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メガホリズム 組織に巣食う原罪

メガホリズム
佐藤眞一/本多-ハワード素子 共著
  • 書籍:品切れ
  • 電子書籍:¥1,360(税別)
  • 四六判・並製/264ページ
  • ISBN978-4-484-10206-1
  • 2010.03発行

「社保庁」「JR西日本」「船場吉兆」「大分県教育委員会」「雪印」「パロマ」等、組織人が起こした事件の症例を組織心理学が読み解く! 組織人のみが感染する「メガホ・ウィルス」とは?

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内容

 「社保庁」「JR西日本」「船場吉兆」「大分県教育委員会」「雪印」「パロマ」等、組織人が起こした事件の症例を組織心理学が読み解く! 組織人のみが感染する「メガホ・ウィルス」とは?

はじめに

 あなたは、商談のために出向いた取引先企業の会議室で、血まみれの外科手術の場面をスクリーンに大映しにして見せられたら、どうするだろうか?

1 不快な顔をして目を背ける。
2 何でもないかのように見続ける。

 たいていの人は2番、何でもないかのように、微笑みさえ浮かべてスクリーンを見続けるのではないだろうか。これは、社会人ならば当然の反応だろう。いくら気持ちが悪い映像でも、露骨に不快な表情を出しては、その場の空気を悪くする。一人で見ているときならば、顔をしかめるのみならず「ウエッ」とか「ゲッ」などと声させ出してしまうあなたでも、取引先の前では当たり前のようにモナリザの微笑みだ。
 だが、社会人ならば当たり前と思っているこの反応が、痛みに満ちた今の日本を作ってしまった元凶の一つだと言ったら、あなたは信じるだろうか? 払ってきたはずの年金はもらえず、食品は偽装され、ガス漏れもブレーキ故障も脱線事故の原因も隠蔽され、官も民も不祥事にまみれ、誰も責任を取ろうとせず、弱者はこれでもかと踏みつけられる。そんな社会の根底に、気まずい雰囲気にならないようにという、うるわしい配慮があるのだと言ったら。
 実は、外科手術や事故のフィルムを見たとき、一人で見たのであれば、日本人と米国人の反応に差はない。

 ところが、他人が同席していた場合には、反応が異なる。米国人よりも日本人の方が、嫌悪感を笑いで隠すことが多いのだ。これは表情の研究で有名なアメリカの心理学者ポール・エクマンの実験だが、彼はこれを「社会のなかの表示ルール」と呼んでいる。
 つまり日本は、「人前で嫌悪感を表出してはいけない」というルールを持つ社会なのだ。だから、あなたがモナリザの微笑みを浮かべたのは、うるわしい配慮というよりは、単にルールに従っただけ。ルールに従わず、嫌悪の表情を浮かべたりしたら、「調和を乱すヤツだ」と判断され、「変なヤツ」というレッテルを貼られて、最悪の場合は組織から排除されてしまうのだ。
 そうなりたくないから、私たちは組織のルールに従う。そのルールがまっとうなルールなら、問題はない。だが、そうでなかったとしたら? そして、まっとうでないことが、わからなくなっていたとしたら? おそらく、不正に手を染めてしまった多くの会社員、そして官僚たちは、組織のルールに従っただけなのだ。しかし、その結果が、膨大な数の改ざんされた年金であり、生命を脅かす食の偽装であり、相次ぐ死亡事故である。

