの商いの理論ではなかったかと本書を訳しながら思った。
欧米のビジネス書がアカデミックスマートなら、この温州人の物語はストリートスマートだ。温州人はブルーオーシャン戦略が何かも、ポジショニングの定義も知りはしなかった。しかし彼ら自身の商売の経験則から、いままでになかった市場を開拓し、経営における差別化を図ってきた。中国初のアロワナ店の店主が、はたまた上海の習慣に合わせ独自のオーブンを開発して売り込んだ男が、そのことを証明している。彼らは商売の現場というストリートから経済原理を導いていった専門家だ。
本書には温州の経営者たちが数多く登場する。だからといって経営者のためだけに書かれたものではない。人生を前向きに生きたいと願う方へのヒントが数多く詰まっている。
訳し終えたいま、その多くのヒントの中にあるエッセンスがはっきり見えてきた。それは温州人の強烈な「当事者意識」と「共存共栄」だ。
なぜ、温州は短期間でこれほどの成長を遂げることができたのか。その答えのひとつにまずこの当事者意識があると思う。
温州は、他都市に比べ土地が豊かでも、交通が便利でも、また名だたる大企業を擁しているわけでもない。三方を峻険な山々に囲まれたこの沿海の地方都市には、さして頼るべきものもなかったわけだが、だからといって彼らは政府からの援助を期待することはなかった。自らが自らの運命をコントロールすべく、靴修理や行商などから身を起こしていったのだ。
彼らは他人の会社で働くなら、路上で物売りをするほうがいいと言う。たとえ儲けは少なくとも自分で商売をコントロールできるからだ。この強烈な当事者意識こそが温州人スピリットなのだ。
政府が悪い、景気が悪い、銀行が融資してくれない、上司が悪い、部下が言うことを聞かない……。そう嘆いたところで誰かが助けてくれるわけではない。ならば我々も温州人スピリットを見習い、当事者として問題を解決することに頭を使ったほうがよっぽど生産的ではないだろうか?
もうひとつ共存共栄について言えば、温州人の言葉に「1本の木だけでは春とは呼べず」というものがある。その意味するところは、「どんなに立派に花を咲かせたとしても、周りが荒野のままならそれを春とは呼べない。周りも含めて花を咲かせてこそ本物の春と呼ぶことができるのだ」ということになる。
彼らはこの言葉にあるように助け合うことで温州に春を呼び込むことに成功した。個人の力では限界があることでも、チームを組んで立ち向かい大きな成果を挙げ続けてきたのだ。
いまこの日本に必要なもの、それはこの当事者意識と共存共栄の考え方ではないだろうか?
ひとりひとりが自分の人生に責任をもち、そして互いに支え協力し合いながら困難に立ち向かい、ともに大きな春を呼び込む。
そろそろ、隣国からも積極的に良いところを学んでいこう。そして当事者意識をもち、自らの人生を自らコントロールしよう。あなたの人生の主人公は他の誰でもないあなた自身なのだから。
本書は多くの方の努力に支えられ出版することができた。細部にわたるチェックと指導をしていただきました阪急コミュニケーションズの森田優介さん、ありがとうございました。また日中間の版権のやり取りをはじめ本書の出版コーディネイトをしていただいた王蓉美さんにも感謝です。おかげでスムーズに出版することができました。ありがとうございました。そして第1章から第4章の翻訳をご担当いただきました趙麗娜さん、永井麻生子先生、ありがとうございました。
「東洋のユダヤ人」と呼ばれる温州人から私は多くを教わり、そして商いの海へ漕ぎ出すことができた。起業への最後の決断ができたのは温州人の教えのおかげだと思っている。最後にその温州スピリットに感謝したい。ありがとうございました。

原口昭一

目次

前言

第1章「小狗経済」の連携
独り勝ちの天下は長くない
分業と協力で獲物を倒す

1 スモールドッグ・エコノミー
2 温州経済は少数の巨木ではなく、森林である
3 ライバルがいないことを恐れよ

第2章 脇役企業モデル
最終製品にこだわらず
優秀なサプライヤーになる

1 「温州モデル」の特徴
2 「脇役経済」で主役を張る
3 小さな商品が市場を席巻する
4 庶民金融――温州の地下銀行

第3章 小よく大を制す
儲けの少なさを恐れず
薄利多売で成功をつかむ

1 小商品を見くびるな
2 1膳の箸で1元稼ぐか、100本の楊枝で1分稼ぐか
3 儲けの少なさを恐れるな、真に恐れるべきは稼げないことだ
4 商売に貴賎なし、どんな金でも稼ぐ
5 10元稼げる商売でも、6元稼げればそれで十分

