失敗しない謝り方

失敗しない謝り方
大渕憲一 著
  • 書籍:定価1650円(本体1,500円)
  • 電子書籍:定価1320円(本体1,200円)
  • 四六判・並製/248ページ
  • 2015.05.16発行

「謝罪」とは、自らの非を認めることだが、一方で、状況を逆転させるというアクロバティックな効果がある。しかし、それを期待していることが相手に気付かれれば、効用はなくなってしまう。つまり謝罪は、戦略的でありながら、非戦略的と思われることが大切という高度なコミュニケーションなのである。

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内容

謝るつもりで、相手を怒らせていませんか?
――心理学者が教える「謝罪」の極意――

「ごめんなさい」「すみません」「申し訳ありません」……
あなたも毎日、一度は必ず謝っていませんか?
一方で、なかなか謝ろうとしない人や、謝っても許してくれない人もいます。
正しい謝り方とは何か、どう謝れば許してもらいやすいのか。
謝罪」「弁解」「正当化」「否認」という「釈明」の4パターンを理解し、
「謝り上手・謝られ上手」を目指しましょう。

「謝罪」とは自らの非を認めることであり、それによって信頼が低下するおそれもある。それにもかかわらず、人が(特に日本人が)頻繁に謝罪するのは、謝罪には、状況を逆転させるというアクロバティックな効果があるからだ。しかし、謝罪が有利にはたらくと期待していることが相手に気付かれれば、その効用はなくなってしまう。つまり、謝罪は、戦略的でありながら、非戦略的と思われることが大切という高度なコミュニケーションなのである。

 1――すぐに謝る日本人
 2――「謝罪」とは何か
 3――なぜ日本人は「謝罪」が好きなのか
 4――謝罪の効用とリスク
 5――謝罪を受け入れる人、受け入れない人
 6――謝らない人、謝ろうとしない人
 7――失敗しない謝り方

はじめに

 ここ数年、釈明会見が頻繁に開かれている。個人や企業が謝罪や弁明を繰り返しているが、なかには、「これは謝罪なのだろうか」と不審に思えるものや、「なんという無責任」と非難されるケースも見られる。
 
 私が東北大学で研究している社会心理学の観点からいうと、謝罪は「釈明」のひとつであり、そのほか、否認や正当化、弁解なども「釈明」の中に含まれる。謝罪したつもりが、「責任逃れだ」とか「嘘じゃないか」などと非難されるのは、そうした「釈明」の使い分けを誤っているからともいえるであろう。

 日本人は総じて、謝罪好きである。あなたも人の部屋に入るときには、「失礼します」ではなく、「すみません」と言うのではないであろうか。「すみません」という言葉は、実に頻繁に言うし、言われもする。それは、口癖といってもいいほどのものであろう。
 

(中略)
 
 頻繁に謝罪する日本人ではあるが、そのメカニズムを知っている人は数少ない。どのようにすれば、組織や個人が起こした問題を沈静化させることができるのだろう、と悩んでいる人も多いのではないであろうか。
 
 本書は、謝罪をはじめとする釈明のメカニズムを社会心理学の観点から解明し、体系的に説明し、それらの疑問に答えることを目的としたものである。また、謝罪を解明する過程において、日本人の精神や気質などが見えてくることもあり、それらの説明にも多くを割いた。
 
 たとえば、日本人は和を尊び、調和を重んじるが、欧米人のように社交的ではない。どちらかといえば交際・交流が苦手で、必要以上に相手と近づくことを避ける。日本人はナイーブでストレスに弱く、自己主張が苦手なのである。だから、とりあえず謝罪し、いざこざを避けようとする。
 
 そう考えれば、かつて日本が鎖国をしていたのも、諸外国と丁々発止のやりとりをするのが苦手なのも、理解できるであろう。
 
 戦後七〇年が過ぎ、日本人の生活スタイルは欧米化したが、私たちの心にはまだまだ日本人らしさが潜んでいる。それを理解すれば、あなた自身の世の中の見方も、少しは変わってくるのではないであろうか。
 