 私たちはなぜ、そのルールがおかしいと気づかないのか? いや、そもそもなぜ、そんなおかしなルールを作ってしまうのか? その根底には、組織人としての私たち現代人が抱える心の病がある。その心の病、人が組織と交わり、その一員となっていく過程で陥る病を、私たちは「メガホリズム」と名付け、メガホリズムに陥った人々を「メガホリック(過組織症患者)」と名付ける。元を正せばこの病は、巨大な権益を志向し、組織が巨大化することによって生じた病であり、その組織に過剰適応した人々の病であるからだ。
 だが、今やメガホリズムは、省庁や世界的大企業といった巨大組織だけでなく、中小の組織をも蝕みつつあるように見える。さらに、日本だけでなく、嫌悪の表情を人前で出してはばからないはずの米国にさえ、蔓延しているようだ。なぜならば、世界同時不況の引き金となったリーマン・ブラザーズの破綻もまた、組織と交わったことで生じる人々の心の病・メガホリズムによって引き起こされたと考えられるからだ。
 本書では、「社会保険庁 年金不正免除問題」「JR西日本 福知山線脱線事故」「雪印 集団食中毒事件・牛肉偽装事件」など、実際に起こった事件・事故をテキストにして、メガホリズムとはなにか、メガホリズムに陥ると人々はどうなるのか、そしてメガホリズムに陥らないためにはどうすればよいのかを、心理学的な観点から読み解いていく。「なぜ、あんなことが起こったのか」という釈然としない気持ち、胸の底に溜まったのようなあなたの疑問に、本書はきっと答えられるはずだ。
 では、まず世界同時不況の引き金となったリーマン・ブラザーズから、読み解いていくことにしよう。

 なお、本書では、取り上げた事件・事故に登場する人物を基本的に仮名にし、仮名にした人物は(仮名)と表記した。すでに新聞等では実名で報道されているが、本書の目的が、個々の人物を糾弾することではなく、誰もが陥る危険性のある「メガホリズムという病を読み解くこと」にあるためである。その点をご了承いただきたい。

目次

はじめに

第1部 巨大化する組織と交わった人間の病「メガホリズム」

1 「リーマン・ショック」の元凶は金融界のメガホリックたちだった!
 ◎分裂・身売りを恐れるあまり、独裁体制に陥った
 ◎危険を知らせる鳥「カナリア」が、追放されてしまった!
 ◎トップから平社員まで全員が、「内向き・上向き」だった!
 ◎「メガホリズム」とは、「社会的な死」に至る病である

2 人はなぜ、自ら進んで仮面を被るのだろう?
 ◎意味のない集団でも、私たちは“自分たち”が好き
 ◎メリットがなければ、集団の内も外も関係ない!?
 ◎そもそも、「組織」とはいったい何か
 ◎「官僚病」「大企業病」と「メガホリズム」は、どう違う?

第2部 こうして人は「メガホリック」になり、大事件が引き起こされた

1 社会保険庁におけるメガホリズム
 「認知的不協和の合理化」タイプ

 ◎のぞき見、不正免除、宙に浮いた年金記録……、叩けば叩くほどホコリが出る
 ◎正確さよりも、期日までに終わらせることが大事だった
 ◎無理な成果主義を押し付けられて、「認知的不協和」に陥ってしまった!
 ◎階層間の反目が、チェック機能を失わせた
 ◎自分の言葉に縛られて、身動きできなくなった
 ◎組織と自分との関係を知る「コミットメント」チェックテスト

2 JR西日本におけるメガホリズム
 「マインドコントロール」タイプ

 ◎「高信頼性組織」であることを忘れて、高収益に走った
 ◎「回復運転」という、マインドコントロール
 ◎「日勤教育」への恐怖が、列車無線に意識を集中させてしまった
 ◎いちばん大事なのは、上司や仲間に迷惑をかけないことだった
 ◎社内教育が有効かどうかを見る「教育制度」チェックテスト

3 船場吉兆におけるメガホリズム
 「属人思考」タイプ

 ◎偽装が発覚するたびに、嘘の上塗りを重ねていった
 ◎私たちは誰でも、第2のアイヒマンになる可能性がある
 ◎得をすることよりも、損をしないことの方が大事
 ◎どんなことを言ったかではなく、誰が言ったかが大事
 ◎あこがれの人と自分とを、同一視してしまった
 ◎組織が健全かどうかを測る「属人風土」チェックテスト

4 大分県教育委員会におけるメガホリズム
 「過剰学習」タイプ

 ◎先生が“聖職者”だとは、もはや誰も思っていないけれど……
 ◎評判のよい先生が、“上”を目指したとたん人が変わった
 ◎秘密の仕事を任されるのは、信頼の証、昇進の近道
 ◎自分たちの組織の規範さえ守れば、あとはどうでもよい
 ◎不正がじょうずに制度化され、常態化していた
 ◎「口利き」と「票」の交換という、もう一つの不正
 ◎評価制度が正当かどうかを見る「キャリアアップ」チェックテスト