第4章 商機を見いだす「鬼」
チャンスをつかむ嗅覚と
先んずる勇気をもつ

1 先んずれば人を制す
2 頭の中は商売のことばかり
3 接待中も、他人の会話にアンテナを張り巡らせる
4 韓流ブームで稼ぐ温州人
5 トイレからでも富を生み出す
6 政策の一歩先を行け

第5章 最初に蟹を食う勇者
リスクを取る度胸をもち
先行者優位を確立する

1 恐れを知らぬリスクテイカー
2 ビジネスを創造する
3 「シューズ王」の不屈の精神
4 将軍になりたいと思う兵士であれ
5 世に先んじる勇気

第6章 めんどりを借りて卵を産ませる
広告、マーケティング、起業……
他人の力を活用する

1 商品をスターのようにブレイクさせる
2 北京五輪でチャンスをつかむ
3 寄らば大樹の影
4 なければ借りて稼げばいい

第7章 水のように姿を変える
人と違う場所、人と違う商品
差別化でマーケットを開拓する

1 マーケットを切り開く鍵は「差異」
2 温州人いるところ、マーケットあり
3 遅れた地域で商品を売れ
4 その土地の需要に応じれば、富は自然と懐に入る
5 未開の地は、水や草が豊富でリターンも大きい
6 新機軸を打ち立てる温州人

第8章 変ずれば即ち通ず
ニセモノからイノベーションへ
変革する者だけが発展する

1 もっとも危険な場所が、もっとも安全な場所である
2 結婚記念“旅”写真
3 知名度は重要、「美誉度」はさらに重要
4 有形から無形へ
5 改革は一時の行為ではなく、一生の策略だ
6 民間資本のタブーに挑む

第9章 終わりなき富の獲得
パンを大きく膨らませ
出口戦略を模索する

1 パンを大きくこね、手早く膨らませる
2 上海不動産マーケットにおける温州現象

そろそろ隣国から学ぼう ~訳者あとがきにかえて

略歴

[著者]
郭 海東(グォ・ハイドン)
1982年生まれ。燕山大学で美術専攻。出版社で編集主任を務める一方、ベストセラー作家でもある。著書に『思路成就出路(思考が活路を開く)』『三天读懂心理学(三日で分かる心理学)』『卡耐基大全集(カーネギー大全集)』『谁搞垮了美国(誰がアメリカを駄目にしたのか)』など。

張 文彦(ジャン・ウェンイェン)
1979年生まれ。山西財経大学で法律専攻。フリーライター。著書に『攻心术(心をとらえる法)』がある。

[訳者]
原口昭一(はらぐち・しょういち)
翻訳デザイン事務所、株式会社シープロジェクト代表取締役。奈良大学地理学科卒業。在学中に吉林大学、卒業後は天津師範大学へ留学。中国専業旅行社等を経て現職。主な著書に『成語で拓く中国語――成語から力をもらおう』(かんぽうサービス)がある。

永井麻生子(ながい・あいこ)
追手門学院大学国際教養学部非常勤講師。神戸市外国語大学大学院博士課程単位修得退学。訳書(いずれも共訳)に『大地の慟哭』(PHP研究所)『アリババ帝国』(東洋経済新報社)『中国モノマネ工場』(日経BP社)『中国はコミュニケーション・ギャップをこう乗り越える』(かもがわ出版)。映像翻訳も手がける。日経BP社Tech On!でコラム「技術者に役立つ中国ビジネス書ガイド」を連載中。

趙 麗娜(ちょう・れいな)
1999年11月に来日、2007年3月九州産業大学大学院国際文化研究科卒業。同校に在学中、日本の文部科学省より「国費外国人留学生」に選ばれる。卒業後、東京で日本企業に勤務し、その後、大阪の語学学校での中国語講師を経て、現在はフリー翻訳者兼通訳として活躍中。上海在住。

●装丁/宮崎謙司(lil.inc)
●コーディネーター/王 蓉美
●校閲/杉本順司

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