 あなたや会社が関わったマイナスの事態を悪化させずに収束させるにはどうすればいいのか、あるいは、会社で自分の評価を上げたり、周囲と上手に付き合ったりするにはどう
すればいいのか……。
 
 本書が、そんな問題を解決するためのヒントになれば幸いである。

目次

はじめに

1――すぐに謝る日本人

「ありがとう」と「すみません」
謝罪に対する考え方の違い
日本人は潔さを重視する
 
2――「謝罪」とは何か
謝罪は「釈明行為」のひとつ
事例で見る釈明の4タイプ
釈明タイプを区別する基本3要素
責任を認めるか、責任を回避するか
一般的には謝罪が優先される

人はどのように釈明方法を選ぶのか
謝罪するかしないかは、性格によっても異なる
心から詫びる「謝罪」と、確信を持って主張する「正当化」
やむを得ない酌量事情があるかどうかを検討する
 
3――なぜ日本人は「謝罪」が好きなのか
頻繁に開かれる釈明会見
日本人は対人関係を重視して、日常的に謝罪する
日本人は心配性で、仲間はずれを恐れる
日本人は我慢の限度を超えると、拒否に転じる
自責の念から謝罪する人も多い
日本人は謝罪を受け入れやすい
 
4――謝罪の効用とリスク
謝罪すれば、印象を改善できる
謝罪された側は安心する
謝罪は相手を尊重し、パワーを与える

プライドを回復させ、猜疑心から解放される
謝罪以外の釈明にも効用はある
意図的でない失敗は、許される可能性が高い
形だけの謝罪でも、それなりに効果はある
儀礼的な謝罪がもつ効用
謝る側も謝られる側も、自動的に反応する
謝罪には、時にリスクもある
盗撮など倫理違反行為は、謝罪しても効果がない
釈明後の行動が、信頼回復につながる
 
5――謝罪を受け入れる人、受け入れない人
謝罪を受け入れる側の心理
ビジネスにおいて「信頼」が果たす役割
信頼があるからこそ任せられる
信頼と期待の関係
火のないところに煙は立たない

寛容性の違いで、釈明の効果も異なる
自己愛の強い人は、謝罪を受け入れない
人間関係の安定した人たちは、謝罪を受け入れる
 
6――謝らない人、謝ろうとしない人
謝罪する傾向が強いか弱いかを知る
自己中心的な人は、責任を否定する傾向がある
プライドの高い人は、謝罪を避ける
自己愛者も、謝罪を避ける傾向がある
隠れナルシストもいる
他罰的な人は、責任を他の人に転嫁する
協調性の低い人は、謝罪したがらない傾向がある
未熟な人や自己防衛心の強い人も、短絡的に責任を回避する
猜疑心が強い人も、謝罪したがらない

7――失敗しない謝り方
問題を避けるのではなく、どう対処するかが大切
日本人は基本的に、謝罪を期待している
真の謝罪を生む、悔恨の心
謝罪は、信頼を回復する
信頼回復への3ステップ
謝罪には、アクロバティックな効用がある
不合理な謝罪圧力に、どう応えるか
まずは相手の怒りを鎮めることを心がける
自分が正しいと思っても、一方的な自己主張は避ける
倫理不足と思われないように、釈明内容を組み立てる
組み合わせによって、適切な表現を選ぶ
 
おわりに    
引用文献

略歴

大渕憲一 おおぶち・けんいち
1950年秋田県生まれ。東北大学大学院文学研究科教授。専門は社会心理学。特に人間の攻撃性と紛争解決の心理的解析を行う。著書に『謝罪の研究 釈明の心理とはたらき』(東北大学出版会)、『思春期のこころ』(ちくまプリマー新書)、『満たされない自己愛 現代人の心理と対人葛藤』(ちくま新書)、『新版 人を傷つける心 攻撃性の社会心理学』『紛争と葛藤の心理学 人はなぜ争い、どう和解するのか』(ともにサイエンス社)などがある。

●装幀/尾形 忍(Sparrow Dedign)
●編集協力/ムーブ

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