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女ふたり、暮らしています。

女ふたり、暮らしています。
キム・ハナ 著
ファン・ソヌ 著
清水知佐子 訳
  • 書籍:¥1500(税別)
  • 電子書籍:¥1200(税別)
  • 四六判・並製/336ページ
  • ISBN978-4-484-21103-9
  • 2021.2発行
シングルでも結婚でもない、
女2猫4の愉快な生活


単なるルームメイトでも、恋人同士でもない。
一人暮らしに孤独や不安を感じはじめたふたりは、
尊敬できて気の合う相手を人生の「パートナー」に選んだ。


小説家チョン・セランも絶賛した
韓国で話題の名作エッセイ、ついに日本上陸!

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小説家 チョン・セランの推薦

タイムマシンを手に入れたら、いちばん最初に『女ふたり、暮らしています。』を20代の、結婚前の私に手渡してあげたい。この本を盾に、女性の人生にかけられる社会の執拗な圧力をスカッと跳ね返すことができるだろうから。普通に生きるのが最高だと、人と同じように暮らすのがいい人生なのだと信じて疑わない人たちに反旗を翻したくなったら、証拠資料としてこの本を突き出したい。キム・ハナとファン・ソヌのケースが特殊でラッキーなものだと思われないほどの、さまざまな形態の分子式家族が誕生することを願う。誰もが多彩に、豊かに、社会的・情緒的安全網の中で生きられる日が来れば、大気中が幸福の粒子でいっぱいになるだろう。

分子家族の誕生

「ひとり暮らしが性に合っている」というのは、十年ぐらいやってみてから言うべきことだと思う。私の場合、初めはひとり暮らしがものすごく楽しかった。友達と一緒に住んだこともあったけれど、決して広いとは言えない空間をシェアするのは、性格と生活習慣がよっぽど合わないかぎり、お互いにストレスの溜まるものだった。完全に私ひとりの空間で、足ふきマット一つから洗濯物の干し方、本の並べ方まで、自分の思いどおりにやるのが私の性格に合っていた(と思っていた)。
 
 ところが、そんな生活が十何年も続くと別のストレスが溜まっていたようだ。いつだったか、釜山の実家に帰った時のことだった。朝早くから両親が朝食の準備を始め、何かをぐつぐつ煮たり、がちゃがちゃと食器を並べる音に、私は自然と目を覚ました。ご飯とチゲのにおいがした。その音とにおいに包まれて横たわっていることがこのうえなく温かく感じられ、なぜか涙が出そうになった。そんな些細なことにじんとしたのは、私ひとりで迎える静かな朝の空気はそうではないという意味でもあった。その朝以来、私は、ひとり暮らしのために注いでいるエネルギーについて意識するようになった。特に夜になると、余計な考えや不安のようなものに自分でも気づかないうちにずいぶんエネルギー
を使っていた。そのつらさが、ひとり暮らしの気楽さと身軽さと楽しさを超えたのは、その頃ではなかったかと思う。
 
 結婚は解決策ではないように思えた。ただ、ひとりでいることのつらさを避けるために結婚制度と夫の家族と家父長制の中に飛び込むのは、苦労の渦に突っ込むようなバカなまねだった。私をすっかりバカにしてくれる魅力的な男性が現れたなら別だけど。でも、それも私が望んでいることではなかった。私は自然と、違った形の暮らし方を模索しはじめた。友達に一緒に暮らさない? と言ってそれとなく気持ちを探ってみたり、シェアハウスを探したりもした。そうして、私とよく似た事情の友達と出会い、一緒に暮らすことになった。同じ釜山の出身で、長い間ひとり暮らしをしていて、そろそろひとりでもなく結婚でもない生活を考えはじめていて、私と同様、猫を二匹飼っていた。私たちは、銀行ローンを組んで広いマンションを買った。ふたりがそれぞれマンションを買うよりずっといい条件だった。ひとりで買える四十~五十平方メートルの部屋にキッチン、トイレ、玄関がぎゅっと詰まっているより、それらを備えた約九十平方メートルの部屋をふたりで使うと、広くて快適だった。四匹の猫も、前とは違って広い空間を跳び回るようになった。そして、何といってもここには浴槽がある。ひとりで暮らすのにちょうどいい小さな部屋に大きな不満はなかったけれど、ただ一つだけ、浴槽がないことが本当に残念だった。
 
