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SHIBUYA! ハーバード大学院生が10年後の渋谷を考える

SHIBUYA!
ハーバード大学デザイン大学院 著
太田佳代子 著
  • 書籍:¥1900(税別)
  • 電子書籍:¥1520(税別)
  • A5判・並製/232ページ
  • ISBN978-4-484-19208-6 C0030
  • 2019.4発行

見た! 感じた! 驚いた!
ハーバード大学デザイン大学院の2016年秋学期東京スタジオ・アブロードに参加した学生たちの渋谷体験から生まれた斬新な提案の数々。「公共スペース」「働き方改革」「寛容な都市」……渋谷再開発の先を見通した、都市の未来論。

書籍

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電子書籍

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内容

ハーバードには有名なロースクール、ビジネススクールに並んでデザインスクールがある。政治、経済と同様、設計のジャンルで有能な社会人を養成しようという機関だ。「設計」には建築設計、都市計画、ランドスケープ(景観・造園)の3つのカテゴリーがあって、学生たちは3つの間をかなり自由に横断することができる。

ハーバード大学デザイン大学院(Harvard University Graduate School of Design)は2012年以降、ほぼ毎年秋学期に1クラス12人を東京に送り込み、3か月強の短期留学をさせている。「スタジオ・アブロード」という海外研修プログラムで、グローバルな人材を育てる手段の1つである。学生たちは海外の都市に赴き、その都市に住む著名な建築家について設計や都市論を学ぶ。

本書は2016年の東京スタジオ・アブロードに参加した学生たちの記録をもとに構成されたものである。


プロローグ ハーバードと渋谷

 ビギナーの直感力
 二〇一六年九月、夏の熱気が残る渋谷のスクランブル交差。アメリカからやってきた十二人の大学院生が、ここで街の観察を開始した。ほとんどが日本は初めて。だが全員、建築、都市、ランドスケープをデザインするための高度な専門教育を受けている最中で、都市空間のありように関するアンテナ能力は高い。
 ハーバード大学のデザインスクール、つまり大学院設計科(GSD)に通う十二人は、建築・都市の専門知識はあるが日本に対する知識は乏しい。渋谷の街を観察するというミッションは、ある種、免疫力が低い状態を逆手にとって渋谷の街を見、歩き、自分の素直な驚きや気づきや違和感といった症状をもとに、独自の考察や提案に役立てるというものだった。
 「東京セミナー」と題したこのプログラムは、ハーバードGSDの「スタジオ・アブロード(Studio Abroad)」の一環として行われた。スタジオ・アブロードというのは、外国の都市で一学期を過ごしながら、その都市に住む建築家やエキスパートの授業を受けるというプログラムだ。日本では二〇一二年以来、伊東豊雄氏他が講師を務めている。
 観察は一人一人自主的に進め、自らの体験を記録していく。一方、ゲストレクチャーやディスカッションを通して、大きく変わろうとしている渋谷のディテールを理解していくとともに、現在進行形の渋谷駅周辺整備地域の再開発がこの街に与えるインパクトを、さまざまな角度から掘り下げる。そして最後は、街の未来が豊かなものになるために、自分ならどんなことを提案したいか、できるだけ現実的なアイデアをプロポーザルとしてまとめる。
 日本の都市はほぼ未経験という学生たちが、秋学期の三ヶ月を東京で暮らす。これは彼らにとってはまたとないチャンスである。自分が日本で暮らし始めて得る経験が、授業の中で即座に生かされていく。渋谷をテーマとした東京セミナーでは、半ばジャーナリストのように渋谷の現状に向き合い、見るアングルを変え、理解を深め、アイデアを考えていくという、いわば理想的なデザイン提案のシミュレーションを彼らは体験した。ビギナーの直感力を生かしながら、洞察を深めていったのである。
 学生たちの置かれたシチュエーションを利用して展開された体験型授業。彼らは多くのことを学んだが、そのアウトプットとして書き表した街の見方や提案には、日本に暮らす人間にとっても有益になりそうなものが多く含まれていた。
 日本に限らず、どこに住んでいても、自分の国の都市の空間的な特徴、素晴らしさ、特異さ、矛盾、といったものを客観的に捉えるのは難しい。自分自身に対してのそれと同じだ。むろん、客観性というものも相対的であることを免れないが、他者、あるいは外から来た人々が捉えた印象や見方が、ふだん気づかなかったことに目を開かせてくれる、ということはよくある。他者の視線には他者の価値観も反映されているのだが、それも含めて自分の、あるいは自国の都市のアイデンティティをどのように捉え、より豊かにしていくかを考える貴重な情報にすることは可能だ。
 というわけで、東京セミナーで十二人の大学院生が渋谷の街を見て歩いた観察と提案のうち、特に優れていたもの、あるいは視点が面白いものを五つ選び、ここに紹介した。彼らの観察と提案には、日本に暮らす人々にも生産的な思考回路を開いてくれそうな洞察と批評がたくさん織り込まれている。それは、渋谷ないし日本の都市に対して持つ私たちの感度を強め、広げていく触媒になり得るのではないかと思う。
 ここに紹介した提案の中には、日本に住む人間にとっては「あり得ない」と思わせる発想や奇想天外に見える考え方もあるかもしれない。また、再開発によって、二〇一六年秋の状況から現状はすでに変化しているので、指摘が当たらなくなっている部分もある。だが、そんな提案や指摘を生み出した背景への洞察にこそ、渋谷の街の持つ本質と論点が潜んでいる。少し射程を長くして読み進めてもらえれば有難い。