5 雪印におけるメガホリズム
 「認知バイアス」タイプ

 ◎慢心と危機感の欠如が、大事件を引き起こした
 ◎「慣れ」が、本当に重要な情報を見落とさせた
 ◎賞賛されることに慣れきって、慢心してしまった
 ◎隠された失敗が積み重なっていた
 ◎悪化した業績を改善するために選んだのは、偽装だった
 ◎不正が集団規範になってしまった
 ◎優良企業ほど、不祥事のダメージは大きい
 ◎危機感の有無を見る「リスク認知度」チェックテスト

6 パロマにおけるメガホリズム
 「集団思考」タイプ

 ◎自社のせいではないとして、対策を怠った
 ◎優秀すぎて、誰も意見を言えなくなった
 ◎プライドが高すぎて、過ちに目を向けられなかった
 ◎問題解決できる組織かどうかを見る「リーダーシップ」チェックテスト

第3部 こうすれば「メガホリズム」から回復できる!

1 内向き・上向きの集団規範ができあがっている組織の場合
 ◎組織への過度な同一化は、差別やいじめを生む
 ◎組織の一員に「なりすぎていないか」どうかに気づく

2 ごまかしがまかり通っている組織の場合
 ◎比較対象があると、そちらに引きずられてしまう
 ◎基準を設けて「ごまかしている」ことに気づく

3 マインドコントロール状態にある組織の場合
 ◎みんながやっていると、不正が大事な任務になってしまう
 ◎思考回路が「固まっている」ことに気づく

4 メンバーが権威に服従している組織の場合
 ◎権威に服従することが、人の社会の基本である
 ◎「服従している」自分に気づく

5 不正が常態化している組織の場合
 ◎上の命令でも、手を下せばその人が罪に問われる
 ◎「言い訳をしている」自分に気づく

6 「慣れ」のあまり、状況の変化に対応できない組織の場合
 ◎いつも同じところを見ていると、ほかがまったく見えなくなる
 ◎自分が「慣れている」ことに気づく

7 みんなの意見が一致してしまいがちな組織の場合
 ◎同質な人たちが集まると、判断を誤りやすい
 ◎みんなが「同じ方向を向いている」ことに気づく

8 「内」と「外」の二分法を超えて
 ◎集団の境界線が崩壊した世界のなかで
 ◎自分を見つめる目を見開こう

参考文献

著者

佐藤 眞一(さとう・しんいち)
1956年、東京生まれ。
【現職】 大阪大学大学院人間科学研究科教授、博士(医学)
【経歴】 早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程を終え、東京都老人総合研究所研究員、明治学院大学文学部助教授、マックスプランク人口学研究所(ドイツ)上級客員研究員、明治学院大学心理学部教授を経て、現職。日本老年行動科学会会長、日本応用老年学会理事、日本認知症ケア学会評議員、日本色彩環境福祉協会理事等を務める。
【主な著書】 『エイジング心理学』(北大路書房)、『「結晶」知能革命』(小学館)、『仕切りたがる人』(毎日コミュニケーションズ)他多数。

本多-ハワード素子(ほんだ-ハワード・もとこ)
1965年、東京生まれ。
【現職】 青山学院女子短期大学、江戸川大学、大妻女子大学、非常勤講師、産業カウンセラー、博士(心理学)
【経歴】 東京女子大学文理学部心理学科卒業。日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士後期課程修了。IT企業でプログラマー、科学技術振興機構社会技術研究開発センター嘱託研究員を経て現職。研究領域は、集団と組織の心理学。
【主な著書・論文】 『内部告発のマネジメント コンプライアンスの社会技術』(共著 新曜社)、『組織的違反をどう防ぐか』(共著 刑政)他。

●装丁・本文デザイン/熊澤正人+内村佳奈(パワーハウス)
●表紙写真/DEX IMAGE・amanaimages