 同居人と暮らして二年が過ぎた。満足度は最高レベルだ。同居人は料理とあちこち散らかすことと洗濯機を回すこと、私は洗い物と掃除、片づけ、洗濯物を畳むのが担当で、家事の分担は絶妙にバランスが保たれている。夜、さて寝ようかなと横になった時、同じ空間に誰かがいると思うだけで緊張がほぐれる。互いの気配で自然に目が覚め、家の中で毎日交わされるあいさつ(おはよう、おかえり、行ってきます!)によって、日常に活気が吹き込まれる。ひとり暮らしの時、「情緒的体温の維持」のために多くの努力を要したのに比べ、ふたりだとそれが自然にできてしまうのがいい。もちろん、肉体的体温の維持のために、浴槽に浸かることもできる。
 それに、最高にいいのは、私たちは今も「シングル」だということだ。お正月や秋夕〔陰暦の八月十五日、中秋〕になると、それぞれの実家に帰る。双方の両親は、私たちが一緒に暮らしていることにとても満足している。ひとりよりずっと安心だと。料理上手な同居人のお母さんは、私の好きなお総菜を作って送ってくれる。私は、わざわざ訪ねていったり、親孝行のための旅行を計画する必要もなく、「おいしかったです!」とひとこと言えばいい。ひとり暮らしの喜びと同居の利点の両方がある。もちろん、私たちはいろんな意味で相性ぴったりの、運のいいケースだ。ひとり暮らし以外には結婚しか選択肢がないと思っていたら、私たちの楽しい同居は不可能だっただろうし、そんなもったいないことはない。
 
 韓国の単身世帯率は二七パーセントを超える〔統計庁の二〇一九年人口住宅総調査によると、単身世帯数は六百十四万八千で、全世帯数の三〇・二パーセントに当たる〕という。単身世帯は原子みたいなものだ。もちろん、ひとりでも十分に楽しく暮らすことはできるけれど、ある臨界点を超えると、ほかの原子と結合して分子になることもできる。原子が二つ結合した分子もあるだろうし、三つ、四つ、あるいは十二個が結合した分子の生成も可能だ。固い結合もあれば、ゆるい結合もあるだろう。女と男という二つの原子の固い結合だけが家族の基本だった時代は過ぎ去ろうとしている。この先、多様な形の「分子家族」が無数に生まれるだろう。分子式にたとえるなら、私たち家族はW2C4といったところだろうか。女ふたりに、猫が四匹。今の分子構造はとても安定している。

目次

1.
分子家族の誕生
「ひとり力」マックスの人
この人ならどうだろう
他人という見知らぬ国
私をとりこにした望遠居酒屋
二種類の人間
そのマンションを逃すな
太陽の女
結婚まで考えた
小心者に媚びる者
借金上手な人になれ
私を成長させたのは八割がローン
内装の総責任者になる


2.
結婚していないからわかるんですが
「自炊生活」が「シングルライフ」になるのはいつ?
何も捨てられない人
巣のような君の家
家の妖精ドビーの誕生
二つの人生を合わせる
けんかの技術
「ティファールの戦い」と誕生日の食卓
 
猫たちの紹介


3.
わが家の『キャッツ』
大家族になった
母から譲り受けたもの
上手にご馳走になる方法
クリスマスプレゼントの交換
新年初日
幸せは、バターだ!
五百ウォンコンサルティング
私たちは別世界に住んでいる
家庭の平和をお金で買う
家内と主人
都会の呑んべえ女たち
私たちの老後計画―ハワイデリバリー
望遠スポーツクラブ
男の人がいればよかったと思う時


4.
私の第一保護者
私たちはお婿さん
かなり近い距離
ひとりで過ごした一週間
破壊王
一緒に住んでよかった
望遠洞生活と自転車
私たちが別れるなら
家族ともっと大きな家族
今、そばにいる人が私の家族です

 
訳者解説
校正 円水社
ブックデザイン 眞柄花穂(Yoshi-des.)