(以下略)


目次

序文

プロローグ ハーバードと渋谷
 ビギナーの直観力/都市の変化に、バーチャルに参加する/渋谷から都市の未来を考える


第1章 二つの世界が同居する都市(まち)

 はじめに 巨大再開発とストリート空間
   渋谷の奇跡
 観察と提案 渋谷ステージーー表現する人と眺める人の場所 アリス・アームストロング
  観察
   フラットにされた光景/デザインされた空間とテリトリー化された空間/消費文化とユースカルチャー/
   渋谷の高低差が生む文化/新しいものに置き換わるときのリスク/路上から人が消える?/
   三つのストリート空間/場の力をつかみ取ろう
  提案
   渋谷ステージの戦略
  考察 都市にいる「今この瞬間」を祝祭する
   アリスの戦略/﹁都市再生﹂という未来のシナリオ/都市を元気にさせるカンフル剤/
   再開発で得るもの、失うもの/ストリート空間は大丈夫か?/世界に向けた文化の発信力?


第2章 新しい働き方を触発する都市(まち)

 はじめに 働き方が変わる場所
 観察と提案 街全体を働き方改革の実験場に エミリー・ブレア
  観察
   多様性を受け入れるハブ/再開発とは異なる価値を目指す/明治通りの観察/フレックス・スペース│
   新しい働き方の空間
  提案
   オフィスビルのキュレーション/女性のための働き方改革/明治通りのオフィス・テンプレート
 考察 なぜ渋谷で新しい働き方を考えるのか?
   ビットバレーを生んだ力/働くエリアのマスタープランニング/オフィスビル内でのインタラクション/
   異業種間の交流/街に暮らす人、やって来る人との交流/職住近接で女性が働きやすく/出会いの促進


第3章 都市空間を立体的に楽しむ

 はじめに 高低差の都市体験
 観察と提案 楽しさの「ライン」――多様性を受け入れる都市 フィリップ・プーン
  観察
   「シブヤ プラスファン プロジェクト」の「プラス」/渋谷のFUNと多様性/
   パフォーマンスをする人と見る人/渋谷のマジョリティとマイノリティ/
   渋谷はたくさんのラインでできている/パブリックとプライベートを分けるライン/
   都市空間の多数派と少数派 
  提案
   垂直方向の空間構成――多様性をもたらすための提案/スカイブリッジの活用/東口歩道橋の改造
  考察 渋谷の都市空間が持つ潜在的な力
   谷地形のダイナミズム/外国人という少数派/寛容な都市空間/現代のパブリックスペース


第4章 エフェメラが多発する都市(まち)

 はじめに  都市空間のハレとケ
 観察と提案 一瞬の出来事に参加できる都市の醍醐味 ローラ・フェイス・ブテラ
  観察
   公のディスカッション/水平の都市、垂直の都市/一時的な公共スペース状態
  提案
   エフェメラを誘発する装置/戦略的な場所設定/ネットワークとプログラミング
 考察 パブリックか消費者か?
   内部完結していく都市/ポップス/都市空間の筋トレ


第5章 都市空間を妄想する

 はじめに 空想することの価値
 観察と提案 光と影のあいだ レアンドロ・コウト・ディ・アルメイダ
  観察
   東京のシンボル/鉄道駅と商業施設 
  提案
   都市表面のプログラミング/渋谷の表面を剝がす
  考察 野生の思考
   見通しの良さがもたらすもの/都市空間の作法


エピローグ 建築的思考のプラットフォーム
 建築教育のニューウェーブ/プラットフォームとしての白熱教室/建築的思考によるコミュニケーション


謝辞




著者略歴

太田佳代子(おおた かよこ)
建築キュレーター。2015年よりハーバードGSD東京セミナー講師。カナダCCAの日本プログラム「CCA c/o Tokyo」キュレーター。2002年から10年間、オランダの建築・都市設計事務所OMAのシンクタンクAMOでキュレーター、編集者を務める。建築的思考を介した社会的テーマのリサーチ、展示企画、編集が専門。2014年ヴェネツィア建築ビエンナーレ日本館コミッショナー。おもな編書に『Project Japan: Metabolism Talks...』(Taschen 2011、平凡社2012)、『Post-Occupancy』(Editoriale Domus、2006)、共訳書に『S,M,L,XL+』(筑摩書房2015)、展覧会に「Cronocaos」(2010)、「The Gulf」(2006)、「Content」(2003-2004)など。雑誌「Domus」副編集長・編集委員(2004-07)。

Alice Armstrong アリス・アームストロング
ハーバード大学デザイン大学院を2018年に卒業。建築修士。現在はサンフランシスコ在住の建築デザイナーとして、公共機関や社会的企業(社会的課題に取り組む事業体)の委託によるプロジェクトに携わっている。

Emily Blair エミリー・ブレア
ハーバード大学デザイン大学院を2017年に卒業。ランドスケープ建築修士。現在はバンクーバーのランドスケープデザイン事務所に勤務し、公園設計、地域計画、複合開発に取り組む。都市に力強い公共スペースを作る方法を模索中。

Philip Poon フィリップ・プーン
ハーバード大学デザイン大学院を2018年に卒業。建築修士。現在はニューヨークで建築デザイナーとして活動。二極化、階層化が進むアメリカで、少数派の文化を支える建築を探求。日本、オランダ、スイスの設計事務所での勤務経験も持つ。

Laura Faith Butera ローラ・フェイス・ブテラ
ハーバード大学デザイン大学院を2017年に卒業。建築修士。現在はフィラデルフィアの都市設計事務所スカウト・リミテッド勤務。廃校となった学校建築を生き返らせ、クリエイティブ産業や小規模ビジネス向けの空間に替える仕事に携わる。

Leandro Couto de Almeida レアンドロ・コウト・デ・アルメイダ
ハーバード大学デザイン大学院を2017年に卒業。ランドスケープ建築修士。現在はランドスケープ・アーキテクトとして活動。都市における社会的な平等を促進し、維持可能な環境にしていくランドスケープデザインのあり方を模索している。









●ブックデザイン/マツダオフィス
●リサーチ協力/高木麟太朗、野田早紀子、南祐樹、横山由佳
イラストレーション/小野山賀恵
●校正/株式会社文字工房燦光
●編集協力/今井章